【 2016/05/25 】
【 2016/05/24 】
【 2016/05/23 】
【 2016/05/20 】
【 2016/05/19 】

インタビュー:キヤノンに訊く「PowerShot G1 X」の進化

〜キヤノンコンパクト史上最高画質、一流シェフが料理する“四つ星の味”

 キヤノンが3月9日に発売したレンズ一体型コンパクトデジタルカメラ「PowerShot G1 X」は、一般的なコンパクトデジタルカメラに比べて大きな1.5型センサーを搭載したことで注目を集めている。今回はPowerShot G1 Xのセンサーやレンズをはじめとする技術的な進化点をキヤノンに伺った。(本文中敬称略)

今回話を伺ったメンバー。左から石井亮儀氏、品田聡氏、宇田川善郎氏、和田宏之氏、山口利朗氏、猿渡浩氏

 お話を伺ったのは、キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 ICP第三事業部の石井亮儀氏(商品企画を担当)、同総合デザインセンターの品田聡氏(デザインを担当)、同ICP第三開発センター 製品開発担当部長の宇田川善郎氏(画像処理及び画質設計を担当)、同ICP第三開発センター 室長の和田宏之氏(PowerShot G1 Xの開発チーフ、レンズ鏡胴のメカニズムを担当)、同ICP第三開発センター 室長の山口利朗氏(センサー関連の設計を担当)、同ICP第一開発センター 室長の猿渡浩氏(レンズ光学系とファインダーを担当)。

PowerShot G1 X

「きちんとした製品は評価される市場ができてきた」

――まず、PowerShot G1 Xの企画の背景を教えてください。

石井:キヤノンのコンパクトデジタルカメラにおいて「PowerShot G」シリーズは、常に最高峰という位置づけでしたが、その中でもこれまでに無い最高の画質を目指したカメラです。ほかのカメラよりもかなり長い時間をかけて議論をした中で商品化にこぎ着けました。

キヤノンのコンパクトデジタルカメラでも“別格”という歴代のPowerShot Gシリーズ

 デジタル一眼レフカメラを使っているハイアマチュアのサブ機、あるいはメイン機としての使用に耐えうる高い画質や機能を、コンパクトデジタルカメラというカテゴリーの中で機動性を持たせた形での実現を目指しました。

――前モデルの「PowerShot G12」はどのようなユーザーに受け入れられていたのでしょうか?

石井:高画質だけれどもコンパクトなカメラを求めているハイアマチュアのユーザーが多かったですね。またそれだけではなく、プロ写真家がサブ機としてカメラバッグに1台忍ばせておいていざというときに使うといった声もありました。欧州では商業撮影に使われる例もあります。ハイアマチュアからプロにかけて幅広く支持されていると認識しています。

前モデルのPowerShot G12。1/1.7型有効1,000万画素CCD搭載。2010年10月発売

――このタイミングでの投入になった理由は何でしょうか?

石井:高級志向のコンパクトデジタルカメラ市場ができつつあり、ユーザーニーズが高まってきたということがあります

 コンパクト機の中のハイエンド機をPowerShot Gシリーズとして我々はずっと前から出し続けており、認知されてきたといえます。そうした市場を最初に切り開いたのはGだという自負もありますが、一方で他社からもいろいろな高級コンパクトが登場して盛り上がりを見せており、期が熟したということです。

商品企画を担当した石井亮儀氏。「キヤノンの技術力を結集して作ったカメラですので、大きなセンサーによるボケ味や突き抜けた解像感を実感して欲しいです」

 また技術的な背景としてセンサー、レンズ、画像処理エンジンなどの技術的蓄積がPowerShot G1 Xを生み出すのに必要なレベルに達したということもあります。

宇田川:高級コンパクトは参入メーカーも増えていますし、きちんとした製品を出せばユーザーに理解してもらえるという環境が整ってきたと考えています。

――すばりライバル機は?

石井:APS-Cサイズクラスのセンサーを持ったレンズ一体型のカメラは意識しています。ただそういったカメラは単焦点レンズの機種が多いのにたいしてPowerShot G1 Xは4倍のズームレンズを搭載した上でこのサイズを実現しています。ですから、単焦点レンズの機種よりもかなり使い勝手は良いのではないかと考えています。

宇田川:このサイズのセンサーを積みながらズームレンズ一体型でこの大きさという意味では、いまは直接のライバルはいないといえますね。

 強いて言えばAPS-Cセンサーを使用しているミラーレス機ということになりますが、それにズームレンズを付けたときの大きさがどれくらいになるのかということを考えるとPowerShot G1 Xのボディサイズというのは大きなメリットだと考えています。

画像処理及び画質設計を担当した宇田川善郎氏。「カメラを買って“一つ星で行こうかな”と思っている方には、ぜひ“四つ星の味ってこうなんだな”というのを実感して欲しいですね」

――そうしますと、ミラーレス機の購入を考えているユーザーもターゲットとして考えているのでしょうか?

石井:ミラーレスカメラを購入するユーザー層は、カメラにあまり詳しくないがレンズ交換式のカメラで良い写真が撮りたいというライトなユーザーと、一眼レフカメラをすでに使いこなしていて新たにコンパクトなカメラが欲しいと考えているハイアマチュア指向のユーザーの2つのグループがあると思います。

 そのうちライトな使い方をするユーザー層は、PowerShot G1 Xのユーザー層とは被らないと考えています。一方の、写真としての絵作りにこだわりがあるけれどもより小型軽量で機動性のあるカメラで撮りたいというユーザーはターゲットになってきます。特に上級者向けのミラーレスカメラは、同じユーザー層に入ってくると思っています。

 そこで比較された場合に、PowerShot G1 Xはレンズ交換はできないですが軽量コンパクトという部分で優位性があるといえます。

――PowerShotの高級機としては「PowerShot S100」がありますが、こちらとの棲み分けはどうなっていますか?

石井:PowerShot G1 Xは、これまでに無いサイズのセンサーを使った“史上最高画質”といったところを狙っています。それに対して「PowerShot S」シリーズは、画質もハイクォリティですが、非常にコンパクトで機動性を重視したモデルになっており、ユーザーのニーズに応じて選択して頂けると思います。

PowerShot S100。1/1.7型有効1,200万画素CMOSセンサー搭載。2011年12月発売

DIGIC 5の真価を発揮する“真打ち”

――キヤノンで初めてとなる1.5型のセンサーを搭載しましたが、なぜこのサイズになったのでしょうか?

石井:EOSで使われているAPS-Cセンサーをコンパクトなボディに納めようという想いがありました。イメージとしては、APS-Cサイズ(3:2)の両端を切り落として4:3にしたものを採用しています。

センサーサイズ比較。左からAPS-Cサイズ、1.5型、1/1.7型 1.5型センサーは、1/1.7型に比べて面積で約6.3倍大きい

山口:従来のPowerShot Gシリーズに対して、一見してすぐわかるような高画質を実現したかったということがあります。その際必要になる1画素の大きさや画素数を考慮してこのサイズにしました。

和田:ボディのサイズもPowerShot G12より一回り大きい程度に収めなければ、このシリーズの特徴であるコンパクトさという部分でユーザーの支持が受けられないと考えました。そこで、レンズの大きさも勘案して、1.5型にした面もあります。

――なぜ3:2にせずに4:3を採用したのでしょうか?

石井:コンパクトデジタルカメラとして4:3のセンサーは我々としても経験値が高いということがあります。また同じようなセンサーサイズとピクセルピッチで作った場合に、4:3の方がレンズの大きさの面で効率がよくボディ全体の小型化にも貢献するためです。

 ただ、3:2や1:1といったアスペクト比での撮影ももちろん可能になっています。

――今回は有効1,430万画素ですが、なぜこの画素数に決まったのでしょうか?

山口:まず、求められる高い画質に対応するためのピクセルピッチが決まります。今回は4.3μmとしました。さらにレンズとのマッチングを考慮して本体が大きくなりすぎないようにするなど、総合的にバランスが撮れる画素数として約1,430万画素としました。

センサー関連の設計を担当した山口利朗氏。「特に高感度画質はかなりのものに仕上がっています。室内でもノンストロボで撮れるほどの実力がありますから、そのあたりを試して頂きたいですね」

――高感度画質はどれくらい向上していますか?

山口:画像処理技術の進化と合せて、従来比約2段分の向上となっています。一方で低感度の画質も向上しています。ダイナミックレンジが広くなったので、明暗の激しいシーンでも、より人間の目に近い写真が撮れるようになっています。

 基本的な技術はEOSのセンサーと同じですが、今回は使用するレンズが決まっていますので、それに最適な設計を施しています。例えばオンチップマイクロレンズの最適化で、画面周辺の光量落ちが少なくなるよう工夫しました。

1画素あたりの受光面積は従来比約4.5倍になり、S/N比が向上した(図中の丸は信号、四角はノイズ)

――今回はこれまでのCCDではなく、CMOSセンサーを使用しています。

山口:フルHD動画記録のために、高速に読み出せるCMOSセンサーを採用しました。

――解像力の面ではどうでしょうか?

猿渡:解像力というのは、レンズの解像力とセンサーの解像力のマッチングが取れるところがベストになるように設計するわけです。今回は対角長が従来の約2.5倍という大きなセンサーを使用しています。一般的にセンサーが大きくなるとセンサー上での被写体の空間周波数が低くなります。今回、それを十分にクリアできるだけのレンズを開発しています。センサーに対して十分な解像力を提供する一方で、センサー側でもレンズの性能を活かせる信号処理を行なって、従来以上の解像力を得ています。

――ローパスフィルターは従来と同じタイプでしょうか?

山口:そうなります。

――例えば、ローパスフィルターを無くすといった可能性は無いのでしょうか?

宇田川:一番良い画質になる設定ということでローパスフィルターを使用しています。ローパスフィルターレスありきということではなく、良い画質にするためにはどちらが良いかという観点で決めているということです。

 レンズも元気(性能が良い)なので、そうするとモアレなどが発生する比率が上がります。ですので、今回はローパスフィルターがあった方が良いという判断をしています。モアレは一度出てしまうと消すことが非常に難しい。レタッチで消す作業を行なうようなユーザーがメインであればローパスフィルター無しでも良いのですが、PowerShot G1 Xはコンパクト機の流れを汲んだものなので、撮って出しの絵を楽しんで頂くことをコンセプトにしています。

――画像処理エンジンには新に「DIGIC 5」を採用しました。特徴を教えてください。

宇田川:これまでDIGICを作ってきた中で今回は1、2位を争う変更になったと思います。非常に大きくブラッシュアップしています。DIGIC 5を最初に搭載したのはPowerShot S100でしたが、実力を発揮する本命はこのPowerShot G1 Xですね。これが真打ちです。

大きく進化した画像処理エンジン「DIGIC 5」を搭載

 PowerShot G1 Xはセンサーもレンズも一番良いデバイスを持ち寄っています。そこから出てくる超新鮮な食材をDIGIC 5という第一級のシェフが調理しています。その最高に美味しい“四つ星”の味を是非味わって頂きたいですね。

 DIGIC 4から見ると扱う情報量が4倍になりましたが、スピードは6倍に向上していますので、速度面ではトータル1.5倍の高速化を実現しています。

撮って出しで感動できる絵を目指した

――絵作りの方向性は?

宇田川:どちらかと言えばレタッチをせずに、JPEGで撮ってそのまま楽しめる画質ということです。1枚撮ってぱっと見たときにきれいだな、気持ちいいなと思える画質を目指しました。そのために、ディテールを出すこととノイズを減らすことにはこだわりました。撮って出しの画で感動して頂けるレベルを目指しています。

PowerShot G1 Xで撮影したプリント。撮って出しで感動できる絵を目指したという

和田:一方RAW記録では、キヤノンのコンパクトデジタルカメラでは初めてとなるEOSと同じ14bit記録に対応しました。これまでは12bitだったのですが、14bit化によって高いダイナミックレンジを活かせるようになりました。被写体のディテール再現なども向上しています。

 この意味では12bitの時よりも豊かな階調になるため、レタッチ耐性は向上しているといえます。また、撮って出しのJPEGも14bit化の恩恵を受けています。

開発チーフの和田宏之氏。「長い時間をかけてかなり細かい部分までこだわり、1つのカメラとして提供できるものができました」

――EOSではこの春からRAW画像を現像処理で高画質化する「デジタルレンズオプティマイザ」(DLO)が採用されます。PowerShot G1 XはDLOには対応しないのでしょうか?

宇田川:DLOの対応は見送っています。というのもこの機種の場合、特にDLOを使用しなくても画質に問題は無いと考えられるからです。レンズとセンサーが最適化された設計の一体型カメラですので、仮にDLOを適用したとしても変化は極小です。

――動画機能でのアピールポイントは何でしょうか?

宇田川:今回からフルHDに対応しましたので解像度の面でも向上しています。ダイナミックレンジも広いので動画としての画質は向上しています。もちろんこのカメラは動画よりも静止画をメインに楽しんで頂くカメラですが、大型センサーによるきれなボケ味の動画作品を楽しむことができます。

石井:今回PowerShot Gシリーズとして初めて動画ボタンを設け、使い勝手を高めました。

高度な生産技術もレンズを小型化できた要因

――今回センサーの対角長は従来比約2.5倍になりましたが、レンズの直径は約1.4倍に抑えています。

猿渡:今回は、大きなセンサーを使うけれどもレンズの大きさは従来のPowerShot Gシリーズと大きく差が出ないようにするという目標がありました。そのために、従来機では使用していなかったような大きな非球面レンズや高屈折率のレンズを使用することによって、主に厚み方向の大きさを抑えています。

PowerShot G1 Xは35mm判換算で28-112mm相当 F2.8-5.8の4倍ズームを採用 レンズの直径は従来機比約1.4倍に抑えている

 加熱した硝材をプレスするモールド非球面レンズは、大きいほど成形の難易度が上がります。レンズが小さいほど熱の回りが良く均一に冷えるのですが、大きいとそうはいかないからです。今回大きなハードルの1つでしたが、生産技術面のサポートもあってクリアできました。

レンズエレメントは一部をカットするなどの工夫を行なった 美しいボケ味の実現にこだわったレンズ

 それからレンズ鏡胴にはモーターなどの部材が入りますので、それらをどうやって小さく収めるかも腐心しました。これは一例ですが、レンズエレメントの一部を切り落とすことでスペースを作るといった工夫をしています。絞りの近傍はレンズが丸くなければなりませんが、絞りから離れているレンズは一部を切り落としても問題ありません。

 レンズをカットしても、所望の部品精度を得られるようにするには、非常に高い生産技術が必要になってきます。

 これまでも一部のカメラではこうしたレンズのカットは行なっていましたが、PowerShot G1 Xはカットする枚数が比較的多くなっています。画質に影響を与えない範囲でどこまで行けるのかを見極めるのも苦労した点ですね。

PowerShot G12(右)との比較

――描写についてはどうでしょうか?

 特にボケ味にはこだわっています。これはセンサーの大きなカメラを使うユーザーが一番気にする部分だと思いますので、ピント位置の前後のボケ味をある程度考慮して設計しています。レンズを小型化するとボケの部分にしわ寄せが来やすいのですが、それが起きないよう設計時に配慮しています。このあたりは、ぜひ作例をご覧になって実感して頂きたいですね。

石井:弊社としては、ボケるレベルとして“一眼レフカメラに迫るボケ味”という表現をしています。ボケの良さは一眼レフ相当といって良いと思います。

――今回のレンズは28-112mm相当(35mm判換算)でF2.8-5.8ですが、なぜこのズームレンジに決まったのですか?

猿渡:センサーサイズが大きくなると光学系も大きくなりますので、そのバランスということになります。ズーム倍率だけではなく、F値も含めてユーザーに一番フィットしたサイズになるように仕様を決めていきました。

レンズは大きさと光学性能のバランスを重視した

――例えば広角端を24mm相当にすることは難しいのでしょうか?

和田:それですと、どうしてもレンズが大きくなってしまいます。今回は焦点距離、F値、サイズの関係と使いやすさという点で現在の仕様に決めています。

――では、ズーム全域でF4固定にした場合もレンズは大きくなってしまいますか?

猿渡:そうなります。設計上は実現不可能なことではありませんが、今回目標としたPowerShot Gシリーズとしての大きさに納めることは難しくなります。

レンズ光学系とファインダーを担当した猿渡浩氏。「特にレンズは製造組立や品質管理の技術がとても大切になってきます。PowerShot G1 Xを世に出すことができたのは、キヤノンのそうした歴史的なDNAとでも言うべきものが非常にプラスに働いて、あらゆるバックアップが有り良いものができたと考えています。カメラのトータルの能力を感じて欲しいと思います」

――最短撮影距離が広角端で20cm、望遠端で85cmと従来機より長くなってしまいました。もう少し短くできませんでしたか?

猿渡:一眼レフカメラを見るとわかるとおり、センサーサイズが大きくなりますとコンパクト機に比べて最短撮影距離が長くなる傾向にあります。それなりの仕組みを入れれば最短撮影距離を短くすることは可能ですが、どうしても機構的に複雑になってしまいます。今回は機動性とのバランスを重視した結果、そうした機構の搭載を見送ることにしました。

 またマクロ撮影を実現できても、画面全体にわたって十分な画質を確保できない可能性があります。“画質は落ちるけれど近くまで撮れる”という考え方もありますが、PowerShotの“G”を名乗る以上、ある程度我々の中に画質の基準があります。そこを満たせない部分は撮れないということにした方が、ユーザーに対しても誠意ある態度だと考えています。

――最短撮影距離を短縮するには一般的にクローズアップレンズが有効ですが、PowerShot G1 Xにはオプションとしての設定がありません。

猿渡:光学的な面から言えば、クローズアップレンズがかなり巨大になってしまうんですね。形としてもかなり出っ張ったものになります。そうしたものがPowerShot G1 Xのコンセプトとして適切なものなのか、という部分では社内でも議論がありまして、最終的に今回は特に設定しないという判断になりました。

クローズアップレンズの設定は無いが、オプションのフィルターアダプター「FA-DC58C」を利用することで58mm径のフィルターを使用可能

――従来はレンズバリア式でしたが、今回はキャップ式になっています。レンズバリアの搭載は難しかったのでしょうか?

和田:バリア式にするとどうしても大きくなってしまいます。最後までバリア式の機構を入れるか悩んだのですが、最終的にサイズを優先しました。

今回はレンズキャップ式を採用した

――AF速度は従来モデルからさほど高速化しているようには感じませんが、そのあたりはどうなっていますか?

宇田川:確かに、すごく速くなったということはありません。ただそこもこだわりの一部なのです。画質を重視した機種なので、AFは速さと精度のバランスが大事なんですね。特にきちんと止めるべきところで止められる精度を求めています。速さだけを狙うやり方は違うと考えています。

和田:今回レンズの大型化に伴って、AFにおける可動部分も大きく重くなっています。駆動速度の面は単純に不利になりますが、その点は従来と同等の速度まで持ってきてカバーしているということです。

――AFの高速化は難しいのでしょうか?

宇田川:いろいろ検討してはいます。実際にIXYでは既に高速化の技術を投入していますので、そういったものを取り入れながら高速化を図っていきたいと考えています。

EOSと併用するユーザーを想定してストロボは共用可能となっている

前後カバーとも金属外装に。シャッター耐久も向上

――今回のボディデザインのポイントはどこでしょうか?

品田:これまでPowerShot Gのデザインは、Gらしさを維持しつつ徐々に進化してきた経緯があります。今回はセンサーサイズがかなり大きくなっていますので、これまでのGのデザインを継承しつつ新しいデザインに挑戦しています。デザインコンセプトは「明快さ」です。面を直線で構成して、今までのGらしさも醸し出しつつも全体を刷新しています。またレンズとのバランスを考慮して、グリップを従来機よりもしっかりしたものにするといったことも行ないました。

デザインを担当した品田聡氏。「使い慣れた“道具”のように無駄を削り落とした必然的な造形美を目指してデザインしました」

――ボディの材質を教えてください。

品田:フロントカバー、リアカバーともアルミ製です。リアカバーはこれまでプラスチック製だったので、両面がアルミなのはPowerShot G1 Xが初めてです。これによって堅牢性や質感が高まっています。加えて従来通り、バリアングル液晶モニターの裏側部分もアルミになっています。

 特にリアをアルミにしたのは握ったたときに金属のひんやりとした感じを味わって欲しかったという意味もあります。今回は塗装にもこだわりました。従来はビーズ塗装と呼ばれるざらざらしたものでしたが、今回のデザインは平面的なメリハリのある面で構成されているので、より黒さを引き立たせる塗料を選択しました。これによって造形のシャープさを引き出させ、“直進性”や“先進性”といったイメージを持たせています。

デザイン案の変遷。右側ほど新しい
デザイン検討時のスケッチ

 さらに今回は、ダイヤルなどのパーツにおける形状や仕上げも全機種の流用とせずに一から考え直しています。使っていくうちに、だんだん愛着を持ってもらえるデザインになったと思っています。

和田:PowerShot GシリーズはEOSの高級機と併用するユーザーも多く耐久性や堅牢性が求められます。そのために金属のシャーシを採用しています。また、シャッターユニットもPowerShot G12に比べて約2倍の耐久性を持たせたものに変更しています。道具としての品質を高める工夫を、見えない部分も含めて実直に追い求めています。

シャーシも金属製となっている 液晶モニターのカバーもアルミ製
シャッターの耐久性も高めている

 バリアングル液晶もこだわりのポイントで、今回も採用しています。サイズは、当初難しいと考えていた、バリアングル液晶では過去最大となる3型です。機構部分の見直しなどで搭載を実現しました。また、解像度も約92万ドットの高精細なタイプで、これはEOSで使用しているものと同じとなっています。

液晶モニターはバリアングルでは過去最大の3型

ISO感度ダイヤルが無くなったがどうなる?

――今回も光学式のズームファインダーを搭載しました。やはり高いニーズがあるのでしょうか?

石井:光学ファインダーの利点はすごく認識しておりまして、EVFというものもありますが、やはり実像式ファインダーでチャンスを狙って欲しいということがあります。実際にユーザーからのニーズも高く、コンセプトからは外せないものですね。

――今回から内蔵ストロボがポップアップ式になりました。

和田:レンズが大きくなりましたので、それによるケラレをできるだけ防ぐためです。

石井:ポップアップ式の場合PowerShot S系のような電動式もありますが、あえてレバーでポップアップするマニュアル式を採用しています。ユーザーが自分で発光させる、させないを意識して撮影できる点を重視しています。

ストロボはポップアップ式に。上面のレバーで手動ポップアップさせる

――ポップアップストロボの位置に従来あったISO感度ダイヤルが無くなってしまいました。

和田:感度がISO12800までありますので、感度設定をクリックストップのあるダイアやるにすると細かすぎて使いにくいものになってしまうのです。そこで、背面のダイヤルで感度を操作できるようにしています。このとき液晶モニターに感度の数直線が出ますので、より自在に感度を設定して頂けるようになったと考えています。

 ISOダイヤルが無くなり露出補正ダイヤルが右側に来たことよって、使いやすくなったと考えています。また従来±2段までだったのを±3段までに拡張しており、より撮影の自由度が増したと考えています。

露出補正ダイヤルが大きくなり補正幅も増えた ISO感度は液晶モニターの数直線を見ながら、背面のダイヤルリングで設定する

“クリエイティブな写真が撮れるカメラ”を追求

――コンパクトデジタルカメラのシェアは現在どれくらいでしょうか?

石井:国内、海外とも20%弱で、首位争いをしているというところです。

――PowerShot Gシリーズの今後の開発の方向性を教えてください。

宇田川:初代のPowerShot G1からの“クリエイティブな写真が撮れるカメラ”というラインは脈々と続いていくと思います。そして、性能は絶対に譲らないということですね。

「今回の大きなセンサーという部分は市場で受けている印象がありますので、こうしたところを今後膨らませて行きたいですね」(宇田川)

――PowerShot G1 Xをベースにしたレンズ交換式カメラの可能性はありませんか?

石井:技術的にはそれも可能だと思いますが、今回はレンズ一体型でカメラとしての性能やサイズ感、機動性などを追求しました。それがPowerShot Gシリーズの使命だと考えています。レンズ交換式にする予定があるのかについては、現時点ではお答えできません。

――2011年12月に眞榮田雅也氏(キヤノン常務取締役 イメージコミュニケーション事業本部長)に本田雅一氏がインタビューした際、「ミラーレスカメラはたくさん出ているが、交換レンズの装着率は意外なほど低い。であればレンズ一体型の大型センサー搭載機も可能性としてはあるのでは」(眞榮田氏)と話していました。PowerShot G1 Xは、現時点でのミラーレス機に対する市場ニーズへのキヤノンとしての回答なのでしょうか?

宇田川:眞榮田の話については、PowerShot G1 Xを想定していると思います。銀塩時代から一眼レフカメラで1つのレンズを付けっぱなしというお客様がかなりの割合でいらっしゃいました。実際、今デジタルになってからもそのあたりはあまり変わっていないのではないかと思います。

 ただ、PowerShot G1 Xがミラーレス機のニーズに対するものかと言われれると答えるのは難しいですね。

――先のインタビューの際に、眞榮田氏は「2012年、キヤノンも基本的にミラーレス機投入の方向で考えている」と話していました。今回の1.5型センサーというのは、キヤノンのミラーレス機での採用も想定して開発されたものなのでしょうか?

石井:キヤノンとしてミラーレス機投入の検討はしておりますが、将来の製品計画についてはノーコメントとさせてください。

インタビューはキヤノン本社(東京都大田区)で行なった




(本誌:武石修、インタビュー撮影:國見周作)

2012/3/30 17:05