写真を巡る、今日の読書
第75回:年内の仕事が落ち着いたころに…ちょっとした時間に読める短編集
2024年12月25日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
年内の仕事が落ち着いたころに…
クリスマスも過ぎ、街中が一斉に正月の用意に取り掛かるこの時期というのは、バタバタしているようで、精神的にはようやく一息つけるような思いがします。商業写真の仕事も、印刷所や編集部の仕事納めに向けていつもより少し早めに入稿するため、大体クリスマスの頃には年内の仕事のほとんどが落ち着きます。
毎年この時期は機材の点検や清掃、作業場の片付けをしつつ、それに飽きると読書を進めるというのが通例になっています。大抵は年末年始に向けて出版された新刊の小説などを読んでいるのですが、まだ読み終えていないので、その辺りの紹介は年明けに回して、今日はちょっと手に取って読むのに適した書籍をいくつか取り上げてみたいと思います。
『声に出して笑える日本語』立川談四楼 著(光文社/2009年)
1冊目は、『声に出して笑える日本語』。私は、写真家や美術家のエッセイはもちろん好きなのですが、それと同じくらい好きなのが、落語家のエッセイです。立川談春や春風亭一之輔、柳家小三治などおすすめはたくさんあるのですが、今回紹介するのは立川談四楼の1冊です。
談志一門の落語家として活躍しながら、小説なども手がけ、多くの著書を残しています。本書は『日本語通り』に加筆修正を加えて出された文庫版になります。
様々な落語家との逡巡をはじめ、テレビや居酒屋で聞こえてきた言い間違いなどの様々な「日本語」を取り上げてひとつの噺に仕立てあげる手法はさすが落語家の視点だと感じます。ちょっとカバンに入れておいて、ちょっとした空き時間に読むのにはうってつけの本だと思います。数ページごとにまとまっていますので、ぱっと開いて出会った噺から読んでいくというのが良いでしょう。
◇
『短編画廊 絵から生まれた17の物語』ローレンス・ブロックほか 著(ハーパーコリンズ・ジャパン/2021年)
2冊目は、『短編画廊 絵から生まれた17の物語』。この連載でも以前取り上げたエドワード・ホッパーという画家がいます。1920年代から1960年代にかけて活躍したアメリカの画家ですが、都市や郊外の日常風景をモチーフに描かれた、空虚で寂しげでありつつ、どこかポップな色彩と画面構成が特徴的で、非常に物語性に溢れた作品において多くのファンをもつアーティストです。
本書は、そのようなホッパーの作品から着想を得て展開された17の短編が集められた1冊です。最も有名な作品、「Nighthawks」を元にした話は、ベストセラー作家のひとりであるマイクル・コナリーが手がけています。また、「音楽室」と題された1編は、モダンホラーの巨匠スティーブン・キングによる、「Room in New york」から展開された短編になっています。
どの話もちょっとした休憩時間にちょうど読むことができる長さで、これも1冊持ち歩くにはおすすめの作品です。アメリカ文学やホッパー好きには、長く読み返すことができる作品にもなるでしょう。
◇
『これで駄目なら』カート・ヴォネガット 著(飛鳥新社/2016年)
3冊目は、『これで駄目なら』。アメリカ文学を代表する作家のひとりであるカート・ヴォネガットによる、様々な大学での卒業式での講演をまとめた1冊です。
卒業式の講演というと、スティーブ・ジョブスの「Stay hungry, Stay foolish」が有名ですが、アメリカの大学の卒業式講演というのは、他にもU2のボノやミッシー・エリオットなど多くの著名人が歴史に残る講演を行なっていることで知られています。
村上春樹や高橋源一郎、太田光など様々な日本人作家にも多大な影響をもたらしたヴォネガットが卒業式でどんな言葉を送ったのか、気になる方も多いのではないでしょうか。わたしたちはなぜ孤独なのか、情熱的に行動する人がなぜ価値を生むのか、芸術に関わるとはどういうことか、様々な観点から、人生を豊かに生きるための勇気とユーモアのようなものが得られる1冊だと思います。今年一年が充実した年だった方にも、来年こそはという方にも、是非触れてみてほしい言葉が多くあります。
それでは、良いお年をお迎えください。