写真を巡る、今日の読書
第39回:青春のきらめきや躍動が記録された写真集
2023年8月9日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
青春のきらめきや躍動が記録された写真集
まだまだ暑い日が続きそうです。夏といえば、様々な思い出を大切な記憶の一部として持たれている方も多いと思います。写真というのは、そうした目の前の光景を切り取り、永久に保存することができるメディアでもあります。
写真家が初めての写真集で描くテーマとして、自らの身の回りを捉えた青春の記録を選ぶことも多くあります。例えば、ウォルフガング・ティルマンスの初期作品などは、自身の環境を中心とした当時のユースカルチャーを表現した傑作として今も高く評価されています。
今日はそんな青春のきらめきや躍動が記録された写真集に注目してご紹介したいと思います。特に、今現在身の回りの友人や恋人、家族を撮影されている方にとっては良い参考にもなるのではないかと思います。
『Ryan McGinley: Way Far』 David Rimanelli 寄稿(Rizzoli・2015年)
一冊目は、ライアン・マッギンリーによる『Ryan Mcginley: Way Far』です。初期の作品をまとめた『The Kids Are Alright』が高く評価され、若干25歳でホイットニー美術館での個展を実現させた、アメリカで最も重要な写真家の一人です。
現在に至るまで変わらないライアンのテーマは、まさに青春のきらめきであり、若者のユートピアを描くことでした。ロードトリップを舞台にして、多くのモデルを起用したヌード作品によって展開されており、花火や海、木登り、洞窟、疾走などの場面を巧みに構成しながら輝きと色鮮やかな色彩によって写真を構成していきます。
ライアンの写真集はどれもプレミアが付いており、初期の作品などは数倍から十数倍まで価格が高騰しています。現在入手できる作品のひとつが本書であり、またライアンの撮影する人物の魅力や躍動感が非常に良く感じられる一冊でもあります。是非この機会にコレクションしてみてはいかがでしょうか。
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『Anybody Anyway』Chad Moore 著(SUPER LABO・2020年)
二冊目は、『Anybody Anyway』。著者は、ライアン・マッギンリーのアシスタントを務めた後独立し、現在はファッションの分野でも活躍するチャド・ムーアです。
本作はコロナ以前と以降の世界をテーマにしつつ、友人たちのポートレートと都市の風景、夜空などのモチーフで構成されており、ライアンの影響も受け継ぎつつ、チャド自身の世界のリアリティが濃密に紡がれた一冊になっています。きらめくクラブの光や、友人たちのキスやハグ、あるいは輝くような笑顔は、どれもがどこか懐かしく新しい、親しみやすいイメージで捉えられています。
ライアンの描く壮大なロードトリップとは違い、ごく身の回りの狭い地域で、コロナ禍の生活も編み込みながら撮影することで、疾走感と緩やかな空気感が混在し、何気ない日々のはかなさが感じられるようです。ユースカルチャーやストリートカルチャーの記録も含んだ、重要な作品であり、この写真集も是非今のうちに手に入れておきたい一冊だと言えます。
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『Jacques Henri Lartigue: The Invention of Happiness: Photographs』Jacques Henri Lartigue 著(Marsilio Editori・2020年)
最後は、『Jacques Henri Lartigue: The Invention of Happiness: Photographs』です。輝くような幸福な一瞬や青春を捉えた写真家としては、最も偉大な写真家の一人だと言えるでしょう。アマチュア写真家として、少年時代の風景や自らの環境でもある上流階級の人々、恋人や友人、車のレースなどを躍動感ある生き生きとした写真として残したことで知られています。
なんのてらいもなく裕福で豊かな世界をありのままに切り取ったその写真には、世の中の幸福が幾重にも描かれているようです。仕事としてではなく、またシリアスな写真芸術としてではなく、ただ純粋に写真を撮ることを楽しんでいることが伝わるその作品群は、まさにラルティーグにしか残せなかったものだと言えるでしょう。
本作は、リチャード・アヴェドンが編集しラルティーグの名を世界に知らしめた名作『Diary of a century』にも収められている代表作をはじめ、未発表の55点の作品を含めて構成されています。