特別企画

クラシカルなフォルムに込められた現代的な描写力

フォクトレンダー ULTRON 35mm F1.7の魅力を探る

コシナ/フォクトレンダーから8月に発売されたULTRON 35mm F1.7は、NOKTON 50mm F1.5 Aspherical VMに続く同社Vintage Lineシリーズの第2弾レンズ。

マウントはライカMマウントと事実上の互換性をもつ同社VMマウントで、M型ライカや、フォクトレンダーBESSAシリーズ(L、R以外)、ZMマウントのツァイスイコンシリーズなどのカメラで距離計連動レンズとして使用可能な他、マウントアダプターを併用することで各種ミラーレス機に装着して撮影することも可能だ。M型ライカなどの距離計連動カメラに装着した場合、距離計によるピント合わせが可能なのは70cmまでだが、ライブビュー可能機での使用を考慮して最短50cmまで寄ることができる。

Vintage Lineということで、外観デザインは凝りに凝った意匠が施されており、往時のオールドレンズを彷彿とさせるたたずまいである。カラーはシルバーとブラックの2種類から選べるが、シルバーとブラックではまったく印象が異なり、シルバーがVintage Lineらしいレトロチックな印象なのに対し、ブラックの方はやや現代的な雰囲気となる。鏡胴素材はシルバーが真鍮製、ブラックはアルミ製ということで、重さもシルバーの方がズシリと重い。

絞りリングの絞り値表示は均等間隔ではなく、オールドレンズのように小絞り側の間隔が狭くなるタイプ。このあたりのコダワリにニヤッとする人もいるだろう。
ピントリングはギヤのような独特の形状で、切削ラインが美しい。グリスを介した動きは非常に滑らかで文句なし。
絞り羽根は10枚。

どちらを選ぶかはお好み次第だが、自分が選ぶなら重厚なメッキ仕上げが美しいシルバーの方を迷わずチョイスする。実際にシルバーを使ってみると、快晴時に鏡胴がピカピカ反射して絞り値が読みにくかったりもするのだが、そんなことは関係ない。金属の持つ硬質でクールな素材感をこれほど強く感じさせてくれるレンズは貴重だし、使っていて大いに満足感を得られた。

レンズに付属するのは黒いアルミ製のプレーンなデザインのねじ込み式フードだが、オプションでスリット入りのフードも用意される。実用的には付属フードで問題はないだろうが、ちょっと間に合わせ感が漂う。これだけデザインコンシャスな製品を選んだのならば、オプションのスリット入りフードはぜひ購入すべきと思う。
オプションのスリット入りフードを装着することでデザイン的な完成度がさらに高まる。
ライカM[Typ240]で、付属フードとオプションのスリット入りフードでファインダーの視野ケラれがどのくらい違うのか比較してみた。劇的に違うわけではないが、やはりスリット入りの方がケラれは少ない。

現代レンズらしい写り方

結像性能についてはオールドレンズのように絞り開放ではポヤポヤに滲むという感じではなく、現代レンズらしく、絞り開放でも確実にコントラストのある像を結んでくれるタイプだ。ピントの立ち上がりも極めて良好で、この点では現代的な写り方をする。ただ、像の結び方はガリガリに硬いわけではなく、しなやかさや柔らかさを感じさせるような印象。シャープだがシャープすぎない開放描写である。

ヌケの良さは現代レンズのそれ。組み合わせるカメラの画処理傾向にもよるだろうけど。
LEICA M(Typ240) / ISO200 / F5.6 / 1/750 / WB:オート
絞り開放でも合焦部分は明確な像の立ち上がりがあり、オールドレンズのような甘すぎる印象は皆無。ちゃんと解像しつつも決して硬すぎないので、髪のしなやかさなどがよく表現されている。
LEICA M(Typ240) / ISO320 / F1.7 / 1/125 / WB:オート
どちらかというと絞りを開け気味に使ったときの方が個性を発揮できるレンズだと思うけれど、絞り込んだときの描写ももちろん秀逸。
LEICA M(Typ240) / ISO200 / F8 / 1/500 / WB:オート

もちろん、絞り込めば像質は揺るぎない方向へ変化し、超シャープな描写を得られる。絞り開放でのシャープネスをちゃんと確保しながらも、絞りによる像質変化も楽しめるという、かなり高度な設計思想のレンズと感じた。

F8まで絞って撮影。解像性能的には文句なしだが、不要にカタくなりすぎないのが好ましい。
LEICA M(Typ240) / ISO200 / F8 / 1/500 / WB:オート

一方、絞り開放あるいは開放気味にしたときのアウトフォーカス描写はちょっと独特だ。ボケが硬いわけではないのだが、かといってすごく柔らかいわけでもなく、ちょっと芯の残ったボケ味のためか、やや賑やか目なアウトフォーカス描写になる。これはこれで面白い。人によって好みは分かれるかもしれないが、個人的にはこういうボケ味も好きだ。

絞り開放のアウトフォーカス描写はこんな感じ。玉ボケのエッジは明確に残るタイプなので、ややニギやかな印象となる。非球面レンズを使っている場合、独特の同心円状の筋が玉ボケ部分に表れることが多いが、このレンズはそれは最小限でほとんど気にならない。
LEICA M(Typ240) / ISO320 / F1.7 / 1/60 / WB:オート
アウトフォーカスの玉ボケを見ると口径食により周辺で楕円になる傾向が見られるが、このくらいは一般的というか、むしろ良好な方だ。
LEICA M(Typ240) / ISO1600 / F1.7 / 1/45 / WB:オート
こうしたモノのカタチが残るくらいのボケ量のとき、独特のアウトフォーカス描写であることがよく分かる。
LEICA M(Typ240) / ISO1600 / F1.7 / 1/25 / WB:オート

周辺光量は明確に落ちるタイプ。周辺落ちについてはレンズの客観評価としてはネガティブファクターなのだが、作画的には周辺が落ちていた方が好ましい場合も多いことから、落ちる方が好きという人も多い。自分もまさしくソレなのだが、最近のレンズは周辺落ちの少ないモノが多く、RAW現像時に逆にわざと周辺を落とすこともよくあるほど。そういう周辺落ちウエルカム派な人にとっては、このような明快に周辺落ちしてくれるレンズはむしろ貴重ですらある。

ライカMとの組み合わせの場合、絞り開放で周辺光量が落ちると言ってもこの程度で、それほど極端ではない。周辺部の色つきはほぼ気にならないくらい良好に補正されている。
LEICA M(Typ240) / ISO200 / F1.7 / 1/500 / WB:3900K

ライカMマウント互換の35mmレンズは複数のメーカーからたくさん発売されているが、その中でも本レンズは魅力的な外観デザインと作り込みの良い鏡胴、そして現代レンズとして高い基本性能を備えつつも、写りにはシッカリとした主張を持った個性的なレンズとして、非常に興味深い1本だ。すでにMマウントの35mmレンズを持っていたとしても、それとは別に使い分けたくなるようなレンズといえる。

これはそれほど強い逆光ではないけれど、実験的に強逆光状態で試した結果は良好で、ゴースト耐性はかなり強い。
LEICA M(Typ240) / ISO200 / F1.7 / 1/125 / WB:オート
ピントリングは独特の形状だが、操作性は決して悪くない。今回はすべて距離計によるピント合わせだが、精度的にもとても良好だった。
LEICA M(Typ240) / ISO320 / F1.7 / 1/500 / WB:オート
今回はシルバー鏡胴の方を使ったが、シルバー鏡胴は真鍮製なので、ほどよい重量感が手応えとして非常に心地よかった。
LEICA M(Typ240) / ISO200 / F8 / 1/350 / WB:オート
コントラストは十分にあり、このあたりの写り方はきわめて現代的。
LEICA M(Typ240) / ISO200 / F8 / 1/500 / WB:オート
距離計連動カメラで35mmというのはやはりスナップでとても使いやすい。このくらい明るい場所だとシルバー鏡胴は太陽光が反射して絞り値が読みにくかったりするのだが、それでも個人的には選ぶならシルバー。
LEICA M(Typ240) / ISO200 / F8 / 1/500 / WB:オート

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。