写真を巡る、今日の読書

第67回:漫画から得られる“語彙力”や“想像力”

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

漫画も重要な読書

今年も厳しい残暑が続き、家のソファで読書をする日々はなかなか終わりそうにありません。写真論や長編の小説を読むのも良いのですが、私にとって重要な日々の読書のひとつに挙げられるのが漫画です。

友人と貸し借りしながら少年漫画や歴史漫画を読み漁っていた小学生の頃から、漫画を読む習慣は今も続いています。私の語彙力や想像力の多くの部分は、漫画から学んだものだと言っても良いかもしれません。

以前もこの連載で漫画を取り上げたことはありましたが、最近あまり触れていなかったので、今日は最近読んだ本のなかから気に入ったものをいくつかご紹介したいと思います。

『電話・睡眠・音楽』川勝徳重 著(リイド社/2018年)

1冊目は、『電話・睡眠・音楽』です。私が大学生時代、ずいぶん影響を受けたジャンルの漫画に、「ガロ系」があります。2002年頃まで青林社が発行していた『月刊漫画ガロ』に掲載されていた作家や作品、あるいはそれに近い独特な空気感を携えた漫画作品を指すジャンルです。例えば、花輪和一や古屋兎丸、内田春菊、ねこぢるなどが代表的な作家の一部になります。

作者の川勝徳重は、1992年生まれの作家ですので、もちろんガロには執筆していませんが、その精神性に通じる独自の表現を描き続けている作家だと言えるでしょう。

本作は、表題作を含め14編の短編が収められた1冊です。婚約者に逃げられ絶望した男が龍になる修行を行った末、うなぎになって食われる話や、34歳の女性が何もない夜に渋谷のクラブで一晩を過ごす話など、どれもがどこか妙にリアルで、かつ超現実的な不思議な世界観を放っているように思います。

解説には、作者が受けた様々な作家からの影響や引用が語られており、より深くそのコンセプトを読み込むことができるのも興味深いところです。

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『神田ごくら町職人ばなし』坂上暁仁 著(リイド社/2023年)

2冊目は、『神田ごくら町職人ばなし』。江戸時代の神田を舞台に、様々な職人の手仕事が語られる1冊です。絵の描き込みが豊かで、情報量とシンプルな線の使い分けが非常に美しく、各コマの構図も大胆でリズムが感じられます。

人物の所作や姿勢、表情も生き生きと描かれており、登場人物の細かな感情が良く表現されています。桶職人や刀鍛冶、左官といった職人たちの仕事について知れると共に、それぞれの仕事へのプライドやその時代の人々の営みが本書を通して丁寧に描写されています。

それぞれの話にも、人物同士の掛け合いや交流を通した人間ドラマが語られており、ストーリーにも引き込まれる作品になっています。普段漫画にはあまり興味を持たれない方にもおすすめです。

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『くしゃみ 浦沢直樹短編集』浦沢直樹/長崎尚志/遠藤賢司 著(小学館/2019年)

最後は、『くしゃみ』。浦沢直樹の短編集になります。子供の頃に『YAWARA!』を読んで以来、ほぼ全ての作品を読み続けている作家です。

特に、私が高校生から大学生だった時代にちょうど連載されていた『MONSTER』は、毎週読みながら早く結末が知りたい気持ちと、いつまでも終わってほしく気持ちが重なり合う稀有な作品だったことを思い出します。

本作では、超能力ものや怪獣ものなど多彩なストーリーが展開されています。印象としては、『MASTERキートン』、『20世紀少年』、『PLUTO』あたりの世界観が好みの方には特にハマるのではないかと思います。初期浦沢作品が好みの方には、『初期のURASAWA』という短編集があり、こちらがおすすめです。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。