オリンパスPROレンズ 写真家インタビュー

独自の表現を追求できる、魚眼レンズの画角+PROレンズの明るさ…中村武弘さん

M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO

撮影:中村武弘
OLYMPUS E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO / マニュアル露出(F3.5・1/250秒) / ISO 64

オリンパスPROレンズをお使いの写真家にお話をうかがう連載「オリンパスPROレンズ 写真家インタビュー」。今回は海洋写真家の中村武弘さんに、作品のこと、撮影のこと、そして「M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO」について語ってもらいました。

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中村武弘
1979年、東京都生まれ。海洋写真家。幼いころより海や自然に触れて育つ。海中から海上の自然や水族館、船などを撮影する。沿岸の環境に惹かれ、磯や干潟、マングローブ林の干潟を長年のテーマにしている。日本写真家協会(JPS)会員。日本自然科学写真協会(SSP)会員。海洋写真事務所ボルボックスに所属。主な著書に『いそのなかまたち』(ポプラ社)、『しぜんひがた』(フレーベル館)、『沖縄美ら海水族館100』(講談社)、『干潟生物観察図鑑』(共著・誠文堂新光社)など


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現在のお仕事を教えてください。

海というと撮るのは海中の写真だけとイメージされる方が多いですが、私は海洋写真家と名乗り海全般を撮っています。

海中から海上の生き物や風景などの自然、海の生き物が見られる水族館、海に浮かぶ船などが主な撮影対象で、時には海の食材や標本写真を撮ったりもします。

水中ではダイビングやシュノーケリングをして、船の撮影では軽飛行機やヘリコプターによる空撮をすることが多いです。水族館の水槽も潜って撮るのか聞かれますが、観覧スペースからガラス越しに撮影しています。

私は海洋写真事務所に所属しており、それらの写真をストックフォトとして雑誌や様々な媒体への提供しています。また、カレンダー撮影や、書籍を企画し出版していただくことが主な仕事になっています。最近ではカメラ誌やムック本の執筆のお仕事をいただく機会も増えました。

写真を撮り始めたきっかけは?

父が同じく海洋写真家で、世界中の海で海洋動物や海中、客船・帆船など海に関する様々な撮影をしてきました。

そんな父なので家族旅行は物心つく前から海であり、小学生になると荷物持ちで取材について行くようになり、いつの間にか父と同じ道を進むものと考えていました。

自然写真は「写真が好き」ではなく「被写体が好き」が先にくるもので、幼少期から海や自然が身近にある生活をしていたため、その中で海に惹かれていったのだと思います。ちなみに、海洋写真家とは父が初めに名乗ったそうで、私もそれを真似しました。

撮影:中村武弘
OLYMPUS E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO / マニュアル露出(F2.8・1/200秒)/ ISO 64

影響を受けた写真家・写真集は?

幼少期は昆虫採集が好きで、その頃から海野和男さんや栗林慧さんのお名前は存じておりました。栗林慧さんの「栗林慧全仕事」では自作の虫の目レンズで撮影された虫目線の世界をワクワクしながら見た記憶があります。

写真家になって自分の写真が分からなくて悩んでいた時に、たまたま見た海野さんのブログで魚眼レンズを使ったワイドマクロの撮影方法が書かれていて、それまで半水面(半分水中に入れて撮る方法)の道具でしかなかった魚眼レンズで無性にワイドマクロを撮りたくなり、それから好きな写真を撮ることが自分の写真になると道が開けていきました。写真は独学で、事務所はストックフォトを扱っているため、いわゆる使い易い写真ばかり撮っていたのです。

写真を学ぶために購入した写真集の中で一番衝撃を受けたのは今森光彦さんの「世界昆虫記」です。ページをめくる度に「凄い」と呟いていました。今森さんのスカラベの写真も私のワイドマクロ好きに影響を与えていると思います。

現在、憧れの写真家は高砂淳二さんです。高砂さんは元々ダイビング専門誌で水中カメラマンをされており、海を中心とした様々な自然写真で構成された写真集の数々で高砂ワールドに魅了されました。最初のきっかけは写真集「Children of the Rainbow」で、表紙になっている虹の中を飛ぶネッタイチョウの写真は一番好きです。昨年行われた写真展「LIGHT on LIFE」では私自身初めて作品を購入させていただききました。

水中撮影とミラーレスカメラ(OM-D E-M1 Mark II)の相性について。

水中ではハウジングやフラッシュなどの機材が必要となるため、一つのカメラの重量は相当なものになります。そのためカメラとレンズが小型軽量であることは陸上での撮影以上に大きなメリットとなります。システム全体もコンパクトになるので水中での取り回しで小回りが利くのも大きなポイントです。これは現時点でOM-Dより勝るカメラはありません。

ミラーレスカメラの水中使用で最大のメリットと考えるのは、EVFと背面液晶モニターによるライブビューで、撮影直後に確認画面が表示されることです。一眼レフカメラでは光学ファインダーによる撮影が基本となるため、確認画面を見るにはいくつかの動作が必要になります。

水中ではフラッシュ使用とマニュアル露出が基本です。絞りと被写体からの距離でフラッシュの発光量を調整し、被写体の動きや背景の明るさでシャッタースピードを決め、さらに感度を変えればフラッシュの発光量を調整し、露出も変えます。そのため距離や被写体、太陽に対する向きが変わる度に数値のチェックが必要になるのです。

できるだけ動作を減らしたい水中では、EVFを覗いたまま、もしくは背面液晶モニターを見たまま確認できることは、手間が省けるだけでなく、次に訪れる一瞬のチャンスを逃さずに済みます。

また、OM-Dには強力なぶれ補正が搭載されており、不安定な海中ではこちらも大きな恩恵を受けています。

撮影:中村武弘
OLYMPUS E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO / マニュアル露出(F3.5・1/250秒) / ISO 200

魚眼レンズの面白さ・難しさとは?

魚眼レンズの特徴は画角の広さにあります。そして、最短撮影距離が非常に短く、レンズの前ギリギリまで被写体に寄れます。この2つの特徴を生かした撮影法がワイドマクロであり、生物に寄りながら背景も入れ込た生物目線の臨場感ある写真を撮ることができます。

被写界深度の深さも背景を捉える際のポイントになります。近くの物が大きく、遠くの物が小さく写る極端な遠近感が生み出すデフォルメ効果を利用した撮影もとても面白いです。

しかし、なんでも撮れば面白く見えそうでありながら、構図にセンスを問われるのが魚眼レンズだと思います。被写体の大きさと距離、アングルを計算することで、デフォルメ効果を上手に扱えるでしょう。

撮影:中村武弘
OLYMPUS E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO / マニュアル露出(F3.2・1/125秒)/ ISO 200

M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROのインプレッションは?

M.ZUIKO DIGITAL PROシリーズ最大の売りである高精細な描写は本レンズも例外なく、高画質な絵を作り出してくれます。

最短撮影距離が短く、前玉から1cm強の距離まで被写体に寄って撮れるため、臨場感が増します。開放F値がF1.8と明るいので、背景をボカしたい時にも役立ちます。

また、M.ZUIKO DIGITAL PROブランドのもう一つの売りである防塵防滴性能の高さについては、フィールドで攻めた撮影をする際の後押しとなってくれます。

M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
焦点距離:8mm(35mm判換算16mm相当) / レンズ構成:15群17枚(非球面レンズ1枚、スーパーEDレンズ3枚、EDレンズ2枚、スーパーHRレンズ1枚、HRレンズ2枚) / 防滴処理:防塵防滴機構 / フォーカシング方式:ハイスピードイメージャAF (MSC) / 画角:180度 / 最短撮影距離:0.12m / 最大撮影倍率:0.20倍(35mm判換算0.40倍相当) / 最近接撮影範囲:154 mm × 82 mm / 絞り羽枚数:7枚(円形絞り) / 最大口径比:F1.8 / 最小口径比:F22 / 大きさ:最大径×全長:62×80mm / 質量:315g

干潟や磯など、沿岸の世界に惹かれる理由は?

前述の通り、海洋写真家である父は世界中の海で写真を撮ってきました。父を超える、超えないの話ではありませんが、父が取り組んでこなかったテーマ、また他の水中写真家の方々も撮っていない世界でありながら、私自身の興味を大きく惹きつけたのが磯と干潟でした。

生意気に聞こえるかもしれませんが、幼少期からキレイな海に触れてきた私にとって、キレイな海は当たり前にキレイであり、仕事で沖縄などで潜るようになった時にも、楽しさはありましたが、心が大きく動くことはありませんでした。

最初はストックの幅を広げるために訪れた磯と干潟でしたが、そこで受けた衝撃は今でも覚えています。磯は地味な岩場、干潟は地味な砂泥という環境でありながら、多くの生き物たちがひしめき合って生きている姿には感動すら覚えました。

よく訪れる磯は三浦半島、干潟は東京湾です。濃い生物密度の意外性、潮汐(潮の干満)により海になったり陸になったり大きく変わる環境の面白さ、海に果たす役目と重要性に惹かれ、ライフワークとして生涯向き合っていくと決めました。同じ干潟では沖縄地方のマングローブ林の干潟にも取り組んでおり、同じく大切なテーマです。

撮影:中村武弘
OLYMPUS E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO / マニュアル露出(F20・1/20秒)/ ISO 64

今後のテーマや目指すことは?

私自身の特性は海中だけでなく海全般を撮れることと自負しています。海中や磯、干潟だけでなく、船や空の上からなど、様々な角度から海を捉えて続けていきます。

最近、海に捨てられるプラスチックゴミが地球規模の大きな問題として話題になっていますが、私の目からもゴミは増えていると感じます。海や自然は人間が壊し始めた時から人間自身が守らなければいけないものとなりました。放っておいても自然は元には戻りません。人間が守り元に戻す活動が必要です。私は写真家なので海を守る活動家になるつもりはありませんが、私の写真を通して海の素晴らしさだけでなく、海を守ること、大切にする意識を少しでも感じて貰えればと考えています。

撮影:中村武弘
OLYMPUS E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO / マニュアル露出(F20・1/20秒)/ ISO200

写真展の開催や写真集の発売など、告知があればぜひ!

7月6日から7月11日まで、オリンパスプラザ東京内のクリエイティブウォールにて写真展「海って不思議」を開催いたします。コンパクトな展示ですが、海中から海上、磯、干潟と私の特性が出た写真展になり、海の不思議さを存分に感じて頂けることと思います。お時間ある方はぜひお越しいただければ幸いです。

デジタルカメラマガジンにも中村武弘さんが登場!

デジタルカメラマガジン2018年7月号の連載「PRO's SIGHT—PROが見た風景—」では、中村武弘さんによるM.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROの解説が掲載されています。あわせてご覧ください。

制作協力:オリンパス株式会社

デジカメ Watch編集部