レンズ一体型の高倍率ズームデジタルカメラ「FUJIFILM X-S1」は、高品位路線のXシリーズ第3弾となる製品だ。基本スペックの高さはもとより、アルミ削り出しのダイヤル類や金属製のレンズフード採用など細部まで拘りが感じられるのも特徴。今回はこのカメラを持って香港で試写した。
発売日は12月7日。実勢価格は7万8,900円前後。
■2/3型のEXR CMOSセンサーを採用
まずは主なスペックを見てみよう。撮像素子には有効1,200万画素の2/3型EXR CMOSセンサーを搭載。レンズ一体型のデジタルカメラで一般的な1/1.7型や1/2.3型と比べて面積が広く、高ダイナミックレンジや高感度性能が期待できる。画像処理エンジンには、富士フイルム製品ではお馴染みとなったEXRプロセッサーを採用。高解像度、ワイドダイナミックレンジ、高感度時の低ノイズを実現しているという。
レンズは35mm判換算で焦点距離24mmから624mm相当をカバーする光学26倍ズーム。12群17枚のうち、8面4枚に非球面レンズを採用、さらに2枚のEDレンズを使用するなど豪華な仕様だ。また、クリアでヌケのよいスーパーEBCが施してあり、ゴーストやフレアを軽減しているという。
また、光学26倍という高倍率ズームレンズにも関わらず、1cmマクロに対応し、開放F値は広角端でF2.8、望遠端でF5.6と比較的明るい。さらに、絞り羽根には円形に近い9枚羽根を採用している。
レンズは電動ズームではなくマニュアルズームを採用。同じXシリーズのFUJIFILM X10と同様、レンズ内部に金属カムを採用しており、適度なトルクで滑らかなズーミングが可能だ。また、レンズ鏡筒には35mm判換算も印字されており焦点距離を把握しやすい。
液晶モニターは、3型46万ドッドのマルチアングル式。横位置でのローアングル撮影などを気軽に行なえる。ただし、縦位置には対応していないのは少々残念だ。
上下可動タイプの3型液晶モニターを採用。ドット数は46万 |
また、視野率約100%の0.47型約144万ドットのEVFを搭載。高精細かつ見やすく、日中の撮影や望遠撮影時はとても重宝した。セットアップから表示フレームレートを30fpsと50fpsから選択可能だ。
EVFは表示フレームレートを変更できる。30fpsと50fpsから選択可能 |
ボディ全面を覆う革シボ風のラバーコーティングは、滑りにくく高級感もある。しかもペンタ部にも及ぶという徹底ぶりだ。グリップは深めで手になじみ、望遠撮影時でもしっかりと撮影することができた。
実際に使用してみると、ボディからエントリーモデルの一眼レフ並のボリュームを感じるはずだ。他の高倍率コンパクトデジタルカメラと比べてもやや大きく感じるだろう。しかし物は考えようで、エントリークラスの一眼レフに18-105mm相当のレンズが付いている状態とほぼ同等の大きさなのに、24-624mm相当の画角をカバー。一眼レフカメラでは到底1本のレンズでは無理な高倍率ズームを達成していることを考えると、ボディの大きさについても納得できるはずだ。
モードダイヤルやコントロールダイヤルなどには、高級感ある金属ダイヤルを採用。回した時のクリック感のフィーリングはよい。この辺りもXシリーズのコンセプトをしっかり受け継いでいる。
ダイヤル類は金属製。カスタムポジション(C1〜C2)も | ボディ左手側にもボタン類を装備 |
また、ボディにはボタン類が多く備えられていることから、撮影中にほとんどメニューにアクセスすることなく、ISO感度、ホワイトバランス、RAW記録などの主要な設定を変えられる。加えてボタン類はやや大きめなため、手袋をしていても操作できそうだ。
機能を割り当て可能なFn1ボタンも便利。シャッターボタン付近にあるので、被写体から視線を外すことなく使うことが可能だ。筆者は、初期設定の超解像ズームのまま使用したが、Fn1ボタンを押すと瞬時にズーム倍率を変更できるので重宝した。セレクターボタンの上ボタンにはFn2が設けられており、Fn1同様の機能を割り当てることができる。
AFの測距エリアは49点から選択可能。画面の幅広い範囲をカバーしているため使いやすい。AF速度も速く、全体的なレスポンスも良いのでストレスなく撮影することができた。例えば向かってくる電車を撮影したが、ピントを外すことなくシャープに捉えることができた。
なお、フォーカスモードの切り替えはレンズ横の専用レバーから行なう。メニューに入ることなく設定できるのは便利だが、カメラバックの中でたまに動いていることがあった。欲をいえばロック機構が欲しいところだ。
超望遠撮影に欠かせない手ブレ補正機構はレンズシフト式を採用。ブレ防止モードも細かな設定が可能だ。実際に使用した印象では、望遠端で撮影している際もしっかりと補正してくれている印象だ。ただ、撮影者側のブレが大きくなると手ブレ補正が大きく動くため、なかなか思い通り位置に主被写体を配置して撮影できないこともある。手すりなどにカメラを固定するとさらに安定した撮影ができるだろう。
バッテリーはボディに対して小さめだが、1日撮影してもバッテリー切れにはならなかった。
ポップアップストロボ | 入出力端子類。マイク端子も備える |
バッテリーと充電池 |
■高倍率ズーム機のレベルを超えた高画質
撮影機能は、基本的にシーンを自動認識するプレミアムEXRオート/EXR優先モード、全自動のオート、17種類のSPモード、P、S、A、Mなどのマニュアルモードから選択できる。また、Adv.アドバンスモードには、最大で360度撮影できる「ぐるっとパノラマ360」や被写体の背景をボカすことのできる「ぼかしコントロール」、暗いシーンを撮影するのに適している「連写重ね撮り」の3つの機能を搭載している。
ぐるっとパノラマ360は、手持ちでも簡単にパノラマ撮影が可能。360度以外にも180度や120度も選択可能となっている。パノラマ生成はほとんどタイムレスで瞬時に生成されている。
また、ぼかしコントロールを実使用してみたが、予想以上に背景と被写体の分離精度は高い。しっかりと背景をぼかすことができた。ただし画角は狭くなる。また、FUJIFILM X-S1は望遠に強くセンサーも比較的大きいので、それなりにボケを作りやすい。この機能を活用すべき場面は少ないかもしれない。
ぼかしの強度は3段階から選択できるのでイメージ合わせて変更するとよいだろう。被写体や被写体の角度によっては処理に失敗することもあったが、人物以外にもフィギアやブロンズ像などでも上手くいった。ぼかし処理に失敗した時は「画像を確認してください」と警告がでるので再度撮影するとよいだろう。
富士フイルム製品でお馴染みになりつつある「ぐるっとパノラマ360」 | 「ぼかしコントロール」も装備する |
連写重ね撮りは、ISO3200でもノイズが少なく、ディテールまでしっかりと再現できており十分常用できる印象だ。また、RAWでの記録にも対応しておりRAW+JPEGの撮影もでき、RAWボタンを搭載しているため必要な時にRAW記録を行なうことができる。さらに、ボディ内RAW現像も行なえるのでパソコンが苦手なユーザーでも撮影後に簡単な画像調整が行なえるのでオススメだ。
気になる画質は、超高倍率ズームレンズ一体型カメラとは思えないほどしっかりとした描写だ。広角側から望遠側まで普通に撮影するには歪曲収差などは気にならなかった。細かく見れば、周辺が若干流れていたりする場合もあるが、トータルでみると優秀な印象だ。
ISO感度に関しては、ISO800くらいまではほとんどノイズは気にならない。ISO1600になるとややノッペリとし始めるものの、常用しても問題無いレベル。ISO3200はノイズリダクションの影響でややふんわりとした印象になる。ISO6400になるとシャープさが失われ、全体的にノッペリとした見た目になる。ISO12800にもなるとさすがにノイズが抑えきれなくなってくる。ISO1600〜3200くらいまでは十分実用的といっていいだろう。
2日間、このカメラとともに香港の街を歩いた。1台で様々な被写体に対応できる便利さは格別だ。また、レンズ交換が不要なため撮像素子のゴミなども心配しなくてよい。旅には使い易いカメラだと感じた。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・感度
※いずれもノイズリダクションはスタンダード
・連写重ね撮り
FUJIFILM X-S1 / 約2.6MB / 2,816×2,112 / 1/15秒 / F4 / 0.0EV / ISO3200 / WB:オート / 30mm |
・ぼかしコントロール
・超解像ズーム
・ぐるっとパノラマ360
FUJIFILM X-S1 / 約3.1MB / 5,760×1,080 / 1/450秒 / F9 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 16.3mm |
・作例
・動画
- 動画作例のサムネイルをクリックすると、未編集の撮影動画をダウンロードします。再生についてのお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。
約43.5MB / 1,920×1,080ピクセル / H.264 |
2011/12/22 14:12