新製品レビュー

ニコンD500(外観・機能編)

高速なAFと連写がとにかく快適 待望のDXフォーマット最上位機

ニコン「D500」は、APS-Cサイズセンサーを搭載した一眼レフカメラだ。同社DXフォーマットの型番3桁モデルといえば、2009年に「D300S」が発売され、その後は長らく音沙汰がなかった。だが今回、約7年近くの年月を経て、いよいよDXフォーマットの新しい最上位機が登場した。

注目は、一足先に発売されたFXフォーマットの最上位機「D5」と同等となる153点のAFシステムを採用したこと。さらに10コマ/秒を誇る高速連写や4K動画機能、高倍率&広視野角のファインダー、タッチパネル対応のチルト液晶、XQDとSDのダブルスロットなど見どころは盛りだくさん。

発売は4月。価格はオープン。同社オンラインショップでの価格は、ボディ単体が25万9,200円、D500 16-80 VRレンズキットが34万200円(いずれも税込)となっている。今回のレビューでは、その外観と機能をお伝えしよう。

ホールド性にも優れた防塵防滴ボディ

ボディは、炭素繊維複合素材によるモノコック構造となる。既存モデル「D750」や「D5500」などにも使われている素材と構造であり、深くて握りやすいグリップも受け継いでいる。そのうえで上面と背面のカバーにはマグネシウム合金を採用。しっかりとした剛性感が伝わる頑丈なボディといっていい。

外形寸法は約147×115×81mmで、バッテリーとXQDカードを含めた質量は約860g。最近のAPS-Cサイズセンサー搭載機としては少々大柄で重め。持ち運びの負担はそれなりにあるが、長玉など大きなレンズを装着してもバランスが崩れにくいというメリットもある。

防塵防滴に対応した高品位なボディ。向かって右側の端子カバー内には、シンクロ端子と10ピン端子を装備。マウント部の左には、カスタマイズ可能なPvボタンとFn1ボタンがある
背面の左下にはFn2ボタンを、右手親指の位置にはサブセレクターをそれぞれ新搭載。ファインダー部のアイピースシャッターは、三脚使用時などに役立つ
左側面のカバー内には、USB3.0、外部マイク、ヘッドフォン、HDMIの各端子を装備。その上には、Wi-FiとBluetoothのロゴが記されている
右側面には、NFCのNマークとメモリーカードカバーを備える。カバーの開閉はややゆるめ。グリップ部にはラバーが張られ、その手触りは心地いい
下位モデルとは異なりモードダイヤルはなく、撮影モードの切り替えは左肩のモードボタン+ダイヤル操作で行う。モードボタンとISOボタンの位置は、これまでの製品とは逆になる
底面には、バッテリー室や三脚ネジ穴のほか、オプションのバッテリーグリップ「MB-D17」用の接点カバーがある

隅までくっきり見られる高倍率ファインダー

実際に撮影を始めてまず気に入ったのは、ファインダーの見やすさだ。一般的にAPS-Cサイズ機は、フルサイズ機に比べてファインダーの視認性で見劣りしがちだが、D500のファインダーはAPS-Cサイズ機とは思えないほどの大きさとクリアさがある。

ファインダーの視野率は約100%。ファインダー倍率は約1倍(D300Sは約0.94倍)で、35mm判に換算すると約0.67倍となる。像の歪みや色付きは気にならず、周辺までくっきりと見られるファインダーといっていい。

シャッターを切った際の、ファインダー像消失時間が短い点も気持ちよさを感じるポイントだ。ミラー駆動系に、コアレスモーターやミラーバランサー、アシスト機構などを採用することで像消失時間を短縮し、ファインダー表示の安定感を高めているとのこと。

D5と同じく接眼部は丸窓で、フッ素コートされた丸形アイピースを採用
内蔵フラッシュは非搭載となり、その分、ペンタプリズム部の膨らみは抑えられている

動体や暗所にも強い153点のAFセンサー

機能面の目玉は、プロ仕様モデルD5と同等となるAFシステムを搭載したこと。すなわち、位相差AFのモジュールは「マルチCAM 20Kオートフォーカスセンサー」で、AFに関する情報制御にはAF専用エンジンを、測光やシーン認識には180KピクセルRGBセンサーをそれぞれ使っている。測距点の数は、99点のクロスセンサーを含む153点と非常に多い。そのうち手動で選択できる点は55点で、他の98点は自動選択などに使われる。

AFエリアモードとフォーカスモードの設定画面。これらは、前面にあるAFモードボタンを押しながらダイヤル操作で切り替える

これらの測距点の表示を見て驚くのは、画面内の広範囲に分布されていること。画面の上下にはやや空きがあるものの、左右については横幅のほぼいっぱいをカバーしている。これによって、画面端の被写体に対してもフォーカスロックをせずにピントを合わせることが容易になった。動体撮影時などにピントの中抜けを防げるメリットもある。

AFエリアモードはシングルポイント、ダイナミックAF(25点、72点、153点)、3D-トラッキング、グループエリアAF、オートエリアAFの7種類が用意。フォーカスモードはAF-SとAF-Cの2つとなる。

153点のダイナミックAFを選び、その測距点を表示した状態のファインダー。□で表示される点が選択可能な55点で、●で表示される小さな点が自動選択などで使われる99点だ
AFエリアモードを3D-トラッキングに変更すると、「3D」の文字が一瞬表示される。153点の全測距点を使って被写体への自動追尾が機能するモードだ
AFセンサーに加えて測光センサーも進化し、シーン認識の精度が向上。それにともなってファインダー撮影時も顔認識が可能になった。上は、3D-トラッキングモードでの顔認識の設定画面

今回の試用では標準ズーム「AF-S DX NIKKOR 16-80mm f/2.8-4E ED VR」のほか、望遠ズーム「AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR」や「AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR」を使ったが、いずれもてきぱきと合焦し、動体に対しても確実に追従するAF性能を体感できた。

望遠ズーム「AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR」を装着。この組み合わせでは、120-600mm相当の画角が楽しめる

10コマ/秒という高速連写と組み合わせることで、動きの激しいスポーツのような被写体でも、快適に撮影が楽しめる。前もって各種の設定さえしっかりと行えば、あとはシャッターを押しながら被写体にレンズを向け続けるだけで、誰でも正確なピントで撮影できるだろう。

さらに、薄暗いシーンでのAF性能の高さにも感心した。AF検出の輝度範囲は、中央の測距点が最低-4EV対応で、そのほかの点が-3EVに対応。かすかな光しかない薄暗いシーンであっても、被写体の高コントラスト部に測距点を向けることで、確実に合焦させることができた。

新設されたサブセレクター(AF-ONボタンの左下)では、上下左右に動かして測距点の移動ができ、中央を押してフォーカスロックができる。その感触は良好だ
AF-Cモード時の「横切りへの反応」や「被写体の動き」のタイプを設定できるなど、AF特性のカスタマイズはいっそう充実した

スムーズな高速連写とXQDカードによる高速書き込み

連写は、最高で約10コマ/秒に対応。14ビットロスレス圧縮RAWを200コマまで連続して撮影可能だ。約0.05秒という短いレリーズタイムラグも含め、連写時の操作感はスピーディで心地よい。試用では、乗馬や乗り物などの動体シーンを高速連写で撮影したが、画質モードRAW+JPEGの設定でも、画像の書き込みに待たされることはなかった。

連写を快適に楽しむには、高速カードを使用することも大切だ。D500は、DXフォーマット機では初めてXQDカードとSDXCメモリーカード(UHS-II対応)のダブルスロットを採用。今回は、最大読み込み速度440MB/秒をうたう「Lexar Professional 2933x XQD 2.0カード」を主に使ったが、ストレスのない高速書き込みを実感できた。加えて、水や振動、衝撃、温度などへの耐久性の高さもありがたい。

左肩のレリーズモードダイヤルでは、1コマ/低速連続撮影/高速連続撮影/静音撮影/静音連続撮影/セルフタイマー/ミラーアップ撮影の7モードが選べる。低速連続撮影の速度は、約1~9コマ/秒の間で選択可能だ
XQDカードとSDXCメモリーカード(UHS-II対応)のダブルスロットを装備。スピードではXQDカードが有利だが、普及率の高いSDカードを併用できる点も何かと安心だ。2スロット使用時は、順次記録とバックアップ記録、RAW+JPEGの分割記録の3種類が選べる
バッテリーにはD7200などと共通のリチウムイオン充電池「EN-EL15」を採用。撮影可能コマ数は約1,240コマとなる

タッチパネル対応のチルト液晶を搭載

液晶モニターには、タッチパネル対応の3.2型TFTを搭載。約236万ドットと精細感は高く、屋外での視認性に問題はない。メニューの設定から、ライブビュー時と再生時の液晶の明るさを個別に変更したり、表示の色合いを微調整することも可能だ。

この液晶モニターのチルト可動対応は、撮影の自由度を広げる大きな進化といっていい。タッチパネル操作によって、ライブビュー時のAF測距点を素早く動かせる点も便利である。ただ残念なのは、これまでの製品と同じく、ライブビュー時のコントラストAFがあまり速くないこと。動きのない静物撮影なら対応できるが、動体へのピント合わせは実用的とはいえない。動体を撮る際は、置きピンなどマニュアルフォーカスを活用するか、素直に通常のファインダー撮影に切り替えたほうがいいだろう。

上下方向に可動する3軸ヒンジ構造の液晶モニターを搭載。ロー/ハイアングルでの撮影がしやすくなった。特に接写や動画撮影などで重宝する
タッチパネルにも対応。再生時のコマ送りやズーム操作が直感的に行えるほか、タッチAFやタッチシャッターが利用できる
ライブビューを利用してAF微調整を自動で行う新機能を搭載

4K動画から800万画素の静止画が切り出せる

動画は、最大3,840×2,160ピクセルの4K記録に対応する。ファイル形式はMOVで、圧縮方式はMPEG-4 AVC/H.264。4K記録時の撮像範囲は、DXフォーマットの約1.5倍に相当する画角となる。つまり使用レンズの画角よりも少し望遠側にシフトする。

同じく4K動画に対応したD5に比べた場合、録画時間がより長く、D500では最長29分59秒の4K記録ができる。フルHD、HDの動画撮影時に電子手ブレ補正が使えることや、カメラ内で静止画の切り出しができる点は受け継いでいる。

シャッターボタンのすぐ横に動画撮影ボタンを備える。前面にあるPvボタンやFnボタンに「露出補正」や「パワー絞り」を割り当て、動画撮影中に滑らかに露出や被写界深度を調整することも可能だ
動画の画像サイズとフレームレートの設定画面。4K記録でのフレームレートは30p、25p、24pから選択できる
動画を再生して一時停止し、iボタンを押して「選択フレームの保存」を選ぶと、4K動画から約800万画素相当の静止画を切り出せる
フリッカー対策は、通常のファインダー撮影用の低減機能のほかに、ライブビュー表示/動画記録用の低減機能が用意される。動画用のフリッカー低減では、選んだ周波数に応じて露出が制御され、映像のちらつきや横縞を防げる

Bluetooth low energyによる常時接続に対応

近頃はWi-Fiを内蔵したカメラが増え、スマホやタブレットと連携できる機能はもはや珍しくない。D500では、そうしたWi-Fiによる通信機能を備えたうえで、さらにBluetooth low energyによる常時接続にも新対応した。

連携には同社製のスマホアプリ「SnapBridge」を使用する。前もってペアリングの設定をすることでカメラと常時接続の状態にでき、撮影するたびに画像をスマホやタブレットに転送できる。これまでのWi-Fi経由による連携とは異なり、いったん自動転送に設定しておけば、撮影中は転送設定や消費電力のことを気にする必要はほぼない。そして、撮影が一段落してスマホで確認したいと感じたら、その時点にすでにスマホ内に画像が転送されていることが非常に便利に感じた。

「SnapBridge」のメイン画面。自動転送のほか、GPS情報やクレジット情報の埋め込み、時刻の同期、サイトへのアップロード、リモート撮影、お好み画像転送などが行える
リモート撮影やオリジナル画像の転送など、転送するデータ量が大きいときはBluetoothからWi-Fiに切り替えることも可能だ
Bluetoothの設定画面。カメラが電源オフの状態でも通信を維持できる
ボタンイルミネーション機能では、天面や背面のボタンが光り、薄暗い場所でも迷わず操作できる

まとめ:狙いどおりに撮れる、快適で頼もしいカメラ

そのほかの機能としては、暗所での操作性を高めるボタンイルミネーションや、撮像範囲を狭くして望遠効果を得る1.3×クロップ機能、3タイプから選べるオートホワイトバランス、電子先幕シャッター、4Kでの微速度撮影などを搭載。ボタンの割り当てを変更できるカスタマイズ機能も豊富だ。

撮像素子は有効2,088万画素CMOSセンサーで、画像処理エンジンはEXPEED 5を採用。画素数は既存モデルD7200よりも若干少なめだ。高感度は大きく強化され、常用感度は最高ISO51200に対応。拡張でISO1640000相当(Hi 5)までの増感も行える。

トータルとしては、見やすいファインダーと高速AF、高速連写の3要素を兼ね備えたことで、撮れないものがないと感じるくらい快適なカメラに仕上がっている。特に長めのレンズを使ってスポーツなどの動体を撮る用途では、自分の腕が上がったと錯覚するほど、狙いどおりの瞬間が簡単に撮れてしまう。そんな実に頼もしいカメラである。

次回は、実写編をお伝えする。

永山昌克