中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」
また訪ねたい海外の思い出「ジョイテツ! in the World」vol.09 リスボン編(その2)
2021年9月10日 12:00
コロナ禍でなかなか行けない、海外の鉄道を紹介するこの企画。前回に引き続きポルトガルのリスボントラムをご紹介します。今回は2014年と2019年に撮影した作品です。
おなじみの黄色と白のツートンカラーが可愛い旧型車両が活躍するのは、主にアルファマ地区と呼ばれる旧市街を走る28系統と12系統。住民に「エレクトリコ」と呼ばれ親しまれているこの路面電車は、製造初年が1932年という古い車両で、とってもキュート。でも下回りは近代化改造が施されており、リスボンの街のランドマークとして、元気に走り回っています。
こちらは路地に建つカーブミラーに映った列車を狙ったもの。望遠レンズで圧縮して遠近感をなくすことで、写真全体が一枚の絵のように見えるよう工夫しました。リスボンの風景を鮮やかに飾っている装飾タイル「アズレージョ」が、美しい背景になってくれました。
まるで迷路のような路地の奥に、おもちゃみたいな路面電車。アーチ状の路地は、まるで絵本の世界に迷い込んだみたいです。ここには何度も通い、列車が目立つように奥が明るい時間帯を選びました。
トラム通りにつきあたるこの路地には車もバンバン通るので、列車のタイミングで車が被って失敗ばかり。またトラムがいつ顔を出すのかわからないので、簡単そうに見えてけっこう苦労したカットです。コントラストを高めにし、ホワイトバランスも日陰モードにして、実際とは違う幻想的な雰囲気に仕上げてみました。
リスボン市電にもちゃんと時刻表があるのですが、ほとんど時刻通りに来ることはありません。それは電車が狭い路地で渋滞にまきこまれてしまうから。ヨーロッパの街は、車が入れないようにしているところも多いですが、リスボンはどんな路地にも問答無用で車やトラックが走ってきます。しかもみな道を譲る気なし(笑)。
ここはトラムの28系統と12系統が分岐する、サン・トメー通りとトラヴェッサ・サン・トメーの交差点。奥のトラムは画面向かって左に下りていく28系統ですが、狭い道の合流の渋滞にはまり身動きがとれなくなっています。こんなに狭い道だと、日本だったら絶対に一方通行になりますが、ここでは狭い上に両側通行、しかもご覧のとおり交差点のなかに平気で駐車している車両があるので、もうハチャメチャ。逆を言えば、よくこんな無法状態で、大きなトラブルもなく運行できるなと感心してしまいます。
そんなわけで、大渋滞に巻き込まれたトラムは、15分間隔での運行のはずが、待てど暮せど1台も来ないで、45分後に3台ダンゴ状態で走ってくるなんてこともザラにあります。撮影した日も遅延による続行運転が頻発していたので、前のトラムから後続のトラムを低速シャッターで撮ったらカッコいいのでは?と思いつき、撮影したのがこちらのカット。前回も作品をお見せしたリスボン市電で最も狭い路地を通過する区間で、1/4秒という低速シャッターで撮影することで、まるでトラムがカーチェイスをしているかのような大迫力の一枚になりました!
リスボン市電が走る最も狭い路地。どれくらい狭いのかを表現しようと、歩道に立って電車を待ちました。歩道いっぱいの太さを誇る僕の体を見て、さすがに減速するだろうと思っていましたが、さすがは自己責任の国。フツーに通過していきました。その瞬間を自撮りしたのが、このカット。乗客の顔、近っ!しかもおじいさんとお孫さんでしょうか?ふたりの表情が最高です(笑)。ふざけた写真じゃなくて、車窓のほうを狙えば良かった……
電停の奥が空抜けになっている場所を見つけたので、トラムに乗り込む乗客をシルエットで狙いました。ふつーに撮るとなんの変哲もない電停ですが、超望遠+超ローキーの組み合わせで、現実とはまったく違う雰囲気になりました。こういう写真はテクニックよりも、まずはこういう写真を撮りたいと想像できるかどうかがポイントになります。ただ風景を眺めるのではなく、写真想像力を生かして観察することが大切かもしれません。辛抱強く待っていると、運良く女性2人組がトラムに乗り込みました。それにしても美女はシルエットになっても美女ですなぁと実感した作品です。
リスボンは迷路のような街なので、晴れてしまうと明暗差が大きすぎて、けっこう苦労します。ここではその明暗差を利用して、こんな作品を狙ってみました。ポイントはヨーロッパらしい石畳。まず構図を決め、絵になる人が通るまで待ち続け、ようやく撮れた一枚です。電車は写っていませんが、かなりお気に入りの作品になりました。やっぱりヨーロッパの人はスタイルいいなぁ。
ここからは2019年に撮影した作品。奥に水平線が見える坂がとっても素敵な場所でした。もちろん市電も撮影しましたが、手をつないで下っていく親子の後ろ姿がとっても絵になったのでパチり。何気ない日常が絵になる街って素敵だなぁ。そうそう、奥に見える水平線はずっと海だと思っていたのですが、調べてみるとテージョ川でした(汗)。まぁ地図を見ると東京湾みたいな広さですが、れっきとした川です。
ジュ―リオ・デ・カスチーリョ庭園からリスボン大聖堂に下る午後の坂道で。リスボンのような狭い街で撮影するときの最大のポイントは、光です。ここは路面にだけ光が当たるシチュエーションだったので、あえてローキーにして街並みの重厚な雰囲気を強調してみました。大きな明暗差があるときは、自分だけの世界を生み出せるチャンス。ローキーにするか、ハイキーにするか、いろいろ試してみるといいでしょう。
市内中心部のコンセイサン通りは街の中心から近く、絵になるのでオススメです。トラムの通る大通りだけでなく、そこを横切る路線が数本あるので、望遠レンズで覗いていると思わぬ方向からトラムが飛び出し、思わずワクワクしてしまいます。望遠で遠くの28系統を狙っていたところ、突然手前に新型トラムが横切りました。広告がオシャレな新型トラムの手前にトラックや通行人が重なってしまった失敗写真のようにも見えますが、トラムと車と人がひしめきあう、リスボンのエネルギッシュな感じをうまく写せた気がして、お気に入りの写真になりました。
中井精也からのお知らせ
ゆる鉄画廊NOMADスタート!
2018年から営業しておりました「ゆる鉄画廊」は、2021年8月22日をもちまして閉店いたしました。3年間にわたるご愛顧、ありがとうございました。今後は固定の店舗を持たず、全国のギャラリーや店舗を巡回しながら写真展示・販売を行う「ゆる鉄画廊NOMAD」として活動を開始いたします!
中井精也の作品をさまざまな種類の額に入れて販売するほか、ここでしか買えない書籍やポストカード、グッズなどを販売いたします。直筆サインや、記念写真撮影など、中井精也本人とふれあえる貴重な機会ですので、ぜひお越しください。1回目の開催地は東京都の吉祥寺に決定! 吉祥寺プティット村内にある、まるで絵本の世界から抜け出してきたようなかわいいお店です。狭いながらも楽しい空間にしますので、お楽しみに。
第1回ゆる鉄画廊NOMAD「ギャラリー貸し小屋(吉祥寺・東京都)」
・開催期間:2021年9月16日(木)〜9月23日(木)
・営業時間:11時〜18時 初日のみ13時オープン
・場所:〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-33-2 吉祥寺プティット村
現時点で、第1回の吉祥寺のほか、両国周辺、岐阜県、長野県、福井県、広島県など、さまざまな場所での開催が決まっておりますので、お楽しみに。各イベント詳細はゆる鉄画廊NOMADホームページをご覧ください。
ゆる鉄画廊NOMADホームページ
https://garou.ichitetsu.com/