コラム

「観るより撮る」派のための大阪・関西万博2025レポート

涼しくなる秋、カメラを持って万博に行こう

2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)が開幕しました。最新の展示や各国パビリオンが話題を集めていますが、私の目的は少し違います。「観るより撮る派」として、カメラ片手に会場を歩き回ったのです。光と影のいたずら、人々の笑顔、夜を彩るイルミネーション――気づけば夢中でシャッターを切っていた1日でした。

注目は何といっても「大屋根(リング)」

会場のシンボルといえば、直径600mを超える巨大な木造建築「大屋根(リング)」。会場を歩いていると、まるで自分がこの輪の中に包み込まれているような感覚になります。その圧倒的な存在感に触れると、まずはカメラに収めたくなる被写体です。


内部に足を踏み入れると、無数の木の柱が規則正しく並び、まるで果てしない迷路に迷い込んだような感覚になります。

少し望遠気味で撮ったため、圧縮効果によって奥行きが凝縮され、構造の迫力がいっそう強調されました。モノクロで切り取れば木の質感や陰影が際立ち、時間が止まったかのような静けさを漂わせます。小さな人影をフレームに収めることで、建築のスケール感もより鮮明に伝わってきます。


大屋根の上は緑地や遊歩道として整備され、1周約2kmの回廊を歩きながら会場を見渡せます。真夏の空には大きな雲が湧き、リングを背景に合わせて撮ると季節感が一層引き立ちます。建築のスケールと季節に合わせた空模様、その両方を1枚に収められるのが、この場所の魅力です。

パビリオンの造形も独創的

各国・地域のパビリオンはどれも個性豊か。光を反射するガラス建築や、伝統的な模様をモチーフにしたデザインなど、まるで現代美術館が集まっているかのようです。角度や時間帯を変えるたびに違う表情を見せてくれるので、撮影の興味が尽きません。

外壁一面を覆う不規則な模様は、陽光を受けるとサウジアラビアの建築美を想起させます。直線と曲線が入り混じる造形はシンプルながら奥行きを生み出し、そこはかとなくこの国の気配が漂います。建物の間に植えられた緑やパラソルの影が強い日差しを和らげ、異国の空気をほんのりと体感できるパビリオンでした。


外壁に無数の竹が吊り下げられ、風を受けて揺れるたびにリズムを奏でるように見えます。まだ訪れたことのない国なのに、不思議と「マレーシアらしさ」を感じさせるデザインです。熱帯の森を思わせる軽やかさと、伝統を現代的に表現したダイナミックさが同居し、素材の素朴さと建築の力強さが強く印象に残りました。


幾何学模様の外壁が空に向かってそびえ、背景には真夏の雲が大きく膨らんでいました。規則的なパターンと自然が織りなすコントラストは、まさに写真のための舞台装置のよう。陽光を受けて白く輝く外壁と入道雲の迫力ある存在感が重なり、夏の空気を一層強く印象づけてくれます。建築と自然の競演を切り撮る醍醐味を味わえた瞬間でした。

スナップ撮影も楽しめる

建築や展示の迫力も魅力ですが、会場を歩いていると「撮りたくなる瞬間」が至るところに潜んでいます。ふとした人影や、モニュメントの前を通り過ぎる姿、建築の断片がつくり出す抽象的な光景――スナップならではの偶然が、大阪・関西万博をより魅力的な被写体にしてくれます。


会場内にはアイミストが設置され、強い日差しを和らげています。逆光を利用してシャッターを切ると、人影がシルエットとなり、霧の中に浮かび上がりました。幻想的で、ほんの一瞬だけ現れる舞台のような雰囲気。スナップならではの偶然がもたらす表情を切り撮ることができました。


水辺にそびえる巨大な門は、鳥居をイメージしたモニュメントだと説明されることもあります。意図はともかく、フレームのように空間を区切る存在感があり、人の流れを強調する構図として興味深い被写体でした。奥に広がる雑踏と手前を歩く人々との対比からは、万博ならではの熱気が伝わってきます。


鏡面の建築を切り撮ると、風景が歪み、抽象画のような世界が現れます。空や建物、人の動きが映り込み、1つの巨大な万華鏡のような表情を見せてくれました。現実をそのまま残すのではなく、カメラを通すことで新しい姿を描き出す――スナップ撮影の醍醐味を味わえる瞬間でした。

夜景や花火も楽しいよ

日が沈むと会場は昼間とはまるで別世界に。パビリオンのライトアップや夜空の花火は、写真好きにとって最高のご褒美です。

ただし会場では三脚の使用は禁止されているため、ISO感度を上げたり、手ブレ補正を活用したりして撮影に挑むのがコツ。

また、夕暮れや花火の時間帯は大屋根(リング)周辺が特に混雑するので、無理のない範囲で立ち位置やタイミングを工夫すると、より快適に撮影を楽しめます。

この日は雲に隠れて夕日は望めませんでしたが、黄昏時ならではの雰囲気を切り撮ることができました。海と空がほんのり染まり、会場の外縁と調和して落ち着いた光景を演出しています。日中の喧騒とは違う、静かな時間が流れていました。


大屋根(リング)の内側も、夜になると状況が一変。各パビリオンがライトアップされて鮮やかに浮かび上がり、昼間とはまったく違う表情を見せてくれます。行き交う人々の姿がシルエットになり、まるで舞台装置の中を歩いているかのような印象を与えてくれました。

夜には花火の打ち上げもあり、会場の盛り上がりは最高潮に達します。手前に写り込んでいるスペイン館と花火が、1枚の中で共演。光の粒が夜空に広がり、万博ならではの非日常を鮮やかに映し出してくれます。


それぞれのパビリオンも趣向を凝らした電飾やライトアップで飾られ、昼間とはまったく違う表情を見せてくれます。赤や紫、緑といった色彩が夜空に映え、歩くだけでまるで光のアート空間を巡っているよう。夜景の撮影は、万博体験を締めくくる特別な楽しみです。

まとめ

今回の大阪・関西万博は、展示を“観る”だけでなく、写真を“撮る”楽しみが予想以上に広がっていました。大屋根(リング)の迫力や各国パビリオンの独創的なデザイン、ふとした瞬間に現れるスナップの被写体、そして夜を彩るイルミネーションや花火。朝から夜まで歩き続けてもシャッターチャンスは尽きることなく、会場全体が1つの巨大な写真スタジオのように感じられました。

私自身も1日を通して撮影に夢中になり、構図を探し、光を読み、気づけば1,000枚近いシャッターを切っていたものです。単なる記録ではなく、その瞬間にしか出会えない空気感を写し込めたことは、想像以上に貴重な体験でした。

これから訪れる方には、ぜひカメラを携えて会場を歩いてほしいと思います。視線の先に広がる風景や、偶然訪れる一瞬を写真に残すことで、万博はより深く記憶に刻まれるはず。きっと、自分だけの1枚に出会えるでしょう。

パビリオン内部もフォトジェニック

基本的に予約なしで入れる人気パビリオンの内部を紹介します。ただしいずれも待ち時間が生じる可能性があるため、他の予約との調整などが必要でしょう。(編集部)

シグネチャーパビリオン「EARTH MART

世界で消費される食料・食材をデータをもとに具象化。写真は産卵によって生まれた無数のイワシの行く末を描いた美しい展示。

シグネチャーパビリオン「いのちの未来」

ロボット工学の第1人者、石黒浩氏の手によるアンドロイド群。物理的な体、寿命、記憶といった制約から解放されたアンドロイドを通し「人間とは何か」を問い直す。最後の展示は圧巻。

アメリカパビリオン

数あるテーマのうち、力が入っているのが「宇宙開発」。カウントダウンの後、宇宙に飛び出す探査船に搭乗し、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で撮影した天体写真の数々を鑑賞できる。最後には「月の石」も。

中国パビリオン

史書に着想を得たアニメーションや、古代の遺物のレプリカが壮大なスケールで展示されている。竹簡をモチーフにした外観にも注目。

カナダパビリオン

渡されたタブレットをかざすと、氷山にカナダの風景や風物が拡張現実(AR)で表示される趣向。

フィリピンパビリオン

フィリピンの各地方を織物で表現。趣向を凝らした技術と染色の可能性で、現地の多様な文化を布の上に再現している。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。