【インタビュー】オリンパス「E-P1」の開発意図と狙い

〜SLR事業本部長・小川治男氏に訊く

E-P1(ホワイト)を手に持つオリンパスイメージングSLR事業本部長・小川治男氏

 昨年、9月のフォトキナ2008でモックアップが展示され、発売が期待されていたオリンパス初のマイクロフォーサーズ機がいよいよ発表された。ハーフサイズ判カメラ“PEN(ペン)”のペットネームを引き継ぐE-P1は、クラシカルなデザインテイストとモダンさを兼ね備え、EVFと内蔵ストロボを省略しつつもボディ内手ぶれ補正を備え、収まりの良いコンパクトな筐体を実現している。

 同時発売のレンズも標準ズームに沈胴式のメカニズムを組み込み、小型ストロボを用意するなど、システム全体をコンパクトにする思想が徹底されている。オリンパスイメージングSLR事業本部長・小川治男氏にE-P1について話を訊いた(インタビュアー:本田雅一)。

小型軽量は当たり前。「上質感」をプラス

――昨年秋から、レンジファインダーライクなフォルムの小型化重視のカメラになるという基本コンセプトをモックアップで示していましたが、実際に製品を仕上げていく中でどのような点を重視して開発したのでしょう。

「マイクロフォーサーズというフォーマットでカメラを開発する際、進む道は二つありました。ひとつは、従来の一眼レフに似たテイストのカメラ。もうひとつは、レンジファインダー的なテイストのカメラです」

「企画を練る中で、おそらくパナソニックは一眼レフライクな製品に仕上げるだろうと予想できたため、では我々は異なる方向に行こうと考えました。オリンパスはすでに一眼レフカメラをたくさん出していますから、それらとは違う個性的なレンジファインダー型が市場からも求められているだろうという予測もありました」

「その上で、マイクロフォーサーズの特徴である小型・軽量はもちろんですが、ムービー撮影機能、アートフィルター、アートフィルター付きムービー撮影を盛り込もうと考えました。リアルタイムでアートフィルターをかけることには議論もありましたが、ムービー撮影でも楽しめるものになるはずだと考えました」

E-P1(シルバー)。レンズはM.ZUIKO DIGITAL ED-14-42mm F3.5-5.6背面にはステンレス素材を採用する
こちらはE-P1(ホワイト)。レンズはM.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8ボディ内手ブレ補正機構を採用する

――アートフィルターは話に聞くだけだと、今ひとつピンと来ませんでしたが、実際に使ってみると楽しめる。そんな機能でしたね。アートフィルター付きムービーは、たとえばトイカメラなどでは、フレームレートが落ちてトイカメラでのムービーといった雰囲気が出ていますが、これは意図的な演出でしょうか?

「いえ、それは処理速度が不足しているためです。アートフィルターのうち、トイカメラを含む3つのモードではフレームレートが落ちます。この点も社内では“入れるべきではない”といった意見があったのですが、ユーザーが利用を選べる機能ですから、遊べる機能として入れようと考えたのです。

――E-P1では、質感の高さに関して強くアピールされていました。これも大きなコンセプトの一つとして意図したものでしょうか?

「昨年9月の世界同時不況が起きてから、一眼レフ市場も急に冷え込みました。こうした景気後退期には多機能性をいくら謳っても、なかなか消費者はついてきてくれません。消費スタイルをユーザーが見つめ直すからです。そこで、我々ももういちどユーザーのニーズを見直そうと考えました。そうした考えから"上質感"にフォーカスした物作りに取り組むことに決めました。小型・軽量は当たり前。そこにプラス、上質感を加えたのです」

――確かにカメラ業界だけでなく、様々な分野で製品コンセプトの見直しが図られていますね。機能だけでなく、質感にも目を向け始めたのはいつ頃でしょう。

「今回の不況は、人とカメラの関係を見直す良いチャンスでした。何かの後継機を、機能やスペックで上回る事ばかり考えていました。このサイズにボディ内手ぶれ補正は入るのか。ムービーは撮影できるようになるのかなど、"何を入れるか"ばかり。しかし、フォトキナ2008を過ぎてからは上質感、上質感を得るための質感を大切にするべきだと考えるようになり、年末には考えは固まっていました。オール金属ボディを採用することは最初から決めていましたが、"金属ボディであること"を重視するのではなく、金属ボディを採用することから来る質感、触った時の感触をデザイン的にもに盛り込むなどのアプローチに変化しています」

思い切ってストロボとEVFを省略

――電子ビューファインダー、ストロボを大胆に省きました。それぞれ、小型化のためには必要な措置だったのでしょうが、葛藤はありませんでしたか?

「双方で迷いはありましたが、ファインダーとフラッシュでは、それぞれ迷い方が違いました」

「フラッシュに関しては、ある時、このデザインコンセプトで完成させるには、取捨選択が必要だと相談がありました。ボディ内手ぶれ補正とストロボ、どちらかを諦めなければサイズが大きくなる。もちろん、両方ある方が良いに決まっていますが、実際にCAD上の内部レイアウトを見て、無理だろうと考えました」

「一方、映像処理エンジンが進歩して高感度時の画質を上げられることも、その時点ではあらかじめ判っていました。高感度で高性能な手ブレ補正機能があれば、フラッシュなしでも撮影できます。“ハイアマチュアのお客様なら、十分に納得できるだろう。しかし、初級者には敬遠されるかもしれない。結果、売れないかもしれない”とも考えました」

「エントリークラスのユーザーは、内蔵フラッシュがあることで、かえってフラッシュを多用しすぎてしまい、良い写真が撮れないことも多い。できれば“多くの場面ではフラッシュを焚かない方が良い写真になるんですよ”というメッセージを受け取って欲しい。もちろん、フラッシュがどうしても必要になるシーンがあることは理解していますから、小型の専用ストロボを用意しました」

「実はフラッシュに関しての悩みは、さほど大きくはなく、すぐに判断を下したのですが、もっとも悩んだのはファインダーでした。背面液晶によるライブビューだけでなく、電子ビューファインダーも必要だと思っていましたが、どうせ載せるなら納得いく電子ビューファインダーを搭載したい。しかし、まだその段階まで煮詰められなかったので、今回はライブビュー専用に割り切りました。自分自身で試作機をテストしましたが、小型・軽量でどこでも持ち運びできる楽しさが引き出せたこともあり、結果として良かったと考えています」

――アクセサリーシューの端子数は従来と同じですね。ここを拡張して、電子ビューファインダーを後から追加するといったアイディアはありませんでしたか?

「ないわけじゃありませんが、そうした実装方法も含めて、どのような電子ビューファインダーが良いのかを研究しています」

――つまり電子ビューファインダー付きのマイクロフォーサーズ機も検討しているということでしょうか。

「それはさすがに私の口からは言えません。しかし、マイクロフォーサーズは様々な構成をトライできる、設計自由度の高いフォーマットです。E-P1を発売して一度みなさんの話を聞かせてもらって、技術進歩のロードマップから、どのような順番で機能を実装するかを決めていきます。マイクロフォーサーズは始まったばかりの規格です。最初の機種だけですべてをやり尽くしたわけではありませんから、発売する時点での最適解となる製品を作っていきます」

E-420(右)とのサイズ比較高さに加え、E-P1は奥行きもかなり短い

「ペン」のモチーフは若手から

――筐体の造形に関しては、過去のペンシリーズを意識しない製品が良いのではという意見もあった中で、若手エンジニアやデザイナーはペンをモチーフにしたいと希望したと伺いました。

「私は1957年生まれでペンは1959年生まれですから、小さい頃からペンというカメラには馴染みがあります。しかし、今の若い子にはペンと言われてもピンと来ないのでは、と考えたのです。しかし、女子学生が古い銀塩カメラを持つことも多くなり、ペンを好む人も多いようです」

「若い世代から見ると、むしろこの形でレンズ交換ができることに対し、新しいという意識があるのだと思います。そうしたペンの現役時代を知らない世代と、僕らの世代が懐古主義的過ぎないようにしたいという気持ちの折り合いをどう付けるかが、デザインテーマのひとつになっています。年配の方が“今更ペンか?”という声をあげることが、自分はとても理解できる。しかし、若い人たちには、そうしたわだかまりがなかったんです」

「もうひとつ、世界的に見るとペンというブランドの認知度は地域によって異なります。つまり、ワールドワイドのビジネスという観点で見ると、全く新しいブランドを作るのと同じなのです。ならば、ペンというブランドに良いイメージを持っていて、デジタル版の登場を待っている人たちのために、ペンというブランドをモチーフした方がいいと考え方を変えました」

ペンFシリーズ初代機(右)との比較。左肩のラインに共通したモチーフを感じるこちらはレンズシャッターモデルの初代ペン(右)

レンズ収差補正の仕組みが働く

――話は変わりますが、パナソニックのLUMIX Gシリーズは、いくつかのレンズ収差をリアルタイムで補正しています。レンズ収差を電子補正してもユーザーに違和感を感じさせないようできるのは、電子ファインダー式の利点でしょう。この製品でも採用しているのでしょうか?

「E-P1にはレンズ収差補正のための仕組みがあり、その仕組み内であれば、さまざまなレンズとの組み合わせでも適切な補正が行われます。その範囲内であれば、電子補正は採用しても構わないと考えています。大切なことは、それぞれのレンズを付けた時に、きちんとした写真が撮れることです」

――パナソニックも“異なるメーカー同士の組み合わせでも、きちんと正しく補正される”と話していましたが、規格化されているのであれば、当然、互換性はあるわけですね。意図的に好みの収差を持たせるといった事も可能でしょうか。

「もちろん互換性はあります。すべての収差をコントロールできるわけではありませんが、レンズの収差を補正データによって、意図的に残すことも可能です。“写真”というもののイメージから逸脱してはいけないでしょうが、最終的に写真というのは表現手段ですから、その表現手段のためにコントロールができればいいと思っています」

――同時発売レンズの焦点距離を選ぶ上で配慮したことは何でしょう。

「マウントアダプターは必要ですが、フォーサーズはマイクロフォーサーズでも利用できます。従って、それは“現有資産”と考えるところからスタートしました。フォーサーズ規格では、すでに一通りのラインナップが揃っています。フォーサーズレンズのハイスピードAF対応モデルを増やし、その上でマイクロフォーサーズ専用レンズでは何をすればいいか。それは圧倒的な手軽さとコンパクトさだろうと考え、この2本を同時発売することになりました」

「まず、以前に発売したフォーサーズ用パンケーキレンズが好評でしたから、あのサイズを上限として、さらに短い焦点距離となるレンズを開発しました」

「もうひとつは、最も標準的なズーム域を持つレンズを、沈胴式でどこまで高画質にできるかに挑戦しました。フォーサーズをベースに、マイクロフォーサーズの特徴を引き出せるレンズを作ろうと考えたわけです」

2つフォーサーズ、両方のニーズに応えたい

――マイクロフォーサーズは一眼レフへの先導役に本当になると思いますか?それとも別の市場として育っていくと考えているのでしょうか?

「一眼レフカメラを使いこなしているハイアマチュアでも、サブカメラあるいはプライベートカメラといった位置づけで小型の良質なカメラを求めるニーズがあると思います。最初はそうした方々がユーザーになっていただけるのではないでしょうか。また、フランジバックの短さを活かし、マウントアダプターを使っていろいろなレンズを試したいという人もいるでしょう。もうひとつは、通常のコンパクトデジタルカメラでは飽き足らない方々。最初はそうした、いわゆるハイアマチュア層のお客様が圧倒的に多いと考えています。そこから認知が拡がっていけば、一眼を使っていない方々にも注目して頂けるのではないでしょうか。様々な製品が出てくることで、ライバルとともに一緒に成長できればいいと思います」

――β機ではオートフォーカスの動き、振る舞いがパナソニックの製品とは大きく異なっていました。特に動画撮影中のオートフォーカスの振る舞いは、かなりの違いを感じましたが、製品版ではオートフォーカスの動きに変更は入りますか?

「オートフォーカスに関しては、発売ギリギリまで開発を続けているため、最終的にどこまで追い込めるかはまだ判りません。しかし、コントラスト検出式のオートフォーカスは本体のファームウェアをアップデートすることで改良することができますから、積極的に開発してその成果をユーザーにフィードバックしていきたいと考えています。そうした将来的なオートフォーカスの性能アップを行えるだけの基本ポテンシャルは、きちんと持たせてあります」

――今後のレンズロードマップは昨日の発表時にも明らかになりませんでした。

「現在、検討を重ねているところなので、もうしばらく待ってください。現在、開発を行っているのは超広角ズームレンズと、小型の高倍率ズームレンズです。マイクロフォーサーズの良いところには、小型で控えめな外観なので、町中で構えて撮影していても、決してそこにいる人に圧迫感を与えないという点もあると思います。ポートレートを撮影する際にも、先方にリラックスしてもらいやすいといった利点もありますね」

――開発リソースは限られていますから、レンズとボディの両方を2つの規格で開発していくのは負担ではありませんか? どちらか一方を重視するといったことにならないでしょうか。

「マウント規格が違うとはいえ、フォーサーズとマイクロフォーサーズはイメージャ、エンジン、イメージャAFの制御技術、手ブレ補正機能など共通で扱える要素技術がたくさんあります。両規格における開発の共通項はかなり大きな割合ですから、その点は問題ありません。市場環境はまだまだ変化していくでしょうから、何かひとつの規格に固執するのではなく。柔軟に両方のニーズに応じられるよう構えます」

――現在はシステムLSIなど様々な面でパナソニックと共通項が多いのかと考えていましたが、実際には全く別のハードウェア、別のファームウェアで構成されていました。しかし、開発の効率化を計るなら、システムLSIなどのプラットフォームを共通化した方が楽ですよね。

「全く考えていないわけじゃありません。ビジネスの効率化を図る上では、プラットフォームの共通化は可能な限りやっておいた方がいい。もっとも、先方もあることなので今は詳しくは申せませんが」

(本田雅一)

2009/6/17 19:27