川内倫子写真展「Illuminance」
Untitled, from the series of Illuminance, 2008 |
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タイトルは光学照度の意味で、人間が感じる光の明るさの量を指す。2001年に出版された「うたたね」と同じ世界観で編まれた作品だ。
「Illuminance」では、前作より抽象化され、イメージの純度を増している。その中で虫や雷、手の仕草、ピラミッド型の建物など、引き続き登場するモチーフもある。
川内さんの作品を見ていると、自分が眼にし、当たり前だと思っている世界をみんなも同じように見ているのか、疑問が浮かんでくる。きっと、自分が認識している以上に、世界には美しい光景が隠されている。そう思えてくる。
川内さんはデジカメを使った作品制作も始めたそうだ | 写真展会場の様子 |
- 名称:川内倫子写真展「Illuminance」
- 会場:フォイル・ギャラリー
- 住所:東京都千代田区東神田1-2-11アガタ竹澤ビル201
- 会期:2011年6月24日〜7月23日
- 時間:12時〜19時
- 休館:日曜・祝日
■どこでもないどこか
「写真の持つ抽象性が好きです。人によっていろいろな解釈で見られるし、理路整然とした説明をする必要もない。それでいて写っているのは現実の光景だという、そのバランスが面白い」と川内さんは話す。
例えば死んだ鳥を撮った1枚がある。実際、その鳥を目の当たりにしたら、死骸の存在感が強く感じられ、顔を背けたくなるだろう。それが写真に変換されると、その部分は薄められ、ほかの要素が眼に入り始める。
「Illuminance」の撮影地は国内外、さまざまな場所だが、そういった情報は写真には入っていない。
「どこの場所でもないどこか。いつでもない、ある時。そういう編集もしています」
海外での仕事も数多くこなすようになり、『うたたね』の頃と作者の日常は大きく様変わりした。
「自分の技術力と、人間としての経験値も上がった。以前より、切り取るイメージがシャープな感じになってきているかと思う」
Untitled, from the series of Illuminance, 2011 |
■特に動く被写体に反応する
川内さんが指す「技術」とは、光を読む能力のことだ。
「データが自分の中にある。光を見た時、露出を測らなくても、使うフィルムに合わせた露光時間が分かるし、どの角度で撮ったら、どういう写り方をするかが予測できる。迷わなくて済むので、撮るのが早いんです」
川内さんの作品を改めて見直すと、写りのシャープさと、一瞬の動きに反応して撮っているカットが目に付く。
「ピントが合っていないと気持ちが悪い。私の写真は合ってないのが多いと思われがちだけど、どんな写真でも1カ所は合っています(笑)」
それと動いている被写体が好きだという。稲妻が光る瞬間はこれまで何カットも発表しているし、クラッカーが破裂し紙テープが飛び出した一瞬や、10数羽の鳥が羽を広げて飛翔するシーンを止めた1枚もある。
「飛ぶ鳥は1/500秒で追いながら撮っているから、完全にピントが合ったんじゃないかな」
選ぶ被写体は「心を動かされたものだけど、そのポイントは言葉にできない」そうだ。気に入った被写体を見つけると、何十カットも撮ったり、次の年にもその場所に行ったりする「しつこさはある」。
■ビデオ作品の上映も
会場の一角にはモニターを設置し、ビデオ作品も上映している。プリント作品と同じ壁面に埋め込まれ、静止画の世界が動き出す面白さがある。
この制作は2005年〜2006年くらいから始めており、ここでは約30分にまとめた。車のフロントグラス越しのワンカットが動き出したり、まな板の上の魚が調理されていったり…。
「映像の方が今、見ている感覚に近い。写真で少しずつたまるストレスを埋めるために、ビデオをまわす部分もあります」
サウンドは常時、音が流されているわけではなく、時折、無音の状態が挟まる。
「何か考え事をしていると、耳に全く音が入ってこない時がある。そんな感情の流れも感じてもらえたらと考えました」
■脱6×6判宣言!?
6×6判のローライフレックスで、ネガカラーの柔らかな色調で日常を撮る。それが多くの人が川内さんに抱いている印象だろう。
「ローライとの相性がよいことは事実ですが、35mmも、デジタルカメラも使っています。今回の展示も、スクエアだけだと単調になるので、35mmで撮ったものも入れています」
作品制作において、どのカメラを選ぶかは重要だ。どういう風に撮りたいかで、メインに使うカメラは変わる。
「Illuminanceで、6×6判を使った今までのスタイルはひと区切りつけようと思っています。数年前から4×5判で撮り続けているシリーズがあるんですよ」
Untitled, from the series of Illuminance, 2011 |
■自分が変われば世界は変わる
川内さんが写真を始めたのは「自分が見えている世界をそのまま表現できる」ツールとしての面白さに惹かれたからだ。
写真を撮ることで、自分自身や社会、世界を認識し、作品を発表することで外の世界とつながっていく。
「この作業は自分の人生の一部になっていて、今はそれをしているのが普通なことです」
これまでに『うたたね』『花火』『AILA』『Cui Cui』などを出版してきた。そのモチーフとの出会いは必然であり、一つ作ることで成長し、次の作品につながった。
「だからこの出す順番を入れ替えられない。私の中では強くそう思います」
川内さんは、これまでの写真集で、同じシーンを連続して撮った何枚かのカットを並べて使っている。
「イメージがつながっていく中でしか見えない世界があって、そこが私にとって興味があるポイントです。この世界はいろいろなものがつながって出来上がっていて、何かが一つ崩れることで、大きく変化してしまうことがある。そんな世界の不思議を追求して考えたいから、それを連続した記憶の中に探ってきました」
世の中を作っているのは自分の目線次第だから、自分が変われば世界は変わる。そう川内さんはいう。
この会場か、写真集『lluminance』の中で、あなたの世界観を少しでも刺激する光に出会えるかもしれない。
Untitled, from the series of Illuminance, 2008 |
2011/7/8 20:27