特別企画
祝・世界遺産登録! 富士山でご来光を撮ろう
Reported by武藤裕也(2013/7/12 11:47)
2013年7月1日、富士山(標高:3,776m)が正式に世界遺産登録されました。あまり山に登ったことのない方も、一度は日本最高峰の富士山からのご来光撮影をしたいと思ったのではないでしょうか。
普段から風景写真をメイン取り組んでいる方でも、登山が伴うと使用機材・装備など変わってきます。撮影と登山を快適に楽しむための解説をしていきましょう。
準備1:撮影機材
登山を伴う撮影なので持っていける機材は限られます。普段一眼レフカメラを使っている場合でも、はじめはコンパクトカメラにするなど、とりあえず様子をみてもいいかもしれません。私の場合はマクロレンズを持っていく代わりにエクステンションチューブで代用するなど、携行品はできるだけ嵩張らないようにします。
・カメラボディ
小型軽量な入門機や中級機がおすすめです。屋外での撮影になるため防塵防滴性能は頼りになりますが、被写体の性格上、連写性能などは特に必要としません。荷物が限られることもあり、小型軽量な入門機で十分といえます。
・交換レンズ
標準ズームレンズ1本で十分ですが、広がる空や雲・星空を広く写したい時は超広角レンズがあるとベターです。私の経験上、欲張ってあれこれ複数本の交換レンズを持って行くより、目的を絞り込んだほうが良いカットが残ります。
・三脚
中型(脚径28mm前後)以上のものが安定感があります。ただし三脚が大きくなるほど重くなるので、体力に合わせて選びます。
エレベーターを使わずに、カメラが胸から顔の高さにくるものが理想です。
・ハーフNDフィルター
ご来光の光が強く、地平線・雲平線を堺に上下のコントラストが強い場合使用します。ハーフNDフィルターを使用する代わりに、HDR合成を使うのも有効といえます(後述)。
・木炭カイロ・ハクキンカイロ
ご来光の数時間前から待機し、星空撮影などする時にレンズの結露防止として使います。
使い方は写真のようにバンドや輪ゴム、パーマセルテープなどでレンズに止めておくだけです。
・文字盤が発光する腕時計
ご来光時間までの時間確認のほか、星空をバルブ撮影する時などの時間把握に使います。
・ヘッドライト・ペンライト
暗闇の機材設営・設定の時に手元を照らします。
赤色LEDは眼球の明順応(暗闇に慣れる)を最も妨げない色と言われているため赤色LEDを内蔵しているモデルをおすすめします。
また、撮影中はライトをOFFにすることで撮影トラブルを防ぎます。
・サンガイドRV・Sun Surveyor(スマホアプリ)・コンパスなど
日の出位置をあらかじめ現地にて把握することで、これからの撮影の想定をすることができます。
・ケーブルレリーズ、リモコン(なくてもOK)
登山では荷物を減らしたいので、ケーブルレリーズがなくてもカメラの2秒タイマーで代用できます。
・ブロワー
砂ぼこりが多いシーンなどのレンズ交換時に役立ちます。
また雨でレンズ面が濡れて、クロスでは拭きムラが残るときなど水滴を飛ばします。
・レインカバー
雨にかぎらず、撮影待機中にカメラ保護とバッテリーの低温防止にレインカバーを使うといいでしょう。
準備2:登山の装備
・レインウェア
山の天気は変わりやすいため雨対策は必須です。
風が強い場合や登山道のすれ違いの時に邪魔になるため傘・折りたたみ傘は使いません。
また日の出時刻前の富士山山頂は夏場でも氷点下になることもあるため、雨天・天候に関わらず、防寒具としても有効です。撮影待機中に、カメラ保護とバッテリーの低温防止にも使うといいでしょう。
・ブーツ
くるぶしが隠れるものがお勧めです。ハイカットのものは捻挫を防ぐだけでなく、足首をサポートするため登山の疲労軽減の効果もあります。
砂地・岩場、雨天など様々な路面状況に対応するビブラムソールのものがおすすめです。
・ザック
日帰り〜1泊の場合30〜40L程度の容量が標準的ですが、携行する撮影機材によってワンサイズ大きいものなど選ぶとがいいでしょう。
ざまざまなザックがありますが、背中に隙間が少なくフィットするものを選びます。
写真のザ・ノース・フェイス「テルスフォト40」は、山岳写真家が監修したザック。三脚ホルダーを備えるだけでなく、サイドから気室にアクセスできるのが便利です。さらにカメラ機材用の仕切り板があるため、撮影登山向けのモデルといえます。
・ヘッドランプ
登山中両手をあけるためにヘッドランプを使用します。
・防寒着
休憩時やご来光待ちなどは体が冷えるのでライトダウンなどの併用をおすすめします。
ライトダウンはコンパクトになるので登山では重宝しますが、長袖Tシャツを重ね着しても保温性はあります。
・スパッツ
雨、小石、砂ぼこりの侵入を防ぎます。
レインウェア同様に登山では欠かせません。
準備3:登山の装備(あるといいもの)
・ストック、杖
ストックは2本あるととても楽です。富士山の山小屋で売っている金剛杖でもいいですが、重く大きいので、登山専門店で入手するものの方がベターです。
はじめは高価なものを買う必要はありません。2本セットで数千円〜1万円程度のもので十分です。
・ひざサポーター
登山未経験者にはあまり知られていませんが、多くの場合で登りの時にひざの炎症を起こします。そしてこの炎症は登りの時は気づきませんが、下山時痛みに気付きます。
痛みに気づいてからサポーターを使用するのでなく、登山時から着用するといいでしょう。
テーピング技術があるのであれば、テーピングで代用可能です。
・使い捨てマスク
砂ぼこり対策や日焼け止めにもなります。
富士山の下山ルートは砂走り(砂地の坂道)で砂ぼこりに苦労します。
・日焼け止めクリーム、サングラス
標高が高くなると紫外線量が増えます。晴天時には火傷レベルの日焼けになることがあります。
また晴天に関わらず曇っている時でも雲や霧の反射で紫外線量は多いので、日焼け止めクリームやサングラスをかけることで目や肌の炎症を防ぎます。
準備4:ご来光撮影の下調べ
撮影地にはご来光時刻の1時間前に到着していたいものです。
ご来光撮影の準備をするはもちろんですが、薄暗いシーンでも夜明け前の美しいグラデーションを撮影できます。
・時刻の確認
日の出時刻を調べるのには様々な方法がありますが、国立天文台 天文情報センター 暦計算室などを見るのがいいでしょう。「計算地点」のプルダウンから「その他」の欄で「富士山山頂」を選択します。
日の出時刻は日本どこでも同じではありません。例えば富士スバルライン五合目は上記時間より日の出が約2分遅れます。須走口五合目は約3分遅れなど、経度と標高によって異なります。もしご来光方面に山体などあれば遮られますので、ご来光時刻はそれより遅い時間になります。
・方角の確認
日の出の位置(方角)は半年で約60度動きます。過去に行ったことがある場所でも失敗しないよう、撮影に行く前にあらかじめ調べておくと良いでしょう。
スマートフォンアプリ「サン・サーベイヤー」(Sun Surveyor)を使えば、太陽と月の位置(方位、高度、時間)を予測できます。無料版のLiteで十分ですが、有料版にアップグレードするとGoogleマップとの連携が図れるなど機能拡張します。詳しくは過去の記事を参照ください。
・ケンコー サンガイドRV
1年の日の出方向を示したプラ板に方位磁石が付いており、プラ板と方位磁石の北位置をそれぞれ合わせるだけで、日の出位置が分かります。特別な知識不要な便利グッズです。詳しくは過去の記事を参照ください。
三脚について
ご来光撮影に欠かせないアイテムといえば三脚です。ベルボン「ジオ・カルマーニュN645M」を例に、三脚の各機能をおさらいしましょう。
・三脚の選択
三脚を選択する上で重要なのは、十分な高さがあること。脚を伸ばし、エレベーターを使わない状態でカメラが胸から顔の高さになるものを選びます。
・ゴム石突き/スパイク石突き
足場に合わせて三脚足をゴム足・石突きの選択をします。操作はゴム部分を回すだけです。先端には錆に強いステンレスチップを採用しています。
・ウレタングリップ
ウレタングリップは脚の保護と、寒冷地撮影の時に三脚の冷えをダイレクトに撮影者に伝えないためのものです。
・水準器
最近はカメラ内に電子水準器を備える製品が増えてきました。設営時にあらかじめ水平を出せる便利な装備です。
・エレベーターフック
エレベーター部分にザックやカメラバックを掛けるためのフックがあり、これを使用することで三脚の重量を稼げます。カーボン三脚が軽量であるがため弱点とされていた安定性が解消され、風がある状況で三脚の転倒防止にもなります。
使用レンズによって異なる部分はありますが、三脚の重量と乗せる機材の重量は一般的に「2:1」の比率が理想とされています。
元々は重量のあるものを入れることで重量かさ増しし、安定をはかるものでしたが、交換レンズや使用頻度の高い撮影用品を入れておくことで、交換やアクセスが容易になる利点もあります。
・三脚ケース
もし三脚を新たに購入予定であれば、本体スペックのほかにどんな三脚ケースがついてくるのか調べるべきです。スペックには三脚ケースとしか書かれていないので実際の付属品を確かめる必要があります。
私がオススメする三脚ケースはケースごと斜めがけできるタイプです。
登山では斜めがけすることはないですが、普段三脚を携行するのに負担を大きく減らすことができます。
・ローポジション
富士山は標高や土壌などの関係でお花畑はありません。でも、他の山で高山植物を見かけたら撮影したいものです。そこで三脚をローポジションにすると、低い位置の被写体が撮りやすくなります。
・自由雲台
登山では少しでも荷物を減らしたいところです。そこで三脚の軽量化をはかるため、3ウェイ雲台を自由雲台に変更します。自由雲台はシンプルな構造なので、軽量化とともに嵩張りません。
雲台はエレベーターとネジで接続されています。ピッチは同じですが、場合によってネジ径が異なります。必要に応じてアダプターを使います。
・クイックシュー
登山で疲れている時などは、三脚設営の手間を最小限にしたいものです。そのような時はクイックシューが適しています。
実際に富士山で試したテクニックを解説
ここからは、実際にご来光を求めて登山したときのレポートになります。2013年6月28日、山開き前の富士山へ向かいました。
ふじあざみ道路を通り、須走口新五合目(約2,000m)についたのが23時30分前です。
駐車場で準備運動と食料補給をしながら1時間ほど高所順応して0時30分に出発しました。
天気予報は「曇りときどき晴れ」。梅雨明けしていないので雨を心配していましたが、幸いにも雨が降る気配はありませんでした。
この時点で気温は15度前後です。上着がないと寒く感じますが、動き出すと長袖シャツくらいがちょうどよかったです。休憩時に体を冷やさないように上着などをすぐに出せる準備をしておくといいでしょう。
須走口をスタートしお土産物屋、樹林帯を抜け15分ほど登ると灌木帯に入り視界が開けます。分岐するような道はないので夜間でも迷うことはありませんが、順路指示を確実に見つけて進みます。
1時間半くらい進んだ所で六合目の長田山荘(標高2,400m)に到着します。さらに進んだ本六合目の瀬戸館(標高2,600m)あたりから背丈より高い木がなくなり、冷たい風が吹くようになりました。休憩する時は風を遮るところを探すといいでしょう。
そして3時30分ごろ七合目の大陽館(標高2,920m)に到着しました。相変わらず天候は曇りです。さらに上空は雲がかかっていることと、これ以上登っても劇的にご来光シーンが良くなることはないと判断して、ここをご来光の撮影地に決めました。
・テクニック1:ハーフNDフィルター
ハーフNDフィルターは画面内の明暗差が大きい時に使い、白飛びや黒つぶれを防ぎます。今回使用したのはLEE角型ハーフNDフィルター0.6(100mm幅)です。2段分のND効果があります。
・テクニック2:HDR合成
HDRとはHigh Dynamic Rangeのことで、明暗差を広くとったもののことを言います。
写真は明るいところと暗いところを同時に表現することはできません。明るいところに露出を合わせれば暗いとことは真っ黒に潰れてしまい、逆に暗いところに露出を合わせれば明るいところは白く飛んでしまいます。露出を変えた複数枚のカットからそれぞれ適正露出であるところを抽出することをHDR合成といいます。日の出などコントラストの高い画像には最適といえます。
・テクニック3:ケーブルレリーズの使用
登山が伴う撮影の場合、荷物を減らす目的で私はケーブルレリーズを持って行きません。その代わり、2秒セルフタイマーを使用します。
ケーブルレリーズを使う場合は、思わず抜けるの防ぐため、三脚の足に固定しておくといいでしょう。
・三脚の設置
路面の状況によって脚の伸ばし方、石突きの選択などより三脚が安定する方法を考える必要があります。登山で路面が整地されているのは山荘の前くらいしかありません。富士山の登山道のほとんどが砂地・ガラ地です。足が接地する3点とも砂地だと不安定なので、3点のうち1点でもいいので、大きな石や岩が掛かる場所を探すといいでしょう。
この例では、前方部分の足を一段広げて岩に設置しました。坂であったため後方の2本の長さをそれぞれ変えて三脚自体が水平になるようにしました。
なお、狭い登山道で三脚を広げるのは混雑やトラブルの原因になるので、そのあたりの配慮もお願いします。