【新製品レビュー】ソニーサイバーショットDSC-WX1

〜高感度に強い裏面照射型「Exmor R」を搭載
Reported by 北村智史

 同時発表のサイバーショットDSC-TX1とともに、コンパクト機では世界初となる裏面照射型CMOSセンサー「Exmor R(エクスモアアール)」を搭載したモデル。Wシリーズらしいソリッドなフォルムのボディに24mm相当からの光学5倍ズームのGレンズを搭載している。

 今回試用したシルバーのほか、ブラック、ゴールドの3色のカラーバリエーションがある。大手量販店の店頭価格は3万9,800円程度。


24mm相当からの5倍ズームレンズを採用

 ボディサイズは幅90.5×高さ51.8×奥行き19.8mmで、重さは120g(電池とメディア込みで149g)。この3月に発売されたサイバーショットDSC-W270(28〜140mm相当の光学5倍ズーム搭載)よりも、幅で7.1mm、高さで4.8mm小さくなり、奥行きも2.8mm薄くなっている。撮像素子サイズが、1/2.3型から1/2.4型に変わったとは言え、レンズの画角域を広角側にシフトさせながら、これだけの小型化を果たしているのは立派だと思う。

 外観はそっけないくらいに飾り気がなく、電源オフ時はほぼフルフラットになる。レンズ基部のリング部分に高級タイプのレンズであることをあらわす「Sony Lens G」などの文字が書かれているが、印刷が少しにじんだような感じに見えて、個人的にはもうちょっとなぁ、と思ってしまった。

 レンズは24〜120mm相当のF2.4〜5.9。望遠端は平凡な暗さだが、広角端は少し明るめのスペック。レンズシフト式の手ブレ補正機構を内蔵している。DSC-W270のはカール ツァイスのバリオ・テッサーだったが、本機はソニーGレンズ。広角端のタル型の歪曲収差が少々目立つのを除けば、なかなかにシャープな描写が得られる。最短撮影距離は、広角端5cm、望遠端50cm(いずれもレンズの先端から)。マクロ切り替えはなく、常時全域でのピント合わせとなる。

 記録メディアはメモリースティックデュオ/PROデュオ/PRO-HGデュオ。11MBの内蔵メモリーも備えているが、最高画質で撮れるのはたったの2コマだから、オマケと考えたほうがいいと思う。

 電源は容量960mAhのリチウムイオン充電池。スペック表によると付属のものは「NP-BG1」だが、すでに生産完了がアナウンスされていて、同社のWebサイトでは予備バッテリーとして「NP-FG1」が紹介されている。こちらはバッテリー残量を分単位で表示できる新型とのこと。容量、価格(税込み5,880円)は「NP-BG1」と同じだ。CIPA準拠の撮影可能コマ数は350コマとなっている。

レンズは35mmフィルムカメラ換算で24-120mmに相当する光学5倍のGレンズ。それでいて、20mmを切る薄型ボディを実現しているのは立派レンズシフト方式の手ブレ補正機構を内蔵。体感的な効果はシャッター速度で2段分強といったところ
バッテリーは容量960mAhのリチウムイオン充電池。CIPA準拠で350コマ撮れる。記録メディアはメモリースティックデュオ系

高感度域で効果を実感できる「Exmor R」

 最大の特徴は、撮像素子の「Exmor R」。配線などのない裏面から光を当てることで、フォトダイオードの受光面積を大幅に広げた裏面照射型のCMOSセンサーで、有効画素数は1,020万画素。従来の表面照射型に比べて感度が約2倍になっているという。

 が、実写画像を見ると、特にベース感度のISO160で、思いのほかノイズが多めに感じられる。現行のコンパクト機の多くはベース感度がISO64からISO100程度なので、ISO160だと裏面照射に変えたことによるメリットが打ち消されたかっこうになっているのではないか。考えすぎかもしれないが、そんな勘ぐりもしたくなる画質である。

 一方、高感度域では良好な結果が得られている。感度を上げるにつれて次第にノイズは増えていくものの、画質の落ち具合がほかのコンパクト機とはワンランク違う印象。ISO800でもピクセル等倍で見苦しさを感じないし、十分に常用できるだろう。プリント鑑賞であれば最高感度のISO3200でも納得して見られる画質だと思う。このあたりは、裏面照射の強みがはっきり出た部分で、ノイズ1/2といううたい文句どおりと言える。

 ただし、低輝度でのAF精度がもうひとつよくないように感じられたのは注意点としてあげておきたい。昼間の明るい条件では撮っていてストレスを感じるようなことはなかったが、夜景などの暗い条件では、ピントが合わせられずに音を上げてしまったり、合焦マークが点灯しているにもかかわらずピントがアマかったりするコマが多く見られた。

 裏面照射→高感度→暗いシーンに強いというイメージを持ってしまうだけに、ほかのコンパクト機なら平気そうなシーンで何度も半押しをやりなおすというのは楽しくない。せめて街の夜景程度の明るさに対応できるレベルにまでは上げてもらいたいと思う。

裏面照射型CMOSセンサーであることを示す「Exmor R」のロゴ。従来の約2倍の高感度特性を持つという。有効画素数は1,020万画素ベース感度はISO160と、現行のコンパクト機としては高め。高感度はExmor Rの強みだが、高画質方向へも振ってほしかった
最高感度はフル画素でもISO3200。スペック自体は最近ではそれほどめずらしいものではないが、ノイズの少なさには注目だ

CMOSらしい連写やパノラマを活かした機能も

 高速読み出しが可能なCMOSセンサーの特性を活かした機能をいくつも搭載しているのも本機の魅力。10コマ/秒で10コマまでの連写が可能なほか、高速連写性能をいかして実現した「スイングパノラマ」、「手持ち夜景」、「人物ブレ軽減」などの機能はほかではあまり見られないものだ。

 さすがにフル画素で10コマ連写すると、書き込み待ちが軽く10秒は超えるので、使うチャンスはかなりかぎられるだろうが、プロ用デジタル一眼レフに負けないスピードで連写できるのは間違いなく楽しい。

「スイングパノラマ」はサイバーショットDSC-HX1(2009年4月発売)にも搭載されているもので、シャッターボタンを押してカメラを振るだけで高速連写した最大100コマの静止画を合成。カメラまかせでハイクオリティーなパノラマ画像を作成してくれる。手際よく安定した振り方をしないと途中で止まったり、つなぎ目が目立ったりすることもあるが、画面の長辺方向に振れば最大256度というあっけにとられるくらいの超広角パノラマ画像が簡単操作で楽しめる。

「手持ち夜景」、「人物ブレ軽減」も、やはり高速連写を利用したもので、いずれも1回のシャッターで6コマ連写した画像を合成したうえにノイズ低減処理を行なうことで、通常撮影よりもノイズを1/2に低減できるという。

 前者は感度を低め(その分シャッター速度は遅くなる)にして低ノイズ重視の方向のセッティングで、パッと見には感度1段分以上のノイズ低減効果があるように感じられる。一方、後者は感度を高めにして被写体ブレを軽減する方向のセッティング。やはり感度1段分以上のノイズ低減効果はありそうだが、人物が動いてしまった場合は人物の部分は合成できないのだから、100%の効果が得られないケースも出てくるはずだ。

 とは言え、「Exmor R」の低ノイズ性に加えて、6コマ合成によるノイズ低減効果はかなり高く、トータルで感度2段分以上の画質向上を達成していると受け止めてよさそうだ。

上面右手側肩にある「連写/ブラケット」ボタン。個人的にはここに露出補正ボタンがあるとうれしかった連写はHiが10コマ/秒、Midが5コマ/秒、Loで3コマ/秒。連続で撮れるのはどのスピードでも最大10コマまでとなっている
連写した画像の書き込み待ち状態の画面。フル画素で撮ると1コマあたり1秒強かかるので、けっこう待たされる連写した画像は、再生時にはひとつのサムネイルにまとめて表示される。もちろん、個別の画像として表示することもできる
画面下部にサムネイルが表示され、残りの部分に選択した画像が表示される。サムネイルを非表示にすることも可能だ
カメラを振るだけで最大256度の範囲が写せる「スイングパノラマ」。長辺方向に振ると7,152×1,080ピクセルの長い画像が撮れる横方向ワイドのパノラマ画像の再生時の画面。細長い分すごく縮小して表示される
十字キー中央の「決定」ボタンを押すとスクロール再生してくれる。いかにもパノラマという感じが見ていて楽しい
背面右手側の操作部。モードダイヤルを回すと液晶モニターにもバーチャルダイヤルと、簡単な説明が表示される「人物ブレ軽減」モードは6コマ合成によるノイズ低減を実現するもの。被写体が動いていても対応できるのがいい。
同じく6コマ合成によるノイズ低減を行なう「手持ち夜景」。「人物ブレ軽減」と違ってできるだけ低感度で、少し暗めに仕上がる

新センサーの実力を世に問う意欲的な製品

 小型軽量なフルフラットボディにワイドな24mm相当からの光学5倍ズームは、手ブレ補正も内蔵のGレンズ。そのうえ、デジタルカメラの新時代を予感させる「Exmor R」搭載とくれば、それだけで十分に魅力的な存在だ。

 高感度時のノイズの少なさに加えて、より低ノイズを実現する「手持ち夜景」や「人物ブレ軽減」を活用することで、従来のコンパクト機とは一線を画すクオリティーの高い高感度撮影が楽しめるのも見逃せない。

 筆者個人としては、露出補正がメニュー内にあるのが好きではないし、再生時に縦位置の画像にはヒストグラムが表示されないといった、おちゃめなところもある。何より、AFがもうひと頑張り足りないのが惜しいと思う。

 が、従来のコンパクト機の高感度画質に不満を持ちながらも一眼レフの大きさや重さに抵抗を感じている人にはうってつけのカメラであるのは間違いない。室内などの暗いシーンでの撮影が多い人にはおすすめだ。

露出補正がメニュー内に入らないとできないのは面倒な点。そのうえ、表示がけっこう大きいので邪魔(説明表示は消せるけど)縦位置の画像を再生すると、なぜかヒストグラムが表示されない。「縦横判別」機能をオフにしておけばいいけど、かなり謎な仕様だ
これも不思議な仕様なのだが、「標準+ヒストグラム」という選択肢がないし、撮影時と再生時の表示設定も個別には設定できない

作例

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。

・画角

 ズームレンジは24〜120mm相当。1,000万画素クラスのコンパクト機としてはシャープ感はまずまずのレベルだが、広角端のタル型の歪曲がかなり目立つのは気になるところだ。

広角端4.2mm(24mm相当)
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F2.4 / -0.3EV / ISO160 / WB:オート
望遠端21.2mm(120mm相当)
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/25秒 / F5.9 / -0.3EV / ISO160 / WB:オート

・感度

 ベース感度はISO160と高めで、そのせいもあるのだろう、思ったよりもノイズは少なくない。一方、高感度域ではうたい文句どおりの印象。ISO800でもそれなりに鑑賞に耐えるし、ISO3,200でもプリントなら大きな不満は感じない画質だと思う。

ISO160
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/5秒 / F2.4 / +0.3EV / WB:太陽光 / 4.2mm(24mm相当)
ISO200
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/5秒 / F2.4 / +0.3EV / WB:太陽光 / 4.2mm(24mm相当)
ISO400
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/10秒 / F2.4 / +0.3EV / WB:太陽光 / 4.2mm(24mm相当)
ISO800
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/25秒 / F2.4 / +0.3EV / WB:太陽光 / 4.2mm(24mm相当)
ISO1600
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/40秒 / F2.4 / +0.3EV / WB:太陽光 / 4.2mm(24mm相当)
ISO3200
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F2.4 / +0.3EV / WB:太陽光 / 4.2mm(24mm相当)

・手持ち夜景と人物ブレ軽減

手持ち夜景
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/8秒 / F3.2 / 0EV / ISO640 / WB:太陽光 / 6.8mm(39mm相当)
人物ブレ軽減
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/40秒 / F3.2 / 0EV / ISO3200 / WB:太陽光 / 6.8mm(39mm相当)
ISO160(通常撮影)
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/2秒 / F3.2 / 0EV / WB:太陽光 / 6.8mm(39mm相当)
ISO3200(通常撮影)
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/40秒 / F3.2 / 0.0EV / WB:太陽光 / 6.8mm(39mm相当)

・連写

 連写スピードは最高10コマ/秒。連写スピードを遅くしても連写できるのは最大10コマまでだったりする。相応に書き込み待ちも長くなるので使えるシーンは限られるだろう。

※共通データ:DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/400秒 / F5.9 / -0.7EV / ISO160 / WB:太陽光 / 21.2mm(120mm相当)

・スイングパノラマ

 長辺方向に振る場合は7,152×1,080ピクセル、短辺方向には4,912×1,920ピクセルのパノラマ撮影が可能。シャッターボタンを押してカメラを振るだけで撮影できるので快適だ。とは言え、安定したスピードで滑らかにカメラを振らないといけないので、カメラを振りやすいフォームを研究して、シャッターを切る前にも素振りをしてチェックすることをおすすめする。

DSC-WX1 / 7,152×1,080 / 1/200秒 / F2.4 / 0EV / ISO160 / WB:太陽光 / 4.2mm(24mm相当)
DSC-WX1 / 4,912×1,920 / 1/250秒 / F2.4 / 0EV / ISO160 / WB:オート / 4.2mm(24mm相当)

・自由作例

ピクセル等倍で見ると、思いのほかノイズが多めに感じられる。が、A4サイズのプリントで見る分には十分に高画質と言える
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F9 / 0EV / ISO160 / WB:オート / 8mm(46mm相当)
工事用のフェンスの隙間からレンズをのぞかせて撮ったカット。24mm相当のワイドまであると、こういう狭い場所での撮影が快適だ
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F2.4 / -1EV / ISO160 / WB:オート / 4.2mm(24mm相当)
バーの店先に置かれた看板代わりの人形。けっこうインパクトあり。で、50%縮小で見ると、立体感がなかなかよかったりする
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F7.1 / -0.3EV / ISO160 / WB:オート / 4.2mm(24mm相当)
こちらは喫茶店(だっけかな)の看板。鉄製っぽい。望遠端で1m以内にまで寄れば、それなりに背景もボケてくれる
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F5.9 / -0.7EV / ISO160 / WB:オート / 21.2mm(120mm相当)
望遠側はややアマめに感じられるものの、中間域から広角はシャープな描写が得られる。どちらかというと、プリントできれいなタイプか
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F4 / 0EV / ISO160 / WB:オート / 11.1mm(63mm相当)
こういう黄〜オレンジ系が支配的な画面ではオートホワイトバランスでは色転びしがちだが、大半はオートで良好な結果が得られた
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/50秒 / F5 / 0EV / ISO160 / WB:オート / 15.3mm(87mm相当)
広角端は5cm、望遠端は50cmまで寄れる。マクロ切り替えは特にないが、AFが遅いとかもたつくような印象はない
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F2.4 / +0.7EV / ISO160 / WB:オート / 4.2mm(24mm相当)
シャープネスの設定が強めなのだろうか、広角端で硬質な被写体を撮ると、ちょっときつい雰囲気になってしまうこともある
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/160秒 / F7.1 / +0.7EV / ISO160 / WB:オート / 4.2mm(24mm相当)
広角端に比べると、少し優しい感じの描写になる望遠端。画面中央部を見ると、けっこう細かい部分まできちんと解像しているのがわかる
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/50秒 / F5.9 / 0EV / ISO160 / WB:太陽光 / 21.2mm(120mm相当)
広角端の開放F値が明るめでベース感度も高め。さらに手ブレ補正内蔵。暗いシーンに有利な条件がそろっていて心強い
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/40秒 / F2.4 / -1EV / ISO160 / WB:太陽光 / 4.2mm(24mm相当)
「手持ち夜景」は低ノイズな夜景を撮るにはとても効果的。風で木が揺れちゃったりとかしたらどうなるんだろうとか心配だったりする
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/8秒 / F2.4 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 4.2mm(24mm相当)
タル型の歪曲収差が大きめなのを気にしなければ、24mm相当の広角端はけっこう使える印象。広角好きにはおすすめできる
DSC-WX1 / 3,648×2,736 / 1/30秒 / F2.4 / 0EV / ISO160 / WB:太陽光 / 4.2mm(24mm相当)




北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2009/9/4 15:38