特別企画

キヤノン EOS M3 in ハワイ

旅の記憶を切り取り残せるカメラ。思い通りに撮るには?

この記事は、インプレス刊デジタルカメラマガジン特別編集ムック「キヤノンEOS M3完全ガイド」から抜粋しています。この記事では写真家 鶴巻育子氏がハワイで撮影した作品を例に、EOS M3について解説します。

デジタルカメラマガジン特別編集ムック「キヤノンEOS M3完全ガイド」(インプレス刊。税別2,000円。発売中)
EOS M3
鶴巻育子氏

 ◇           ◇

EOS M2のヘビーユーザーである私にとって、新発売のEOS M3の進化には驚いた。切望していたダイヤル操作の搭載や、グリップ感の良さなど、うれしいことばかり。旅先でEOS M3を持つと撮りたくてたまらない衝動に駆られる。最強の旅スナップカメラと言えるEOS M3を使って、旅の記憶をうまく切り取るテクニックについて紹介したい。

メイン通りを少し入ると、小さなコンドミニアムがあった。空と同じ色の青い壁と、樹木と同じ緑色の建物。2つの色の中にある星条旗が印象的な場面だ。キヤノンEOS M3 / EF-M22mm F2 STM / 22mm(35mm相当)/ 絞り優先AE(F4.5、1/500秒、-0.3EV)/ ISO 125 / WB:オート / ピクチャースタイル:オート

広角ならではのパースを強調して画面を伸びやかに構成する

→広角レンズを使い手前に被写体を入れる

気持ち良い真っ青な空と青い家に対抗するような真っ赤な色の車が目立っていた。背後にある樹木の影でまだらになっている姿もまた、背景の清々しさと対照的で面白い。キヤノンEOS M3 / EF-M11-22mm F4-5.6 IS STM / 11mm(18mm相当)/ 絞り優先AE(F6.3、1/320秒、-0.7EV)/ ISO 125 / WB:太陽光 / ピクチャースタイル:オート


使用したレンズ:EF-M11-22mm F4-5.6 IS STM

●手順
1. 手前と奥に被写体がある風景を探す
2. 広角レンズをチョイス
3. パースを生かした構図を作る
4. 被写体に近づいてシャッターを切る

広い範囲を切り取ることができるのが広角レンズの特徴だ。また、広角レンズのパースを利用して道や高い建物などの線を取り入れると、遠近感が生まれる。

この写真では、画面手前から奥に電線が伸びるように配置してパースを強調している。また、広角レンズのもうひとつの特徴は、手前にある被写体は大きく、奥に行くに従って小さくなることによって、奥行き(遠近感)が得られること。

ここでは手前にある赤い車と地面に写る木の影が大きく、背景にある青い家が小さく写るような構図にした。それぞれの被写体の色が補色の関係にあることで、より分かりやすく描写されている。手前の被写体に思い切り近づくことが奥行きを作るポイントだ。

標準レンズでは見た目に近い印象
30mm(35mm判換算で50mm相当)の焦点距離は肉眼に近い画角。パースがつかないので収まりは良いが、特徴的な表現にはならない
ローアングルでは広さがさらに出る
道と電線が斜めに伸びていることで、パースがつき遠近感が得られている。少し下からのアングルで狙うことでアイレベルよりも広さが強調できた

ローキーで金属の重厚な質感をリアルに表現する

→露出を-0.7EVに補正する

ハワイの小さな街で見つけた郵便局の古いポストは今も現役だ。ローキーにして年季の入った質感を表現した。キヤノンEOS M3 / EF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STM / 18mm(29mm相当)/ 絞り優先AE(F4、1/125秒、-0.7EV)/ ISO 100 / WB:くもり / ピクチャースタイル:オート


使用したレンズ:EF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STM

●手順
1 .ポストを広く入れたかったので、18mmにする
2 .水平と垂直に気を付けてフレーミング
3 .適正露出で撮影してみる
4 .-0.7EVにして撮影

露出の決定は人それぞれのイメージがあるので、一概にどの明るさが正解と言い切ることはできない。しかし、被写体がより魅力的に表現される明るさというものは存在する。

例えば古いものや重厚感を感じる被写体は、暗めのローキーな表現が似合う。右の写真は、ハワイの郵便局に設置してあった古いポストを撮影したもの。露出補正をマイナスにして暗めの表現にすることで、変色している銅の部分などの質感が出て、歴史を感じることができる。

ローキーの写真は影や暗めの部分が引き締まるとともに、白い部分や明るい部分が目立つ効果もある。この写真では番号が書いてあるプレートの白い部分がそれにあたるが、明暗差によりどちらも引き立ってメリハリのある写真になった。

±0EVだと重厚感が出ない
カメラの適正露出で撮影した。このままでも十分に魅力的ではあるが、自分が感じた被写体の雰囲気よりも、軽いイメージに仕上がってしまった
露出を-0.7EV補正するには
マイナス補正にするには、露出補正ダイヤルを-側に回す。EVFをのぞきながら設定することもできるので便利だ

夕暮れの雑踏をぶらさずに撮る

→ISO 12800に設定する

ワイキキのメインストリートを歩く人々は、カジュアルな服装が多い。その中でヒールを履いた女性の足元に目がいった。街灯が被写体に当たり明るくなったところを狙った。キヤノンEOS M3 / EF-M55-200mm F4.5-6.3 IS STM / 181mm(290mm相当)/ 絞り優先AE(F6.3、1/160秒、-1.3EV)/ ISO 12800 / WB:太陽光 / ピクチャースタイル:オート


使用したレンズ:EF-M55-200mm F4.5-6.3 IS STM

●手順
1 .夜の街でも街灯や店頭の明かりが当たる場所を探す
2 .絞りを開放にしてシャッター速度を稼ぐ
3 .人が止まるシャッター速度を得るためISO感度を12800に設定
4. 女性が中心の位置に来たらシャッターを切る

旅先での夜の街スナップは楽しい。しかし、海外の街灯は日本の街灯に比べて暗めなこともあり、シャッター速度が遅くなる。そのため動きのある被写体を狙うと被写体がぶれやすい。

それを解消するにはISO感度を上げて高感度に設定し、シャッター速度を稼いで被写体を止める方法が有効だ。この写真では、主題となる女性の足が一番明るく照らされるところを狙った。きれいな足のフォルムを克明に描写したかったので、EVFを使って人の動きを確認しながら、ピントは女性に合わせた。

女性が動く速さと、動きが止められるシャッター速度を予測してISO感度を決定する。1/160秒のシャッター速度にするために、ISO12800までアップしている。高感度にするとノイズを心配するユーザーがいるかも知れないが、EOS M3のISO 12800は十分に使える画質だ。

ISO100だとぶれてしまう
ISO100だと絞り開放でもシャッター速度が1.6秒となり、被写体ブレと手ブレが同時に起こった。やはり低感度は夜のスナップに向いていない
ISO12800に設定するには
ISOボタンを押し、コントローラーホイールを回すとISO感度を変更できる。右へ回すとISO感度が上がる

写真の意図を確実に伝える

→タッチシャッターで主題にピント

ハワイ島の小さな街で雨に濡れたハイビスカスを撮影。水滴がついた色っぽい花を、街の雰囲気が感じられる画角とアングルで背景をぼかして狙った。キヤノンEOS M3 / EF-M22mm F2 STM / 22mm(35mm相当)/ 絞り優先AE(F2、1/1,000秒、±0EV)/ ISO 125 / WB:太陽光 / ピクチャースタイル:オート


使用したレンズ:EF-M22mm F2 STM

●手順
1. 主題が複数考えられるシーンを撮影する
2. 大きいボケが得られるF値の明るいレンズを選択
3. 絞りを開放に設定して背景を大きくぼかす
4. タッチシャッターでハイビスカスをタッチ

ピントの位置によって、その写真の意味は大きく変わる。とくに絞りを開けているときは、ピントが合っている被写体は主題としての存在感が増す。

この写真は、手前のハイビスカスにピントを合わせている。まず、伝えたかったのは花の美しさだ。さらに雨上がりで花びらに水滴が残っている情緒も見せたかった。

マクロレンズなどを用いて花を画面いっぱいに大きく切り取れば花の状態はより分かるが、ここではハワイの街に咲いている花だということを明確に伝えたかった。

また、雨上がりのしっとりした雰囲気も出したかったので、背景に建物を入れたフレーミングにして、タッチシャッターでハイビスカスにピントを合わせている。建物にピントを合わせた場合は、建物、または街が主題となり、ハイビスカスは南国であることを強調する色どりや、立体感を出している。

建物にピントを合わせると街が主題に
ピントを古いレストランに合わせる。手前にぼけたハイビスカスがあることで、この場所が南国であることが分かる。赤い色が差し色となった
タッチシャッターでシャッターを切る
タッチシャッターに設定すると、タッチするだけでシャッターが切れる。ピントと露出が瞬時に合うので直感的に撮影できる

背景を大きくぼかして主題を引き立たせる

→絞りを開放にする

EF-M22mm F2 STMは、開放F値がF2と明るい。そのため、美しいボケを生かした撮影が可能だ。この場合、背景は状況を表すというより、色味を生かしてアングルを考えた


使用したレンズ:EF-M22mm F2 STM

●手順
1. 大きなボケを得られるF値の明るいEF-M22mm F2 STMを選択
2. F値を開放にする
3. 被写体に近づいて背景をぼかす
4. ポストにピントを合わせて撮影する

背景を大きくぼかした写真を撮るには、ピントが合って見える範囲、つまり被写界深度を浅くすれば良い。絞りはF値という数値で表されるが、この数値を小さくすることで、被写界深度が狭まり、ぼける範囲が広くなる。

したがって、絞りを開放にすれば大きくぼかすことができるわけだ。EF-Mのレンズで一番明るい開放F値を持つのはEF-M22mm F2 STM。このレンズを開放F値に設定してピントはポストに合わせる。

ポストと背景の距離を離しているのも大きくぼかすためのポイントだ。F11の写真と比較すると、そのボケ方はまったく異なることが分かるだろう。F11で撮影した写真は背景の状況がはっきりと描写されているのに対し、F2の写真の背景は形が分からないほどぼけている。

また、被写体に近づくことで、もっとぼかすことも可能だ。下段中央の写真を見ても分かるように、ポストに書かれた「6」の文字の一部分にしかピントが合っておらず、その前後がぼけている。

では、F値の明るいレンズがない場合に大きくぼかして撮りたい場合はどうすれば良いか。その場合は、望遠レンズを使うと良い。レンズの焦点距離が長い方がぼけやすいからだ。当然、画角が変わるので背景に写り込む範囲は狭くなる。また、移動できる人物などの被写体であれば、背景との距離が取れる場所を選ぶことで、さらに大きくぼかした写真を撮ることも可能だ。

F11で撮影すると状況が分かる描写に
背景がぼけずに、建物や植物、車などの状況がはっきりと分かる描写となった。主題であるポストの存在は開放F値よりも弱まったように感じる
被写体に近づくとマクロのような表現に
ポストに最短撮影距離まで近づいて撮影している。さらに被写界深度が狭まり、ポストの一部分にしかピントが合っていない。マクロ撮影のような印象的な表現になった
望遠レンズでも大きくぼかせる
EF-M55-200mm F4.5-6.3 IS STMの望遠端200mmで被写体から離れて撮影すると、開放F値がF6.3だがこれだけぼかすことができる。圧縮効果で背景もすっきりした

鶴巻育子

東京生まれ。写真を本格的に学びはじめたのは、社会人になってから。広告代理店に勤めながら写真学校へ。その後、ブライダル写真事務所、カメラマンアシスタントを経て、写真家の道へ。カタログや雑誌の撮影、写真雑誌の執筆・撮影の他、ワークショップやセミナーなども行なっている。写真関係の著書多数出版。オフィシャルウェブサイト:http://www.ikukotsurumaki.com/