オールドデジカメの凱旋:キヤノンPowerShot S70(2004年)
コンパクトデジカメの場合、ボディのスタイルや構造によっていくつかのタイプに分けられる。その中でも、最近ボクが「あまり見かけなくなったナァ~」と感じているのが“スライド式のレンズバリアを装備するタイプ”である。まあ、パナソニックLUMIXのFPシリーズ、ソニーサイバーショットのTXシリーズ、富士フイルムFinePixのZシリーズなど、数的には絶滅危惧種に指定(?)されるほど少なくはない。だけど、コンデジ好きが注目するような優れた機能や仕様だったり、手にしてワクワクするようなデザインや仕上げだったり……というような魅力的なモデルじゃないんだよねぇ(もちろん、ボク個人の印象だけどネ)。
はいっ、今回発見して購入したのは、そんな“ちょっとワクワク&リッチテイスト”なスライドバリア式の高級(高性能)コンパクトデジカメですヨ。その名はキヤノン「PowerShot S70」。さぁ、このモデルは、現行のスライドバリア式とはひと味もふた味も違うよ。高価だったよ~、ボディ質感も上質だよ~、ゴロゴロとかさ張って存在感バツグンだよ~(笑)。ちなみに、このカメラを見つけたのは、前回レポートしたコニカミノルタ「α-7 DIGITAL」と同じ中古店。元箱や備品もほぼ揃った状態(32MBのCFカードのみ欠品)で価格は6,300円だった。
かつては、この「PowerShot S70」のような、ボディの質感や仕上げを重視したスライドカバー式のコンデジが、いくつかあったんだよなぁ。そう、オリンパスの「CAMEDIA X-2」とか、コニカの「Revio KD-500Z」とかね |
このPowerShot S70は、2004年9月に発売されたPowerShotシリーズの上位モデルである。同時発売のフラッグシップモデル「PowerShot G6」と同様の新開発1/1.8型、有効710万画素CCDセンサーを搭載し、28-100mm相当(35ミリ判換算)という広角寄りの約3.6倍光学ズームレンズを搭載している。
このズームレンズには、当時としては世界最高の屈折率の新開発「UAレンズ」が採用されていて、高画質を保ちながらレンズユニットの小型化も実現している……とのこと。たしかにこのレンズユニットは小さいわな。そして、ボディ素材にはアルミマグネシウム合金が使用されていて、上位モデルに相応しい高級感や剛性が感じられる。このダークグレーとブラックのツートンカラーが何ともシブい! また、スライド式バリアのブラック部分のパーツにはヘアライン加工が施されていて、そのあたりの質感も実にイイ感じ。でもって、この冬の季節だと、肌に触れた際の“ひんやり感”もたまらんね!
レンズバリア(カバー)の黒っぽいパーツは、スライドさせる際に指をかけるような形状になっている。……が、正直言ってコレは使いモノにならない。そう、指先に吸盤でもないかぎり開けない(笑)。ということで、右手の人差し指と中指で「Vの字」を作って、その指をバリアの上下にかけてグワシッとスライドさせるのが正解! |
高級モデルらしく、実像式光学ズームファインダーを搭載。……といっても、当時は光学ファインダーを搭載したモデルが多かったなぁ。PowerShot S70と同時に発売された実用モデルの「PowerShot A95」や「同A85」にも搭載されてたし。ズームボタン下の空き地(笑)に指当てがあれば良かったナ |
一部の突起物を除いたボディの厚みは「38.8mm」。まあ、数値だけだとナニですが、実物はコレです(笑)。いやぁ、このゴロゴロ感もたまりませんナァ~。「もう10mmくらい薄ければ、もっとスマートでスタイリッシュなモデルになるのに」な~んて無粋なコトは言わん方がヨイでしょう |
底面はこんな感じ。まあ、普通ですな。でも、最近の高級コンパクトのように、三脚穴の周囲にネジがバンバン(数多く)打ってないあたりはオシャレかも |
横面なり。ストラップ取り付け部の反対側には、A/V OUT端子とDIGITAL端子が装備されている |
記録媒体はCF(TypeIおよびTypeII)。付属のリチウムイオン充電池は、「EOS Kiss Digital N」や「同X」あたりと共通の「NB-2LH」 | シーソー式の「ズームレバー」。ズーム動作速度はフツーで特に問題はないが、ズーム域によって“ズームの揺り戻し”があるのは、このクラスの機種としては少し残念な点かな |
「ストラップ取り付け部」のデザインや埋め込み具合も、何だか凝ってますゾ! |
では、カメラユーザーガイド(使用説明書)を見ながら、その他の基本仕様もサクッと押さえておこうかナ。
28-100mm相当の光学ズームレンズの実焦点距離は5.8-20.7mmで開放F値はF2.8-5.3。視野率約80%の実像式ズームファインダーを搭載。モニターは1.8型、約11.8万画素の低温ポリシリコンTFT液晶カラーモニター。撮影距離は、通常撮影44cmまで、広角端マクロ撮影4cmまで、望遠端マクロ撮影30cmまで。シャッタースピードは、15~1/2,000秒(撮影モードにより異なる)。露出制御方式は、プログラムAE、シャッタースピード優先AE、絞り優先AE、マニュアル露出。
露出補正は±2(1/3ステップ)、AEB撮影可能。感度は、オート、ISO50~400。連続撮影は、高速連続撮影で約2コマ/秒、通常連続撮影で約1.2コマ/秒(ラージ/ファイン、液晶モニター非表示で)。記録媒体はCF。画像記録フォーマットはJPEGとRAW。動画の最大記録画素数は640×480ピクセル(1回の最長記録時間は30秒)。電池は充電式リチウムイオン電池の「NB-2LH」(付属)か「NB-2L」(別売)。大きさと重さは、114×56.5×38.8mm、約230g(本体のみ)。……といったところ。ふ~。
ちなみに「PowerShot S60」というS70の下位モデルもあった。発売はS70発売の3カ月前(2004年6月)。撮像素子は1/1.8型、有効500万画素CCDセンサーで、通常連続撮影は約1.5コマ/秒。このあたりがPowerShot S70と違う点である(カメラユーザーガイドは両機種で共通)。ボディカラーは、PowerShot S70のような“ダークグレーとブラックのツートン”ではなく、シンプルなシルバーである。
え~、PowerShotの「Sシリーズ」と言えば、現行では「PowerShot S100」と「PowerShot S95」の2モデルがラインナップされていますナ。でも、その源流をたどっていくと、これがけっこう興味深いのヨ。
液晶モニター左上のFUNC.ボタンを押すと表示される、ファンクションメニュー。露出補正機能もこの中(いちばん上)に配置されている。ん~、露出補正は十字ボタンに割り当てた方が操作しやすかったかもね |
ファンクションメニューには「AEB撮影」や「フォーカスブラケット」の項目もある。このあたりも高級モデル……というか「高機能モデル」っぽい点ですわ |
な、な、懐かしい~っ!! 圧縮率の「スーパーファイン」。今のモデルは「ファイン」までしかないもんね |
Sシリーズの初号機は、1999年10月発売の「PowerShot S10」である。このカメラは、ボクが買った“最初のデジタルカメラ”でもあり、翌年の2000年5月に登場する「IXY DIGITAL」(IXYデジタルシリーズの初号機。実はこれも買った)によく似たスタイルの、2倍の光学ズームを搭載する200万画素機であった。2000年3月には、S10の高画素版である300万画素の「PowerShot S20」が発売された。PowerShot S10と同様にこのPowerShot S20も、何となく“IXYデジタルの元祖”のようなカメラだった。
だが、2001年10月発売の400万画素機「PowerShot S40」からは、今回のPowerShot S70と同様のスライド式のレンズバリアを装備するスタイルに変わる。このカメラには35-105mm相当の光学3倍ズームが搭載されていた。その後は、2001年12月の「PowerShot S30」(320万画素機)、2002年10月発売の「PowerShot S45」(400万画素機)、2003年3月発売の「PowerShotS 50」(500万画素機)……と、画素数を落とした下位モデルや、画素数や機能を高めた後継モデルが発売された。それでも、このPowerShot S40からPowerShot S50までの4モデルは、ボディデザインやレンズ仕様は同じだった。
しかし、PowerShot S50以降のSシリーズは、これまでのような“直系進化”ではなく“枝分かれ進化”の様相を呈してくる。PowerShot S50の発売から1年後(2004年3月)に発売された「PowerShot S1 IS」は、世界初のレンズシフト式光学手ブレ補正機構を搭載した光学10倍ズーム(38-380mm相当)レンズを搭載したモデルである。そのボディデザインは、初期のPowerShot S10やPowerShot S20ともPowerShot S40以降のスライドバリア式とも違う、一眼レフカメラを彷彿とさせるモノであった。
AF枠を任意の位置に移動できる「アクティブフレームコントロール」。この機能、PowerShot S90やPowerShot S95には搭載されてなく、最新のPowerShot S100でようやく搭載された。……って、7年前のPowerShot S70には搭載されてたんですけどっ。うんうん、賢いゾ、PowerShot S70! しかも、その操作はPowerShot S100よりも簡単&快適なのデス |
撮影メニューをチラリと紹介。「RAW内JPEG記録」は、RAW形式ファイル内に内蔵される確認用(サムネイル)画像の記録画素数を設定する機能。現在の「RAW+JPEG」とは違うのヨ |
そんでもって、その約3カ月後には、前出の「PowerShot S60」が発売されるワケだけど、これから後のPowerShot Sシリーズは、スライドバリア式のモデルよりも、一眼レフカメラスタイルの高倍率モデルの方が主流になっていく。
……と思ったら大違い(笑)。2007年6月に発売された「PowerShot S5 IS」を最後に、その後の高倍率モデルは「SXシリーズ」に組み込まれていく。でもって、スライドバリア式のモデルは、2005年10月発売の「PowerShot S80」(800万画素機。RAWモード非搭載)が最後となる(現在までのところ)。だが、このS80のボディデザインや仕上げは、PowerShot S40からPowerShot S70までのモデルとは、かなり違うモノになっている。
このように、ひとくちにPowerShot Sシリーズと言っても、その流れや進化の経緯は、けっこうドラマチックなワケですな。その中でも、特にボクの印象に残っているのは、やっぱり今回のPowerShot S70のような、スライドバリア式で厚みのある“ゴロンとしたモデル”なんだ。その圧倒的なボリューム感&材質感&重量感、最近の高級コンパクトデジカメとはひと味違うテイストかも。ん~、この無駄とも思えるラグジュアリー感がたまりませんヨ!
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した画像のみ、無劣化での回転処理を行なっています。
・画角変化
広角端。PowerShot S70 / 約2.9MB / 3,072×2,304 / 1/400秒 / F2.8 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm | 望遠端。PowerShot S70 / 約2.6MB / 3,072×2,304 / 1/160秒 / F5.3 / +0.3EV / ISO50 / WB:オート / 20.7mm |
・同一被写体で焦点距離別
各画角とも絞り開放で撮影。どの画角も全体的に良好な描写だが、画面の四隅のアマさは目立つ。この部分が、PowerShot S60やPowerShot S70に搭載されるズームレンズの泣き所なんだよねぇ(PowerShot S80のレンズも同様)。ちなみに、PowerShot S90以降のズームレンズでは、この点はかなり解消されている。
・感度
まあ、7年以上前のコンパクトデジカメに高感度画質を求めるのは酷と言うもの(笑)。ただし、色ノイズの発生(夕方の空とかだと特に目立つ)はともかく、色再現や細部のディテールなどは良好。
ISO50。PowerShot S70 / 約3.9MB / 3,072×2,304 / 1/320秒 / F3.2 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 7.3mm | ISO100。PowerShot S70 / 約3.9MB / 3,072×2,304 / 1/640秒 / F3.2 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 7.3mm |
ISO200。PowerShot S70 / 約4.1MB / 3,072×2,304 / 1/1,000秒 / F3.2 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 7.3mm | ISO400。PowerShot S70 / 約4.5MB / 3,072×2,304 / 1/1,000秒 / F5 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 7.3mm |
・スローシンクロ
撮影メニュー内の「スローシンクロ」を「入」に設定して、夕暮れ空を背景にしてスローシンクロ撮影。そして、露出補正とストロボ調光補正の数値を変えながら撮ってみた。うん、「露出補正 -1.3、調光補正 -1」がイイ感じだねぇ。PowerShot S70は、ファンクションメニュー内に「ストロボ調光補正」の項目があるので、こういった撮影も割と楽に行なえる。
・RAW現像
RAWデータを汎用現像ソフトで現像してみた。普段使用している市川ソフトラボラトリーの「SILKYPIX Developer Studio Pro5」で、RAWデータを現像してみた。ホワイトバランスは「昼光(快晴)」を選択してマイナス側に300K調整。カラーは「(自然)フィルム調V1」。そして、「ファインカラーコントローラ」で青と緑の彩度などを調整。他には「HDR」や「ノイズリダクション」や「シャープ(ピュアディテール)」などの調整を少々……。
JPEGで撮影。PowerShot S70 / 約2.8MB / 3,072×2,304 / 1/500秒 / F4.5 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm | RAWを現像してJPEGで保存。PowerShot S70 / 約3.1MB / 3,072×2,304 / 1/500秒 / F4.5 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm |
・作例
MFで撮影。PowerShot S70 / 約2.2MB / 3,072×2,304 / 1/1,000秒 / F5 / +0.3EV / ISO128 / WB:オート / 5.8mm | PowerShot S70 / 約2.6MB / 3,072×2,304 / 1/160秒 / F5.3 / 0EV / ISO128 / WB:オート / 20.7mm |
PowerShot S70 / 約2.1MB / 3,072×2,304 / 1/320秒 / F4 / +0.3EV / ISO50 / WB:オート / 13.2mm | PowerShot S70 / 約4.3MB / 3,072×2,304 / 1/640秒 / F2.8 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm |
くっきりカラー、マクロ。PowerShot S70 / 約2.4MB / 2304x3072 / 1/1,250秒 / F3.2 / 0EV / ISO128 / WB:オート / 5.8mm | くっきりカラー、マクロ。調光補正-1。PowerShot S70 / 約2.6MB / 2304x3072 / 1/250秒 / F4 / -1.3EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm |
くっきりカラー、調光補正-1.3。PowerShot S70 / 約2.3MB / 3,072×2,304 / 1/160秒 / F2.8 / -2EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm | くっきりカラー。PowerShot S70 / 約2.8MB / 3,072×2,304 / 1/640秒 / F5.3 / +0.3EV / ISO50 / WB:オート / 20.7mm |
くっきりカラー、マクロ。PowerShot S70 / 約3MB / 3,072×2,304 / 1/400秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO50 / WB:太陽光 / 5.8mm | くっきりカラー。PowerShot S70 / 約5.5MB / 3,072×2,304 / 1/1,000秒 / F3.5 / +0.3EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm |
くっきりカラー。PowerShot S70 / 約3MB / 2304x3072 / 1/640秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm | PowerShot S70 / 約2.6MB / 3,072×2,304 / 1/1,000秒 / F4.5 / +0.3EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm |
くっきりカラー。PowerShot S70 / 約5.6MB / 3,072×2,304 / 1/320秒 / F4 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 13.2mm | くっきりカラー。PowerShot S70 / 約2.2MB / 3,072×2,304 / 1/1,000秒 / F7.1 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 20.7mm |
くっきりカラー。PowerShot S70 / 約4.4MB / 3,072×2,304 / 1/125秒 / F2.8 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm | くっきりカラー、マクロ。PowerShot S70 / 約2.5MB / 3,072×2,304 / 1/80秒 / F2.8 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 5.8mm |
2011/12/7 00:00