カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

三河湾に浮かぶアートとネコと、ばあちゃんの島へ(佐久島・前半)

愛知県の知多半島と渥美半島に抱かれた、穏やかな三河湾に浮かぶ佐久島は、動物写真家の岩合光昭さんが初監督された映画「ねことじいちゃん」のロケ地となった、ネコがたくさん暮らす小さな島です。原作の漫画「ねことじいちゃん」の舞台も、ネコと一緒に暮らすおじいさんが主人公。

人口はわずか230人ですが、観光客は多くて、地元の人曰く、「夏なんてたくさんの人が来るから、島が沈みそうだよ!」と嬉しそう。

島には信号がひとつもなく、観光客は歩くか自転車で巡ります。

最近はネコの島として名を馳せていますが、もともとアートの島としても有名で、平成13年から地域活性化のために、アートに力を入れてきました。島中にアートが点在しており、島めぐりをしながらアートに触れ合えます。

長引く梅雨の影響で曇天の下、カメラを抱えて、ネコとアートに会いに佐久島へ行ってきました!


【これまでのねこ島めぐり】

ネコとおばあちゃん

佐久島へ行くため、名鉄線の西尾駅から2番乗り場のバスに乗車すると、座れない乗客もいるほどの混雑ぶりで、驚くことにほぼ全員が佐久島行き船乗り場前の「さかな広場」で下りました。

さらに船待合所へ行くと、チケット売り場は長蛇の列! それも、20代と思われる男女が多くて、佐久島の人気ぶりが伺えました。船も、時として積み残しがでるほどらしく、乗船できてほっとしました。

船旅はわずか20分ですが、内海のため穏やかで、まるで瀬戸内海のよう。

佐久島では集落が西と東にあり、私が予約していた宿は東にあるので、東港で下船。荷物を宿に置いて、自転車を借りてまずは西側へと向かいました!

佐久島はクロワッサンのような形をしていて、両端に西集落と東集落があります。内湾沿に一本道があり、東から西まではゆっくり自転車を漕いでも10分ほどで着きます。

西港へ行くと、観光客はまばらで、とってものどか。

港を囲むように情緒的な家並みが広がります。港よりも少し高い位置に民家があるため、写真を撮ると、より立体感のある一枚となりました。

港の漁船も風情があります。島の産業は、観光と漁業だそうです。

自転車を置いて、西集落の中を散策開始。

港の真上にある崇運寺から奥へと進むと、人数も少なく空き家が目立ちます。でも、ところどころに朽ちかけた家は、なんともアーティスティックで、自然の素材そのものでできた日本家屋のやわらかさや、ぬくもりがとっても印象的に映りました。

西集落の黒壁は、佐久島のハイライトです。

島では、潮風から家を守るためにコールタールを塗っていました。その景観を残そうと、島人やボランテイアが、保存活動に取り組んでいるそうです。

瀬戸内海の島々でも同じような黒い家を見かけてことがありますが、家並みだと圧巻です。写真もアングルを変えて撮るだけで、アートの世界になりかわります。

黒壁の集落を過ぎて、迷路のような小道をふらふらと歩いていたら、鮮やかな黄色の壁のつるの商店に出くわしました。お店のある小道の角には、弘法大師を祀った昔ながらの祠がひっそりとあります。

大正5年に、島内には八十八ヶ所の写し霊場として、あちこちにこのような祠が建設されたそうですが、過疎化と高齢化によって激減していたそうです。

そこで、アートプロジェクト「三河・佐久島アートプラン21」で、建築家や学生によって祠がリノベーションされ、失われた弘法大師像は2人のアーティストが制作して、2012年に佐久弘法巡りが復活したそうです。

とても日本的なのに、カラフルな色の壁と赤煉瓦の祠が異国間を漂わせています。

西集落の蔵ssicというカフェの向かいにある民家で、水瓶の上に茶トラの仔ネコ兄弟を発見しました。なんて、のどかな。

民家なので写真撮影をためらっていたら、中からおばあちゃんが出てきて、「中に入って撮っていいわよ」と言ってくれました!

仔ネコ兄弟の背後、奥のほうには別のネコがいました。お母さんかな?

「向こうにいるのは、その子たちのお父さん。ここに5匹くらい、今いるわよ」と、おばあちゃんが縁側から顔を出して、教えてくれました。

おばあちゃんに駆け寄る仔ネコ。サビネコも。どうやら、お母さんのようです。

「ねことおばあちゃん」の図をパチリ。

ネコの後ろ姿から、「おばあちゃん、だいすき!」という気持ちが伝わってきて、ほっこりします。

「いつも、家に上がりたいっておねだりしてくるの」と愛おしげな眼差しでネコたちを見下ろすおばあちゃん。

そのあと、でーんと横になった白茶トラのネコさん。

「この子は、お兄ちゃんよ」

まるで家族を紹介するように教えてくれます。

ゆるやかな島の午後、おばあちゃんとネコのやさしい関係がみえて、しあわせな気持ちになりました。

茶トラ仔ネコ兄弟の片割れは、ぐっすりと眠ったまま。可愛い寝顔をパチリと収めて、おばあちゃんのお庭を後にしました。

アートを巡りながら

石垣(しがけ)海岸のほうへ出ました。

ここでは、観光客がちらほらいて、アート作品「おひるねハウス」の写真撮影に勤しんでいる様子。私も、写真を撮ってもらいました!

正面右のはしごを登ってみようと挑戦しましたが、意外にも高さがあって、怖い! 諦めて、左のはしごで枠の中におさまってみました。黒集落をモチーフとしたアートのようで、海を眺めながら「お昼寝」できる、のどかな島のワンシーンを見事に表現しています。

小さな西集落で、ふたたび港へ戻りました。港の上に立つ、黒壁の大きな家は「百一」というカフェになっています。

立派な石垣が一部残り、その上に佇むようにある百一は、移住者が古民家を改装して始めたカフェと聞きました。映画「ねことじいちゃん」でもカフェとして利用されたそうです!

カフェの中からは、港が見下ろせて、のんびり。

美味しいスイーツをいただきながら、至福の時間です。

カフェ百一を出て右手には、崇運寺があり、その手前には、またもや斬新なアートが。「ガリヴァの目」という作品で、正面の鏡を目に力を入れずに覗くと、視界が変わって巨人になった目線で見えるとか。

試してみましたが、うまくいきませんでした……。

さて、港にあるアート作品をめぐるスタンプラリーの休憩所である弁天サロンで、島のおばあちゃんが「ネコが好きなら、あそこのおばあちゃん家にたくさんおるで」と教えてくれて、さっそく行ってみました。

すると、ふたたび「ねことおばあちゃん」の図。

「中に入っていいよ」と言われて、ネコたちの写真を撮らせてもらいました。

「たくさんいますねえ」

「10匹くらいいるよ」

おばあちゃんの膝の上にもネコがいました。

人に慣れているネコも多くて、日頃おばあちゃんに可愛がられているみたいです。

弁天サロンのおばあちゃんが、「高齢化でね、昔はもっとたくさんいたけど」と言っていました。いずれ、ネコたちがいなくなるのか、わかりませんが、今目の前にいる「ねことおばあちゃん」の光景をしばらく眺めて、佐久島のワンシーンとしてしっかりと記憶に残したいなあと思いました。

西集落の港から自転車に乗って、東集落へと向かうことにしました。

集落の端っこに、2012年にオープンした体験型農業施設「佐久島クラインガルデン」があり、ここでは海の幸が楽しめるバーベキューが併設されています。

アートやネコだけでなくて、観光客のための受け入れ体制がしっかりとしていて、人気のある島の理由が垣間見られました。

西集落と東集落は、直線距離にして1キロほどしか離れていませんが、その真ん中には、小学校、中学校がありました。ほかにも、駐在所や消防署、診療所もあって、島の生活に必要な施設は、両方の集落からも行きやすい場所にあります。

東集落へ到着する手間に、佐久島を代表するアート「カモメの駐車場」に寄りました。

カモメたちは、風が吹いてくる方向を向くそうです。佐久島は「風の島」と呼ばれるほど、風がよく吹くのです。

今日はどんな風が吹いているのかな?

カモメたちが教えてくれるみたいです。といっても、観光客が写真を撮るので、くるくる、あちこち向いていて、まったく風が読めませんでした!

何はともあれ、アートとネコと、おばあちゃんの島は、見どころがたくさん。

続いて、東集落の散策も楽しみたいと思います!

つづく

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。