写真を巡る、今日の読書
第95回:戦後の時代と、これからの未来へ――過去と現在をつなぐ写真というメディア
2025年10月15日 10:27
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
写真の持つ記憶の力
終戦から80年の時を経て、今年は様々な催しが各所で行われました。私が所属している写大ギャラリーにおいても、「戦後は続くよどこまでも」と題し、現在、展覧会を開催しております(~11月5日)。占領期から戦後復興期、さらに高度成長期に至る時代における写真表現をまとめたものになっていますので、是非ご高覧いただければと思います。
写真は、時代の記録や人々の記憶を映し出すメディアとして、過去と現在をつなぐ役割を果たします。今回は、そんな写真の力を再認識し、戦後の時代やその続きとしての現代を見つめるべく、3冊の写真集を紹介したいと思います。
これらの本は、記録としての写真の重みと共に、写真というメディアの役割を考えさせ、私たちがこれからの未来に抱くべき課題を探るヒントを与えてくれます。写真の持つ記憶の力と表現を通じて、戦後80年の節目にまた新たな視点を見出すきっかけとなれば幸いです。
『決定版 広島原爆写真集』反核・写真運動 編集(勉誠出版/2015年)
1冊目の『決定版 広島原爆写真集』は、小松健一氏と新藤健一氏によって、27名の写真が編集されており、それぞれの写真家の視点から写された写真群から、原爆直後の広島の生々しい記録を見ることができます。
写真には撮影場所や爆心地からの距離など詳細な注記が添えられており、人々の恐怖や絶望、凄惨な破壊の様子が伝わってきます。核兵器の恐ろしさと戦争の悲惨さを強く訴え、平和の大切さを深く考えさせる写真集です。
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『Flash of Light, Wall of Fire』Dolph Briscoe Center for American History 著(Univ of Texas Pr /2020年)
2冊目、『Flash of Light, Wall of Fire』は、『決定版 広島原爆写真集』と共通の写真も含むものの判型が大きく、1冊目とはまた異なる編集で構成されており、写真の見せ方や配置によって視覚表現が多様に変化していることで、異なる語り口で被爆の惨状を伝えています。
戦争の記憶の語り部が減りつつある今、このような記録の継続は極めて重要です。私自身も祖父から戦争体験を聞き、またシベリア抑留体験に関しては今も残る手記を繰り返し読み続けています。
同じ写真やテキストであっても、再編集されることでまた別の視点が得られるのではないでしょうか。ふたつの本を合わせて読むことで、更なる発見もあるでしょう。
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『ロバート・キャパ 戦争』ロバート・キャパ 写真(クレヴィス/2025年)
3冊目はロバート・キャパの『戦争』で、初期から1954年インドシナで地雷を踏む直前に撮った作品まで網羅した総合的な写真集になっています。
記録写真だけでなく、戦場で見せる人々の笑顔や何気ない日常も捉えた写真群からは、1人の写真家の視点から、戦争の多面的な姿と平和について改めて考えさせられます。さらに、沢木耕太郎などのエッセイや同時代作家のテキストによって、キャパという人間像にも迫る内容となっています。