写真を巡る、今日の読書

第56回:写真はやはり紙で見たい…現在も発信を続ける写真雑誌

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

写真はやはり紙で見たい

コロナ禍を経て、『月刊カメラマン』、『アサヒカメラ』、『日本カメラ』といった写真/カメラ雑誌は相次いで休刊となりました。日本独自の写真史を形成し続けてきた雑誌媒体の消失は、何か心のよりどころを無くしてしまったような、多くの写真愛好家にとっても心の痛むニュースだったのではないでしょうか。

考えてみると、他にも多くの美術系雑誌やカルチャー雑誌も、私が学生だった頃に比べると少なくなってしまったように思います。学生時代には毎月の楽しみとして、また独立してからは記事の執筆や撮影でもお世話になってきた数々の雑誌媒体が無くなってしまったことは、私自身も寂寞たるものを感じます。

しかしながら、多くの媒体はウェブメディアに形を変えて情報を発信し続けてもいます。読者の皆さんも、この数年でずいぶん購読するウェブ記事が増えたという方も多いのではないでしょうか。

一方で、写真はやはり紙で見たいという方も一定数いらっしゃると思います。能動的に情報を拾う必要があるウェブではなく、自分では辿りつかないような情報に様々触れてみたいという方も、雑誌という形態の有効性というものを常々感じられていると思います。

そんな方のために、今回は現在も紙媒体で発信を続けているいくつかの写真雑誌に触れてみたいと思います。

『「写真」Sha Shin Magazine: フェイス Faces(vol.5)』金川晋吾/Ryu Ika 写真(ふげん社・2024年)

1冊目は、『「写真」Sha Shin Magazine: フェイス Faces(vol.5)』です。今回で5号目となる本誌は、元『日本カメラ』の編集者たちが中心となって立ち上げた、本格的な写真雑誌になります。巻頭口絵の他、書評や写真評論、展覧会レビュー、小説など写真を巡る様々な言説を取り扱った雑誌です。

毎号1つのテーマに焦点を当てて構成されていますが、今回は「Faces」が主題となっています。巻頭は、この連載でも何度か取り上げた金川晋吾、Ryu Ikaが飾っています。今の日本の写真を「雑多に」俯瞰し、読み込める骨太な写真雑誌だと言えるでしょう。

また、各種カメラ新製品のタイアップ記事などもあり、様々な作家による新しいカメラによる画作りも眺めることができます。

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『Decades No.2 CONTEMPORAL JOURNAL 2021-22』岩根愛 著(赤々舎・2023年)

2冊目は、『Decades No.2 CONTEMPORAL JOURNAL 2021-22』。数々の名作写真集を世に届け続けてきた赤々舎から発刊される、写真家の岩根愛によって創刊された写真雑誌です。

2020年、緊急事態宣言下の急激な社会情勢の変化の中で、写真によってそれらの変化を認識するために編まれた第1号では、石内都、アントワーヌ・ダガタ、ERIC、石川竜一などが取り上げられ、話題を呼びました。

第2号となる本作では、同世代の写真家と作家で組まれた10組のエッセイと写真によって構成されています。長島有里枝+柴崎友佳、イ・ハヌル+シャロン・チョイ、畠山直哉+大友良英らの作家による、世界各地の変容と今を収めた1冊からは、「今」を広く深く眺めることができるでしょう。

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『Counter Histories: Aperture 254(Aperture Magazine)』Aperture・2024年)

最後にご紹介するのは、『Counter Histories: Aperture 254』です。1952年にアンセル・アダムスやドロシア・ラング、マイナー・ホワイトらの写真家によって創刊された歴史ある写真雑誌になります。

写真史上でも、1950年代の最も大きなトピックの1つとして取り上げられるのが本誌の創刊であり、現在も季刊で写真の現在を伝え続けています。最新号では、マグナム財団とのコラボレーションによって「Counter History(抑圧や侵攻を受けた側から見た歴史)」という複雑な歴史をテーマに構成されています。

季刊ごとに、「Native America」「Vision & Justice」「Spirituality」などのテーマが掲げられているため、現在自分が持つ興味関心に近い号を取り寄せて読むのも面白いと思います。紙媒体以外に、オンライン上での電子書籍にも対応しています。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。