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日本データ復旧協会、悪質事業者への注意を喚起
高額な費用請求への警鐘も 業界の健全化を目指す
2019年6月27日 17:58
一般社団法人 日本データ復旧協会(DRAJ)は6月21日、データ復旧事業者の活動内容および行動目標の発表会を開催した。
日本データ復旧協会(DRAJ)は、ストレージのデータ復旧事業を展開する国内12社からなる業界団体。マーケットへ向けた正しい情報提供と業者間の技術レベル向上を通じ、安心してデータ復旧サービスを利用できる環境の整備を目的として2009年に設立された。2017年に社団法人化。
高額請求への苦情が増加
今回の発表会は、DRAJが6月より新たに掲げた行動目標「復元に失敗した場合に最低限度をこえる費用を受け取らない」ことについて、その詳細を発表する主旨。なおDRAJがこれまでに発表してきた行動目標は「児童ポルノ所有者のデータ復旧拒否」と「データ復旧成功率に関する誇大広告の規制」の2つ。
業界団体として「データが復旧できなければ費用を受け取らない」ことを発表した背景には、データが復旧できなかった場合でも過大な料金を請求する事業者の存在があるという。
この日登壇した一般社団法人日本データ復旧協会の本田正会長は、今回の行動目標を「悪質な事業者に対する注意喚起」と位置づけ、DRAJの取り組みについて説明した。
「例えば調査料を20万円とし、成功報酬が10万円という料金を設定され、データが一切戻らなかったのに調査料として20万円という高額請求をされた、という相談が消費者センター宛てにありました。こうした法外な金額の見積もりや請求に関する相談は、消費者保護を目的とした行政機関からDRAJにお知らせいただいた中で、最も多かった内容です。まずは、こういう業者がいるということをみなさんに知っていただきたい。DRAJの事業者の場合は、最終的にデータの復旧ができなかった場合、顧客から事前に同意を得た必要最低限の診断にかかわる費用を除いては費用をいただいていません」
データ復旧にかかる高額請求に関する苦情や相談は全体の51%にのぼっており、このほか根拠のない高復旧率をうたうなど虚偽の説明を受けた、データ復旧上のリスクをちらつかせて契約を急かされた、メールや書面での見積書提出を拒否された、などの相談が寄せられている。
また当面の目標としては、データを復旧する過程での悪質な業者による被害をゼロにすることを掲げている。本田会長によれば、そうした悪質業者は「数こそ少ないものの、影響力は大きい」と話す。そのうえで、DRAJとしては、現状「悪質」とされている業者を糾弾するのではなく、データ復旧業者としての規範を示すことで、よりユーザーに寄り添った業務に改められることを期待したいという。
フラッシュメモリのデータ復旧は
発表会後には、「データ復旧市場の変化に備える」と題して、ストレージデータ復旧の実務について話すトークセッションが行なわれた。登壇者はくまなんピーシーネット代表取締役の浦口康也氏とアイフォレンセ日本データ復旧研究所代表取締役の下垣内太氏。
トークセッションでは、世界で使われるストレージがHDDからフラッシュメモリへ切り替わり、セキュリティ技術が向上するにつれて、データ復旧の難易度が跳ね上がっていることに言及。電話相談の段階で復旧が難しいと判断し、依頼を断るケースも増えてきているという。
「修理対象のストレージがフラッシュメモリだと、その時点で“ちょっと難しいかもしれません”とお伝えせざるを得ない状況です」(浦口)
「従来はデータの入っているデバイスを取り出して、そこからデータを取り出して修復するような方法が主流だったのですが、これからは機器そのものを修理することによって、データを取れるようにするのが主流になるかと思います」(下垣内)
今後データ復旧対象として増えるハードウェアとしてはSSDのほか半導体ストレージ搭載PCやスマートフォン、タブレット、ドライブレコーダーなどを挙げた。特に実装ストレージのデータ復旧を行なう際は、基板上に直接実装されているためにストレージだけを分離できない点も難易度を上げている。
暗号化されたデータの復旧は事実上不可能
事業所においても、最近では毎日のようにスマートフォンのデータ復旧依頼があるというが、データが暗号化された状態で消えてしまうと、現実的に手を出せないという。実際、iOSやAndroidの最新バージョンでは一つひとつのファイルが暗号化されており、消えたファイルは戻ってこないと考えた方がいい、と話す。
「なので“iPhoneのデータを復旧できる”と謳う業者は詐欺です」(浦口)
「データ復旧協会の場でこういうことを言うのもなんなのですが、これが現実です。でも、実際には復旧できないことがわかっているのに、あえて受注して、『調査費』の名目で稼ごうという業者もいるのです。今回の発表会では、それを知っていただきたかった」(下垣内)
当面の課題としては、データ復旧業者が「できること」と「できないこと」が知識として顧客側に十分周知されていないことを挙げており、今後も啓蒙活動を進める方針を示した。