山岸伸の「写真のキモチ」

第32回:農業女子に会いたくて(後編)

「新 農業女子」で再会できて嬉しいこと

2017年で一度おわりをむかえた「農業女子に会いたい」ですが、山岸さんの願いが通じて、今年2022年に改めて『新 農業女子に会いたい』となって再始動することになりました。この企画で出会った、農業に関わる元気で頑張っている彼女たちのお話を前回に続き伺いました。(聞き手・文:rinco)

農業女子プロジェクトのイベント

「農業女子に会いたい」は、どこからもお金をいただかないで撮影した企画でした。でも、撮影をし続けていると、農業女子の方たちがマルシェやイベントを開催したときに僕も呼んでいただき、一緒にミニ写真展やトークイベントに参加させてもらうこともありました。そのときは代理店も入っていて、お仕事として関わりました。

2015年に日本橋三越の本館1階で開催したハーベストフェスの同じ会場で「農業女子写真展」を開催させてもらったんです。また、大きなところでは、農業女子プロジェクトの皆さんとトークイベントも行いました。司会はいつも必ずお願いしていた小林奈々絵さんです。この時もたくさんの人が見にきてくださいました。

トークイベント。右は舞川あいくさんと山岸さん

日本橋三越本店にて写真を展示

アーバンドック ららぽーと豊洲でのトークショー(2016年7月)

三浦綾佳さん

6年前に撮影に行ったとき、若い彼女が自分で色々と企画していることに感心しました。彼女の作っているトマトはすごく美しくて、「農業というよりもトマトを美しく育てている」というイメージでした。

要素は農業なんですけれど、食べて美味しい、飲んで美味しい、見ても美しい。ビジュアルをものすごく考えた方です。こういうことをやる若い人達が何人か出てきて、「これからの新しい農業を引っ張っていくんだな」と、そのときも思いました。

6年前に撮影した三浦さん

会っていなくてもたまにSNSなどで彼女の情報を見ていたので、新たに「新 農業女子に会いたい」をやろう! と決めた時に、一番最初に彼女のことろに行きたいと思ったんです。

6年ぶりに会いに行ったら、そこにはハウスもいっぱい増えて、直売店も新しくきれいになり、ちょうどジュース工場もできて大きくなっていた。大変なことだろうけど、でも大成功を収めたという感じがしましたね。

彼女はみんなを引っ張っていく人だと思うんです。キャリアも積んで、経営者として、またその美しさも増している。そして「もっと大きくなっていくだろうな」と思ってます。

もちろん、作っているトマト自体が美味しくなければダメなんですが、そのトマトの美味しさはしっかり実現されてますしね。

ここのハウスに入った時は、イメージと違って「えーっ!」とびっくりしたんです。

茨城の畑の真ん中にポツンとその直売所があるイメージなのですが、この日もお客さんがたくさん来ていました。

僕たちもアウトレットのトマトジュースを買いましたが、ほかのお客さんもここの商品をたくさん買っていた。ネットで買いたいと思う商品でもあります。実は、今日も期間限定の商品がSNSに投稿されていたので買おうかと思ったけれど、彼女のお店に直接行かないと買えない商品だった。

当時、ご馳走になった料理

僕にとって、トマトジュースがおいしいと思えることって、本当に素晴らしいことなんです。なぜなら、トマトジュースは“体に良いもの“だからと、これまで無理して飲んでいたから。おいしいトマトジュースを三浦さんのところで味わったのは、忘れられなかった。

一期一会で伺っていますが、自分のところで作ったものを、その場で食べさせてもらったというのは忘れらない。もちろんご馳走になりに行くわけでもないし、相手もご馳走をさせるだけではないんだけれど、この気持ちがすごく嬉しくて。その嬉しさのあまりにもう一度行ってしまったというか……。

同上

同上

土を耕して、刈り入れて……というのも農業だけど、彼女のところには「農家は作物を育てるだけじゃない」というメッセージがあり、若くてこれから農業をやろうと思う人には、すごく影響力があると思います。

ドロップファーム:https://www.dropfarm.jp/

パンフレットもビジュアルが素敵なんです。みんな写真が上手になっている。トマトのそばにいる人はトマトに詳しいし、トマトへの思いもあるから、とても綺麗に撮っている。

6年ぶりに「新 農業女子に会いたい」でお会いした三浦さんは、変わらず元気で、明るく、綺麗で、訪ねていった甲斐がありました。それ以降、SNSで会話したりもするようになっので、ひとり友達が増えた様なとても嬉しい機会でした。

實川真由美さん

實川さんも前回の農業女子で撮影をさせてもらい、2018年にエプサイトで写真展を開催した時にも来てくれた。そのときに展示した大きなパネルをその後、僕の事務所にも置くところもないし、廃棄するのももったいないからと「誰か、もらってくれる人いませんか?」と声をかけたんです。そしたら、實川さんが手を挙げてくれた。搬出後にエプソンさんが送ってくれて、それをちゃんと展示して、テレビの取材時にそのパネルの場所で話をしてくれてね。嬉しいですよ。

エプサイトの写真展で自分の写真前で写る實川さん

實川さんのところに送った写真展パネル

ある時、台風で梨が全部落ちてしまったと聞いて、僕もその梨を購入させてもらった。ご主人も一生懸命で頑張っているし、彼女もそれに応えるパワーがあるから良いと思う。

SNSの良さは、彼女たちが今どんな活動をしているかがわかるということ。だから彼女とも2回会っただけなのに、印象が強くてね。発信力のある人が大きくなっていく要因のひとつだと思う。

「フォトコン」(日本写真企画)で連載中の「新 農業女子に会いたい」では、季節物のあるところは冬になる前に、と急いで撮影に行っているので、實川さんのところでも今回撮影をしてきましたが、まだ掲載はされていないんです。

前回行ったときと変わったのは、新しくとても綺麗なお店ができていたこと。がんばってますよね。あと、盗難が多いからと畑にはネットを張り、入れないように対策をしていた。一生懸命作っている梨を盗むなんて本当、ひどいことだと思いました。

梨の花

株式会社アグリスリー:http://agrithree.com/feelings/staff/

前回の連載で紹介した方々もそうですが、「新 農業女子に会いたい」で2度訪問したところはみんな成功していて素晴らしいと思います。成功している人を選んで行っているわけではないのですが、遠い場所が多いですし、そこまで行くには普段から彼女たちの活動をSNSなどで見て知っていないと、なかなか行けないんです。

「新農業女子に会いたい」はこれから続きますが、またどんな出会いや感動があるか、とても楽しみにしてます。彼女たちが農業に一生懸命に取り組む姿を僕なりに写真におさめたいと思っています。

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。