写真を巡る、今日の読書

第49回:試行錯誤がありつつ今がある…瀧本幹也という写真家

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

試行錯誤がありつつ今がある

秋だというのに暑い日が続いた今年は、例年に比べてあっという間に年の瀬を迎えたような気がします。フリーランスのフォトグラファーという立場で長く仕事をしてきましたが、毎年この時期になると「あぁ、今年もどうにか暮らせたな。来年も良い仕事がたくさんあるといいな」としみじみ感じます。

年末年始に、仙台の実家でしんしんと降りしきる雪を見ていると、いっぱしに食えるフォトグラファーを志して日々考え続け、作り続けていたキャリア初期を思い出します。そのように悶々としながら写真にすがり続けていたのはきっと私だけではなく、今では様々な場所で名前が挙がる有名なフォトグラファーも、それぞれが経験したことなのだと思います。

例えば、瀧本幹也さんといえば、今では、コマーシャルにおいても写真表現においても第一線を走る著名な写真家として知られていますが、そのような写真家でも、同じように試行錯誤がありつつ今があるのだと思うと、これから写真を志す若い写真家にもある種の希望が湧くのではないかと思います。

以前、ある雑誌の取材で瀧本さんにお話を聞いたことがあったのですが、現在までの道のりを聞いていると、私などとはまた別の方法ではありながらも、やはり何もかもがスムーズに進んできたわけではないのだなということを実感した覚えがあります。しかしながら、そこで培ってきた思考の方法やひらめきに至る過程などは非常に参考になります。

『瀧本幹也 写真前夜』瀧本幹也 著(玄光社・2023年)

今回紹介する一冊目、『瀧本幹也 写真前夜』は、写真におけるクリエイティブと、そのプロセスがまとめられた、自身による瀧本幹也の解説書といえるようなものです。

普段は知り得ない広告写真制作の裏側や、仕事の獲得から実際の制作における過程を覗けることは、写真を志す方以外にも興味深いものになるでしょう。

また、「SIGHTSEEING」や「LAND SPACE」などの代表作に取り掛かるきっかけや、それらが作品として成立していく過程を知ることもできます。その緻密で繊細な仕事そのものが、写真にも表れていることが良く分かるのではないでしょうか。

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『藤井保 瀧本幹也 往復書簡 その先へ 2019年6月26日ー2021年8月19日』藤井保/瀧本幹也 著(グラフィック社・2021年)

二冊目は、『藤井保 瀧本幹也 往復書簡 その先へ 2019年6月26日ー2021年8月19日』です。この本は、ある展覧会に至るまでの、師匠である藤井保と、弟子である瀧本幹也のメールのやりとりを軸に展開されたものになります。

はじめは、展覧会の計画をしつつ、お互いの実験的な写真の交換などを行なっているのですが、状況は新型コロナが発生したあたりから変わり始めます。世間の暗い世相を反映するように、二人のやりとりにも暗雲が立ち込め、交わす言葉の内容も、次第に生き方そのものを考えさせるようなものになっていきます。

その一部始終がほとんどそのままに掲載されており、ある種の物語が展開されるようで、一つの読み物としても非常に興味深いものになっています。通して読んでみると、師匠と弟子との関係、写真家の晩年、その先へ続く写真の未来など、様々なことに思いを巡らせることができる一冊になっていることが分かります。

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『LAND SPACE』瀧本幹也 著(青幻舎・2013年)

最後に、今回紹介した瀧本幹也の代表作のひとつである『LAND SPACE』を取り上げておきたいと思います。本書は、アイスランドやカッパドキア、南極大陸といった場所で捉えられた風景写真「LAND」とNASAのスペースシャトル事業を撮影した「SPACE」のふたつを一冊に編み込んだ写真集となっています。

地球という星がもつ風景と、現代文明の象徴的な光景が合わせられることで、それぞれの写真がより濃密にそのメッセージを発しているように感じられます。大型のA3の判型が用いられており、大判写真で撮影された緻密で繊細な質感と色彩を豊かに眺めることができる作りになっています。

一冊目で紹介した『瀧本幹也 写真前夜』の第五章「宇宙への憧憬/マクロの視点」では、本書に収められた作品群に取り組むきっかけや、撮影の舞台裏が紹介されているため、併せて読むのも面白いのではないでしょうか。

さて、それでは今年の連載はこれまでとなります。また年明けにお会いしましょう。良いお年をお迎えください。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。