【新製品レビュー】FUJIFILM XF1

〜スタイリッシュかつ質実剛健な高級コンパクト機
Reported by 大浦タケシ

 FUJIFILM XF1は、同社高級モデルの「Xシリーズ」に属するコンパクトデジタルカメラである。このシリーズは、スペックはもとより操作感やボディ外装の仕上がりなど、普及価格帯のコンパクトデジタルカメラと一線を画すものだ。

 「X100」から始まったXシリーズだが、レンズ固定式モデルではその後「X10」および「X-S1」が加わり、XF1は4つ目のモデルとなる。スタイリッシュでスマートなこのカメラの全容を今回見てみることにしたい。

 なお、本テキスト執筆時における量販店実勢価格は、5万4,800円前後となる。

沈胴式のマニュアルズームレンズを採用

 誰しもそうだと思うが、初めて手にするデジタルカメラでは、まず電源ボタンの場所を確認する。しかし、XF1はそれに少々時間を要した。というのも、ボディにしまい込まれた鏡筒をマニュアル操作で繰り出すことが電源をONにすることであり、あらためて電源ボタンらしいものがなかったからだ。

 同じくズームリングの操作が電源ON/OFFを兼ねるX10の場合、鏡筒に「OFF」と書いてあり、何となくズームリングの回転が電源を兼ねることが把握できたが、XF1にはその表記すらもないのである。新品のXF1には、電源ONとレンズの繰り出しに関する解説シールがボディに貼られているが、はじめて扱うときは注意しておきたい。
 
 気を取り直して再試行。ボディからわずかに出ているレンズ鏡筒を軽く、しかもわずかに回すと、鏡筒全体を1cmほど引き出すことができる。この状態ではレンズバリアは閉じており、電源もまだOFFの状態のままだ。メーカーでは「スタンバイモード」と呼んでいる。

 さらに鏡筒を回すとインナーの鏡筒が繰り出し、同時にレンズバリアが開く。電源がONになり、撮影可能な状態となる。ちなみに、この状態のことを「撮影可能モード」とメーカーでは呼んでいる。さらに回すとズーミングに入り、焦点距離はテレ端側へ。レンズを収納するには、鏡筒を逆方向に回して行なう。

 使いはじめは収納状態から撮影可能な状態にするまでの一連の操作に、あたふたすることもあるかも知れないが、動き自体がスムースなこともあって、さほど時間をおかずに指が覚えることだろう。

レンズ鏡筒をボディに収納した状態。ボディに対し、わずかに鏡筒の先端が飛び出ている。収納した状態から鏡筒先端を回し、鏡筒全体を引き出した状態。レンズバリアは閉じたままで、電源もこの状態では入っていない。
鏡筒を回し、ワイド端(25mm相当)にセットした状態。レンズバリアが開き、電源もONになる。さらに鏡筒を回し、テレ端(100mm相当)とした状態。レンズがかなり繰り出している。

 ボディそのもののシェイプは薄くシンプル。しかも、軽量ときている。プレミアムコンパクトといわれるカメラは、高級感を誇示するように小さくても重量感あるものが多い。そのため、ワイシャツなどの胸ポケットに入れると、そこだけだらりとみっともなく下がってしまうようなことや、小さなバッグなどに入れると思いのほか重くなることも少なくない。

 しかしXF1は、見た目と裏腹に軽量で(バッテリー、メモリーカード込みで225g)、いつでもどこへでも持ち歩けるウェアラブルなカメラに仕上がっている。

 カラーバリエーションは全部で3色。ブラックのほか、鞣した革のような色のブラウン、少しオレンジに近い明るめのレッドからなる。貼り革の部分はカメラ背面部まで廻り込んでいて、それもお洒落に感じさせるところだ。どのカラーもシンプルなボディによく似合うので、あれこれ悩むのも楽しそうである。

トップカバーにはシャッターボタンのほか、モードダイヤルとFnボタンを配置。最初はズームリングで電源を入れる操作に慣れず、Fnボタンを押してしまうことがしばしばあった。手動ポップアップ式のストロボを内蔵。ガイドナンバーは公表されていないが、記念写真の撮影やキャッチライトをつくりたいときなど重宝しそうだ。
露出設定の要、メインコマンドダイヤルの操作感は上々。その右の縦に長い出っ張りは指掛けで、グリップのない本モデルでは必需品といえる。インターフェースはUSB/AVとHDMIミニ端子となる。端子カバーはゴム製。

不足のない画質。フィルムシミュレーションも継承

 イメージセンサーはX10と同じ2/3型、有効1,200万画素のEXR CMOSセンサーを採用。絵を見るまでもなく、1/1.7型や1/2.3型などのモデルとの描写の違いは明確といってよいだろう。実際、撮影した画像を見ると階調再現性、高感度特性、精細感などコンパクトデジタルとしては不足を感じさせないもので、改めてセンサーサイズの重要性を思い知る。

 レタッチ耐性なども、大きいセンサーから吐き出されたものが有利であることはいうまでもない。高級コンパクトにカメラメーカー各社が力をいれはじめているが、合わせてイメージセンサーのサイズがアップしてきていることは、その描写特性の優位さなどから個人的には喜ばしく思える。同社のデジタルカメラは、後ほど説明するようにフィルムメーカーらしく色乗りのよい絵づくりを行なうものがほとんどだが、本モデルも例外ではない。

感度はISO100からISO12800まで。ISO4000以上を選択するとMサイズ(約600万画素)以下に、ISO12800での選択ではSサイズ(約310万画素)となる。

 レンズはX10と同じく光学4倍ズームだが、画角は35mm判換算28-112mm相当から25-100mm相当とワイド寄りになり、“玄人受け”するものといえるだろう。実際にスナップやちょっとした記念写真などを主体に撮影する場合、ワイド端は少しでも広いほうが便利なのは否めない。開放F値はF1.8-4.9。ワイド端はコンパクトデジタルカメラとしては十分な明るさだが、小型化との兼ね合いとはいえ、テレ端の明るさにも欲張りたくなってしまう。

 さらにXF1では、望遠端の100mm相当よりも狭い画角が欲しいとき、超解像技術を応用した「超解像ズーム」を使うこともできる。焦点距離が約2倍の(テレ端の場合200mm相当)となるデジタルズームだが、解像感の低下はよく抑えられており、記録サイズも通常撮影時と変わらないため積極的に活用してみたい機能である。

ONにすると画像を約2倍に拡大する。超解像処理により、通常のデジタルズームよりもシャープネスの高い描写が得られる。記録画素数も減少しない。

カスタマイズ性が光るE-Fn(拡張ファンクション)ボタン

 マニュアルズームのレンズ交換式カメラを使い慣れた個人的な印象ではあるが、マニュアルズームはパワーズームにくらべてやはり便利と感じる。パワーズームにありがちな、思った画角に止まってくれずにイライラするようなことがない。AFのスピードと精度については、コンパクトデジカメとして実用面で不足を感じないレベルだ。

 むしろ、面倒に感じられたのがフォーカスエリアの移動。E-Fn(拡張ファンクション)ボタンを押した後、フォーカスエリア選択ボタンを押し、十字キーで位置を移動させなければならない。操作部材の搭載を最小限としているためなので致し方ないところなのだが、もっと速やかに位置を移動できる方法はなかったのかと悔やまれる部分だ。

 古くから描写にも定評あるフジノンレンズだが、本モデルでもしっかりと受け継がれている。画面周辺部の画像の破綻や極端なディストーションなどは皆無。意地悪な逆光シーンでも撮影してみたが、強いゴーストやフレアの発生もほとんどなく、コンパクトデジタルカメラのレンズとして文句ない描写といってよいだろう。

“フジノン”の名を冠する光学4倍ズームレンズを搭載。ワイド端は35mm判換算25mm相当の画角で、スナップなどの撮影に便利液晶モニター上部の「MADE IN JAPAN」表記が誇らしい。

 ズームリングにはワイド端の25mmとテレ端の100mm、そしてその間の主要な焦点距離が35mm判換算値で刻まれており、画角選択の目安となり使いやすい。ワガママを言わせてもらえば、フードが装着できるとよりよかったが、現状の形や大きさを考えるとそれは難しい注文だろう。

鏡筒には35mm判換算での焦点距離目盛りが刻まれている。

 色乗りのよさはレンズ交換式のFUJIFILM X-Pro1などと同様で、コクのあるフィルムライクなものだ。仕上がり設定であるフィルムシミュレーションは、他のXシリーズ同様、スタンダードを同社の標準的なポジフィルム「PROVIA」、ビビッドを「Velvia」、ソフトを「ASTIA」と命名しているし、実際それに近い仕上がりといえる。高感度特性については、ISO1600まではノイズや解像感などほとんど気にならないレベル。ISO3200になるとノイズおよびディテールのにじみが強くなりだす。ただし、それはパソコンのモニターで50%以上に拡大して確認したときのことなので、それ以下の拡大率で見た場合ではさほどでもない。

 なお、ISO4000以上になると画像の大きさが最大Mサイズ(約600万画像)に、ISO12800ではSサイズ(約310万画素)に自動的に設定される。

仕上がり設定は、感材メーカーらしく同社のフィルムに基づいたカラー。プロビア、ベルビア、アスティアと、フィルム時代からのカメラ愛好家には分かりやすい。

 操作系はシンプルで、初見でも分かりやすい。FnボタンやE-Fnボタンに使用頻度の高い機能を割り当てれば、XF1の使い勝手は大きく向上する。特にE-Fnボタンを押すと一度に6つの機能の設定が可能となるので、割り当てている機能や操作方法など憶えておきたいところ。

Fn(ファンクション)ボタンにはISO感度設定画面などの呼び出しを割り当てることができる。ボタン類の少ないカメラなので、積極的に活用したい。
E-Fn(拡張ファンクション)ボタンを押すと、背面ボタン類の役割が切り換わる。こちらもFnボタン同様、カスタマイズすることができる。E-Fnボタンを押した時の画面表示。この表示に従って、設定したい機能のボタンを押す。

 使っていて多少違和感を覚えたのが、RAW設定のためのメニュー。撮影メニューのなかにあるのではなく、セットアップメニューの中にあるからだ。このレビューのためにXF1が届いたとき、RAWとJPEGの同時記録になっていたのだが、JPEGのみの設定に変えようと右往左往してしまった。撮影メニュー1の「画質モード」のなかにRAW記録に関する選択も入れてほしく、メーカーには一考をお願いしたい。

RAWフォーマットの選択はセットアップメニューの中にある。撮影メニュー1の「画質モード」のなかに入れてほしい。ダイナミックレンジはオートのほか、100%、200%、400%が選択できる(ISO400以上に設定したとき)。EXRモードでダイナミックレンジ優先に選択すると、さらに800%と1600%も選択できる。

 先に述べたように、XF1は高い描写性能や充実したスペックを誇るコンパクトデジタルカメラだ。さらに、エフェクト機能の「アドバンストフィルター」や、多重露出、360°のパノラマ撮影機能なども搭載されており、カラーバリエーションも含め実に楽しめるカメラに仕上がっている。

 メインのターゲットはカメラにも個性やファッショナブルな要素を求める層かも知れないが、カメラの中身としてもXシリーズらしい質実剛健なつくりなので、ディープなカメラ愛好家の期待にも応えてくれそうな1台である。

顔にピントを合わせ、明るく浮き立つように表現する「顔キレイナビ」も備える。バッテリーとメモリーカードは本体底部に収納する。使用メディアはSDXC/SDHC/SDカード(UHS-I対応)。内蔵メモリーは約25MB。

実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

・画角

広角端:XF1 / 約4.6MB / 4,000×3,000 / 1/110秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO100 / 6.4mm望遠端:XF1 / 約4.5MB / 4,000×3,000 / 1/180秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO100 / 25.6mm

・超解像ズーム

超解像ズーム:オフ / XF1 / 約4.4MB / 3,000×4,000 / 1/90秒 / F6.4 / +0.3EV / ISO100 / 25.6mm( 25.6mm相当)超解像ズーム:オン / XF1 / 約4.3MB / 3,000×4,000 / 1/60秒 / F6.4 / 0EV / ISO100 / 25.6mm( 25.6mm相当)

・ISO感度

ISO100 / XF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 10秒 / F5.6 / 0EV / 6.4mmISO200 / XF1 / 約4.5MB / 4,000×3,000 / 7秒 / F5.6 / 0EV / 6.4mm
ISO400 / XF1 / 約4.7MB / 4,000×3,000 / 3秒 / F5.6 / 0EV / 6.4mmISO800 / XF1 / 約4.7MB / 4,000×3,000 / 1.6秒 / F5.6 / 0EV / 6.4mm
ISO1600 / XF1 / 約4.7MB / 4,000×3,000 / 1/1.2秒 / F5.6 / 0EV / 6.4mmISO3200 / XF1 / 約4.8MB / 4,000×3,000 / 1/2.3秒 / F5.6 / 0EV / 6.4mm
ISO6400 / XF1 / 約2.5MB / 2,816×2,112 / 1/5秒 / F5.6 / 0EV / 6.4mmISO12800 / XF1 / 約1.6MB / 2,048×1,536 / 1/10秒 / F5.6 / 0EV / 6.4mm

・ダイナミックレンジ

AUTO100%
200%400%

・歪曲収差/周辺減光

XF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/640秒 / F1.8 / +0.3EV / ISO100 / 6.4mmXF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F2 / +0.3EV / ISO100 / 6.4mm
XF1 / 約4.3MB / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO100 / 6.4mmXF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/125秒 / F4 / +0.3EV / ISO100 / 6.4mm
XF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/60秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO100 / 6.4mmXF1 / 約4.3MB / 4,000×3,000 / 1/28秒 / F8 / +0.3EV / ISO100 / 6.4mm
XF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/17秒 / F11 / +0.3EV / ISO100 / 6.4mmXF1 / 約4.5MB / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F4.9 / +0.3EV / ISO100 / 25.6mm
XF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/90秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO100 / 25.6mmXF1 / 約4.5MB / 4,000×3,000 / 1/45秒 / F8 / +0.3EV / ISO100 / 25.6mm
XF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/18秒 / F11 / +0.3EV / ISO100 / 25.6mm

・フィルムシミュレーション

PROVIA/スタンダードVelvia/ビビッド
ASTIA/ソフトモノクロ(フィルターなし)
モノクロ+Yeフィルターモノクロ+Rフィルター
モノクロ+Gフィルターセピア

・作例

XF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/480秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 6.4mmXF1 / 約4.7MB / 3,000×4,000 / 1/420秒 / F7 / +0.7EV / ISO100 / 6.4mm
XF1 / 約4.6MB / 3,000×4,000 / 1/480秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / 6.4mmXF1 / 約4.3MB / 3,000×4,000 / 1/400秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 6.4mm
XF1 / 約4.8MB / 4,000×3,000 / 1/140秒 / F3.6 / +1.7EV / ISO100 / 9mmXF1 / 約4.0MB / 3,000×4,000 / 1/750秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 25.6mm
XF1 / 約4.8MB / 4,000×3,000 / 1/240秒 / F5.6 / -1EV / ISO100 / 8.3mmXF1 / 約4.7MB / 4,000×3,000 / 1/350秒 / F4.7 / -0.7EV / ISO100 / 15.4mm
XF1 / 約4.7MB / 4,000×3,000 / 1/450秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 10.9mmXF1 / 約4.3MB / 3,000×4,000 / 1/420秒 / F10 / 0EV / ISO100 / 25.6mm
XF1 / 約4.3MB / 3,000×4,000 / 1/420秒 / F7 / 0EV / ISO100 / 25.6mmXF1 / 約4.3MB / 4,000×3,000 / 1/420秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 6.4mm
XF1 / 約4.8MB / 4,000×3,000 / 1/450秒 / F7 / 0EV / ISO100 / 14.3mmXF1 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/400秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / 25.6mm
XF1 / 約4.5MB / 4,000×3,000 / 17秒 / F11 / -0.3EV / ISO100 / 6.4mm





大浦タケシ
(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。

2012/11/20 00:00