カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

猫も人もオープンハートな、宇宙に近い島(種子島・前半)

日本の歴史において、最も重要な出来事の舞台となった場所として、日本の島々のなかで、群を抜いて名が知られる島のひとつ、種子島。

かつて遣唐船や遣明船の寄港地で、異国の人や文化が交流してきた歴史があり、また1543年には異国船が漂着して、鉄砲が伝来されました。日本最古といわれる旧石器時代の遺跡もあれば、近年宇宙センターが開設され、ロケット打ち上げの地として世界中から注目を集めています。

この色彩豊かな顔をもつ種子島は、同じ鹿児島県内では、奄美大島、屋久島に次いで3番目に面積が大きな島。ただ、標高は低く、平らな地形をしています。そのためか、どことなく空が広く、開放的な空気感が漂います。

時間とともに移りゆくダイナミックな空を仰ぎ見れば、足元でごろんと体を横たえる猫がいて、ほのぼの。

種子島らしい空気感を、しっかりとカメラに収めようと、猫に出会う旅が始まりました。


【これまでのねこ島めぐり】

ねこもくつろぐ開放感

種子島へ船で行く場合は、鹿児島市の港からフェリーか高速ジェット船のどちらかで行けます。

私は、東京から鹿児島まで、飛行機が到着する時間を計算して、午前10時20分発の高速ジェット船「トッピー7」をネットで予約していたので、慌てることなく乗船できました。

もくもくと噴煙が頭を覆う桜島を眺めながら、ジェット船に揺られることわずか1時間35分で種子島の海の玄関口“西之表”港へ到着。

ジェット船なのでシートベルト着用で着席していなくてはいけないので、島全体の風光を遠くから眺めることはできませんでしたが、降り立った印象は、「空が広いなあ」。

沖之永良部島や久高島のように、平らな島ならではの地形がつくりだす、開放感だろうと思います。

手配していたレンタカー屋の車に乗って、さっそく島を巡ろうとしたところ、港の駐車場のところを堂々と闊歩される、愛らしいシルエットを発見。

すかさず車を停車して、近づいて写真を撮りました。

とことこ。

「にゃんさん、こんにちは」

ぴたっ。

立ち止まり、お前さんは何者か?と見定められているときに、パチリ。

そして大して興味なさそうに、またとことこ歩いていかれました。種子島の猫の第一印象は、おっとり。懐っこくはないけれど、人馴れしている雰囲気があります。

まず、港から車で数分の「美春荘」という宿に向かって、チェックイン。

まるで、ポルトガルのアズレージョ(絵を描いたタイル)の外観を思わせる可愛い宿です。異国間のある佇まい。

一度部屋で、港の観光協会でもらったマップを広げ、どう回ろうかおおまかに決めて、まずは腹ごしらえに西之表市内にある「直寿司」へ向かいました。13時を過ぎていたせいか、お客さんはおらず、申し訳なかったけれど、ランチをいただけるか伺うと、心よく迎え入れてくれました。

1,500円の海鮮丼を注文すると、想像以上のボリューム! どどんと乗ったネタは10種類以上! 毎日市場から新鮮なネタ仕入れてくるそう。

「きびなごのお刺身、うれし〜」と騒ぐと

「どこからきたの?」と大将。

「東京です!」

「遠くから来たねえ、そうだ、ちょっと待ってて!」

そう言うと大将が厨房の中からビニール袋を持って出て来て、

「これね、一口サイズの安納芋。洗って、そのままサランラップに包んで、レンジで5分したら、ほくほくだよ〜」

大将の優しさがたくさん詰まった島名産の安納芋をどっさり手渡されると、

「うちは民宿もやってるから、またおいで。その時はみんなでコレしよ」

と、クイっとお酒を飲む仕草をしました。

海鮮丼の写真を見返すと、今でもほっこりした気持ちが蘇ります。

直寿司を出たあとは、観光協会の方が「鉄浜海岸は綺麗だよ」と言っていたので、地元の人自慢の海を見に行きたいと車を走らせました。

しかし、まんまと道を間違えて、しまった!と車を止めると、きょとんとこちらを見てくる黒猫さんが!

道端に車を止めて、黒猫さんに近づくと、

「お? お? なんだ、あいつ」

と警戒心をあらわにした表情をしたので、望遠レンズのほうがいいかと思ったところ、急に、ごろーんとしてリラックスモード全開。

標準レンズのまま近づいてみると、まったく問題なし。種子島の猫ちゃんたちは、どうやらおっとりしているようです。

この島ならではの歴史を訪ねて

種子島の集落は大きく3つあります。観光の拠点となる北部の西之表、中部の空港がある中種子、南部の宇宙センターがある南種子です。

鉄浜海岸は西之表と中種子の間に位置する東側沿岸線にあります。

お天気もよく、鉄浜海岸へ向かう途中から東側沿岸の海がきらめいて、とても美しいです。

カメラを持って海の写真を撮っていると、サーファーが何人か海のほうへ歩いていきました。種子島は、移住者も多く、サーファーも多く来島する“出入り”が多い島の一つのようです。

ざぶーん、ざぶーんと繰り返す潮騒が、気持ちいい。

車で西側のほうへ移動して、中部の中種子空港あたりの海沿いを走っていると、隆々たる岩に猫のような2つの耳(角)をつけた岩が現れました。

「雄龍・雌龍の岩(おたつ・めたつ)」と呼ばれる夫婦岩です。ごつごつとした表面は流紋岩のような火山の島特有の雰囲気がありますが、種子島に火山はありません。

伝説によれば、昔、嵐の日に岩から投げ出された夫婦が、海からあがってこず、かわりに寄り添うように二つの岩が現れたとか。

自然がつくる造形物に、古来、人はさまざまな思いや願いを託したのだろうなあと感じます。

その後さらに南下して、中種子の目玉であり、興味深い植物を見にいきました。樹齢600年といわれる日本最大のソテツです。

坂井神社の中にあり、鳥居をはるか上回る背丈のソテツが出迎えてくれました。これまで見たことのあるソテツは大きくても3mほど。この巨大ソテツは樹高7mもあり、根周りは2m以上。

もはや自生するには、枝の重さに耐えきれないのでしょうが、竜のような長い枝と、青々とした葉に宿る生命力に、神秘的なパワーを感じずにはいられず、ただただ圧巻。島を守りつづける戦士のよう。

その後、さらに南下して南種子へ行こうか迷いましたが、日が暮れては帰りが大変なので(西之表と南種子は44km離れている)、西之表へ引き返すことにしました。

その道の途中で、またしても、猫ちゃんを発見。

島のあちこちで、猫がくつろいでいる光景に出くわすので、運転には気をつけながらも、心が踊ってしまいます。

遠くから写真を撮ると、猫に気づかれました。

とくに気にする様子もないので、積極的に近寄ってみると、

「なーにー?」

ふわふわの毛並みの猫ちゃんに大接近。

警戒心がないので、心満たされるまま、猫ちゃんとの時間を楽しみました。

さて、西之表に戻る頃には、日も西に傾き始めたので、まっすぐ鉄砲館(種子島開発総合センター)へと向かいました。

種子島に来たならば、絶対に寄りたい場所のひとつ。

火縄銃の現物があるだけでなく、歴史や文化などもわかるので、島に一歩近くつもりで入館。

日本に初めて持ち込まれた火縄銃や当時の暮らしを再現する模型、鉄砲伝来のシーンを紹介するジオラマなど、工夫を凝らした展示でとても充実感がありました。

2m近くある火縄銃や、重そうな短銃など、種類も豊富。日本の歴史を変えた貴重な資料を生で見学できて、とても満足!

鉄砲館を出ると、ちょうど日が沈みそうなので、海のほうへ見にいきました。綺麗なオレンジのような太陽が、海に落ちていくところでした。

これまでいろいろな島へ行ったけれど、種子島はとってもオープンハートな島だなあと感じます。

人も、猫も、おっとりマイペース。

島が辿った歴史を振り返れば、日本人だけでなく、異国の人が多く来島し、“島の常識”を覆す瞬間が幾度となくあったのでしょう。その度に、多様な人のありのままの姿を、すんなり受け入れる習慣がついたのかもしれません。

その歴史の延長線にあって、世界を飛び越え、宇宙にまで目を向けているのは、この島では当たり前の在り方に思えます。

2日目は、宇宙センターのある南種子まで、ふたたび車を走らせる予定です。

つづく

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。