写真展

懐かしのスポーツ報道写真がたっぷり楽しめる「記憶に残る一枚 そしてTOKYO」展レポート

キヤノンSタワーで8月22日まで開催中

一般社団法人日本スポーツプレス協会(以下AJPS)は、報道展「記憶に残る一枚 そしてTOKYO」を開催する。期間は7月8日(金)〜8月22日(月)。

1976年に設立し、今年で40周年を迎えるAJPSの周年事業として開催する展示。設立当時から現在までに同協会員のカメラマンが撮影した写真の中から、本展示のために選んだ作品を展示している。会場は東京・品川のキヤノンSタワー。

キヤノンSタワーには1階に「キヤノンギャラリーS」、2階には「オープンギャラリー1」および「同2」の3ギャラリーが存在するが、今回はそれら3つをフルに使った大掛かりな展示となる。Sタワー内の3ギャラリーを1つの展示で使用するのは過去に例がないという。

開催概要は下記の通り。

  • 会場:キヤノンギャラリーS、キヤノンオープンギャラリー1、2
  • 住所:東京都港区港南2-16-6キヤノンSタワー
  • 会期:2016年7月8日金曜日〜2016年8月22日月曜日
  • 時間:10時〜17時30分
  • 料金:無料
  • 休館日:日曜日、祝日、夏季休業(8月13日土曜日〜8月21日(日))

「報道展」という名の通り、展示内容はオリンピックをはじめとした国際大会での出来事を伝えるスポーツ報道の観点から撮影された写真が中心。試合中、あるいは試合前後の選手個人やチーム、名場面をとらえたものから、競技のイメージを想起させるような遠近景、スポーツ観戦をする人々といった大衆の姿にいたるまで、スポーツそのものだけでなく、スポーツをとりまく社会の有り様にも踏み込んでいる。

また、ギャラリーごとに異なるテーマが設定されており、AJPS設立以来40年に及ぶ同協会の活動を写真と文章で追う趣向となっている。

具体的には、1階・キヤノンギャラリーSでは各時代の象徴たる個人にフォーカスした写真をセレクト。よりスポーツのイメージを印象づけるアート寄りの写真は2階のオープンギャラリー1、AJPS40年の歴史と時流を追った展示はオープンギャラリー2にそれぞれ分けて展示中だ。

展示作品数は、キヤノンギャラリーSが約140点、オープンギャラリー1が約40点。オープンギャラリー2にはAJPSに所属するライターによるコラムが数点ずつの写真を添えて競技ごとに展示されており、AJPS設立当時の時勢と、当時から現在までの活動を年表と写真で俯瞰することができる。

また本展示のパンフレットは図録も兼ねており、サムネイルには当時の写真を撮影したカメラマン本人によるキャプションも記載し、展示と併せて見ることで、その時代、そのシーンがより鮮明に想起できる内容に仕上がっている。

キヤノンギャラリーSの展示は、入り口向かって左側から展示室の外周に沿って右回りに年代を追っていく形で展開されており、1950〜60年台に撮られた長嶋茂雄や大鵬の写真に始まり、釜本邦茂、王貞治、ナディア・コマネチ、具志堅用高、セルゲイ・ブブカといったアスリートたちの写真が並び、徐々に時代が下っていく構成となっている。

また、1993年に行なわれたFIFAワールドカップ・アジア地区最終予選の日本対イラク戦で起こった「ドーハの悲劇」をとらえた写真も選ばれたほか、近年では内村航平、錦織圭、福原愛、松井秀喜、吉田沙保里、リオネル・メッシなどもピックアップされている。

中央の4面には、1990年代から2010年代にかけて活躍した"スーパースター"たちが見せた瞬間の作品を大伸ばしで展示。ここで選ばれている選手はアイルトン・セナ、浅田真央、イチロー、ウサイン・ボルト、葛西紀明、北島康介、五郎丸歩、三浦知良。

これら展示写真の選定については「AJPSの中でも若い世代のカメラマンが中心になって行なった」と本展の実行委員長を務める写真家の菅原正治さんは話す。

「AJPSも設立40周年を迎え、かなりのジェネレーションギャップがあります。感性や考え方も世代間で随分違うので、今回は若手に任せてみました」

「スポーツ写真の醍醐味は、選手の表情や筋肉の動き、飛び散る汗といった臨場感がはっきりと静止画として残せることです。もちろん選手だけではなく、競技を取り巻く環境そのものが被写体とも言えます。例えばサッカーの試合では、ゴールの瞬間がひとつの出来事として写されますが、一方でその瞬間の監督の顔やゴールキーパーの表情、観客の熱狂も写真に撮られている。同じ事象に対しても、多くのカメラマンによってそれぞれの視点から1つの瞬間を見ることができます。そこがスポーツ報道写真の良いところ。本展ではそれらの写真が大伸ばしにプリントされて展示されているので、手元で写真を見る時とはインパクトが違います。ぜひご来場いただいて、選手の流す汗や躍動する筋肉、勝負の場に流れる風、その空気感を写真から感じ取ってくれたらいいなと思います」

40周年記念の報道展ということで、1964年東京オリンピック当時の様子を伝える展示も特徴の1つ。オープンギャラリーでは、通路状になっている縦長の構造を活かして、左右にそれぞれ異なる趣向の展示を展開している。

「かつてはこんな田んぼ道でオリンピックをやってたということは知ってほしい」

「こうしたイメージ的な写真は、言語で説明するよりも、まずは見て、感じていただいた方がいいと思う」

片方の壁面には年表と、その時代を代表するアスリートの写真を展示しており、もう一方の壁面にはAJPS所属ライターによる競技ごとのコラムを掲出している。AJPSでは写真のパネル展示と文章のコラボレーションを推し進めており、本展示のその一環。

「カメラマンだけでなくライターの視点も見せる試みです。どれも読んでみると非常に味のある文章なので、是非じっくり見ていただきたいですね」

様々な瞬間のアスリートたちの表情を集めた展示も。

およそ年1回のペースで発行されている協会広報誌「AJPS Magazine」も今年で32号。11号からのバックナンバーを紹介ページで読むことができる。

スポーツ報道写真と協会の今後について、菅原さんはこう語っていた。

「長くスポーツ写真の世界に関わってきて感じることは、スポーツの速度、選手の動きそのものが以前とは比べ物にならないくらい速くなったということです。昔は選手を撮る際に、先輩方からは"焦点距離以上のシャッター速度で撮れ"と言われたものでした。例えば300mmのレンズであれば1/500秒でシャッターを切って、やっと止まった絵になるという具合です」

「でも今は、ほぼ同じ条件でも1/1,250秒、1/1,600秒でシャッターを切る必要があります。屋内競技でも、1/2,000秒というのはもう普通です。そうして瞬間を止めることで、選手の動きや表情、筋肉の動きが見えてくる。時代は移ろい、機材も変化しています。その中で、現場を見る目を絶えず養い続けるのがカメラマンの務めなのかなと思っています」

「また、本展の会期は夏季オリンピックが始まるタイミングでもあり、来年の冬季アジア札幌大会、その後の平昌オリンピック、ラグビーのワールドカップ、そして2020年の東京オリンピックに向けて、スポーツのシーンをいかに発信するかは、我々もスポーツカメラマンとして、これまでと変わらない課題だと考えています」

スポーツ報道が盛り上がること必至のこの夏、過去から現在までの写真をじっくり観覧できる本展に、出かけてみてはいかがだろうか。