写真展

第40回木村伊兵衛写真賞授賞式が開催

石川竜一氏・川島小鳥氏がダブル受賞

第40回木村伊兵衛写真賞の授賞式・パーティーが4月27日、東京・銀行倶楽部で開かれた。受賞した石川竜一氏と川島小鳥氏には賞金50万円と賞状などが贈られた。ちなみに初めてのダブル受賞は第5回(1979年度)の岩合光昭氏と倉田精二氏に遡り、これまで複数受賞は10回を数える。

左から石川竜一氏、川島小鳥氏

歴史ある賞だが、新たな試みも打ち出してきた。昨年に続き、最終候補者を事前に発表し話題づくりを図った。2月5日に8名が朝日新聞紙上で発表されると、SNSを中心に賞の行方や、それぞれの候補作品についての議論が熱く交わされた。

「写真展や写真集以外にも、ネットやZINEなど発表形態は広がり、音楽をはじめ他のメディアと融合した作品も出てきている。どこまでを写真として審査対象にするか。また便宜上、1年間に発表された作品に区切っているが、過去の実績を含めて考えるべきかなど、新たな課題も見えてきている」

選考経過説明で、アサヒカメラ・佐々木広人編集長は、時代に即応していく賞の姿勢を示した。

なお現在の審査員は任期が5年で、岩合光昭氏、瀬戸正人氏、鷹野隆大氏は今年で満了となる。来年からは昨年から加わった長島有里枝氏に、新たな審査員が入る予定だ。

講評を行なった鷹野隆大氏は、2人にいくつかのシンクロがあると指摘した。その根底には日本という国が大きく揺らいでいる現実があり、それに二人の作家の感性が呼応した結果だと言う。

鷹野隆大氏

石川氏は写真新世紀展2012で佳作に選ばれ、鷹野氏はそこで初めて彼の作品を眼にした。

「被写体となった沖縄の人々は傷つき、苛立ちを秘め、その表情からは暴動の予感すら想像させた。僕自身、付き合いのある沖縄の人々は明るく、社交的で、その違いに驚いたが、今はそれが沖縄の現実の一つであり、彼の写真はその予兆をとらえていたのだと思っている」

写真は目の前にある現実しか写せないが、時にそこにはもう一つの現実が入り込み、未来を示すことがある。

石川氏の受賞作の一つ「okinawan portraits 2010-2012」はそうした稀有な例だと、鷹野氏は指摘し、「彼らと同じ目線に立つことはできないが、近づけるきっかけにはなる」と写真が持つ力の可能性に期待を込める。

対して川島氏の作品「明星」は「善なるものに満たされた世界」だと評する。幸福な瞬間を丹念に拾い集めたことで、多くの人を納得させる世界を作り上げた。

「彼が台湾に向かったのは最初はちょっとした逃避だったかもしれない。写真集に登場した人をざっと数えたら65人は下らない。それは逃避の域を超え、ムキになって撮っているとすら感じた。それは、日に日に暴力的になっているこの国に対する思いがあり、もっと素晴らしい世界が背中合わせにあることを提示したかったのではないか」

受賞者の挨拶でマイクの前に立った石川さんはしばし沈黙。その後、「話すことを何も考えてきていない。何を話そうか」とつぶやく。彼の写真の根底にあるトーンがそこにある。

石川竜一氏

「人人のつながりの中で、僕がここにいる。それを毎日実感してやっています。街でふらふらしているのが一番楽しくていいけど、たまにはこういうのもいいのかもしれないですね」

この春、彼はパリで撮影する機会を得た。道には動物の糞とタバコの吸殻が散乱し、たくさんの人種が住む場所だった。滞在中、アクシデントも多く、夜は出歩けないほど怖い街だが、それ以上にさまざまな人間に出会える魅力的な街でもあった。

所用で沖縄を離れるたびに、早く帰って地元の人を撮りたいと思っていた石川さんが「パリはまた行って、撮るつもりです」と意気込む。発表の時期は未定だが、parisian portraitsは見応えのあるものになるはずだ。

川島さんは5月29日〜6月14日、台湾の誠品書店で「明星」の大規模な個展を控えている。会場は商業施設とアートが融合する台湾でも話題のスポットで、「史上最大の展示です」と川島さんは笑う。

川島小鳥氏

この地で、これが明星は初めてのお披露目となる。美しい銀塩方式のオリジナルプリントで見てもらうことが、撮影当初からの想いであり、今はその準備に全力を注ぐ。

前作の「未来ちゃん」、そしてこの明星は、スナップショットの成果であると同時に、そこには川島小鳥の世界観が厳然とある。

「写真は偶然の力が強く、僕は写真の神様がいると信じている。その偶然に出会うための努力は惜しまず、ひたすらがんばって撮ることをしてきました」

なお7月18日〜9月23日には、木村伊兵衛写真賞40周年記念展が川崎市市民ミュージアムで開催される。岩合光昭トーク、ポートフォリオレビューなどの関連イベントも予定。詳細は後日、川崎市市民ミュージアムホームページに告知される。

(市井康延)