【新製品レビュー】リコーGR LENS A12 28mm F2.5
約1年前にリコーが発売したGXRは、「ユニット交換式カメラ」という新ジャンルを世に問うかたちで登場。撮像素子、レンズ、画像処理エンジンをまとめたカメラユニットを交換式とすることで、異なる撮像素子とレンズの組み合わせをひとつのボディで楽しめるという、斬新なコンセプトを提示して話題になった。
GR LENS A12 28mm F2.5を、レンズフードLH-1、EVFのVF-2を装着したGXR |
画質面では、ボディと同時に発売されたAPS-Cサイズ相当のカメラユニット「GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO」(以下A12 50mm)の評価がすこぶる高い。撮像素子に合わせた専用設計のレンズのためか、キレとヌケの良さは格別。ボケも自然でケチのつけようがない。唯一の悩みといえたコントラストAFの遅さもほぼ解消した。ただし、なまじA12 50mmの出来が良いだけに、「この画質で広角カメラユニットがあれば……」と、当時、無い物ねだりをするユーザーが多かったのも仕方がないところだろう。
そうしたユーザーの気持を当然予測できていたのだろう。即座にリコーは3月のCP+2010で、APS-Cサイズ相当の撮像素子を搭載した広角単焦点カメラユニットを参考出品。その後約9カ月を経て正式発表されたのが、今回とりあげる「GR LENS A12 28mm F2.5」(以下A12 28mm)になる。
撮像素子はA12 50mmと同じく23.6×15.7mmのCMOSセンサー。有効画素数は約1,230万。レンズの焦点距離は18.3mmで、製品名に含まれる28mmの表記は、35mm判に換算したときの数値になる。
発売日は11月5日。実勢価格は7万円前後。レンズフードLH-1は2,835円で別売。
■小振りで粋な外観
外観はこれまでのカメラユニットの印象を受け継ぐもの。ボディとの統一感を維持したスタイリングであり、分厚い金属外装による高級感も引き継がれている。相変わらずユニット装着時の感触が素晴らしく、メカ好きの心に訴えかける精度の高さを感じさせる。
GXR装着時 |
電源ON時 |
GR LENS A12 28mm F2.5単体 |
A12 50mmより小振りな点もポイントだろう。APS-Cセンサー対応の28mm相当で開放値F2.5のレンズだと考えると、意外に小さくまとまっているのかもしれない。「RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC」(以下S10 24-72mm)ユニットほど薄くはないものの、A12 50mmを装着した状態より、バッグ内インナーケースなどへの収納性は悪くなかった。これなら、常時携帯するのに苦を覚えることはないだろう。GR LENSブランドをアピールするフォーカスリング前方の赤ハチマキも良いアクセントになっている。フォーカスリングはA12 50mmと同じく電子式。リニア感にかける嫌いはあるものの、微調整しやすい滑らかな動作に好感を持った。
角型のレンズフードは金属製ではなく樹脂製だが、安っぽさは感じられない。装着はバヨネット式。付属のレンズキャップは、レンズ先端、またはレンズフードのどちらにも装着できるのは便利。また、A12 50mmに付属するレンズキャップと異なり、つまみが中央に寄っており、着脱しやすいのも特徴だ。フィルター径はA12 50mmと同じく40.5mm。比較的小径のため、廉価にフィルター類を試せる。リコーのサポート外になるが、純正レンズフードが気に入らなければ、フィルターネジにステップアップリング経由でお気に入りのレンズフードを装着する手もある。
最短撮影距離は20cm。コンパクトデジカメほど極端なワイドマクロは不可能だが、マクロレンズではないAPS-Cセンサー対応の28mm相当のレンズとしては、被写体に寄れる方だろう。F2.5という明るさを考えると、ワイドマクロっぽく被写体に近寄り、かつ背景をぼかす作風に強い。
ほかのカメラユニットと異なり、マクロモードが存在しない点も特徴的だ。マクロボタンを押すと、フォーカスリングを回した際のフォーカス移動が速くなるだけで、撮影距離範囲が変わるなどのギミックはない。
レンズフードのLH-1。価格は2,835円 |
バヨネット式の付属レンズキャップ。レンズフードLH-1装着時にも利用できる |
■A12 50mmより高速なAF。強力なカスタマイズ機能も
A12 50mmの印象からすると、AF速度は意外なほど速い。近距離でのAF動作も個人的にはストレスない速度に感じた。ただし速くなったとはいえ、デジタル一眼レフカメラの位相差AFに比べれば、速度面で見劣りするシーンもまだ多い。また、動作音が少々耳障り。測距中だけでなく、電源ONや電源OFF時にもジージーという音を伴う点は、A12 50mmと大差ない。とはいうものの、A12 50mmのAF速度からすると、大幅に使いやすくなっているのは確かだ。
もちろん広角レンズユニットなので、マニュアルフォーカスをメインにした、被写界深度を意識してのパンフォーカス撮影も行なえる。マニュアルフォーカス時の距離表示によると、F5.6でパンフォーカスが得られるのは、被写体までの距離が約3m以上のときだ。F8なら2m強といったところ。AF動作を意識することなく、構図とタイミングに集中してガンガン撮影する楽しみは、単焦点広角レンズを使う喜びのひとつといえる。
メニュー項目は、11月1日公開の機能拡張ファームウェアを適用したA12 50mmとほぼ共通だ。スポットエリアAFの選択(ノーマル、またはピンポイント)、ADJ.レバーやFn1/Fn2へのアスペクト比切替の割当、ノイズリダクション「AUTO」の追加など、最新の機能拡張が行なわれている。ファームウェアのバージョン番号は他のカメラユニットと同様、Ver.1.29となっていた。
もちろん、リコー製品らしい強力なカスタマイズ機能も特徴だ。撮影シーンや被写体に応じたセッティングをMY1〜MY3に登録し、自分好みの操作系に仕上げて行くのがGXRの流儀だ。例えば本ユニットなら、AF/MF切替をFn1に仕込んでおくことで、通常はMFパンフォーカス、被写体までの距離が近いようならAFに切り替えるといった設定が似合うだろう。
なお、液晶モニターの表示が大変滑らかであり、フレームレートはVer.1.29を適用したA12 50mmと同様に感じた。撮影時の気持のよさは、A12 50mm、A12 28mmをのぞくほかのカメラユニット(S10 24-72mmとP10 28-300mm)と、明らかな差を感じる。
電源オンから撮影できる状態になるまでの時間は、A12 50mmとほぼ同等。瞬時に起動する最近のデジタル一眼レフカメラに慣れていると、ワンテンポもツーテンポも遅く感じるのが残念に感じるかもしれない。連写性能も約3コマ/秒と低めだ。また、撮影後に一瞬画面が止まってしまうところや、画面内の被写体が実際より遅れて動いているように感じる点など、ライブビュー専用機ならではの欠点も存在する。このあたりはA12 28mmの欠点というよりは、現行GXRシステム全体の限界なのだろう。多くのミラーレス機同様、激しく動く被写体を追いかけて撮る用途より、静物や風景の撮影に向いていると思う。個人的にはAF速度も含め、十分に日々の撮影で使える印象を受けた。
手ブレ補正機構や顔認識といった、コンパクトデジタルカメラにおける定番機能はない。GR DIGITAL IIIの機能拡張ファームウェア第3弾に含まれる「クロスプロセス」や「ハイコントラスト白黒」といったエフェクト機能も非搭載。撮影本来の機能に絞ったストイックさは、A12 50mmと同様、現在のGXRの立ち位置を物語るものといえる。
GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO(右)との比較 |
RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC(右)との比較 |
RICOH LENS P10 28-300mm F3.5-5.6 VC(右)との比較 |
■周辺までシャープな画質
JPEGでの階調性や色再現は素晴らしく、全体的にクリアでヌケが良い。S10 24-72mmやP10 28-300mmとは歴然とした差を感じる部分であり、A12 50mmユーザーの期待を裏切らない高画質だ。JPEGでは輪郭線が若干太く感じられるケースもあるが、全体的に解像感は高い。最もシャープなのはF4、またはF5.6近辺。RAWではさらにシャープな輪郭になる。F2.8までは少し周辺光量が落ちているものの、F4で解消する。広角レンズでありがちな、周辺での流れやボケも見られない。若干陣笠状の歪みが感じられるものの、歪曲収差はほとんどなし。ディストーション補正をON/OFFできるが、ONにしても変化はないようだ。
APS-Cセンサーで開放値F2.5ともなると、28mm相当でも近距離での撮影なら、前景と背景をそれなりにぼかせる。近距離撮影時の画質も文句なし。ピントがあった面からボケへとつながる面のなだらかさが気持よく、しっとりとした情感を誘う。点光源ボケはきれいな円形だ。前述した通り、それほど被写体には近寄れないものの、テーブル上の料理の皿をいくつか収めるような構図ではちょうど良い。ボケ味の良さと絶妙な距離感に、かなりはまりそうな予感を覚える。
逆光にも比較的強い。昼間の太陽を構図に入れても、大きく目立つゴーストは生じない。夜景の点光源にコマフレアが出ることもない。またA12 50mmは、光線の具合によって筋状のフレアが出ることがあるが、本ユニットでも強い太陽の光が斜め上から差すケースで、ごくわずかなフレアが生じたことがある。とはいうものの、基本的に逆光には強い方だろう。総じて画質は良好。撮像素子とレンズのマッチング面で有利なGXRシステムの面目躍如といったところだ。いずれにしても、かつてのGR1、あるいはライカLレンズのGRレンズ28mm F2.8の名声を裏切らない品質だと思う。
最低感度はISO200。被写体にもよるが、ISO800までは許容できるノイズ量と解像感のバランスに感じる(ノイズリダクションオート時)。個人的にはISO800までを常用範囲に設定するつもりだ。画像設定はほかのユニットと同じく、ビビッド、スタンダード、ナチュラル、白黒、白黒(TE)、設定1、設定2の7種類。
動画は1,280×720ピクセル/24fpsのMotion JPEG。音声はステレオ。AFは撮影開始時に固定され、マニュアル露出に対応してないなど、とりたててハイスペックとはいえないのは残念だ。
■まとめ
GR DIGITALシリーズと同じ画角の焦点距離28m相当は、リコーにとって思い入れが強く、マーケティング的にも虎の子ともいえる画角のはず。それだけに、GXRをメインに据える今後の戦略がより強固に感じられる。
とはいえ、本体のサイズ、重量、被写界深度、ボケ量などを勘案すると、GR DIGITAL IIIと本カメラユニットは別物だ。特に重量感とボケ表現、クリアな質感描写は、GR DIGITAL IIIとの違いを際立たせるものだ。その代わり、ワイドマクロやパンフォーカス表現などにおいて、GR DIGITAL IIIとの使い勝手の差が感じられる。軽量で軽快な撮り味もGR DIGITAL IIIならではの面白さ。どちらも持ち味が異なるので、あえて優劣を論ずるものではないだろう。
とにかくA12 28mmは、GXRシステムとしては待望の広角単焦点カメラユニットであり、スナップ派にとってGXRカメラユニットの本命たりえる製品だ。これだけ小さなシステムなのに、ボケコントロールなどの表現力は一眼レフカメラ並み。本気のスナップカメラとして、あるいはお気軽な散歩用カメラのどちらとしても、使っていて楽しかった。28mm相当の画角が好きな人は多いと思うので、これを機にGXRシステムがよりメジャーになり、カメラユニット群が多様化することを期待している。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、別ウィンドウで800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
・歪曲収差/絞りによる描写の変化
わずかに歪みが感じられるものの、一般的なスナップなら実用上ほとんど問題ないだろう。ディストーション補正をONにしても変化はない。
絞り開放からシャープだが、この距離だとF4が最もシャープでコントラストが高いようだ。F16から回折で描写が甘くなるが、全体的に差は少ない方だと思う。
・感度
ISO3200(ノイズリダクション:OFF) GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/32秒 / F4 / 0.0EV / WB:マルチパターンAUTO / 18.3mm / 画像設定:ビビッド |
ISO3200(ノイズリダクション:AUTO) GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約4.1MB / 4,288×2,848 / 1/32秒 / F4 / 0.0EV / WB:マルチパターンAUTO / 18.3mm / 画像設定:ビビッド |
・最短距離
F16 GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約4.1MB / 4,288×2,848 / 1/14秒 / 0.0EV / ISO200 / WB:マルチパターンAUTO / 18.3mm / 画像設定:スタンダード |
・アスペクト比
16:9 GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約3.5MB / 4,288×2,416 / 1/1,150秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO200 / WB:屋外 / 18.3mm / 画像設定:ビビッド |
4:3 GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約3.8MB / 3,776×2,832 / 1/1,150秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO200 / WB:屋外 / 18.3mm / 画像設定:ビビッド |
3:2 GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/1,150秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO200 / WB:屋外 / 18.3mm / 画像設定:ビビッド |
1:1 GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約3.0MB / 2,848×2,848 / 1/1,000秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO200 / WB:屋外 / 18.3mm / 画像設定:ビビッド |
・画像設定
画像設定:白黒(TE) GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約4.3MB / 2,848×4,288 / 1/540秒 / F8 / 0.0EV / ISO200 / WB:マルチパターンAUTO / 18.3mm |
・逆光
GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約3.8MB / 2,848×4,288 / 1/2800秒 / F8 / 0.0EV / ISO200 / WB:屋外 / 18.3mm / 画像設定:スタンダード |
・長時間露光
最長シャッター速度は、絞り優先モードとシャッター優先モードでは15秒まで。マニュアル露光モードでは180秒まで。絞りはF22まであるので、長時間露光もこなせる。反面、絞り開放値F2.5での最高シャッター速度は1/1,000秒と低い。しかもISO200スタート。日中で絞りを開けたい場合は、NDフィルターが有効だろう。
GXR A12 / GR LENS A12 28mm F2.5 / 約4.2MB / 2,848×4,288 / 13秒 / F22 / 0.0EV / ISO200 / WB:屋外 / 18.3mm / 画像設定:ビビッド |
・動画
- 動画作例のサムネイルをクリックすると、未編集の撮影動画をダウンロードします。再生についてのお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。
【動画】1,280×720ピクセル / 81.5MB / 29.7Mbps / |
2010/11/22 15:11