写真展リアルタイムレポート

グリズリー、ムース、人間…地球に暮らす生き物たちの光景。佐藤大史写真展「ALASKA -白夜と極夜-」

OM SYSTEM GALLERYで1月16日まで

佐藤大史さん

地球の上にはさまざまな環境の場所があり、それぞれの文化を育みながら人や生き物が生息する。頭では分かっていても感覚的にはつながっていない。だから人々は地球に負荷のかかる行為を無自覚にしてしまうのだろう。

佐藤さんは2015年からアラスカを本格的に撮影し始めた。極北の地で生きる動物と人々の姿を見つめ記録する。本展では一日中、陽の落ちることのない白夜の暮らしを紹介する。

自分が歩く中で出会う風景を撮りたい

「白夜に身を置くと、最初は眠れません。体内のリズムが狂ってしまうので、深夜2~4時は必ず寝るようにします」と佐藤さんは話す。

アラスカの面積は日本の約4倍。内陸部の大半は無人の原生地が広がり、いくつかの山脈が連なる。その一つが標高6,190mのデナリ(マッキンリー山)だ。

ここでの移動は車がメインで、場合によっては飛行機やボートをチャーターする。州内は限られた幹線道路があるだけなので、目指すエリアの近くまで行き、あとは歩く。

「2週間分の食料を背負い、バッテリーの残量を見ながら行動します」

カメラはOM-1かOM-D E-M1 Mark IIIをメインに、交換レンズは10本ほどを揃えている。車を離れる時、何が撮れるかを想定し、5~7本のレンズをリュックに入れる。

「機材の軽さは重要です」

土地は広大で、何の当てもなく歩き回れば、1週間経っても目ぼしい野生動物に出会うことはない。

「特定の生き物にフォーカスして追うやり方もありますが、僕は敢えて狙いは決めず、自分が歩く中で出会う風景を撮りたい。自分の考えをあまり入れ過ぎると、広がりが生まれないと思うからです」

テーマやモチーフに縛られることなく、自然や生命と向き合い撮影する。そうして写された写真の中からテーマを見つけ、写真展、写真集で発表していく。

かといって無作為に歩き回るわけではない。地図と現地の実際の様子を見ながら、アラスカらしい光景に出会えそうな場所を予測する。それは、これまで通ってきた中での経験値があってこそだ。

「尾根に登り1~2日、周囲を観察していれば何かしら移動していく動物の姿を見つけられます」

彼らを見た季節や時間は今後の大事な情報となる。日々、獲物を狙う野生動物たちも、こうした思考を巡らせているのかもしれない。

「あとは水の確保が重要なので、残雪の残る場所を選んで動くこともあります」

リュックに入れる食料はフリーズドライの野菜、乾麺、ナッツなど。消費カロリーが摂取分を完全にオーバーしているので、「4カ月滞在した時は10kgほど体重が落ちた」そうだ。

初めて長期ロケをした時は「胃を小さくすれば食料が少なくて済む」と考え、体重を絞った。

「途中、エネルギー不足になりダメでした。今は事前に5~10kg体重を増やす方法を取っています」

冬眠前の熊と同じ発想だ。

アラスカで出会うモノ

特定の動物は追っていなくても、好きな動物はできる。佐藤さんの好みはナキウサギとホッキョクジリスだそうだ。

「ほかの動物と違い、緊張感なく撮れるので、穏やかな気持ちになれるからです」

クマに最も近づいて撮った時は2mほどの距離だった。何日間かかけて自分の存在を彼らに目視させ、人間が居ることを当たり前にしていく。

「僕がいても無視するようになってくれたら、クマの歩く先で待ちます」

クマは感情が表情に現れるから、こうした撮影ができるのだという。怒っている時、不安そうにしている時は近づかない。

「とはいえ彼らを分かった気になってはいけないし、畏れは持ち続けなければいけない。片手にはクマスプレーを持ち、エリアによっては銃も携帯します」

対してムースは感情が外に現れず、若い個体なのか老齢なのかの見分けも付きづらい。身体は大きく600kgを越し、非常に獰猛だ。

「いつも目が座っています。子連れのクマは99%攻撃してきませんが、ムースは違う。僕は襲われた経験はありませんが、大きな木を折り、地面に叩きつけるのを見たことはあります」

2016年からはアラスカネイティブが住む集落にも通い始めた。300人ほどが住むこの村は欧米の文化が入り、スーパーマーケットにはコーラやエナジードリンク、ハンバーガーが豊富に並ぶ。

「ネット環境があるので、家ではネットフリックスが見られます。冬の移動は犬ぞりより楽なスノーモービルを使っています」

佐藤さんは山好きの父親に連れられ、小さいころから登山に親しみ、高校時代から写真を始めた。

「大学時代はマガジンハウスでバイトをしました。ananなどのカメラマンアシスタントに就いてみて、トレンドの最先端を追うような生き方は僕にはできないと悟った(笑)」

新聞社への就職が決まったその日に、写真家の白川義員氏からアシスタントの打診が入った。2年間のアシスタント生活を経て、自然を撮る写真家として活動することを決めた。

「取材費を貯め、体力を付けようと北アルプスの山小屋で5年間、働きました」

撮影候補はアイスランド、亜南極、オーストラリアなどがあったが、アラスカに決めた。

「自分の足で歩き回れる場所だということが大きかった。パイオニアである星野道夫さんは越えられないと思っていましたが、2011年に2カ月弱、下見でアラスカに行って可能性を感じました」

会場内のモニターでは白夜の様子を中心にしたタイムラプスなども上映される。僕らと同じこの地球に暮らす生き物たちの光景だということに想いを寄せ、身体的に彼らの存在を感じ取ってほしい。

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佐藤大史写真展「ALASKA -白夜と極夜-」

会場:OM SYSTEM GALLERY
会期:2023年1月5日(木)~1月16日(月)
開催時間:10時00分~18時00分(最終日は15時まで)
休館日:火曜・水曜

佐藤大史写真展作品解説

会場:OM SYSTEM GALLERY
日時:1月7日(土)14時~15時、1月14日(土)14時~15時
※予約不要・参加無料

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。