写真展リアルタイムレポート

地上229mのSHIBUYA SKYで堪能する“東京のポートレート”…松岡一哲写真展「TOKYO GAMES」

あの、飯豊まりえ、今田美桜、片山友希、野内まる、古川琴音、南琴奈をモデルに

東京・渋谷に誕生した新たなランドマーク、渋谷スクランブルスクエア。その展望施設「SHIBUYA SKY」で写真家・松岡一哲による企画展「TOKYO GAMES」が開催中だ。窓の外に関東一円の光景が広がる中、展示室では都市空間を自由に回遊し、日々を送る今の瞬間を捉えた写真が並ぶ。

日中はリアルなメトロポリスを眼下に眺めながら、陽が落ちた夜にはその夜景と、写真が鏡に映り重なり合う光景が見られる。地上約229mにあるここは東京の遠景と近景が共鳴する空間だ。

SHIBUYA SKYでは、2020年6月から「視点を拡げる」を共通テーマに、企画展「SKY GALLERY EXHIBITION SERIES」を定期的に開催してきた。本展は6回目となる。

展望回廊からは、東京が一望できる

「撮影は、被写体が自ら自然に立った場所から始まる」

「東京の街のポートレートができないか」

SHIBUYA SKYのブランディングディレクターである有國恵介さんは2月初旬、松岡さんを展示スペースへ招き、企画を持ちかけた。その後、タイトなスケジュールの中、撮影は約1カ月ほどで終えた。人選、実際の撮影などは松岡さん主導で進められた。

依頼したのはあの、飯豊まりえ、今田美桜、片山友希、野内まる、古川琴音、南琴奈の7名。

「僕が選んだというより、自然な流れで決まった。ちょうど撮影があって誘った人もいるし、イメージが頭に浮かび依頼した人もいます」

それぞれ多忙な相手だったことから、必然的に夜の撮影が多くなった。本人が行きたい場所を聞きつつ、いくつかの街の候補に当てはめた。

「仕事でも同じですが、僕の撮影は、その人が楽しんでいる、その瞬間が一番大切なんです。この企画は特にそう考えていました」

撮影は、被写体が自ら自然に立った場所から始まる。

「それは、一番自然な姿を見せているからです。ヘアメイクさんが髪を直す時も素敵な表情になる。信頼する人に身を委ねている瞬間だからです」

街を歩いたり、時折、世間話を交わしながら、気ままに撮影をした。「以前は撮れば撮るほど良いものができると思っていましたが、今はあるところでポンと終わる方が良いと考えが変わりました」

いつもにこやかでいる彼女たちだが、内面は武装したまま。そんな気持ちを解き、楽な気持ちでいてもらいたい。「とは言ってもみんな女優さんだから。それを演じてしまう。それはそれでいいと思っています」

撮りたいイメージもあるが、それに固執しない。

会場では、今回撮影したポートレートをはじめ42点のプリントを並べたほか、これまで撮ってきたスナップ写真をモニターで映す。このイメージが夜、眼前の窓に写り込む。

松岡さんの写真には背景にフォーカスが合い、メインの被写体がボケたイメージがいくつかある。

「ピントがモチーフに合う気持ちよさもあるけど、ぼやけて写る主題がぐんと立ち上がってくることがある。それは撮る時、その場で決めることも、偶然写ったものも両方あります」

ネオンサインやイルミネーションを捉えたイメージも印象的だ。「大学に入ってから東京暮らしを始めました。適度にほっておいてくれる感じが僕にとっては居心地の良い街で、少しプラスチックっぽい、パステル調なのに妙にケバいネオンの色味が東京を感じさせます」

撮影に使うカメラはフィルムのコンパクトカメラをメインに、たまに中判も使う。「写真に奥行きや立体感を求める人が多いですが、僕は平面、二次元である中で、異なる世界と世界をくっつけたいと思う。その表現にはコンパクトカメラの普及モデルが良いんです」

抽象的な光景が心地よく

松岡さんの実家は地方都市にある映画館で、毎日、スクリーンに映る映像を見て育った。高校時代、アメリカに留学し、美術教師の影響でアートへ興味を持つ。

「集団行動が苦手な自分には、映画作りより、写真の方が向いているかもしれないと思い、写真を学ぶことにしました」

松岡一哲さん

大学時代から気になるものを撮り、プリントすることを繰り返し、「時間をかけて、自分の色みたいなものを見つけていった」。

卒業後に入ったスタジオフォボスは多士済々、1年上には山内悠さん、1年下には浅田政志さんが働いていた。

「作家やファッション志望などの仲間がいて、スタッフルームが憩いの場でした。会社がそこを廃止するというので、自分たちで外に集まる場を作ろうと2008年、東京・目黒区にテルメギャラリーを作りました」。そこでは浅田政志や高橋宗正、川島小鳥、加瀬健太郎らが展示を行なっていた。

松岡さんは2014年に写真集『purple matter』を刊行した。

「撮れない時期があった時、子どもだけは撮ることができた。彼らの予想外の行動や仕草に惹かれていました。その後、集中して妻を撮ったり、今は女優さんに変わっていますが、僕が惹かれるもの、見ようとしている光景は同じかもしれないですね」

求めるイメージはどんどんシンプルになり、色だけの抽象的な光景が心地よくなっている。

「例えば赤い色は誰でも共感できるし、そこから引き出される経験を持っている。ただあまりそちらに進んでしまうと、社会との接点がなくなるので、そこは気を付けています」

音楽家もメロディを捨て、自然界にある音で音楽を作り始める人がいる。それと共通する志向、欲望かもしれない。

46階の屋内展望回廊「SKY GALLERY」で、都市が眼下360度全てに広がる光景に身を置くことで非日常へと入り込む。そして「TOKYO GAME」を存分に味わってほしい。

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SKY GALLERY EXHIBITION SERIES vol.6「TOKYO GAMES」

会場:渋谷スクランブルスクエア46階「SKY GALLERY」
会期:5月25日(木)~7月30日(日)
開催時間:10時00分~22時30分(最終入場は21時20分)
入場料:[WEBチケット] 一般 2,200円、高校生・中学生 1,700円、小学生 1,000円、3歳~5歳 600円、3歳未満 無料
[窓口チケット] 一般 2,500円、高校生・中学生 2,000円、小学生 1,200円、3歳から5歳 700円、3歳未満 無料

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。