写真を巡る、今日の読書

第59回:写真は選択の芸術…撮影への多様なアプローチを学ぶ

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

写真に対する多様なアプローチ

写真というのは、「何を撮るか」ということ以上に「どう撮るか」が重要になるものです。同じ場所や同じ被写体を撮っても、撮影者によって全く違う仕上がりになることは、写真を撮影したことがある方ならご存知の通りだと思います。

そこには、構図の設定やレンズの選択、露出の決定など様々な要素があるわけで、それらが複雑に組み合わせられた結果が1枚の写真になるわけです。これが、写真が選択の芸術であると言われたりもする1つの理由です。

今回は、手法やコンセプトにおいて特に際立った選択を実践している作家を少し紹介したいと思います。多様なアプローチについて知ることで、自らの写真に対する思い込みや限界を取り除くことにも繋がるかもしれません。

『八戸マジックランタン』佐藤時啓 原著(T&M Projects・2022年)

1冊目は、『八戸マジックランタン』です。本書は、2022年に八戸市美術館で行われた、佐藤時啓による同名の展覧会の関連書籍になります。キャリアの初期から徹底して「光」を巡る作品を展開してきた佐藤による、八戸を舞台に制作した最新作によって構成されています。

展示は大きく3部に分かれており、はじめはピンホールカメラの原理を用いた「カメラ・ルシダ」を応用して桜を撮影した作品で、光と色が重なり合う、明るく華やかな表現を眺めることができます。2部は、1時間の単位で長秒露光を行った八戸の風景。鏡によって光を反射させることで、印象的な光跡が風景の上に描かれる作品です。

3部は、本書籍のタイトルともなっている、「マジックランタン」シリーズ。プロジェクターの光を風景に映し出した作品です。港や海岸の岩場に八戸の祭りの風景を投影し撮影することで、新たな風景が描き出されています。

写真において最も重要な「光」を意識した作品群は、鑑賞者にも新たな視点を与えるものとなっているように思います。

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『Dream About Nothing』Bobby Doherty 著(Loose Joints・2023年)

2冊目は、『Dream About Nothing』。ニューヨークを拠点として活動する写真家、ボビー・ドハティによる作品集です。

被写体は、花や人物、風景、動物、アルミ缶その他静物と多岐に渡りますが、それぞれが同じフレームの中で、あるいは隣り合ったページの中で組み合わせられることにより、様々な隠喩を生み出しています。

中にはアーヴィング・ペンやヨゼフ・スデクがレファレンスされている写真などもあるように感じられ、写真史の観点から見ても興味深いイメージメイキングが行われています。鮮やかな色彩や、強烈な光を組み合わせることで、非常に鮮烈なトーンを生み出しており、「どう撮るか」という点で非常に参考になる作家ではないかと思います。

個人的には、うつゆみこやウォルフガング・ティルマンス、マーティン・パーなどの文脈も感じられ、現代的な感覚に溢れた作品集であると思いました。

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『CROSS ROAD BLUES by Oli Kellett』Oli Kellett 著(NAZRAELI PRESS・2023年)

最後は、イギリスの写真家、オリ・ケレットによる『CROSS ROAD BLUES by Oli Kellett』です。LAをはじめ、世界各所の交差点を舞台にした写真集です。

交差点を渡ろうとしている人を撮影するというシンプルなコンセプトですが、夕暮れの美しい光と、卓越した構図感覚によって非常に美しいトーンと構成によって描かれています。どこか人工的で、ステージドフォトのような演出性が感じられる作品群で、グレゴリー・クリュードソンやフィリップ=ロルカ・ディコルシアの世界観を想起させるイメージでもあります。

光というものが、日常的な風景をどれほど印象的で鮮やかに見せることができるのか、ということを改めて考えさせられます。撮影そのものだけでなく、その後の仕上げ方やトーンの選択についても参考にできる1冊ではないでしょうか。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。