中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」

デジタルピンホールカメラ「おもひでかめら」を楽しもう③

「天然色のホーム」由利高原鉄道の黒沢駅ホームの花壇を入れて。運良くアゲハチョウが飛んできたので、面白いカットになりました。あまりにいいシチュエーションなので、普通のカメラで撮っておけばよかったと後悔したのは内緒です(笑)。あえて彩度をあげて、古いカラープリントのように仕上げました。
ソニーα7S II マニュアル露出(1/60秒) ISO 12800 WB:太陽光 スタンダード

高感度画質が向上した今の時代だからこそ楽しめる、デジタルピンホールカメラ「おもひでかめら」。ボディキャップに穴を開けたアルミホイルなどを貼り付けるだけで簡単に作れるこのカメラは、オールドレンズやポラロイド、トイカメラとはまた違う、懐かしくてやさしい写真を生み出してくれます。今回は僕がこれまで撮影した「おもひでかめら」作品を一挙にお見せしたいと思います。

※ピンホールレンズでの撮影時は、イメージセンサーにゴミが付着しやすくなります。また、太陽など強い光を写しこむことによりカメラ内部がダメージを受ける可能性に留意してください。損害が生じた場合は、デジカメ Watch編集部、中井精也およびメーカーもその責を負いません。自己責任でお願いします。

「あおぞらの道」
ソニーα7S II マニュアル露出(1/40秒) ISO 12800 WB:太陽光 スタンダード

「おもひでかめら」は遠景ほど描写力が落ちるので、ほどよい距離感を見つけることがコツです。ピンホールを通して見ると、新しい車両もまるで旧型車両のような懐かしい感じに写るから不思議です。秋田県の由利高原鉄道で撮影したこの作品のポイントは、線路に沿って続く道。通常のカメラなら入れないような被写体も、不思議なほど絵になるのが面白いところ。

「三丁目の踏切」
ソニーα7S II マニュアル露出(1/200秒) ISO 64000 WB:日陰 スタンダード

都電荒川線の三ノ輪橋電停で撮影した1枚。ぼんやりとしか写っていないのに、左のおじさんの表情までしっかりと描写されているように見えるのが不思議です。

「ミツバチ目線」
ソニーα7S II シャッター優先オート(1/200秒) ISO 64000 WB:日陰 スタンダード

距離によって描写力は変わるものの、基本的にパンフォーカスであるピンホールカメラでは、マクロレンズレベルの近景を狙うと、思いのほか面白い作品になります。これはシロツメクサに飛んでくるミツバチを手前に入れて撮影したもの。こんなに近い位置にピントを合わせたら、通常のカメラだと背景の鉄橋はボケてわからなくなりますが、ここではしっかりと描写してくれたので、距離感を失ったような面白い構図になりました。

「古いアルバムから」
ソニーα7S II マニュアル露出(1/125秒) ISO 25600 WB:日陰 スタンダード

「おもひでかめら」に慣れてくると、通常のカメラのように凝った構図にせず、あえて写真をはじめたての頃のような構図にすることで、自分の家の押し入れに眠っている古いアルバムのなかのプリント写真のように仕上げることができます。さらにデジカメなので、ホワイトバランスであえてM(マゼンタ)をプラスして、退色したような色調に仕上げることもできます。楽しみ方はまさに無限大なのです。

「光につつまれて」
ソニーα7S II マニュアル露出(1/60秒) ISO 32000 WB:日陰 スタンダード

「おもひでかめら」の大きな楽しみのひとつは、ハレーションです。ちょっと角度を変えると、ハレーションの出方が劇的に変わるので、微妙に調整しながら最高のハレーションを選びました。手前に写っているのは案山子なのですが、まるで本物のオバちゃんが手を振っているみたいでしょ?

「夕映えホーム」
ソニーα7S II シャッター優先オート(1/200秒) ISO 25600 WB:日陰 風景

こちらもハレーションをうまく使った作品。トイカメラでもオールドレンズでも、なかなかこんなハレーションは生み出せません。家族連れのシルエットもいい感じで、まるで記憶のなかをそのまま写したような、素敵なカットになりました。

「リンゴなるころ」
ソニーα7S II シャッター優先オート(1/80秒) ISO 51200 WB:日陰 スタンダード

沿線がリンゴ畑に囲まれた長野電鉄で撮影。リンゴ畑に農薬を散布するスピードスプレーヤーが走ってきたので、リンゴを入れて撮影しました。なんとも言えないゆるい雰囲気が、とても気に入っている作品です。

「あのころのように」
ソニーα7S II シャッター優先オート(1/10秒) ISO 20000 WB:日陰 スタンダード

こちらは車内で出会った生徒さん。おもひでかめらを通してみると、青春時代の想い出のように見えるから不思議です。撮った写真を見せたら、「かわいい〜」って言ってくれました。何もかもがシャープに写る今だからこそ、世代を問わずこんなボヤケた写真がかえって魅力的に写るのかもしれません。

「サイケデリック関西Part.1」
ソニーα7S II シャッター優先オート(1/80秒) ISO 32000 WB:日陰 スタンダード
「サイケデリック関西Part.2」
ソニーα7S II マニュアル露出(1/125秒) ISO 64000 WB:日陰 スタンダード

こちらの2枚はインパクト重視で撮影したカット。どちらもパターンは同じで、近景をうまく使って面白さを強調しています。こういう車両がフツーに走れる関西って、やっぱり素敵だな。それにしてもα7S IIの高感度画質はすごいですね。このα7S IIはまだまだ現役ですが、発売から年月が経った初代α7Sは中古価格も下がっているので、おもひでかめら用に買ってみるのもおすすめですよ。

「きしゃみち」
ソニーα7S II マニュアル露出(1/160秒) ISO 64000 WB:日陰 スタンダード
「夏の汽車たび」
ソニーα7S II マニュアル露出(1/20秒) ISO 64000 WB:日陰 スタンダード
「夜行鈍行」
ソニーα7S II マニュアル露出(1/10秒) ISO 64000 WB:日陰 スタンダード

この3枚は大井川鉄道のSLを撮影したもの。レトロな表現のおもひでかめらは、レトロな蒸気機関車との相性も抜群。昭和40年代のローカル線にタイムスリップしたかのような作品になりました。レンズ交換の呪縛から開放され、思うがままに被写体と向き合うのは、とても楽しい作業です。ふだんいかにレンズ交換に悩まされているかを実感しました。

「東横線タイムスリップ」
ソニーα7S II シャッター優先オート(1/10秒) ISO 51200 WB:日陰 スタンダード

こちらは大井川鉄道で第3の人生を送る、元東急電鉄の車両。まるで僕が小さい頃に乗った東横線の風景のようで、なんだか胸アツになりました。お母さんの膝にのる子どもなんか、本当に昭和みたいでしょ?

「なつのおもひで」
ソニーα7S II マニュアル露出(1/80秒) ISO 32000 WB:日陰 スタンダード

そして僕が「おもひでかめら」で撮影してきた作品のなかで、もっともお気に入りなのがこの作品。抜里駅(ぬくりえき)で下車して、車内で話していた家族連れとお別れしたとき、少女が僕に手を振ってくれたのをなにげなく撮った1枚。でも僕がローカル線に求めるすべての要素が、この1枚に詰まっているような気がしています。

どんなふうに撮っても、高精細に、美しく写真になる今だからこそ、写真の原点でもあるピンホールが生み出すやさしい描写は、とても魅力的に感じられます。カメラのボディにはなんの加工もいらない「おもひでかめら」を、ぜひたくさんの人に使ってもらい、そのやさしい描写に癒やされてほしいと思います。

中井精也よりお知らせ

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中井精也

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。株式会社フォート・ナカイ代表。2015年、講談社出版文化賞・写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。著書・写真集に「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。2018年5月、東京都荒川区に鉄道写真ギャラリー&ショップ「ゆる鉄画廊」をオープンした。甘党。https://ameblo.jp/seiya-nakai/

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