「組立編」に続いてパワーショベルのプラモデルカメラ「LAST CAMERA」の実写編である。
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4時間かけて組み立てたLAST CAMERA。いよいよ撮影 |
このカメラの大きな特徴は2つで、プラモデルのカメラとしては意外なレンズ交換式という点と、「光線漏れ機能」が付いている点だ。そこで是非とも光線漏れ機能を使った“アーティスティックな写真”を撮影せんと、まずはフィルムを買いにいった。
LAST CAMERAはシャッター速度が単速で、絞りは固定(というか絞り機構は無い)。シャッター速度と絞り値は公開されておらず、どのような露出になるのかわからない。そこで、感度はISO100を選んだ。22mmの広角レンズと45mmの標準レンズを交換できるので、それぞれ用にネガとリバーサルフィルムを1本ずつ購入した。
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最初はISO100のネガとリバーサルフィルムで2本のレンズを試した |
露出が固定のカメラにリバーサルフィルムを使うのは何ともチャレンジングだが、大体どのような露出になるか見るには良いかと思って試しに選んでみた。
■フィルム装填は確実に
他のフィルムカメラを使ったことのある人なら、フィルム装填は簡単にできるだろう。フィルムの先端を巻き上げリールのスリットに差し込むと同時にパーフォレーション(フィルムの穴)とスプロケット(巻き上げのギア)が噛み合っていることを確認。巻き上げダイヤルを少し回して問題なく巻き上げられているようなら裏蓋を閉じる。
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フィルムはこのようにセットする | 裏蓋を閉じたら、フィルムカウンターを“S”に合わせる |
その後にフィルムカウンターをスタート位置の“S”にセットする。一般的なカメラはフィルム交換の際にカウンターは自動的にリセットされるためか、この操作は忘れやすいので気をつけたい。
その後カウンターが“1”を示すまで空シャッターを切る。このとき、巻き戻しレバーが巻き上げに連動して回転していれば、フィルムはきちんと巻き上げられていることになる。止まっているようなら、フィルムの装填を見直そう。
■撮影結果は予想外の方向に
組立編のおさらいになるが、このカメラには裏蓋が2つ付いてくる。1つは完全に遮光してあるもの。もう1つは光線漏れを起こすための穴が開いているタイプだ。
穴が開いているタイプは、穴の部分にスライド式のカバーが付いていて光線漏れを起こす/起こさないの切り替えが可能。今回はこちらの裏蓋を使って、スライドカバーを切り替えながら撮影した。
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裏蓋中央下の部分がスライドカバー。左に動かすと「光線漏れ機能」が有効になる |
公式サイトを見ているとなかなか良い感じの光線漏れ写真が掲載されているが、当然良い具合の光線漏れを起こすためには、裏蓋の穴を開けている時間が重要になる。しかし、どれくらい開けておけば良いのか皆目わからないため、シャッターを切る直前にスライドカバーを開け、シャッターを切ったらすぐに閉めて1コマを巻き上げることにした。空いている時間は数秒といったところだろうか。
向かったのは快晴の上野公園。無事に2本のフィルムを撮り終えて現像に出し、翌日引き取った。スキャナで読み込むためプリントはしていない。
果たしてどんなアーティスティックな写真が撮れたのか――ドキドキしながらフィルムを見たら、なんと光線漏れがまったく起きていなかった。
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光線漏れが起きず全く“普通に”撮れてしまった。それにしても、リバーサルフィルムだが意外と露出が合っていて驚いた |
これは予想外の展開である。2本のフィルムとも風景がきれいに映っていただけだ。ちゃんと穴を開閉したのに……。光線漏れ機能が働かなければこのカメラの魅力は激減してしまう!!
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パーフォレーションの外側に丸く感光しただけに終わってしまった |
よーくフィルムを観察してみると、パーフォレーションの外側(上端)に直径3mmほどの感光痕が見つかった。これが光線漏れなのか!? これでは漏れた光がまったく画面に入っていないではないか。どうりで光線漏れは起きないわけである。
というわけで、まずは光線漏れのない作例をご覧頂きたい。今回全ての作例はフィルムスキャナで読み取ったものだ。
・22mmレンズの作例
・45mmレンズの作例
“裏蓋に穴”という機構から、少しでも長く開けていたらすぐに全部が感光して真っ白になってしまうのでは無いかと心配をして、スライドカバーを空ける時間を短くし過ぎたようだ。すぐに追加で2本のISO100ネガフィルムを購入し、リベンジすべく上野公園に向かった。
■今度こそ完璧のはずが……
今度は、フィルムの装填時から全てのコマを取り終わるまで光線漏れ用の穴を開けっ放しにしてみることにした。天気は曇りだが、撮影は順調に終わった。今度はうまくいくはずだ、と期待を込めて現像に出したのだが……
なんとっ!! またしても公園の風景が淡々と写っているだけだった。初回の撮影に比べて光線漏れ自体は少し増えたものの、まだ画面には達していないようだ。曇りだったのも影響したのかもしれない。
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スライドカバーを開けっ放しにして置いたので、フィルム上端は連続的に感光している。しかし、画面には光線漏れが到達しておらず“失敗”に終わった | (参考)左のネガを見やすいように反転したもの |
意外と光線漏れを意図的に出すのは難しいようだ。こうした条件でも真夏なら光線漏れがうまく発生したのかもしれない。しかもこの日は曇っていたので下の作例もどんよりしたものになってしまった。これはこれで味があるといえるのかもしれないが……。
・22mmレンズの作例
・45mmレンズの作例
どうやら、かなり光線漏れの量を増やさないと駄目なようだ。これはもう、カメラに少し手を加える必要がありそうだ。
■3度目の正直となるか
というわけで、やむなく光線漏れ用の穴を拡大することにした。
元の穴は裏蓋側とスライドカバー側がともに直径1mmほどだったが、直径1.5mmのドリルで双方拡張した。ただ、実際には2つの穴は完全に重なっておらず少しずれているので(個体差かもしれない)、1.5mmよりはやや小さな開口部になっている。(改造は自己責任でお願いします。)
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加工前のスライドカバーを1.5mmのドリルで拡張する | 裏蓋側の穴も同様に広げる |
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ピンバイスを使って作業した | 穴を広げたところ |
この改造だけでも良かったが、また失敗するとフィルムと現像代が無駄になってしまうので、思い切ってISO400のフィルムを使うことにした。この方が光線漏れも拡大するはずだ。
またまた2本のネガフィルムを買い、いそいそと上野公園に向かった。この日は初回の撮影と同じく快晴であった。
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今回は感度を2段上げてISO400のフィルムを使用した |
3度目の正直となるのか。これまで以上に緊張しながら受け取ったネガに目をこらしてみると……やった!! 大成功である。
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画面の上から下まで光線漏れが出ている!! | (参考)左のネガを見やすいように反転したもの |
ほぼ全てのコマに盛大な光線漏れが発生していた。光線漏れの色はほとんどがオレンジ色で、画面の中央上からUFOの光線のごとくに写っていた。
このときの撮影でも光線漏れ機能の穴を最初から最後まで開放状態にしていたので、光線漏れの量を決めているのは巻き上げから巻き上げまでの時間と、その間に穴の部分に当たった光の強さという事になる。
撮影の間隔が長かったりすると、次に撮影したコマに大きな光線漏れが出る傾向にある。当然、携行中に裏蓋に直射日光が当たっても盛大な光線漏れに結びつく。非常にアナログなところがおもしろい。
・22mmレンズの作例
・45mmレンズの作例
■本体の改造で色々楽しめそう
意外だったのは、2本のレンズとも性能はなかなか良くきれいに写ったことだ。もう少し高性能なフィルムスキャナを使えばさらに高画質でお見せできたはずだ(というのも、リバーサルフィルムで撮影したものをルーペで見ると、かなり細かい部分まで写っていたからだ)。
22mmのレンズは周辺光量低下がやや有り、四隅は少しケラレる。といっても“トンネル効果”というほど大げさなものではなかった。45mmレンズのほうは、ケラレはまったくなく周辺光量低下もわからないレベルだった。
ただしどちらのレンズも逆光には弱く、シャワー状のゴーストが良く発生していた。だがトイカメラの場合、これはむしろ好都合かもしれない。
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このカメラはレンズシャッターなので、フィルムが入った状態でレンズ交換をするとこのように真っ白に感光してしまうので注意したい。4コマ位を無駄にしても良いのなら交換も可能だが…… |
さてスキャンした画像をよく見ると、画面の4辺の少し内側に線が入っているのがわかる。おそらくカメラ内部の光路における内面反射であろう。プラモデルだけに、内部は結構テカテカしているのだ。例えばここにアルミホイルを貼ってみる、といった改造をすると想像しただけでおもしろそうだ。どなたか試してみてはどうだろうか?
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最後の現像済みフィルムを受け取ったときにこのような紙が付けられていた。普通はがっかりするわけだが、今回ばかりは“やったー!”という感じだった |
今回は3度目の撮影で光線漏れ機能が働いたのだが、もう少し派手な光線漏れを起こすのも楽しいかもしれない。裏蓋に複数の穴を開けてみるとか、穴の部分にカラーセロファンを貼ってみるとか、写りに関してだけでも相当いろいろな改造で楽しむことができそうだ。
さらにこのカメラはシンプルな外観なので、塗装をしたりデコレーションをしたりして楽しむこともできる。写りも含めて“あなただけの1台”を作り上げてみては如何だろうか。