インタビュー:キヤノンに訊く「EOS M」の戦略

~“EOSのクォリティを小型ボディに凝縮”

 キヤノンが9月中旬に発売するレンズ交換式デジタルカメラ「EOS M」は、同社初のノンレフレックス(ミラーレス)カメラとして注目を浴びている。今回はEOS Mの技術的特徴や商品戦略をキヤノンに伺った。(本文中敬称略)

今回話を伺ったメンバー。前列右から戸倉剛氏、菊池裕氏。後列右から鳴島英樹氏、川島昭作氏、中村裕氏

 お話を伺ったのは、キヤノン株式会社 イメージコミュニケーション事業本部 ICP第二事業部 部長の戸倉剛氏(EOS Mの商品企画を担当)、同ICP第二開発センター 室長の菊池裕氏(メカ設計およびEOS M設計のとりまとめを担当)、総合デザインセンター 専任主任の鳴島英樹氏(グラフィカルユーザーインターフェースを担当)、総合デザインセンター 専任主任の川島昭作氏(外観のデザインを担当)、同ICP第一事業部 課長代理の中村裕氏(EF-Mレンズの商品企画を担当)。

EOS M

メインターゲットは“カメラ女子”。ミラーレスでの国内シェア(月平均)15%を目指す

――まずEOS Mを企画した背景から教えてください。

戸倉:EOS Mという名称からもわかるとおり、EOSファミリーの1機種と位置づけています。EOSに求められているのは、撮影領域をいかに広げるかです。そうしたなか、一眼レフカメラとしての性能は皆様から評価されていますが、購入時にハードルの1つとしてとらえられているのが“大きさ”だと認識しています。今回、小型軽量のレンズ交換式デジタルカメラを提供することによって、常に持ち歩けることから撮影領域がさらに広がると考えました。EOS MでEOSワールドへの導入の役割を持たせるのが企画の背景です。

EOS Mでレンズ交換式カメラの間口を広げる(発表会のスライドより)

――EOS Mのターゲットユーザーは?

戸倉:ターゲットユーザーは国内においては明確で、カメラ女子といわれているお客様ですね。カメラや写真に目覚め始めた、20~30代の女性層がメインターゲットになると考えています。

 最初にフォーカスすべきユーザー層としては今申し上げたお客様ですが、このカメラの性格としてEFレンズシステムをそのままお使い頂けるので、当然ながらEOSユーザーのサブカメラとしても期待しています。

――ズバリ、ライバルのカメラは何でしょうか?

戸倉:エントリー向けのレンズ交換式デジタルカメラ全般だと思っています。ただ、ミラーレスカメラでの競合で考えると、EOS MはAPS-Cサイズの撮像素子を積んでいますので、どちらかといえば大画面センサーを積んでいる機種がライバルになってくると考えています。

戸倉剛氏(EOS Mの商品企画を担当)。「ご自分の欲求する良い写真を撮って頂いて、その先にEOSワールドが待っているという可能性を楽しんでほしいと思います」

――ミラーレスカメラの投入は後発になりましたが、先行する他社製品に対するアドバンテージは何でしょう?

菊池:一番目は「EOS」と付けているとおり高画質という部分です。もう1つは、今回ミラーレスにするところで、マッチングが良いだろうということの1つで、撮像面での位相差AF。これを搭載したのが特徴になっています。

戸倉:高画質という部分は筆頭にあげて良いと思います。そのためにAPS-Cサイズのセンサーは譲らなかったわけです。今あるミラーレスカメラの中で画質はトップクラスにあると考えています。それは今までのEOSと遜色ありません。また、マウントアダプターでEFレンズが使えることもアドバンテージになっています。

菊池:センサーの性能だけではなく、レンズ性能や画像処理エンジンなどトータルで高画質を実現しています。単に“高感度時にノイズ感が少ない”といったことだけではなく、どんなシーンにおいてもいい絵が撮れるということです。

――いつ頃から開発を始めたのでしょうか?

戸倉:開発期間については秘密でして……。ただ小型軽量は普遍的に求められているものですから、企画のもととしては長い間存在していました。

――キヤノンとして現在のミラーレスカメラ市場をどう見ていますか?

戸倉:私たちは、2012年のレンズ交換式カメラ(一眼レフカメラ+ミラーレスカメラ)のボリュームは世界で2,000万台ととらえています。そのうちミラーレスカメラが400万台と予想しています。国内だけを見ればミラーレスカメラのシェアは40%台と非常に伸びていますが、地域によっては10%そこそこというところもあります。地域差が大きいですから、もう少し注視していきたいと思っています。

国内のミラーレスカメラ(青部分)は2012年に4割を超える見通し(発表会のスライドより)

――キヤノンのミラーレスカメラとして求められているものは何でしょうか?

戸倉:やはりきれいな画が撮れること。ただし、当然ながら小型軽量。この2点が大きいと思いました。

――EOS Kissシリーズのシェアはどれくらいですか?

戸倉:機種・シリーズ別のシェアは公開していません。ただ、EOS Kissシリーズがレンズ交換式デジタルカメラの世界市場を牽引し続けているのは間違いありません。かなりのボリュームがあるとお考え頂いて結構です。

EOS Kissシリーズの最新モデル「EOS Kiss X6i」。光学ファインダーやレフレックスミラーを搭載した“一眼レフカメラ”だ

――では、EOS Mでミラーレス市場のどれくらいのシェアを取りたいとお考えですか?

戸倉:国内市場では、10月以降は月平均で15%のシェアを目標にしています。2013年以降の数字は公表していませんが、当面はこの15%を目指していきます。2012年下期という区切りで見ると、発売前の期間が含まれますので11%ということになります。

――EOS Mの市場投入がこのタイミング(9月中旬発売)になった理由を教えてください。

戸倉:EOSのエントリーモデルとしてふさわしい小型軽量さと、高画質を併せ持つカメラを実現できたのがやっとこの時期だったということです。

――どの部分の開発に時間が掛かったのですか?

菊池:具体的に“この部分”というものがあるわけではないのです。今回はミラーレスということで、ミラーやファインダーを無くして小さくできる。ではどのくらい小さくするのが一番適切なのか。光学性能を満足させるためにはフランジバックを何mmにすれば良いのか、そうした検討をいろいろ行なってきたところが、期間を要したところでした。

EOS M(左)はEOS Kiss X6i(右)に比べて大幅に小型化した手前がEOS M、奥がEOS Kiss X6i

EOS KissやPowerShot G1 Xとの棲み分けは明確

――EOSシリーズでの位置づけとEOS Kissシリーズとどう棲み分けるのかを教えてください。

戸倉:EOS Mのユーザー層はきれいな画を撮りたいという欲求は強いのですが、“趣味を撮る”という方ですね。一方で、EOS Kissユーザーは、もう一歩進んだより写真に興味を強く持っている方になります。より撮影領域が広いのは光学ファインダーのEOSだと思っていますから、やはり動いている被写体を含めていろいろなものが撮れるのがEOS Kissだと思っています。EOS Mはどちらかといえばスナップ撮影だとか、もう少し限られた範囲での趣味を撮ろうという方向けという分け方ですね。

川島:EOS MとEOS Kissの棲み分けは確実にできていると思っています。これらの機種が例え同じ価格であったとしても、お客様は異なるモチベーションで買われるのではないか、という考えが企画の初期からありました。

――両機の食い合いは起きないということでしょうか?

戸倉:正直、EOSのエントリーモデルはKissにすべてを任せていたので、それに対してもう1つ選択肢を提供したことになります。ですから現状のEOS Kissのお客様がまったくEOS Mに流れないとは言い切れないと思います。ただ全体的に見ますと選択肢を増やした分、合わせるとよりボリュームは増えると考えています。

――EOS Kissを将来的にEOS Mのシリーズで置き換える考えはありますか。

戸倉:今はありません。

――EOS Kissシリーズもこれまで小型軽量を追求してきましたが、最新のEOS Kiss X6iあたりは小型化の限界に来ているのでしょうか?

戸倉:まだまだ全然限界には来ていませんよ。

菊池:まだ小さくできる余地はあります。EOS Kissシリーズとしては今後、小型軽量をさらに進める部分もありますし、より高性能側に振っていく部分もあると思っています。

菊池裕氏(メカ設計およびEOS M設計のとりまとめを担当)。「今回カメラを軽くしたことで、気持ちの上でも気軽にいつでも持って行けるようになったと思います。そして良い写真が撮れたことに驚きと喜びを感じて欲しいと思います」

――EOS Mは、“EOS Kiss X6iからクイックリターンミラーと光学ファインダー(OVF)を取り去ったカメラ”という見方もできると思いますが、如何でしょうか?

菊池:今回、単にミラーやOVFを取っただけではなく、それ以上の設計を施しています。例えば小型化のためにシャッターも新開発しましたし、CMOSセンサーのチップ自体はEOS Kiss X6iと同じなのですがパッケージはEOS Kiss X6iよりも小型にしています。ミラーとOVFを取っただけとみられがちですが、決してそれだけではありません。

 それからマウントを変えるというのは一眼レフカメラを開発している我々としては、かなり勇気のいることで、どのくらいの大きさが本当に正しいのか模索しながらやってきました。この点も小型化に大きく寄与しています。

EOS Mのために小型化したシャッターユニットCMOSセンサーのパッケージも小型化している

――EOS Mの開発陣にはコンパクトデジタルカメラのメンバーも加わっているのでしょうか?

菊池:はい。コンパクトデジタルカメラには、小型化技術など設計視点に特徴があります。そうした視点をEOS Mに加えることは、開発にとって必要なことだと考えたからです。

鳴島:コンパクトデジタルカメラの良いところをうまく活用した形になっていると思います。撮影モードの入り方や操作部材の成り立ちなどは参考になりました。また今回、ボディ小型化のためにハードキーを少なくしてタッチパネルでの操作を採用していますが、そのあたりもコンパクトデジタルカメラのデザインを活用しています。

――“大きなセンサーサイズでミラーが無い”といえばレンズ一体型の「PowerShot G1 X」がありますが、セールスはどうでしょうか?

戸倉:非常に好調です。予定では月産約3万台ですが、現状では予定通りに推移しています。地域によってはバックオーダーを抱えるほどです。特に売れているのは日本、台湾、香港といったアジア圏です。

3月に発売したPowerShot G1 X

――なるほど。ではこのPowerShot G1 Xとの棲み分けはどうなりますか。EOS Kissに対してよりもニーズは明確に分かれそうですが。

戸倉:そうですね。PowerShot G1 Xはあくまでも、PowerShot Gシリーズの最上位機というコンセプトので開発しており、オールインワンタイプでいい画が撮れるというカメラです。そのおかげで利便性も高いですし、機動性にも富んでいます。

 一方でEOS Mは交換レンズシステムですから、レンズ固定式のカメラに比べればより多くの焦点距離で撮影できます。撮影の広がりという点ではEOS Mのほうが期待できます。

EOSである以上“APS-Cセンサー”は譲らず

――PowerShot G1 Xは1.5型センサーを搭載し、画質で好評を博しています。EOS Mでも、同じ1.5型センサーを使った方がより小型化には有利なように思いますが……。

戸倉:小型化に対しては確かに4:3のセンサーの方が有利です。しかし、やはりEOSなんですね。EFレンズの機能は100%活用したい。高画質は譲りたくない。EOSファミリーとしての役割はきちんと果たしたい。ということであれば、APS-Cセンサー以外に選択肢はありません。アスペクト比が3:2であることもEOSとして重要なことだと考えました。

川島:EOS Mをサブカメラとして使われる場合に、レンズを交換しても従来のAPS-CセンサーのEOSと同じ画角でそのまま使えるという部分もメリットになっています。

画質のために譲らなかったという“APS-Cサイズの撮像素子”を採用

――センサーは有効1,800万画素ですがどのように決まりましたか?

菊池:いま我々が持てる財産の中で、このカメラに最も適した画素数として選択しています。

――画作りは従来のEOSに近いものなのか、それともコンパクトデジタルカメラ寄なのでしょうか?

菊池:EOS Kiss X6iと同等の画を狙って設計しています。画像処理エンジンもEOS Kiss X6iと同じ「DIGIC 5」で、EOS Mのために何か手を加えているわけではありません。RAWも従来のEOS同様に14bit記録が可能です。

――RAW現像ソフトDigital Photo Professional(DPP)の「デジタルレンズオプティマイザ」には対応していますか?

中村:はい。EF-Mレンズはもちろんですが、マウントアダプターを使用して装着したEFレンズもすべてでは無いですが対応しています。

――位相差AFセンサーにより従来EOSのコントラスト方式よりは大幅にAF速度が速くなっていますが、従来機の位相差AFには速度が追いついていない印象を受けました。

菊池:EOS Mには撮像面位相差AFを搭載していますが、これは一眼レフカメラの位相差AFと構成が異なります。EOS Mでは最初にレンズを前後どちらのピント方向に動かせば良いのかを判断します。この動きに対しては、撮像面位相差AFセンサーが非常に効果を発揮します。

 一方、最終的な合焦の追い込みはコントラストAFでピークを探す動きをします。我々は、このほうがピントの精度が高まると判断したからです。その部分では時間がかかってしまいます。ミラーのあるタイプのEOSは最後まで位相差AFでピントを合わせているため、比べると感覚的にずれが生じるかもしれません。

EOS Kiss X6iと同じく、撮像素子に位相差AFセンサーを組み込んでいる(発表会のスライドより)

――マウントアダプターを介してEFレンズを付けた際も、完全位相差AF方式のEOSに比べて合焦に時間が掛かる印象でしたが、これも同様の理由ですか?

菊池:同じ理由ですね。やはり動く被写体に対してはEOS Kissのほうが優位性はあります。

――手ブレ補正も従来と同じ“レンズ内”方式を採用しました。ボディ内手ブレ補正は考えませんでしたか?

中村:EOSシリーズは従来から各レンズに合わせた形でIS(IMAGE STABILIZER、手ブレ補正機構)を搭載するのが適切と判断しており、今回も踏襲しました。

――動画機能での進化点もありますか?

中村:動画撮影機能自体はEOS Kiss X6iと同じですが、EOS Mではレンズを含めたシステムとして進化しています。標準ズームレンズの「EF-M 18-55mm F3.5-5.6 IS STM」は、AF駆動にステッピングモーター(STM)とリードスクリューの組み合わせを採用し、静かでスムーズなAFを実現しています。さらに、広角側の手ブレ補正を強化し、歩きながらの動画撮影時などに有効な「ダイナミックIS」という機能を搭載しています。

――レリーズタイムラグがEOS Kiss X6iの約0.075秒から約0.05秒に短くなっています。

菊池:ミラーが無いですから、ミラーアップの時間ぶん短くなっています。

EFマウントと同じ操作感を目指した「EF-Mマウント」

――“EF-M”という新マウントを策定する上で一番重視した部分はどこでしょうか?

中村:APS-Cサイズのイメージサークルをきちんと満足するマウント径でありながら、小型軽量を実現できるようにしたことです。また、レンズの着脱といった操作感もEFマウントと同じになるように設計しています。

EF-Mマウント。マウント径もEFマウントから縮小している

――EF-Mマウントは例えば35mmフルサイズセンサーなど、APS-Cサイズよりも大きなセンサーにも対応できますか?

菊池:それはできないと思います。相当おかしなことをやれば物理的に入らないとは言いきれませんが……。周辺光量が相当落ちるとか、像がどうなるかわからないといったレベルですね。

――例えば、EF-Mマウントの大口径レンズも実現可能でしょうか?

中村:将来のことなので細かいことはいえませんが、EOS Mは小型軽量というのがポイントですので、どこまで大きなレンズをボディに合わせて作るのかということも含めて検討して行く予定です。例えばものすごく大口径のレンズを作ることは技術的には可能だと思いますが、そういったレンズがこのカメラにマッチするのかという部分も含めて考える必要があります。

中村裕氏(EF-Mレンズの商品企画を担当)。「コンパクトデジタルカメラからステップアップした方には、こんなに高画質の写真が撮れるのだということを実感して欲しいですし、レンズ交換の楽しみを知って頂きたいと思います」

――ちなみに、EF-Mマウントの規格を現時点で開示する予定はありますか?

戸倉:公開する予定はございません。

――EF-Mの最初のレンズを「EF-M 18-55mm F3.5-5.6 IS STM」と「EF-M 22mm F2 STM」の2本にしたのは何故でしょう?

中村:まずは王道の標準ズームレンズということで18-55mmですね。もう1つの22mmは、スナップ写真でや室内で小物を撮影したり、または人物撮影で背景をボカしたりというときにこの画角(35mm相当)がちょうど良いという判断でこの2本を採用しました。

同時発売のEF-Mレンズ。左がEF-M 22mm F2 STM、右がEF-M 18-55mm F3.5-5.6 IS STM
EF-M 18-55mm F3.5-5.6 IS STMを装着したところEF-M 22mm F2 STMを装着したところ

――この2本のEF-Mレンズの性能はどれくらいのものを持っているのでしょうか?

中村:18-55の標準ズームレンズは、非球面レンズを3枚使用していまして、これだけの小型化を達成していながら、好評を得ている「EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS II」とほぼ同等の画質になっています。

 22mm F2の単焦点は、沈胴設計でガラスモールドの非球面レンズを使い、画面周辺部まで画質にこだわりました。最短で15cmまで寄れますし、円形絞りも採用しました。上級者の方でも実際に撮った絵を見て頂ければ満足してもらえる性能だと自信を持っています。

 これらのレンズはEOS MがEOS基準のクオリティを持っているように、EFレンズ基準のレンズになっています。

マウントアダプターを介しても手ブレ補正の性能は維持

――マウントアダプター「EF-EOS M」でこだわった部分を教えてください。

川島:デザイン面ですと、EFレンズと組み合わせても違和感の無いデザインに仕上げています。それから三脚座が着脱式なので、必要の無いときには外してご使用頂けるようにしています。

マウントアダプターのEF-EOS M(左)で、EFおよびEF-Sレンズ(右)を装着できる三脚座は着脱式になっている

――マウントアダプターを使用した際に、EFレンズの手ブレ補正の性能が落ちることはありませんか?

中村:ありません。従来のEOSで使用した場合と同等の性能が出ます。

――マウントアダプターを実現する上で特に苦労した部分はどこでしょうか?

中村:性能を維持しつつコストを抑えたことでしょうか。より多くの方にEFレンズを楽しんで頂きたいということで、かなり手頃な価格(1万2,600円)にしています。ダブルレンズキットですと、このマウントアダプターと外付けストロボが含まれますので、特にお買い得になっています。

EOS Mダブルレンズキットの内容。マウントアダプターと外付けストロボが同梱になる

――キヤノンがEOSシリーズ以前に採用していた“FDレンズ”が使えるマウントアダプターを出す予定はありませんか?

菊池:現段階では予定はありません。

――EF-Mレンズが当初2本だけというのは少ないように思います。またロードマップの発表もありませんでした。

中村:マウントアダプターを使用すれば数多くのEFレンズが使えます。その中にはマクロも望遠もシフトレンズもあり、さまざまな交換レンズの世界を楽しんで頂けるものと認識しています。一方で、ユーザーの声も真摯に伺って今後検討を進めていきたいと考えています。

マウントアダプターで60本以上のEFレンズが装着できる
EFレンズの装着例

――EF-Mレンズも今後増えていきますよね?

中村:期待していただくのはありがたいのですが、将来の計画については具体的なことはお話しできません。

デザインコンセプトは“EOSの凝縮”

――デザインのポイントを教えてください。

川島:まず、ただ小さくすれば良いと私たちは考えてはいません。小さくして、かつEOSのアイデンティティや遺伝子をいかに凝縮して継承できるかを大切にしました。そこで、大きく2つのキーワードを掲げました。1つは「プレミアムコンパクト」、もう1つは「インテリジェントタッチ」です。

川島昭作氏(外観のデザインを担当)。「PowerShotとEOSの間でなかなか欲しいカメラが無いというお客様の声も耳にしていました。今までキヤノンのカメラに振り向いてもらえなかった方に是非使って欲しいですね」

 プレミアムコンパクトですが、小さいながらEOSの高画質を如何に造形的に表現するかという部分ですね。そこで一番ポイントにしたのがレリーズ周りの形状です。最近のEOSは、レリーズボタンの部分をスプーンで削いだような形状になっており、大切にしている部分です。そこをEOS Mも同じ考え方で表現しました。手の大きさにかかわらず、人差し指を添えたときに最適な位置や角度になるように何度も試作をして決定しました。

シャッターボタン部分を従来のEOSのように斜めに削いだ(参考)現行EOSのフラッグシップ機「EOS-1D X」。シャッターボタン部分の独特な造形をEOS Mも受け継いでいることがわかる

 また、高画質をアピールするデザインとしては液晶モニターの中心をほぼレンズ光軸の中心と合わせてあります。例えばマクロ撮影の際に被写体がそのまま液晶モニターに現れる感覚で撮影して頂けます。さらに、三脚ネジ穴とアクセサリーシューも光軸に揃えて配置しています。EOSの伝統としてこのあたりの使いやすさにもこだわっています。

液晶モニターやアクセサリーシューを光軸の中心に据えている三脚ネジ穴も光軸のセンターに

 インテリジェントタッチは、例えばEOS Kissですと10以上の撮影モードが並んだダイヤルが付いていました。速写性といった部分ではそうしたものが良い面もありますが、一方で、従来のコンベンショナルな一眼レフカメラに足踏みをしてしまうというお客様の話も聞きます。そこで今回は、コンパクトデジタルカメラやスマートフォンを使っているお客様が自然に入ってきて、使っていくうちにEOSの世界に引き込まれていくユーザーインターフェースを大切にしました。

これまでのようなモードダイヤルを省き、操作ボタンも削減している

――ボディデザインに何かモチーフのようなものはあるのでしょうか?

川島:“EOSをどんどん凝縮していったらどうなるか?”といった考え方でデザインをしていきました。

EOSを凝縮したデザインという

――外装の材質は何でしょうか?

川島:前後の外装ともアルミ合金になっています。外装も含めて、EOSクォリティとしての耐久性や耐環境性能といった部分もクリアするのに苦労した部分です。例えばブラックですと、EOSの上位機種と同じビーズ材を混ぜた塗装で耐久性も同等となっています。

分解モデル。マウントに繋がるシャーシはマグネシウム製

――ストラップの取り付け方法が変わりました。

川島:キヤノンでは初めての方式になります。ミラーレスのカメラを買われる方は女性が多く、例えばレストランでデザートを撮るといったことが多いと思われます。そうしますと、ストラップがケーキに付いてしまうなどということも起こり得ます。ですから必要の無いときには簡単に外すことができるようにしました。

コインなどで簡単に着脱できる新デザインのストラップ取り付け部を採用。写真のようなリストストラップとネックストラップも同時に発売する

 これまでと違い、再度装着する際に長さを調整しなくて良いので便利だと思います。また、オプションで用意していますがネックストラップとリストストラップを必要に応じて付け替えられるように配慮しました。

――ちなみに金具に装着できるストラップのテープ幅は何mmまでですか?

川島:7mmまでとなっています。

ゲーム機のような“両手操作”も可能

――グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)で工夫した部分を教えてください。

鳴島:大きく3つあります。1つめが、エントリーユーザーへの配慮と、従来からのEOSユーザーに向けたEOSの継承性を考えました。そのため、今回のGUIのデザインは、一眼レフとコンパクトカメラそれぞれの担当者による混成チームで作っていきました。

鳴島英樹氏(グラフィカルユーザーインターフェースを担当)。「絵作りの機能や背景をボカす設定は簡単にできるように配慮しましたので、そのあたりを楽しんで頂きたいです」

 EOS Mはタッチパネルなので、IXYやPowerShotで実績のあったユーザーインターフェースをレンズ交換式カメラ向けにより進化させる形を考えました。一方EOSの継承性という部分では、EOS-1D XからEOS Kiss X6iまでのすべてに搭載されている「クイック設定画面」というものがあり、今回も搭載しています。通常、ライブビュー表示と設定値が重なっていると見にくかったりしますが、クイック設定画面だと高コントラストで文字も大きくなっています。またこの画面を見れば、他のEOSを使っているユーザーもほとんど学習無しで使うことができると思います。

EOSユーザーにはおなじみのクイック設定画面を搭載

 2つめの特徴は、“キーおよびダイヤル”か“タッチパネル”のいずれでもほぼすべての操作が可能になっている点です。タッチパネルというと設定するのに深くメニューを潜る必要があるのではないかと心配される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、例えばTv(シャッター速度優先AE)モードであれば、背面のダイヤルを回せばダイレクトにシャッター速度を変えられますし、露出補正の操作もEOS Kiss X6iと同等に行なえます。その上でタッチパネルを追加しているという考え方です。

 シャッター速度ならタッチパネルに表示されるバーをスライドさせることでも設定できまして、ダイヤルを何回も回すよりも、タッチパネルでサーッととスライドさせた方が目的の値により近づけることができます。そこからダイヤルで微調整する、とった使い方ができますね。

シャッター速度はダイヤルの他、画面のバーをタッチすることで素早く設定可能だという露出補正も同様に行なえる

 また、タッチパネルのメリットとしては動画撮影時の静音性が挙げられます。EOS Mは動画撮影中に露出補正などができますが、従来のハードキーのみの機種ではクリック音や振動から来るブレが記録されてしまう問題がありました。

 そして3点目ですが、一眼レフカメラならではの“両手操作”にもチャレンジしています。EOS Mも小型軽量とはいえ、これまでの一眼レフカメラのように両手でホールディングするのが基本だと思います。ですから、両手でより素早い設定ができるようにしています。先ほどのクイック設定画面が起動すると画面の両側にU字に項目が並びます。そこで設定できる項目は下に出てくるのですが、慣れてくるとまるでゲーム機を使うようにさっさっと設定を変えることができるようになります。親指を使うのがコツですね。

設定画面は項目をU字に配置したこのように持てば両手の親指で設定項目を素早く変更できる

内蔵EVFは小型化のために断念

――今回はEVFは搭載していません。また外付けのEVFも用意されていませんね。

戸倉:小型化が基本コンセプトにありますので、やはりEVFを搭載すればもっと大きなものになってしまいます。EVF内蔵も検討はしましたが、EOS Mに関しては、搭載する方向ではないという判断に至りました。

――内蔵ストロボの搭載を見送ったのも同様の理由でしょうか?

戸倉:はい。そうなります。

内蔵ストロボは見送ったが、EOS Mにマッチするという小型のクリップオンストロボ「スピードライト90EX」(1万290円)を新たに用意する

――今後要望が多ければ内蔵EVFや外付けEVFへの対応もあるのでしょうか?

戸倉:可能性は否定しません。お客様の声を聞きながら商品化は色々と検討したいと思っています。

――EOS Mの生産地はどこでしょうか?

戸倉:本体は大分キヤノンで生産します。EF-Mレンズは台湾で生産していきます。

――EOS Mの今後の方向性を教えてください。

戸倉:EOSとして、撮影領域をカバーするのに適しているのは光学ファインダーのEOSと考えています。今回のEOS Mは、小型で高画質に特化したEOSの新エントリーラインです。当面はこの位置づけの方向性です。

――ある程度上のクラスのミラーレス機としての展開はどうでしょうか?

戸倉:現時点ですべてを否定することはありませんが、やはりEOS MはEOSファミリーのエントリーとしての役割を果たすことが大きな目的であると思っています。

インタビューはキヤノン本社(東京都大田区下丸子)で行なった




(本誌:武石修/撮影:國見周作)

2012/8/10 00:00