特別企画
ライカMで本領発揮するオールドレンズたち
“フルサイズミラーレス”としての使い勝手を検証
(2013/5/24 00:00)
ライブビューを搭載したライカM(Typ240)は、事実上の“フルサイズミラーレス機”だ。距離計連動を気にすることなく、ノーマルタイプのマウントアダプターで様々なオールドレンズが楽しめる。特にこれまでフルサイズ撮影が難しかったレンズが使えるようになり、オールドレンズのベースボディとして実に魅力的だ。本稿ではライカMによるオールドレンズ撮影のノウハウを解説しつつ、フルサイズミラーレスとしての本機で本領発揮するオールドレンズのタイプを紹介していこう。
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M型ライカのフランジバックは27.8mmだ。近年のミラーレス機ほどではないが、ミラーボックスを持つ一眼レフカメラに比べれば短いフランジバックといえる。そのためフィルム時代より、M型ライカに他マウントのレンズを付けて撮影するというスタイルが定着していた。
ただし、ここには距離計連動という大きな壁がある。M型ライカは周知の通りレンジファインダーカメラだ。レンズのピント位置とボディの距離計を連動させないと、二重像を用いたピント合わせができない。一眼レフカメラ向けのような距離計非連動のマウントアダプター(本稿ではノーマルタイプと呼ぶ)でレンズを付けただけでは、目測撮影になってしまうのだ。
そのためこれまでは、カプラーと呼ばれる距離計連動タイプのアダプターが必要だった。旧コンタックス、アルパ、プロミネントといったマウントのカプラーが代表的だが、カプラーの距離計連動精度、レンズのコンディションなどが影響し、完璧に距離計連動させるのは難しい。特に開放近接でジャスピンを狙うのは難しく、たいていはある程度で絞って撮影することが多かった。M型ライカはオールドレンズのベースボディとして有望だが、それなりに使いこなしが必要だったわけだ。
さて、新たに登場したライカMは、従来からの距離計連動に加えてCMOSセンサーを用いたライブビューを搭載している。レンズを通過した像がそのまま液晶モニターに映し出されるため、カプラーを使って距離計連動させる必要はない。また、カプラーを使った場合も距離計連動精度を問わず、液晶モニター上で厳密にピント合わせが可能だ。要は近年のミラーレス機と同じ感覚でオールドレンズ撮影できる。もちろん35mmフルサイズでだ。ライカカメラ社としてはライカRのレンズ救済措置としてライブビューを搭載したようだが、マウントアダプターさえあれば様々なオールドレンズでフルサイズ撮影ができる。
特に注目したいのは、国産一眼レフカメラのオールドレンズだ。キヤノンFD、ミノルタMD、コニカARなど、古い国産一眼レフのレンズマウントはフランジバックが短く、これまでフルサイズ撮影する手立てがなかった。その他にもライカMで本領発揮するオールドレンズがたくさんあるので、これらについては作例を交えながら後述したい。
ライカMのライブビュー撮影は、ミラーレス機でオールドレンズ撮影する際とほぼ同様だ。事前のセッティングは特に必要なく、背面のLVボタンを押すとライブビュー画面があらわれる。距離計連動するレンズに関しては、ライブビュー画面を表示したまま光学ファインダーでピント合わせすることも可能だ。
そして、前面のフォーカスボタンを押すと拡大表示に切り替わる。背面の設定ダイヤルで5倍/10倍の切り替えが可能だ。シャッターボタンを半押しすると通常表示に復帰する。ワンプッシュで拡大表示を呼び出せるのは利点だが、反面、拡大表示エリアの移動に対応していない。常に中央部を拡大表示する仕様なので、多少使いこなしを要するだろう。なお、液晶メニューの「フォーカスエイド」を「オート」にしておくと、レンズのピントリングをまわすだけで拡大表示に切り替わる。
本機はフォーカスピーキングも搭載している。液晶メニューの「フォーカスピーク」を「ON」にすると、合焦部が赤く色づく。拡大表示と併用も可能で、ピントの山がつかみやすい。ライブビューのMF操作に関しては、おおむね既存のミラーレス機に近いといえる。
APS-Cサイズセンサーのミラーレス機に、ショートフランジの広角レンズを付けると、周辺部がマゼンタに色かぶりすることがある。テレセントリック性を考慮していない広角オールドレンズで顕著な現象だ。ライカMはAPS-Cよりも大きな35mmフルサイズ相当のイメージセンサーを搭載しており、こちらもマゼンタかぶりの程度が気になるところだ。
しかし本機はセンサー上のマイクロレンズのレイアウトに配慮したというだけあって、現行純正レンズのスーパーエルマー18mm F3.8 ASPH.では周辺のマゼンタかぶりはほぼ発生しない。では、広角オールドレンズではどうだろう。
まず、フランジバックの長い一眼レフ用の広角オールドレンズは、おおむねマゼンタかぶりせずに撮影できる。フランジバックの短いレンジファインダー機用広角オールドレンズは、焦点距離28mmがひとつの目安だ。28mmは若干マゼンタかぶりする程度でさほど気にならない。手持ちのレンズでは、ライカMマウントのエルマリート28mm F2.8第2世代、マウント改造したコンタックスGのビオゴンT* 28mm F2.8が最小限のマゼンタかぶりだった。
一方、21mmはさすがにマゼンタかぶりが目立つ。GR Lens 21mm F3.5、スーパーアンギュロン21mm F4などはマゼンタかぶりが顕著だった。制約がある点は否めないが、フルサイズでショートフランジの28mmレンズが使えるというのは、ある種の快挙といっていいだろう。
- ・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- ・縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
このように、新しいライカMはオールドレンズのベースボディとして実に魅力的だ。しかしながら、現時点ではひとつだけウィークポイントがある。それは6bitコードセンサーの挙動だ。ライカLマウントレンズを半周型のLMリングで装着すると、マウント上の6ビットコードセンサーが露出する。この状態でLVボタンを押すと、「レンズが装着されていません」というアラートが表示され、ライブビューが起動しない。6ビットコードセンサーが露出した状態では、レンジファインダーでの撮影は可能だが、ライブビュー撮影できないのだ。
この際の対処法は、まず全周型LMリングを使うという手がある。また、パーマセルテープなどで6ビットコードセンサーをマスキングするのも有効だ。要は6ビットコードセンサーが露出しない状態であれば、ライブビューが起動する。ただし、このマスキングにちょっとしたコツが必要だ。6ビットコードセンサー上を黒で覆うと、やはり「レンズが装着されていません」というアラートが出てライブビューが起動しない。底面の黒いアダプター、および黒いテープでのマスキングでは、ライブビューが使えないので注意しよう。マウントアダプターの底面はシルバーが理想的で、マスキングする際も白いテープが確実だ。
この問題についてライカカメラジャパンに問い合わせたところ、ドイツ本社も問題は認識しているという。いずれ何らかの対処がなされるという話だった。これは筆者の希望にすぎないが、ファームアップで「レンズなし時のライブビューを有効にする」というメニューが新設されれば、本機のライブビューはかなり使いやすくなるだろう。
キヤノンFDマウント:FD 55mm F1.2 S.S.C.
キヤノンFDマウントのフランジバックは42mmと短く、現行のEOSボディには装着できない。キヤノンEFマウントのフランジバックは44mmなので、無理に取り付けても無限遠が出ないのだ。つまりこれまでは、キヤノンFDマウントレンズをデジタルでフルサイズ撮影できるボディはなかったことになる。同レンズのフルサイズ撮影はライカMで拓かれた世界だ。ミノルタSR/MDマウント、コニカARマウントなど、往年の国産一眼レフ用マウントに同様のことが当てはまる。
アルパマウント:Macro Switar 50mm F1.8
アルパマウントといえばマクロスイターが有名だ。このレンズはカプラーを用いて、ライカM型ボディで距離計連動での撮影が可能だ。ただし、この状態ではマクロスイターの魅力をすべて引き出せたとは言いがたい。本レンズは最短28.5cmまで寄ることができ、1/3倍での近接撮影が行なえる。しかしながら、近接域はカプラー経由で距離計連動しないため、レンズ本来の実力をすべて発揮できるわけではない。その点、ライカMならライブビュー撮影でき、無限遠から最短まで全域にわたってピント合わせが可能だ。
エキザクタ/トプコンマウント:RE.Auto-Topcor 25mm F3.5
エキザクタマウントのレンズは、EOSフルサイズ機でも装着自体は可能だ。わざわざライカMで使うまでもない、と思う人もいるだろう。ただし、EOSでは少なからず制約があり、ハンドリングの難しいレンズ群である。まず、キヤノンEFマウントのフランジバックが44mmであるのに対し、エキザクタマウントのフランジバックは44.7mmだ。その差はわずか0.7mmしかない。
エキザクタマウントのレンズは後玉のレンズガードやバヨネット部分がミラー干渉しやすいこともあり、マウントアダプターはあえて厚みを持たせて設計することが多い。規定値よりもフランジバックがわずかに長くなり、無限遠撮影はF5.6〜F8あたりまで絞り込まないとピントが合わない。加えて、EOSのAPS-C機では問題なく撮影できもて、EOSフルサイズ機でミラー干渉するレンズもある。こうしたことを踏まえると、EOSフルサイズ機とエキザクタマウントレンズは、お世辞にも相性がよいとは言いがたい。ライカMならこうしたマイナートラブルとは無縁で、安全にフルサイズ撮影が可能だ。
ライカRマウント:Elmarit-R 35mm F2.8 Type I
- ライカM
- Elmarit-R 35mm F2.8 Type I
- Rayqual LR-LM
前述したように、ライカMのライブビューは、ライカRレンズの救済措置という側面が強い。そのため、ライカ社は純正のライカRマウントアダプター「ライカRアダプターM」をラインナップしている。この純正アダプターは底面に6ビットコードがあり、ライカMに装着するとライカRレンズ用のレンズ名が選択できるようになる。これは純正アダプターならではのアドバンテージである。ただし、古いライカRマウントレンズのプロファイルは含まれていないため、純正アダプターが必須というわけではない。サードパーティーのライカRマウントアダプターでもライブビュー撮影が可能だ。
まとめ
現在、オールドレンズを35mmフルサイズの画角で撮影できるデジタル環境は、EOSフルサイズ機、メタボーンズのスピードブースター、そしてライカMという選択肢が代表的だ。それぞれ一長一短あるものの、ライカMでしかフルサイズ撮影できないレンズ群があり、これは本機をオールドレンズをベースボディとして使う大きな動機付けになるだろう。
画質についても申し分ない。ローパスレスによる解像感の高い画像は、オールドレンズを魅力を余すところなく伝えてくれる。ただし、本機のJPEG撮って出しはコントラストがいくぶん強めなので、オールドレンズ撮影に関してはRAWのストレート現像の方がレンズの持ち味を実感しやすい。また、ショートフランジの広角オールドレンズでマゼンタかぶりが少なく、広角好きには魅力的なボディだ。高額なカメラゆえに万人向けではないものの、価格相応のアドバンテージは得られるだろう。