写真を巡る、今日の読書

第42回:読書は、想像力を与えてくれるもの

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

秋の夜長に…

先日、ある取材でSF作家の方にお会いする機会がありました。認知神経科学を専門とする先生との対談企画だったのですが、図々しくもその後に三人で飲みに行き、夜中まで話し込んでおりました。私自身もSF小説や映画は非常に好みのジャンルであり、SFの歴史や現代SF界の裏話などもお聞きした大変実りある一日でした。

家に帰り、本棚に眠っていた筒井康隆や伊藤計畫、ガルシア・マルケスなどを久しぶりに手に取ってパラパラと捲っていると、改めて本は自分に様々な想像力を与えてくれてきたことを思い出しました。

そんなわけで、今日はSFに限らず最近読んだ本から、いくつかご紹介したいと思います。どれも少しずつ読むというよりは、読み出すと一気読みしたくなるものばかりなので、秋の夜長に手に取るには良いのではないかと思います。

『爆発物処理班の遭遇したスピン』佐藤究 写真(講談社・2022年)

一冊目は、『爆発物処理班の遭遇したスピン』。作者は、2021年に『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞、第165回直木賞をダブル受賞した佐藤究です。

メキシコの麻薬カルテルや臓器ビジネス、ネグレクトなどを主題に展開される、『テスカトリポカ』は全4部の長編小説ですが、今回紹介する作品は、表題を含めた8編の短編で構成されています。ダークな世界観の中で、SFやミステリー、ホラーの要素と共に量子力学など様々な科学的見地を盛り込んだ作品が散りばめられています。

情報量は多いのですが、スピード感のある展開でストーリーが描かれていますので、はじめに佐藤究作品に触れるには絶好の一冊ではないかと思います。伊藤計劃あたりにハマった経験がある方には、間違いなくおすすめできる作品だと思います。

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『踏切の幽霊』高野和明 写真(文藝春秋・2022年)

二冊目は、『踏切の幽霊』。作者は『ジェノサイド』で数々の賞を受賞した高野和明です。

『ジェノサイド』以来、実に11年振りの作品であり、私にとっては待ちに待った新作ということで、発売してすぐに購入し、数時間で一気に読み切ってしまった本でもあります。第47回江戸川乱歩賞に輝いた『13階段』をはじめとして、『グレイヴディッガー』や『6時間後に君は死ぬ』など、私の20代の時の読書体験に強く刻まれている作品ばかりで、本書以外もおすすめです。

本作は、下北沢の踏切で撮影された一枚の心霊写真を巡るミステリーになっており、怪談的な雰囲気もありつつ推理小説の要素を多分に含んだ作品になっています。描写も美しく、特に昔の下北沢の風景を記憶している方には、舞台となる景色がありありと想像できるものになっているのではないかと思います。

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『君のクイズ』小川哲 著(朝日新聞出版・2022年)

三冊目は、『君のクイズ』。クイズ番組の決勝戦、最後の一問を、問題が一文字も読まれないうちに答えて優勝した「0文字解答」を巡って、対戦相手だったクイズプレーヤーがその真相を解明しようとする物語です。

クイズというものの面白さやテクニック、奥深さを、小説を通して知ることができると共に、鮮やかなストーリーテリングに引き込まれる一冊です。

私は作者の小川哲作品にはこの本を通じて初めて触れましたが、サラサラと読めるのに情報量が多く、エンターテイメント性も豊かで、読後に『ゲーム王国』など他の作品もすぐに追うことになってしまいました。帯文も書いている伊坂幸太郎の文体や語り口が好みな方にも、間違いなくハマる作品ではないでしょうか。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。