写真を巡る、今日の読書

第54回:ソール・ライター、トッド・ハイド…気になる写真集は早めに入手しましょう

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

将来的に希少になる写真集たち

今回は、比較的最近出版された写真集のなかから、いくつかをご紹介したいと思います。この連載では何度も書いていることですが、写真集というものは発行されている部数が限られている書籍も多く、その時を逃すと、古書市場では大抵高値で取引されることになり、入手が難しくなるのが一般的です。

今回紹介する本は、少し高価なものもありますが、将来的に非常に希少な本になることは間違いないと思いますので、気になるものがあれば是非手に入れておいて欲しいと思います。

『ソール・ライター Saul Leiter The Centennial Retrospective』ソール・ライター 著(青幻舎・2023年)

一冊目は、『ソール・ライター Saul Leiter The Centennial Retrospective』です。ソール・ライターは、主に1950年代から1970年代くらいまで、ファッション写真やストリートスナップの分野で活躍した作家ですが、日本で良く知られるようになったのは、2010年代の後半くらいだったかと記憶しています。特にストリートスナップが取り上げられるようになってすぐ、多くの写真ファンの間で話題になったように思います。

中望遠を多用しつつ、映り込みや反射、雨や雪などの質感を豊かに描いた抽象的なカラー写真表現が、日本のそれまでのストリートスナップの文脈とは一線を画したものだったからでしょう。叙情的で物語性が高く、それでいてグラフィカルなライターの写真は、硬質なモノクロームや静的で身近な日常を捉えたカラー写真とは明らかに違い、まるでニューヨークを舞台にしたポール・オースターの小説を映像化したようで、初めて見たときには、私もこんな写真家がいたのかと驚きました。

本書は、ライターの出自と代表作、またそれらの写真、あるいはペインティングの変遷をまとめた、コンプリートブックのような構成の一冊です。日本語版でじっくりと読み込める点も、おすすめです。

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『THE END SENDS ADVANCE WARNING by Todd Hido』トッド・ハイド 著(NAZRAELI PRESS・2023年)

二冊目は、『THE END SENDS ADVANCE WARNING by Todd Hido』。郊外の夜の家を中心にまとめられた初の写真集『HOUSE HUNTING』が、発表当初から非常に高い評価を受け、その美しいイメージメイキングと幻想的な世界観を特徴として活躍し続けている米国の写真家トッド・ハイドの最新作です。

私なりに訳すと、「終末が警鐘を鳴らす」といったタイトルになるでしょうか。永遠の冬がテーマとなった前作『Bright Black World』の続編とも言える本作は、タイトルの不穏な雰囲気を全編に持ちながらも、微かな光明や、先へ進もうとする希望が感じられる構成になっています。

ハイド独特のガラスを通したような光の滲みや反射、フラッシュの閃光による雪の流れ、滑らかで豊かな色彩表現により、大判の写真の一枚一枚が非常に印象的なディテールを描いています。ロードトリップ的な要素を含んだ風景写真の捉え方からは、視覚的な喜びと共に多くの発見と驚きが得られるでしょう。所々のページにピンナップされた小さな写真も、写真集をひとつのアートピースとして手触りのあるものにしています。

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『Body: The Photobook』Nathalie Herschdorfer 著(Thames & Hudson Ltd・2022年)

最後は、「体」という観点から現代写真を俯瞰できる、ナタリー・ハーシュドルファーによって編まれた『Body: The Photobook』です。

本書は、1994年に出版されたウィリアム・ユーイングの『The Body: Photographs of the Human Form』を継ぐものとして新たに編集された一冊になっています。前作が90年代までの写真作品から構成されているのに対して、本書では現代写真家を中心に現在の写真の潮流がまとめあげられています。

スナップ、造形、ジェンダー、機械による拡張、コラージュ、伝統的な絵画の引用、ヌード、社会問題など様々な観点から、「体」に関する写真を集めることで、現代の諸相を写真作品から眺めることができるでしょう。英文書籍ですが、大部分が図版で構成されており、現代作家や現代写真表現についての資料としても有用で、手元に一冊置いておきたい専門書となっています。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。