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写真家 岡田敦さんの書籍『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』が発売

現代のロスト・ワールドをめぐる冒険の記録

根室半島の沖に浮かぶ無人の島、ユルリ島を10年以上にわたって撮り続けているのが写真家の岡田敦さん。6月にはインプレスから『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』が発売され、8月11日からは北海道鹿追町にある神田日勝記念美術館で展覧会「神田日勝×岡田敦 幻の馬」が開催されます。なぜ、ユルリ島に興味を持ち、取材を続けてきたのか、その思いを伺いました。

霧の中から突然現れた馬の群れ

——ユルリ島はどのような島なのでしょうか。

根室沖にある無人島なのですが、かつては昆布漁のための漁師小屋が建ち、そこに暮らす人たちもいました。その労働力として1950年代に馬が持ち込まれ、漁師が島を離れた後も残された馬の子孫が生き続けて今は馬だけが暮らす島になっています。

——ユルリ島に興味を持ったきっかけを教えてください。

10年以上前になるのですが、知り合いの編集者からユルリ島の話を聞いたのがきっかけです。僕自身が北海道出身ということもあり、興味を強く引かれたのはあったと思います。

——実際に初めて島へ上陸されたのはいつですか?

2011年の8月に初めて島へ渡ったのですが、根室の夏は霧が発生することが多く、その日も島は濃い霧に覆われ、100m先も視認できないほどでした。霧の中に迷い込んだような状況で、突然目の前に馬の群れが現れました。僕に気が付いても近寄ってくることもなく、かといって逃げることもなく、これまで接したことのない生き物に出合ったようでした。

——取材を続ける中でユルリ島についてあらためて感じたことはありますか。

島の背景を調べていくと根室の歴史とも密接に関わっているのはもちろん、北海道における人と馬との営みの歴史が凝縮されているようにも感じられ、それを伝えていくのも北海道で生まれ育った人間としての責任ではないかという意識が芽生えました。北海道の島でなければ、10年も撮り続けることはなかったかもしれません。

——ユルリ島で生きる馬たちもこのままだと消え行く存在です。そのことに関してはどのように思われますか。

取材を始めた当初は、12頭いたのですが、徐々にその数を減らし、1950年代に昆布漁の労働力として島に渡った馬の血脈は、残り2頭で途絶えてしまいます。とはいえ島から馬が消え行くのは自然の節理であり、1つの時代が終わるのだと捉えています。一方で僕が作品を残し、その中で馬が生き続けることができれば、背景にある島の歴史とともに語り継がれていくのではないか、そう思っています。さらに撮影を続ける中で島を知る人たちも少なくなり、消え行くのが馬だけではないということに気付かされました。

——今回、10年間の取材が1冊の本として発売されましたが、どのような内容なのでしょうか。

僕がこの10年で撮りためてきたユルリ島やその周辺、根室の風景に、この島にまつわる歴史やなぜ馬だけが残されたのかなど、かつての関係者へ行ったインタビューを交えながら構成しています。装丁にもこだわりました。デザイナーの泉美菜子さんが作品の意図をくみ取ってくださって、例えばカバーは通常のものより薄めの紙を使用したことで、手に取ったときに優しさの感じられる仕上がりになっています。また、タイトル部分に箔押しをするなど細部まで作り込みました。

——今後はユルリ島とどのように関わって行かれるのでしょうか。

現在、市民団体の方が島に馬を残そうと新たに馬を持ち込む活動をされていますが、ユルリ島の馬の血脈が受け継がれるわけではありません。1950年代に持ち込まれた馬の子孫がいなくなった時が1つの区切になるのかなと思っています。

『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』

著者:岡田敦
構成:星野智之
四六判/240ページ/2,970円(税込)
https://book.impress.co.jp/books/1122101150

「開館30周年記念展II 神田日勝×岡田敦 幻の馬」

開催期間:8月11日(金・祝)~10月28日(土)
会場:神田日勝記念美術館
https://www.artagenda.jp/exhibition/detail/8537

デジタルカメラマガジン編集部