インタビュー

中井精也さんに訊く:20年間、鉄道写真ブログを続けて思うことは?——写真展「今⽇もHappy Train!」より

鉄道写真家の中井精也さん。写真展「今⽇もHappy Train!」の展示作品の前で

鉄道写真家・中井精也さんの公式ブログ「1日1鉄!」が今年4月1日(月)で20周年を迎える。その記念イヤーということで全国の美術館などで写真展の巡回開催が予定されている。

そしてそのプレイベントを兼ねて、写真展「今日もHappy Train!」がエプソンスクエア丸の内にあるエプサイトギャラリーで開催されている。

今回の展覧会では、20周年記念の写真集用として選んだ187点の中からさらに厳選した47点が展示されている。これは全国を巡回予定のものとは別のもので、今回のエプサイトギャラリーだけで見られる展示となっている。

原点回帰でもあった「1日1鉄!」

中井さんがプロの写真家として活動を初めて15年目のある日。ある鉄道写真の仕事の依頼を「メンドクサイな」と思ってしまった自分がそこにいた。鉄道以外の撮影の仕事も多くこなし多忙を極める毎日。鉄道カメラマンになりたくてプロになったはずなのに「これはマズイ。ちょっと戻さないといかんな」と思ったという。

ちょうどそのタイミングで雑誌の企画として、デジタルカメラで撮った鉄道写真を毎日ホームページにアップする「1日1鉄!」が始まった。

当時、コンシューマー向けとして手ごろな価格のデジタル一眼レフカメラが出始めたころで、画素数も600万画素クラス。仕事の撮影に使えるような画質では無いが、現像が必要がなくて(当時は遅かったが)インターネットにすぐにアップできる。そのような、デジタルカメラならではの気安さもあり、「アマチュア時代のような自由な発想で鉄道写真をどんどん公開して行こう」と始めたのが「1日1鉄!」だったと当時を振り返る。

現在の「1日1鉄!」。開設当時はブログではなくホームページだった。よほどのことがない限り、“鉄道写真縛り”で毎日更新。明るくほがらかなテキストも人気

日常の何気ない瞬間の輝きに気づいてほしい

20年間「1日1鉄!」を続けていて気づかされたのは「当たり前の日常の大切さ」と中井さんはいう。特にこの10年は、東日本大震災から始まり世界的な疫病の蔓延や戦争の勃発などいろいろなことが起こる中で「当たり前だと思っていた日常、鉄道が走る日常がとても大切なものであると共に、とても脆いものだ」と中井さんは言う。そして「日常生活の中にも輝く瞬間がある。そしてそれは、こういう時代だから気づけたのかな」と言葉を続ける。

僕の写真の終着駅はプリントだと思っています

「1日1鉄!」の写真について、「ブログの画面で見ていただくのが最初と思いますが、実際に展覧会場の大きなプリントでも見てもらいたい」と中井さんは言う。中井さんは「ゆる鉄画像NOMAD」という、写真展とプリントの販売をする企画を月に1〜2回のペースで続けている。

そのプリントはエプソンのプリンターで行っているが、「以前は満足のいくプリントに仕上げるには何度か刷り直しが必要でしたが、今は一発で出ますよね。特に青が綺麗に出るようになったのは嬉しい」と、展示中の作品に目を向けながら説明する。

写真展会場(エプサイトギャラリー)の様子

当初は「仕事には使えない画質」のデジタルカメラで始めた「1日1鉄!」であったことを思うと、そこから20年で「超高精細の大きなプリント」へという進化は感慨深い。

中井さんの写真家としての夢、それは「画家が自分の絵を売って生業を立てるように、写真そのものを販売して生活をする」ことだという。そして今は「その夢に近づいた暮らし」が出来ているなと中井さんは言う。

1人の写真家としての眼差しを感じる写真展

今回のエプサイトギャラリーの展示、その個々の作品や会場構成も含めて感じたのは、これは写真家「中井精也」が鉄道写真家として日常へ向けた眼差しそのものがここにある。ということだ。そしてそれはとても優しく暖かい。この感触はモニター画面越しでは伝わりにくいものがある。今回の「今日もHappy Train!」と、それに続く20周年記念写真展。是非、実際に足を運んで見てほしい。

展示名

鉄道写真家・中井精也ブログ「1⽇1鉄!」20周年記念写真展「今⽇もHappy Train!」

会期

2024年3月8日(金)~4月10日(水)

休館

日曜日、 3月20日(水・祝)、4月1日(月)

会場

エプソンスクエア丸の内 エプサイトギャラリー

まつうらやすし