コラム

吉祥寺でいまフィルムカメラを扱う理由とは——オルレアカメラ

若い世代に素性のいいカメラを渡したい

お話を聞いた斎藤さん(左)と木野さん(右)。

いまフィルムカメラに注目が集まっている。ミラーレスカメラの短いフランジバック特性を利用してクラシックレンズを利用できるようにしたマウントアダプター製品が国内外で数多く登場したことをうけて、オールドレンズの世界が一躍注目を集めた頃と機を一にするようにして、若い世代を中心にフィルムカメラならではの描写が新鮮な世界として受け入れられるようになってきたのだ。

今秋、富士フイルムがモノクロフィルムのACROSを復活する(ネオパン 100 ACROS II)と発表したことに大きな反響があったことも記憶に新しいところだろう。こうしたフィルムカメラリバイバルの動向は、新しいスタイルのカメラ店舗が次々とオープンしていることからも、じわじわとその裾野がひろがりつつある。

こうした中で、写真やカメラの魅力を伝えようとしている店舗の姿を追った。今回は、2019年8月3日に東京・吉祥寺にオープンしたばかりのオルレアカメラを訪問。いまフィルムカメラを扱う理由を聞いていった。

カメラや写真を通じて人が集まる場に

クラシックカメラは、そのほとんどがAF機構や測光系の電子部品が使われていない、あるいはほとんど使われていないものが多いため、メンテナンスさえしっかりしていれば、数十年前の製品であったとしても使うことができる。しかしその反面で、長い年月を経てきているため購入手段は中古のみで、そのため製品の状態はまちまち。使い方も独特な作法があったりと、興味はあるけれども躊躇してしまうという人も多い。

こうしたちょっと敷居が高く感じられるカメラであっても安心して使ってもらいたい、というのがオルレアカメラの想いだ。

代表の斎藤さんは「写真を始めたいと思っている人やフィルムをやりたいと考えている人、若い人にきちんとしたカメラを渡したい」と話す。店舗にならぶ商品はすべて、店長をつとめる木野さんも含めて“自分たちが使用したことのある製品”とのことで、製品の使い方はもちろん、特徴や作法などをしっかりと説明して手渡しているのだそうだ。

店舗のWebページに「単にカメラを販売するだけのお店にしたくない」と掲げているように、「カメラを販売した“その先”のフォローもしっかりとやっていきたい」と話す斎藤さん。カメラを手にしたその後も写真を楽しんでもらえるようにしていきたいと続けた。

中判カメラをある所有者から買い取った際も、前所有者の「若い世代に託してほしい」との意向をうけて、学生に機材を託したのだというエピソードも。何代もの人の手を経て手渡されていくクラシックカメラと使い手の間に立ち、そうした人々の交流の場になっていければ、と話す。

店内の様子。クラシックカメラだけでなく一部デジタルカメラの取り扱いもある。左下にはデジタル時代のミノルタ製品が。
ライカM6。こちらはケースつきの状態で陳列。整備済みのもので、実は売りたくない(笑)というコメントも。

また、同店にはギャラリースペースも併設されている。ドアを閉めれば、店舗スペースから独立したものとなるなど、作品の展示などだけでなく、ワークショップなどにも活用できる。こうしたポイントをいかして多目的なスペースとして提供していきたい考えだ。こうした写真を撮って、それを人に見せるところまでがフォローできるようになっている。

ギャラリーの一角。白壁にかけられているのは、バルナックライカで撮影した作品とのことだ。

レザーアイテムの受託製造も

店長をつとめる木野さんは、「昨日カメラ」の名でカメラケースなどの制作活動を続けてきた一面ももっている。

昨日カメラとしての作家活動については、これまで革製品のオーダーを受けてユーザーのカメラにあわせたカメラケースをワンオフで制作してきたという木野さん。オーダーの数や問い合わせが増えてきたこともあり、実店舗をはじめなければ、と思っていたのだという。

金具にはオーダー品を使用するなど、ワンオフならではのこだわりも。季節によって使用する蜜蝋の種類も変えるなど、数をつくらないワンオフならではのこだわりに満ちた工作も、カメラ所有者の琴線に触れているのだろう。

また底板や、直接手が触れる側面など、場所によって革の厚みを変えたりするなど、製作者自身が実際に写真を撮っているからこそ、実感としてもっている配慮もまた、使い手を考えたつくりにつながり、その魅力を後押ししているのだと感じられた。

木野さん制作のレザーアイテムがならぶ。

吉祥寺の風景になじむ

吉祥寺は作家ものの雑貨を扱うお店やギャラリー、古着屋など個性的な商店が数多く立ち並ぶ街だ。オルレアカメラは、そうした個性的なお店が立ち並ぶ本町通りから1本道を隔てた立地で営業している。

ところでオルレアカメラという店名、どのような意味があるのだろうか。店名がなかなか決まらなかった時に、庭先に咲いていたハート形の小さな花——オルレアに目がとまったのだと話す斎藤さん。店舗で扱う“オールド”で“レア”なカメラに音が重なったこともあり、店名をオルレアカメラとすることを木野さんとともに決めたのだと教えてくれた。

こうしたクラシックなカメラの魅力しかり、木野さんの革製品もしかりで、時代を経て人々に愛されたモノが数多く集まる吉祥寺の街で、やはり独特な価値観をもって個性ある品物を求める人が数多く訪れる街の風土に、同店ははやくも溶け込みはじめているように感じられた。

お客さんについて尋ねると、訪れる客層は様々で年齢層も幅広いという斎藤さん。そうした中で“人とは違うカメラ”を求める人が訪れてくる例もあると話す。このあたりは、吉祥寺ならではといったところだろうか。ほかにもバルナックライカを使っていた人が子どもを撮るためにAFの効くコンパクトカメラを求めてやってきたというエピソードも紹介してくれた。

こうしてお話を聞いている折にも浴衣姿でローライフレックスを下げた若い女性客が来店した。きっとカメラ好きが集まる場所になっていくことだろう。機材を種に写真談義に花が咲いていた。

店舗外観

本誌:宮澤孝周