航空写真家・チャーリィ古庄さんに聞く NAS使いこなし術

導入のきっかけは? 容量は足りるの? NASのメリットついて聞いてみた

お話をうかがったチャーリィ古庄さん。

昨今の急速なフォトデータ肥大化に伴い、データの保存先としてNAS(Network Attached Storage)の存在が俄然注目されている。

NASとはその名の通り、ネットワークに接続するデータストレージのことだ。多人数で使用することを想定しているため、大容量のデータ領域が確保でき、データの保全性にも注力されている。無論、ネット接続によるデータの取り回しも大きな魅力となる。

DAS形態のストレージ(PC内蔵HDDや外付けUSB HDD等)よりもビットコストはやや高くなるが、得られる利便性と保全性を考えれば、多少のコスト上昇に納得できる人は多いだろう。

今回はいち早くNASを導入していたという航空写真家のチャーリィ古庄氏にお話を伺った。

チャーリィ古庄氏といえば「世界でもっとも多くの航空会社に乗った人」というギネス認定を受けたほどの飛行機好き。少年期から航空写真を撮り続けて30余年。銀塩の頃に撮影した写真のスキャンデータも保存しているというから、そのストックたるや膨大な量に及ぶことだろう。

チャーリィ古庄

写真家・冒険写真家・フォトジャーナリスト。ロサンゼルスの航空アカデミーに留学、航空機操縦資格を取得。航空マネージメントを学び、ロサンゼルスベースの米系航空会社にて運航業務全般、航空機売買などを手掛ける。

日本帰国後は国内航空会社、米系航空会社に勤務した後、航空写真家として独立。以降、雑誌各誌に自ら撮り歩いた世界100以上の国や地域の航空、観光写真を発表、国内外の航空会社、空港会社、旅行社などの宣伝、広報制作、映画制作、などにも携わり、TV・ラジオ出演も行う。

過去に乗った航空会社の数は200社以上、訪れた空港の数は約500ヶ所、という経験を活かして、「日本退役機追跡紀行」「デザインで選んだ世界のエアライン100」「航空会社の選びかた」「格安航空会社の選びかた」「ジャンボジェットの時代」「世界おもしろヒコーキ旅」「世界ヒコーキ紀行」「世界のビックリ空港探訪記」「エアライン年鑑」「World Jet Tour(写真集)」「世界の旅客機補獲標本」「ビックリ飛行機でゆく世界紀行」など、著書も多数あり。

世界で最も多くの航空会社に乗った人としてギネス記録を持つ。

Charlie Furushoより引用

撮影:チャーリィ古庄
撮影:チャーリィ古庄

月6,000カットを余裕で保存

−−NASはいつ頃から導入したのでしょうか?

だいたい5年くらい前になるでしょうか。仕事柄、海外に行くことが多いのですが、どこのオフィスに行ってもNASが導入されていたんですね。で、ある時NASについて尋ねてみたところ、これこれこういうものだと。そりゃ便利だというわけで、自分でも使い始めました。今はすべてのデータをNASに保存し、バックアップとしてHDDを利用していますね。

−−NASを導入する前のデータ保存はどのような方法をとっていたのですか?

それまでは順次HDDに保存していく形でしたね。フルになったら、HDDのラベルに内容を記載して積み上げるというような保存方法でしたね。

−−ちなみに月あたりどのくらいのカットを撮影されます?

平均で6,000カットくらいですね。多いときは1万カットを超えることもあります。

−−月にそれだけ撮るとHDDもあっという間にフルになってしまうのでは?

そうですね。RAW+JPEGなので余計にデータ量が嵩みますから、データ移し替えの頻度はわりと多かったですね。これが結構な時間を取られるので、NASを導入してからかなり楽になりました。NAS導入後もHDDにデータを移す作業は行っていますが、あくまでもバックアップですから精神的にかなり違います。

−−ああ、当面の容量を確保しなければならないという切羽詰まった作業ではなくなったわけですからね。

そうですそうです。空いた時間にやればいいので、気持ちは楽ですね。その分、データの仕分けが入念にできます。これをしっかりやっておかないと、後で大変なことになりますので余裕を持ってできるのは嬉しいですね。

ネットワーク経由でのダウンロードも便利

−−そのデータの仕分けですが、どういった方法を取っていますか?

飛行機に関しては、航空会社で分けてますね。まず、日本の航空会社、日本乗り入れの外資系会社で分けて、それぞれの会社のフォルダに機種ごとのフォルダを作って分類しています。

ただ、仕事の依頼は航空会社だけでなく、空港からも来ます。なので、空港で撮影した写真については、飛行機も含めて「○○空港」というフォルダにすべて入れています。データが多重化するため、容量の面で膨らんでしまうのですが、実際に「○○空港を背景にしたXXという飛行機のカット」という注文は多いので、こうした風にしておかないとオーダーに対応しきれなくなってしまうんですね。

−−5年前と現在とでは撮影機材もかなり変わったと思いますが、現在お使いのメインカメラは何でしょうか?

撮影対象によって変わりますが、EOS-1D X Mark II、EOS 7D Mark II、EOS 5D Mark Ⅳですね。普段使いだとEOS 7D Mark IIを使用しますし、夜だったら高感度撮影に強いEOS-1D X Mark IIを使用します。他にもCAさんやキャビン、コクピット、空港など、対象がかなり多岐に渡りますので、時々でチョイスしますが、大抵はその3機種を使用していますね。

−−そのクラスで月6,000カット、データの多重化、しかも過去のデータも保存するとなれば、かなりの容量になりますよね。

仰る通りですね。今のNASの容量が8TBで、残り容量がかなり心許なくなってまして、拡張を考えていたところなんです。このインタビューは本当にタイムリーでした。

−−このDS1517+は見ての通りドライブベイが5つありまして、10TBまでのHDDを5台装填できますし、拡張オプションを追加すれば15台まで利用できます。今後、どれだけデジカメが高画素になるかは分かりませんが、チャーリィ古庄さんくらいフォトストックを抱えている方でも、当面は容量に困ることは無いでしょう。

複数の大容量を1つのボリュームに

−−NASを導入する前後で変わったことは何でしょうか?

最大のメリットはやはり、ネットワーク経由で写真を引き出せることですね。私の場合は、クライアントとの打ち合わせなどで重宝しています。出先でも、だいたいのイメージを言ってもらえば、すぐにデータを引き出すことができますから。

今はPCだけでなくスマートフォンが普及しているので、プロ、アマチュアを問わず使い方は凄く広がるんじゃないですかね。例えば、遠方のお爺ちゃんお婆ちゃんに孫の写真を見せるような場合でも、アカウントを作成してしまえば、こちらがいちいちメールで送る必要もなく自由に好きなだけ見てもらえます。データ保全も望めるので、写真サークルなどで皆で費用を出し合って導入するのもいいかもしれませんね。

もう1つのメリットは、大容量を1つのボリュームとして利用できることですね。容量だけを求めるならばHDDを並べるだけでも良いのですが、データが複数のボリュームにまたがると管理に手間がかかるんですね。私の場合、撮影依頼は別として、ストックフォトについてはオーダーから3分以内で出せることを掲げていますので、データの管理は非常に大事です。大量のストックを一括して管理できるNASは、もはや欠かせませんね。

強いてデメリットを挙げるとすれば、外付けHDDに比べて、多少動作がもっさりしていることでしょうか。これはネットワーク接続の便利さとトレードオフですから仕方ないですね。先に述べた2つの利点が得られるなら、十分に許容できます。デメリットというよりは必要経費でしょうか。

−−ありがとうございました。次回は実際にDS1517+を使用していただき、インプレッションをお聞きしたいと思います。

チャーリィ古庄さんが試用するSynology DS1517+。

チャーリィさんが語っていたNASのメリットとは……

次回のインタビューの前に、NASのメリットを改めてまとめてみよう。これからチャーリィ古庄さんが試すことになる、DS1517+についても簡単に紹介したい。

大容量

インタビュー内でも軽く触れていたが、DS1517+は5つのドライブベイを装備している。ベイはそれぞれ最大10TBまでの容量に対応しているため、50TBの容量が確保できる。

RAIDなので、この容量からデータ保全のためのスペースが割かされるため、丸々50TBをデータ領域にしようできるわけではないが、SynologyのRAID計算機によればそれでも40TBは確保できるようだ。大抵の人ならば、これだけでも当面は拡張の必要はないだろう。

それでも足りなくなった時には拡張ユニットのDX517を足していけばよい。eSATA接続で2台まで増設できるので、最大15のHDDが利用可能だ。そこまでの容量は必要ないという人はHDD2台から始めるのもよいだろう。ホットスワップも可能なので、容量を増やす際にもNASの電源を落とすことなく拡張できる。

高速性

チャーリィ古庄さんが指摘されたように、NASは内蔵HDDほどのレスポンスは得られない。それでも最近のNASは、高性能のCPUを積み、システムメモリの容量を増やすことで、かなり快適にデータが運用できるようになっている。

次回チャーリィ古庄さんが試すDS1517+は、CPUに64bitのIntel Atom C2538、メモリ8GB(2GBモデルもある)を搭載しており、処理性能に不満を感じるシーンはまず無いだろう。

また、オプションになるが、キャッシュ用にM.2接続のSSD増設できる「M2D17」も利用すれば、ランダムアクセスの高速化も見込める。

M.2 SSD増設用のアダプタ「M2D17」は、手前のスロットに装着する。

ネット接続由来のもたつきについても、DS1517+は1Gb接続に対応することで軽減。

さらなる高速性を求めるような層のためには、10Gb接続用のイーサネットアダプタ「E10G15-F1(1ポート)」および「E10G17-F2(2ポート)」もオプションで用意している。

クラウドバックアップ

NASはRAID技術を導入しており、HDDが故障した際でもデータの復旧が行えるようになっている。ただし、復旧が完全に保証されるわけではないし、作業にはそれなりの時間を要する。チャーリィ古庄さんのようにデータのバックアップはしっかりと行うべきだ。

チャーリィ古庄さんはHDDへのバックアップを採用していたが、DS1517+には「Cloud Sync」のパッケージも用意されており、Amazon Drive、Dropbox、Google Drive、Google Cloud Storage、Microsoft OneDrive、OpenStack Swiftなどの大手クラウドサービスとDS1517+のデータ同期が行える。設定は非常に簡単で、フォルダ単位、ファイル単位での同期も可能。スケジュール設定での自動化もできるので、作業にかかるユーザの負担を大きく軽減できる。

Synology DiskStationに含まれるパッケージのひとつ、Cloud Sync。主なコンシューマー向けクラウドサービスに対応している。

USB COPY

こちらはチャーリィ古庄さんにも有用なバックアップ機能「USB COPY」だ。名前の通り、DS1517+のUSBポートに接続したストレージにデータをコピー(あるいは移動)してくれる。

USBポートにストレージを接続すれば、USB COPYが利用可能だ。

コピー方法は、指定したファイルやフォルダをそのままコピーする「ミラー」、前回との差分だけをコピーする「インクリメンタル」、指定した時間サイクルで、実行時間のフォルダを作成してそこにコピーをおこなう「マルチバージョン」の3種から選択できる。ファイル種別によるフィルタ設定やコピー時の名前変更など柔軟性も高く、ユーザの負担を軽減してくれる。

Photo Station

Photo Stationは、ネットを経由して写真、ビデオの管理がおこなえるパッケージだ。タイムラインによる串刺し管理や、撮影場所によるマップ管理、タグ付けが可能。レタッチソフトへのデータ受け渡しもできるので、データ管理・閲覧からレタッチへの作業がシームレスにおこなえる。アルバム機能も用意しており、アルバムの公開・共有も可能。スマートフォンやタブレット用のアプリも用意しているので、出先からでも手軽に写真を閲覧できる。

Photo Station

チャーリィ古庄さんによる最新NASの感想は?

次回は、チャーリィ古庄さんが最新のNASであるDS1517+を試用する。ここ数年で進化の著しいNASの世界だけに、チャーリィ古庄さんからどんな感想が飛び出すのか。乞うご期待!(編集部)

榊信康