カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

古きよき街並が残る岡田地区で、幸運を招く“猫道”を歩く(伊豆大島・前半)

今回猫をめぐる島旅に向かったのは、東京都の離島で太平洋に浮かぶ伊豆大島です。伊豆諸島の玄関口と呼ばれるように、竹芝桟橋から東海汽船のフェリーや高速ジェット船に乗って最初に到着(通過)する島で、島の面積は伊豆諸島の中で最大。中心部には活火山の三原山が聳え、周辺には裏砂漠という石ころ程度の黒い火山岩が壮大なスケールで広がり、東京とは、まして離島だとは思えないほどのワイルドな自然が舞台の島です。

その伊豆大島が“猫島”だと感じたのは、半年前に初めて訪れたとき。車を運転している路上で、集落のあちこちで、飲食店のまわりに、宿で……と、猫の姿を幾度も目撃しました。島の人に、「猫が多い島ですねえ!」と言うと、「考えたことなかったけど、どこにでもいるなあ」とお墨付きの言葉をいただきました。これは、これは、東京からもっとも近い“猫島”をぜひご紹介したいと、改めて来島することにしました。

◇   ◇   ◇

“猫道”見つけた!

伊豆大島へは、東京の竹芝桟橋から東海汽船の高速ジェット船で出航します。

島旅の楽しさは船旅でもありますが、東海汽船のジェット船ことジェットフォイルは、ジェット航空機から生まれた高速船。ジェットエンジンで海水を吹き出し、水中翼で浮き上がって航行するので、時速80キロという船ではありえないほどの速度を保ち、海上を飛ぶように走ります。乗り心地は、まさに飛行機内にいるような感覚と非常に近く、驚くほど揺れません。船内もなんだか、機内のように思えてしまいます。

出航後、レンボーブリッジの下を潜り、羽田空港に発着する飛行機が空を行交うのを窓越しに眺め、やがて果てしない海に繰り出し、「クジラやイルカに遭遇し、急回避をする場合があるので常時シートベルトをお締めください……」という船内アナウンスを聞いているうちに、どこか遠くへ、遠くへと世界を浮遊し、日常を脱却しいくような感覚に陥ります。

出航から1時間45分経過して、ジェットフォイル「友」便は伊豆大島の岡田港に接岸を始めました。

伊豆大島の人は、島を南部、北部と言いますが、岡田港は北部にある小さな集落です。同じく北部の元町港にも船は発着します。船がどちらから発着するかは、その日の天候次第なので、当日にしか分かりません。

元町地区のほうは行政機関があったり、建物もやや近代的でマンションなどあったりしますが、岡田地区は古きよき昭和の面影がそのまま残る懐古的な家並みです。私はこの岡田地区に心惹かれますが、特別な観光スポットがないため、ガイドブックで紹介される機会は少ないらしいのです……。

ああ、もったいない! とくに、猫好きならば!

なぜならば、岡田地区には、島内でもっともおすすめの猫に出会える“猫道”があるのです。と、これは私の判断によるものですが、ほぼ断言できます!(笑)

船の待合所の向かいにある土産物屋の一峰と大屋売店の間の道を行き、路地が二叉に分かれたところを左のほうへと行けば、そこが“猫道”です。日中の暑いときを除いて、次から次へと猫と出会うことができます。

その途中には、猫が見守る小さな八幡神社があります。苔むした参道を奥へ進むと、凛然とした佇まいの本堂があり、なんだか島のサンクチュアリみたい。夏と秋が入れ替わるような、暑いけれど、清涼な空気が美味しくて、ゆっくりと深呼吸をすると体の隅々の細胞がゆるゆると力を抜いて、リラックスしていきます。

本堂からふたたび猫道へ戻ると、やはり、間断なく猫に遭遇! この道は旅館が多いため、猫たちにとっては食事の在処という感じなのかもしれません。

道すがら出会ったおばあちゃんが「こんにちは」と声をかけてくれて、それから猫たちに向かって「お腹空いたの? ご飯あげるから待ってなよ」と優しく言って、木造の風情ある古民家に入っていきました。

猫は甘えた声で「にゃあん」とないて嬉しそう。きっと、島の人と猫の日常のワンシーンなのでしょう。

猫道に連なる民家や旅館の狭間にある細い小径にも、ふらっと顔をのぞかせると、まったりと寛ぐ猫と目があって、「にゃんだいキミは?」と訝しげに見られてしまいます。それから、興味なさそうに、物思いに耽って……ひとり(一匹)の世界へ。

それでも、逃げないのが嬉しいところ。猫島というのはいくつもありますが、人間に慣れている猫が多い島というのはそう多くはないのです。

さすが伊豆大島、富士山もバッチリ

猫道を歩き、猫が出迎える八幡神社を参拝し、心が軽やかになったところで、地元の漁師さんと思しき人と出会いました。猫道の民家で暮らしているようです。

「どこから来たの? 猫撮ってるの?」

「東京です。猫が好きで……」

と声をかけられ答えると、

「待ってて」

そういうと家に入り、アイスを持ってきてくれました。

「わあ、嬉しい!」

するとまた、

「待ってて」

そういうと家に入り、今度は袋を持ってきてくれました。

「これ、どっかで料理してもらって、食べな!」

中には魚介類が!

カメラを首から下げ、手にはアイスと魚介類の入った袋を下げ……。

きっと猫が招いてくれた幸運!

そんなふうに心踊らせて、猫道をまっすぐ進んで高台へと続く階段を登っていきました。そこには、移住者家族のご自宅兼オープンカフェ「大島珈琲」があって(船の時間にあわせて岡田港にも出店する)、一息つこうとカフェラテをオーダー。

気さくなオーナー夫妻とだらだら他愛のない話をして、猫道がいかに幸運を招いてくれる素敵な通りかを語って聞かせているうちに、気付けば太陽は西へ傾き、空の色が暖色に染まっていきました。

高台から眼下に広がる岡田地区も、夜の装いへと変わり、ぼうっと灯る光によって、日中よりも華やかになった気がしました。

「やっぱり、幸運かもよ。今日は珍しく富士山が綺麗に、はっきりと見えてるもの!」

島暮らしが大好きだという奥さんに言われて、遠く前方を見据えると、お手本のように美しい富士山の勇姿がありました。

「わあ本当!」

やがて空がいっそうピンク色に染まり、海までもピンクになったとき、

「のぞみちゃん、その魚介類、島の人に料理してもらおう!」

「え! いいんですか!」

ああ、まだまだ、“幸運”は続いているみたい。この有り難い気持ちをどこに向かって感謝すればいいのか。うーん、やっぱり、神社の前でごろにゃんと暮らす幸福そうな猫たちに……かなあ、と思ってしまうのでした。

ちなみに、宿泊先はアイランドスターハウスという猫に出会える宿です。こちらには日中チェックインして、猫とつかの間戯れました。後半編は、この猫宿と南部の波浮地区、伊豆大島の自然をご紹介します!

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。