特別企画

ロシアより愛を込めて復刻!

ロモグラフィーNew Russar+ 20mm F5.6を試す

New Russar+と元箱。金属製のフロントキャップとプラスチックのリアキャップ、M/Lリングのほか、ミニ写真集が付属する

ロシアが誇る対称光学系超広角レンズの復刻版

New Russar+(ニュー・ルサール・プラス)はロシア・ゼニット社製ライカスクリューマウント(フランジバック28.8mm のL39 マウント)レンズだ。ロモグラフィーが取り扱う。35mmフルサイズフォーマットで焦点距離は20mm、開放F値はF5.6。かつて存在したRUSSAR MR-2 20mmF5.6 を復刻したものだ。このRUSSAR MR-2はゆがみの少ないライカスクリューマウントの名レンズのひとつとして有名だった。目測によるピント合わせでスナップショットをするカメラマンに愛されていた。

主要スペックは以下のとおり。
焦点距離:20mm
絞り:f/5.6 - f/22
最小イメージサークル:44mm
撮影画角:94°
フランジバック:27.8mm(ライカM マウント)
M マウントフレームライン:28mm
最短撮影距離:0.5m
フィルター径:49mm
収差:~ 0.09 %
レンズ寸法:L 35mm、W 35mm、H 55mm
重量:98g

ここまで読んで「ええっ!」と驚く読者と「ふーん、そうなんだ」で済む読者がいるかもしれない。筆者は前者だ。「ふーん」ですむ方は以下の一節は読み飛ばしてくれてかまわない。男の子が大好きなうんちくを少しだけ書かせてもらうからね。

LOMOGRAPHY + ZENITの刻印が入る。Krasnogorsk(クラスノゴルスク)はZENITのあるモスクワ郊外の町の名前。モスクワから25km ほどのところにあり、東京でいうと(少し離れるけれど)八王子くらいか(?)
絞りはレンズ前面にある。フィルターは装着可能だが、フィルターを装着すると絞り操作のさいにフィルターを外す必要がある。なお、絞り開放(F5.6)でも絞り羽根が完全に開くわけではない
距離指標と被写界深度表示。最短撮影距離は50cm。とても薄いレンズだ

解説しよう! RUSSAR MR-2とは

New Russar+のオリジナルであるRUSSAR MR-2は1957年に設計開始され、1958年から生産が開始された独自の対称型の光学系を持つ20mmレンズ。当時ソビエトで大量生産されていたライカスクリューマウントカメラ(Zorki、FED、Leningrad)用交換レンズのひとつだ。小型軽量でたいへん薄い鏡筒が外見上の特徴だ。設計はミハイル・ミハイロヴィチ・ルシノフ(1909〜2004)の手による。Mikhail Rusinovの略の「MR」(エム・アール)のロシア語アルファベット「MP」(エム・エール)を冠する。

ルシノフは航空撮影用カメラの設計を手がけた、ソビエト時代の著名な光学技術者だ。測量や偵察に使う機材では、できるだけゆがみの少なく、周辺光量の多いレンズが求められるそうで、そこで得た技術を一般用のレンズに応用したのがRUSSAR MR-2だった。ルシノフのこの設計は1950年代にはたいへん画期的で、1958年に第二次大戦後にはじめて行われた大型国際博覧会であるブリュッセル万国博覧会(EXPO-58)ではいくつかのレンズとともにグランプリを受賞したという。

筆者が驚いたのは、このRUSSAR MR-2 はソビエト崩壊前には西側ではなかなか手に入らず、その後やってきたロシアカメラブームのなかでも、程度のよいレンズは探さないと入手できなかったことを覚えているから。しかも、あの頃に出回ったものは、長年にわたり適切なメンテナンスをされなかった「古物」がほとんどだった。あのブームから15年以上たち、いまやカタカナで「ルサール」と書いたら「ユナイテッドカンパニー・ロシア・アルミニウム(RUSAL)」と思われかねない時代に、ロモグラフィーとZENITがRUSSARを復刻させてくれて、筆者はとてもうれしい。

黒いレンズが筆者所有のRUSSAR MR-2。なお、1958年頃の製品はアルミのまま銀色だった。対称型光学系のレンズなので、レンズ後端がかなりフィルム面に接するために、フィルムカメラではレンジファインダー機ではないと装着できない

現代風にアレンジされて

さて、このNew Russar+はかなり忠実な復刻版だが、現代風のアレンジもなされている。まず外装はアルミから真鍮になり、クロームメッキが施された。そのぶん重みは増したが、もともとが小型であるために気にならない。むしろ、耐久性が高まった。また、フィルターを装着できるようになった。対称型の光学系は継承されているが、周辺光量落ちを考慮してか、前後のレンズを固定する枠が異なるようだ。さらにコーティングも変わった。

RUSSAR MR-2 とは厳密な撮り比べをしてはいないが、New Russar+のほうがコントラストも高い。このあたりは、現在手にはいる材料なりに変更されているのかもしれない。

強烈なトンネル効果を楽しもう

さて、New Russar+は周辺光量落ちが少なくなることを意図された対称光学系のレンズではあるが、クラシックレンズをデジタルカメラにつけて楽しんでいる読者の方ならご存知のとおり、デジタルカメラではフィルムカメラで撮影する際よりも、ずっと周辺光量落ちがめだってしまう。この周辺光量落ちと色ずれは、撮像素子とフィルムの特性のちがいによるもの。New Russar+はいわば、画像処理をしないでも強い「トンネル効果」を得られるレンズというわけだ。

この特徴を活かせばフラットな光線状態でも、たいへん印象強く仕上げることができる。お使いのカメラの絵作り設定や画像効果を工夫して、色みを強めるとさらに楽しめるはずだ。RAW撮影をしてじっくり楽しむのもいい。

ソニーα7 IIにフォクトレンダーのVM-Eクロースフォーカスアダプターを装着して使用した。この組み合わせはとてもかっこよくてしびれた。
VM-Eクロースフォーカスアダプターを使えば、最短撮影距離50cm をさらに近接させることができる。

フィルムで撮るのも楽しい

そして、New Russar+はL39(ライカスクリューマウント)レンズなので、バルナックライカやライカなどの距離計連動式フィルムカメラでももちろん楽しむことができる。そのさいには、各自で20mm用ファインダーを用意しよう。ただし、距離計連動はしない。レンズの距離指標を見て目測によるピント合わせを楽しもう。

ZENITの昔のフィルムカメラZorki-3 (後期型の1957年製モデル)に装着したところ。もちろんととてもよく似合う。ファインダーは筆者所有のRUSSAR MR-2 用のVI-20型ファインダー。パララックス補正が可能
ロシアカメラを持っている人にはおなじみの工場刻印入りのキャップ
いずれもα7 IIの各種レンズ収差補正はオフで使用し、クリエイティブスタイル「スタンダード」でDROはオートで撮影した。レンズ収差補正はオンにしても周辺光量落ちはあまり変わらない印象
近接撮影時はとくに拡大してピント合わせを行うほうが確実だ

空を画面にたくさん入れると大きく周辺光量が落ちることがわかる。これをうまく使うことを考えたい

超広角レンズで狭いところを写すのは楽しい

フラットな光線状態でもなんだかドラマチックに写る

最短撮影距離50cmまで近寄ることができるが、VM-Eクロースフォーカスアダプターを使えば一眼レフ用レンズほどではないが、かなり近接できて楽しい

まとめ

New Russar+は現在のデジタルカメラでの使用を考慮されているとはいえ、やはりなんともクラシックな描写をする。周辺光量落ちや色ずれは最新のデジタル専用レンズにはない描写といっていい。加えて、New Russar+の小ぶりで引き締まったデザインは魅力的だ。組み合わせるボディとのデザインのマッチングを考える楽しさもある。どんなひとにもおすすめできるとは言わないが、このたたずまいが好きならば、きっと楽しめるはずだ。

秋山薫

(あきやま かおる)1973年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。月刊カメラ誌編集部員、季刊カメラ誌編集長を経験。編集者・写真家として活動中。Kindle電子書籍「ぼろフォト解決シリーズ」の執筆・編集も行っている。