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第42回木村伊兵衛写真賞は原美樹子さん『Change』に

「言葉になる一歩前にシャッターを押す感じ」

第42回木村伊兵衛写真賞授賞式が2017年4月17日、東京・竹橋の如水会館で開かれた。

今回は事前に最終候補者の発表がなく、3月17日付の朝日新聞紙上で受賞発表がされたが、「一次審査と最終審査の期間が短かかったため」とその理由をアサヒカメラ・佐々木広人編集長は説明した。

今回は250名の有識者から42名の写真家の作品が推挙され、一次審査で8名の写真家が選ばれた。西野壮平さんの「ジオラママップ」、横田大輔さんの「MATTER/BURN OUT」、原美樹子さんの「CHANGE」に絞られ、原さんに決した。

原美樹子さん

審査対象には100冊ほどの写真集が並び、ジャンルも多岐にわたる中から1名を選ぶのは「至難の業」と審査を担当した写真家のホンマタカシさんは話す。

最終候補には現代美術寄りのものと、ストレートに撮った作品で二分される結果となった。

ホンマタカシさん

「僕自身、現代美術寄りの作品を制作しており、そちらを推したい立場にいるが、それでも原さんの作品を選んだ」

現代美術の文脈に添った作品の方がアートマーケットには合っているが、原さんの写真には欧米の人たちをも驚かせる力がある。

「それこそが日本の写真の強みではないか。女の子が撮る四角いカラーの明るい写真は美術、広告、雑誌の世界から強いニーズがあり、今まさに消費され続けているが、原さんの写真は少し違う。須田一政さんらにつながる得体の知れなさがあり、そこが味わい深さになっている」

原さんは1990年代初めから写真を撮り始めた。6×6判の古いカメラ、イコンタに出合い、以来、自らの撮り方を磨いていった。カメラは胸元に構え、目測でフォーカスと露出を合わせ、シャッターを切る。

ほぼ同時期に東京綜合写真専門学校で学んだ写真家の金村修さんは、学生時代から彼女の写真を見てきた1人だ。

以前、横浜美術館の企画でロバート・フランクによるフォトレビューがあり、金村さんと原さんも選ばれて参加した。

「2人とも物凄く批判されたんだけど、そこから原さんの写真が変わった」

原さんの写真は一見繊細に見えるが、実は劇的であり、その感覚はロジカルな上に成り立っている。ただ作者が写真のすべてを管理しているわけではなく、その果てに出てくるものを捉えようとしている。

「感覚的な写真は『私』が前面に出てくるが、原さんの写真は『私』が消えている。殺しているともいえるかもしれない。師である鈴木清先生も『私なんかどうだっていい。問題は対象だ』と繰り返し言っていたことを思い出します」

原さんには明確なテーマや、捉えたいモチーフがあるわけではなく、目の前の光景から何かを感じて掬い取る。

「言葉になる一歩前にシャッターを押す感じ」

撮る衝動について繰り返し問いかけた末に、原さんが話してくれた言葉だ。

「手探りのまま右往左往しながらやってきました。そんなあやふやな自分が仮にも写真家の体を成しているとするならば、それは写真に写ってしまった光景が、そこに確かにあったこと。そして自分以外の方々の力によるものだと思います」と原さんは受賞の挨拶で話す。

3人の子どもを授かり、忙しい日々が続き、写真から離れた時期があった。ただその間もカメラは持ち歩いていた。

昨年には写真専門学校で出会い、一番の写真の批評家であり理解者だった夫の原英八さんをガンで亡くした。写真をやめようと思っていた時、今回の受賞の知らせが届いた。

「ゆっくりと研鑽を積んでいきます」

原さんは写真家としての自分を激励し続けてくれた亡き夫への敬意と、この言葉であいさつを結んだ。

第42回木村伊兵衛写真賞 受賞作品展 原 美樹子 写真展[Change]

新宿ニコンサロン

会期:2017年4月11日(火)〜4月24日(月)
時間:10時30分〜18時30分(最終日は15時まで)
住所:東京都新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー28階

大阪ニコンサロン

会期:2017年5月4日(木)〜5月10日(水)
時間:10時30分〜18時30分(最終日は15時まで)
住所:大阪市北区梅田2-2-2 ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。