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第41回木村伊兵衛写真賞は新井卓さんに

ダゲレオタイプの作品で社会問題を提起

写真集「MONUMENTS」で第41回木村伊兵衛写真賞を受賞した新井卓さん

第41回木村伊兵衛写真賞授賞式が4月22日、東京・竹橋の如水会館で開かれた。前年1年間、若手写真家が発表した作品を対象に、最も優れたものを選ぶ。今回は新井卓さんの写真集「MONUMENTS」(PGI)に贈られた。

審査員は石内都さん、ホンマタカシさん、鈴木理策さん、長島有里枝さん。いずれも歴代の木村伊兵衛写真賞受賞者。

社会問題をダゲレオタイプで作品化

新井さんは2010年より核の問題に取り組み始めた。ダゲレオタイプという写真黎明期の撮影技法を使い、2011年以降の福島、広島、長崎、そしてアメリカ各地の核のモニュメントを訪ね、撮影を行なってきた。写真集の出版は2015年9月。

審査に当たった写真家の石内都さんは、その写真集を見た時、この賞の最有力候補を確信したと言う。

「私が広島を撮っていることもあるが、個人の視点で、個人の美意識を踏まえた上で社会的な問題に取り組んでいる。反戦平和の文脈でなく、個人的な立ち位置で作品化している。そこが素晴らしい」

また新井さんが2015年7月16日から10月12日まで、都立第五福竜丸展示室で開いた写真展「竜の鱗」についても触れた。この年は広島と長崎が被曝して70年であり、7月16日は世界で最初に核爆発実験が行なわれた日となる。

「40年ほど東京に住んでいるが、第五福竜丸展示館に行ったことがなかった。写真はいろいろなところに連れて行ってくれて、知らないことを教えてくれる。その一つとして、新井さんの作品が私にとってあった。彼がこれからどう変化していくのか、とても期待しています」

©Takashi Arai

芸術には人々を結びつける力が

受賞の挨拶で壇上に立った新井さんは、福島で原発事故の余波を目の当たりにしてきて、今の状況下で川内原発が稼動していることに1人の人間として抗議するとを述べた。

人間が核エネルギーを手にして以降、地球上に大量の放射性物質が拡散した。その半減期はプルトニウムで2万年、ウラン235で7億年と言われている。

「数百年前のことも分からない我々が、永遠ともいえる時間を理解し、想像する能力があるのでしょうか。私たちは新しい神話の時代を生き始めたばかりなのかもしれません」

新しい神話の時代に必要なのは、それを書き記すための新しい言葉だと述べ、その言葉は細部から生まれ、私たち一人ひとりの魂の中に知らず知らず拡散していく強さを持つ。表現は私たち自身や、次に続く世代のためにどうしても必要な生き残りのための手段の1つだと指摘する。

「政治や宗教が新たな対立や抑圧しか生み出さないのだとすれば、芸術は無関係に見える2つの時空、出来事や人々を結びつけ、人間の魂を回復する力をいまだに持っているものと私は信じています」

新井さんは、今年は福島で集中的に撮影を行なう予定だという。また新たにダゲレオタイプを使った若い人たちのポートレートのシリーズを始める計画だ。

ダゲレオタイプは銀板に感光材料を塗布し、露光させる方式で、オリジナルは1点しか存在しない。

石内さんはスピーチの最後に、この技法をいつまで続けるのかと問い、それに対し、新井さんは「今のところはやっていくが、飽きたら止めようと思います」と答えている。

審査員からは石内都さんが登壇し、作品についてコメントした。

現在、撮影はダゲレオタイプのみではあるが、それを始める以前はカラーやモノクロフィルムで作品を制作していたそうだ。

さらに最近は映像制作にも取り組み始めたことも教えてくれた。今後、どんな新しい言葉を紡いでいくのか。今後の活動を注目したい。

第41回木村伊兵衛写真賞受賞作品展 新井卓「MONUMENTS」

  • ・会場:コニカミノルタプラザ(ギャラリーC)
  • ・住所:東京都新宿区新宿3-26-11新宿高野ビル4階(フルーツの高野4階)
  • ・会期:2016年4月22日(金)〜5月2日(月)
  • ・時間:10時30分〜19時(最終日15時まで)
  • ・休館:会期中無休

(市井康延)