カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

1匹の猫との出会いで、島とつながり、旅の記憶は深まる(田代島:後編)

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田代島の宿で、数日前から急に現れたという黒白柄の猫。いったいどこから来たのか謎のまま、私はその猫と一緒に仁戸田の集落を散歩することになったのです。というか、猫が私のあとをずっとついてきてくれました。

猫と散歩する途中、集落の道の隅っこや民家の軒先で、寝転がっていたり、毛繕いに精を出している猫たちや、海辺で戯れる仔猫たちに出会いました。もちろん、島生まれ島育ちの猫たち。

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ほとんどが警戒心をどこかに置き忘れてしまったように、のんびりとマイペース。人が横を通ろうが、お構いなしなのです。この猫たちの人懐こさが、田代島が猫好き観光客にとって「最高の猫の楽園!」といわれる所以だろうと思います。

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消えた猫

さて、黒白柄の猫は、私の傍をぴたりと離れず、私が立ち止まれば猫も止まるし、歩けば動くという具合。ところが、ある工事現場につくと、猫はピタリと動くのをやめました。

少し先を歩いていた私は、その様子をみて、(まあ、ついてくるだろう)と今度は幾分高を括って先に歩き、ふと振り返ると、猫はタタタタッと逆方向へ逃げてしまったのです。

それから、探しても、その猫はいない。

集落をぐるぐると探しても、見当たらない……。

あれだけ、片時も離れたくないという素振りだったのに。きっと、「ここ、やだ!」と言って去っていったのだろうと思います。猫らしく、あっけなく。

戻って、マリンライフの女将さんに話すと、「大丈夫だよ」とあっけらかんと言うので、少し肩すかしをくらった気分になりました。たしかに、島は閉ざされているし、どこかにいるにちがいないのですが。

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夕方、毎日女将さんが猫のためにつくる手作りの夕食が庭先に用意されました。その時刻を見計らって、20匹程の猫が待機。入れ替わり立ち代わり食べに来きます。

こういう光景は、田代島のいくつかの民家で見られるようです。
ただ、その時も黒白柄の猫は現れず、(ああお腹空いてないかなあ、寂しくないかなあ)と想いを巡らしてしまいました……。

ところが、翌朝、部屋の外からはっきりとニャア、ニャアと聞こえました。

それは朝5時半に起きて、港で作業する漁師さんと、その傍らで魚をもらう猫の光景を見に行って、部屋に戻ったときです。

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再会

ベランダを覗くと、黒白猫の姿が!

ふたたび私を見つめ、ニャア、ニャア、ニャーーーンとなき続けるので、言葉にならない思いが溢れてきてしまいました。

再会の喜びを写真に収めておかなくては! とカメラを持ってくると、ぐいっと網戸から中に入ろうと必死。

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その後、女将さんから「あの猫、たぶん捨て猫みたいよ。段ボールに入れて船でやって来た人を見た人がいるって」と聞きました。だから、あんなに人懐こいし、人恋しくて仕方ないのだと分かりました。

「田代島にはそういう猫が多いの。ここは安全だと思って、飼えなくなった猫を置いていくんだろうけど、かわいそうに」

田代島の猫はほとんどが島生まれだけど、中にはそういう猫もいて、やがて島に溶け込み暮らしていくようになる。それは、猫を愛する島民が猫を守ろうという気持ちが強いからであって、飼い猫が島のなかでまともに生きて行くことは難しいのです。

黒白猫、女将さんから朝ご飯をもらって、一安心。

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14時12分の船で石巻まで戻るまで、ちょうど島の中央らへんにある猫神社にいこうと向かいました。猫の神様がいるのです。昔から猫は島民にとって、幸せを呼んでくれる存在でした。ここは、田代島で1番の観光名所だと思います。神社には数匹の猫神主が観光客を待ってくれているようです。

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また来たい!

仁戸田から緑深い木々が鬱蒼と茂る森の中のような道をひたすら歩きます。やや坂道なので、はあはあと呼吸が荒くなるけれど、その度に猫がゴロンと居座っているのに出くわして、小休憩を取ってしまいなかなか進まない! 他の観光客も、同じようです。

森の中の木漏れ日のなかから、猫がスタスタとやってくると、まるでおとぎの国からやってきた妖精みたい。仁戸田からまっすぐに歩けば30分ほどなのに、倍以上の時間がかかってしまいました。

猫神社の手前に、「にゃんこ共和国 島のえき」という休憩所がありました。

汗をひっこめるため、中に入って一休みをすると、たくさんの猫たちが猫好きな客にせっせと接客相手をしていて、微笑ましい。受付にいるサバトラ柄の宗太君と、キジトラ柄のさばみそ君も、島生まれ。

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スタッフさんたちはもちろん、大の猫好き。中には18匹の猫を世話している人もいて、猫の話に花が咲きました。面白いのは、休憩所に集まる旅人も、もちろん猫好きなので、「あの島は茶トラ猫ばかりいる」「そうそう」と島猫事情を当たり前のように知っていて、話が弾みます。

そこで、黒白柄の猫の話になりました。スタッフさんが、

「そうか。それはかわいそうだなあ。うちで世話しようか、ちょっと考える」

「まあ、でも、みんな(マリンライフとも)と話してみてだね」

と言って、それはまるで島の子供たちのことを話し合うような、お父さんお母さんたちの姿そのもの。

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もちろん、猫が苦手な島民もいます。でも、猫を愛する島民もいる。それだけで、猫は心のびのびと暮らしていけるものなのだと実感。黒白柄の猫がこれから田代島でどう生きていくのか。新しい名前はつくのか。またその姿を見に来たい。

島を旅すると、かならずまた戻りたいと思える島が増えます。それは、こうして、会いたいと思う存在と出会えるからなのです。

その後、猫神社にお参りして、またあの黒白猫に出会えること、こういう出来事がその猫で最後になるようにと願い、14時過ぎの船に乗るため港へと引き返しました。

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小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。