特別企画
「ベス単フード外し」の再来か?安原製作所の新レンズ
超ソフトフォーカスな「MOMO 100」
2016年8月2日 07:00
“ベス単フード外し”とは?
MOMO 100は、いわゆる“ベス単フード外し”の描写が得られるレンズである。ここでいうベス単とは、1910年代前半に登場した米コダック社のベスト判カメラ「VEST POCKET KODAK」に搭載されていたレンズのことを指す。
このカメラは安価だったためベストセラーとなり、生産終了の1925年までに約180万台が売れたと言われている。レンズは1群2枚のメニカス単玉で、焦点距離は72mm、開放絞りはF11。
そのレンズ先端にねじ込まれている金属製のフードを外し、絞りを開くと強い球面収差が発生し、独特のソフトフォーカス(軟焦点)となる。この撮影技法を前述したベス単フード外しと言う。
なお、VEST POCKET KODAK全てにこのスペックのレンズが搭載されていたわけではない。参考までに、ベスト判(6.5×4cm/127フィルム)の呼び名はこのカメラが採用したことに因む。
また、ネーミングのVESTとはいわゆる服のチョッキ(=ベスト)のことを指しており、当時としてはベストのポケットに入るほど携帯性のよいカメラであることを表していた。
ベス単フード外しの描写を楽しむには、VEST POCKET KODAKで撮影を行う方法が本来手っ取り早いが、ピント調整機構を搭載しておらず、また近年ではフィルムの入手も困難。
そこでレンズ部のみを外し、ヘリコイドによるピント調整ができるように改造したうえで、中判もしくは35mmの一眼レフカメラで撮影を楽しむ写真愛好家がこれまで多かった。ベス単フード外しによる作品としては、植田正治の「白い風 ベス単写真帖」が特に有名だ。
コンパクトだが、金属製でしっかりした作り
そのベス単フード外しの描写をデジタルカメラで気軽に楽しめるようにしたのがMOMO 100である。
MOMO 100はミラーレス用と一眼レフ用があり、レンズ構成はいずれも1群2枚。もちろん新たに設計されたものである。最前面は保護ガラス。ベス単にはなかったもので、ゴミが入らず安心だ。
焦点距離はミラーレス用が28mm、一眼レフ用が43mm。用意するマウントは、ミラーレスがソニーEとマイクロフォーサーズ、一眼レフがキヤノンEFとニコンFの4つとなる。7月1日発売され、価格はいずれも税込2万1,00円だ。
ソニーEマウント用はAPS-C対応、一眼レフ用はいずれも35mmフルサイズ用。ちなみに今回使用したソニーEマウント用の場合、42mm相当(α7R IIでクロップ)の画角が得られる。
絞りはいずれも開放F6.3からF22まで設定が可能。操作感のよいフォーカスリングを備えている。鏡筒は軽量コンパクトに仕上がり、持ち運びにも苦にならない。
撮影で留意しておきたいのがピント合わせだ。本レンズの場合絞りを先に設定した後に行うのが基本で、これは球面収差により絞り値でピントの位置が微妙に変わってくるからである。
ただし、ライブビューやEVFのスルー画を拡大しても柔らかい描写ゆえピントの山は正直掴みづらい。慣れを必要とするところだが、まずは慌てずじっくりとピント合わせを行うとよいだろう。
ソフトフォーカスに加えてグルグルボケも!
気になる描写だが、開放値F6.4では強い球面収差により極めて柔らかい描写が得られる。
デジタルカメラのフィルター機能や画像ソフトによるレタッチなどでもソフトフォーカス風の仕上がりは楽しめるが、それとは一線を画すもので特にハイライト部のにじみはナチュラルでとても美しい。
絞り開放から1/2段ほど絞り込んだF8ではソフトフォーカスの効果はわずかに残るものの、反面ピントの合った部分のキレが急激に増しはじめる。さらに絞りF11に絞ると、エッジのにじみはすっかり消えシャープな描写となる。
ソフトフォーカス効果は当然ながら開放F6.4がもっとも高い。絞りF8ではピントの合った部分のエッジが鮮明になりはじめるものの、ソフトフォーカスの効果はまだ残っている。絞りF11になるとソフトフォーカスの効果はほとんどなくシャープな描写だ。
35mmフルサイズのα7シリーズの場合、クロップ機能でAPS-Cにセットする。写真は同一の位置からフルサイズとAPS-Cサイズの比較。
ピント合わせは正直いえばシビア。特に絞りを開いたときはピントの“芯”を探すのに苦労する。
開放絞りでは強いソフトフォーカスに加え、非点収差によるグルグルボケも発生。独特の仕上がりが楽しめる。
ハイライト部はソフトフォーカスによるにじみが発生しやすので、積極的に画面のなかに取り込んでみると面白い。
実焦点距離は28mm。開放絞りはF6.4なので大きなボケをつくるのは難しいが、柔らかい描写はやはりポートレートに適している。
最短撮影距離は0.3m。思いのほかぐっと被写体に寄ることができる。
風景もMOMO 100で撮ると楽しい。掲載した作例はいずれも撮って出しであるが、レタッチソフトで粒状感など加工を施すと面白い写真になりそうだ。
ソフトフォーカスに加えグルグルボケも発生し、ユニークな結果の得られた1枚。風景、人物だけでなく花やネイチャーでも効果的だ。
モノクロで撮影すると、よりクラシカルな雰囲気に。MOMO 100はモノクロでの撮影が最も似合っているのかもしれない。
ハイライトの被写体が美しくにじみ合う。開放絞りの場合、EVFを使い画像拡大機能を使わないとどこにピントが合っているか把握は困難だ。
夜景での撮影では、ピントが合ってないように思えるほど光源が大きくにじむ。この特性をうまく活用して一味違った夜景撮影を楽しみたい。
このレンズでの撮影の肝といえば、ベス単らしいソフトフォーカスを最大限活かすこと。
いうまでもなく開放絞りでの撮影が望ましく、さらにハイキーなほうがハイライトのにじみが現れやすくソフトフォーカスの効果も強くなることだろう。そのあたりを意識して撮影すると効果の高い写真をものにできるはずだ。
どちらかといえば飛び道具的なレンズであるが、球面収差を応用した正真正銘のソフトフォーカスの描写を手軽に楽しむにはまたとない1本だ。
同社にはMOMO 100と同様リーズナブルで高描写な全周魚眼レンズ「MADOKA」や超マクロレンズ「NANOHA」もラインアップされており、一味違う描写を追求したければ検討してみることをおすすめする。
モデル:三嶋瑠璃子