気になるデジカメ長期リアルタイムレポート

PENTAX K-3【第5回】

ブラケットが追加された「ローパスセレクター」を検証

 先日公開されたファームウェア1.02で、以前から予告されていた「ローパスセレクターブラケット」機能がK-3に追加された。正直なところ、ローパスセレクターをOFFで使っていても、K-3でモアレが発生することはほとんどないが、ローパスセレクターがこのカメラの技術的なトピックの要点であることは間違いない。そこでこの機会に、ローパスセレクターについて考えてみたいと思う。

 まず、モアレといわゆる「ローパスフィルター」の関係について軽くおさらいしておこう。

 ベイヤー配列のカラーマトリクスを持つデジタルカメラで規則的パターンを持つ被写体を撮ると、周期的な明暗あるいは色ムラが現れることがよく知られている。一般にはこれらの現象をひっくるめてモアレという。モアレが生じた写真は非常に見栄えが悪いので、従来は光学ローパスフィルター(OLPF)をカラーマトリクスの前に組み込んでモアレの発生を抑制してきた。

 OLPFは被写体像の高周波成分をぼかす(平準化する)ことで周期性を抑え、モアレを効果的に減衰できる。しかし一方で、被写体の微細なディテールの再現を損なってしまうデメリットもある。そのため高画素競争が一段落する気配を見せた頃を契機に、鋭い解像感を求められる風景写真やスナップ向けに、ローパスレスの撮像素子を搭載するカメラが増えてきた。

 その技術的な背景には、撮像素子の画素ピッチが高密度化したことにより、原理的に、モアレの発生が従来より少なくなるという流れもあった。

 しかし単純にOLPFを廃止してしまうと、やはりモアレが避けられない。その対策として、ローパスフィルターレスのK-5 IIsでは撮像素子の出力を映像エンジンで画像データに変換する際、そのアルゴリズムにモアレ除去処理を組込むことで対応した。

 一方、K-5 IIsとほぼ同時期に市場に投入された富士フイルムの「X-Trans CMOSセンサー」は、カラーマトリックスにベイヤー配列ではなくランダム性の強い独自配列を採用し、撮像素子がもつ周期性を崩すアプローチによってモアレ発生リスクを抑えながらローパスレス化を果たした。画質を追求するためにはK-5 IIsに与えられたようなモアレ除去処理は無いに越したことはなく、その点で、X-Trans CMOSのシステムは根本的に有利な条件を持っていたと言える。

 さて、そこでK-3の番だが。ローパスセレクターは、ペンタックスのお家芸である撮像素子シフトメカニズムを使い、ピクセルピッチより細かいサブピクセルの半径で撮像素子を高速円運動させ(公式YouTubeチャンネルによる解説)、OLPFの効果を機械的にシミュレートする。X-Trans CMOSとは異なるアプローチだが、デジタル処理によるモアレ除去を排しながらローパスレスを実現する技術という意味で、両者は通じるところがある。

ローパスセレクターにはOFF/TYPE1/TYPE2と3段階の効果の強さがあるのはご存知の通り。切替はMENUボタンからも可能だが、INFOボタンから表示されるコントロールパネルで行なうほうが早い。「ローパスセレクター」のパネルを選択し、後ダイヤルで設定を変える。
一番右が「ブラケット撮影」。ブラケットに設定すると、ドライブモードの設定に関わらず1回のレリーズでシャッターが3回作動し、OFF/TYPE1/TYPE2の順に連続して撮影される。

 OFFの設定でK-3本来の完全なローパスレスの描写になるのはあたりまえとして、TYPE1とTYPE2がどの程度の効果なのかというと、TYPE1が通常のOLPF付き素子と同程度の効きで、TYPE2はモアレ除去を最優先にした設定なのだそうだ。スナップシューターならば、普段はOFFにしておき、モアレの発生が懸念されるときだけTYPE1で十分だろう。

 TYPE2にセットすれば、極めてモアレが発生しやすい被写体でも撮影後の画像処理によるモアレ除去を前提とせずに仕事が完結できるので、アパレル系の仕事をするプロカメラマンの目には大きなメリットとして映るかもしれない。

 下の作例のようなリブメタルの外装は、カメラの機種によらず非常にモアレが出やすい被写体の1つだ。ただ、カメラの傾きが少し変わると発生しなかったり、あるいは発生するモアレの性格が変わったりする。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ローパスセレクター:OFF
ローパスセレクター:TYPE1
ローパスセレクター:TYPE2
DA 40mm F2.8 Limited / 1/500秒 / F5 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40mm

 下に掲げるもう1つの作例では、中央の旗に、あるいはモアレが発生するかもしれないという狙いで撮影したが、実際にモアレが起きたのは、旗ではなく防水布で作られた緑色のフードの部分だった。

 K-3の画素ピッチは光学的限界に近い密度になっているので、肉眼でいかにも「規則パターンがある」と見えるような網目や織目には、あまり干渉しない。むしろこういうパッと見にはベタ面と感じられるような非常に細かい規則パターンでモアレを生じることが多い。

ローパスセレクター:OFF
ローパスセレクター:TYPE1
ローパスセレクター:TYPE2
DA 40mm F2.8 Limited / 1/320秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40mm

 先に掲げたビルの外壁の例では、ローパスセレクターをTYPE2にしてもモアレは完全に消えなかったが、こちらではほぼ理想的に作用しているようだ。TYPE2設定で撮影された写真を見ると、布地の細かいブツブツがかなり押さえられている割には文字の輪廓などのコントラストの高いディテールは解像を失っていない。

 さらに、ローパスセレクターをOFFで撮影したデータにパソコンでモアレ除去処理を加えたファイルをつくり、ローパスセレクターの効果と比較してみた。右側の「PUB」という字の辺りを等倍で切り出したものだ。

ローパスセレクター:OFF
ローパスセレクター:TYPE1
ローパスセレクター:TYPE2
ローパスセレクター:OFFのデータに対しパソコンでモアレ除去加工。

 最後の、パソコンでモアレ除去を加えたファイルを見ると、モアレは完全に消えているものの、Pの字のエッジや縫い糸の輪廓線が太く硬い描写になっているほか、緑色の布地に見えるノイズも増えて、細かいディテールが埋もれてしまっている。もちろんデスクトップアプリケーションとカメラ内蔵のモアレ除去処理のアルゴリズムは同一ではないが、原理は似通ったものだろう。

 とすると、K-5 IIsとK-3それぞれのJPEGファイルを比較した時、K-5 IIsの方がガリッと硬い印象があるのは、解像力の差というよりも、組込まれたモアレ除去処理の影響ではないかと思われるがどうだろう?

 撮影機能に差がないK-5 IIとK-5 IIsに違うファームウェアが与えられたのは、おそらく、光学ローパスフィルターを備えるK-5 IIのほうは、この処理が無いほうが画質がよく、K-5 IIsにはこの処理を加えなければならない、という事情があるように思う。同じことはニコンのD800とD800Eのファームウェアがそれぞれ別であることにも当てはまるのかもしれない。

 ローパスセレクターについては以上の通り。1つ付け加えるなら、ローパスセレクターはモアレ除去以外に“画質調整機能”として捉えることもできる。例えば、TYPE2にすればディテールが写り過ぎることを避けられるので、ポートレートなどには有効だ。OFFと較べれば尖鋭性は落ちるものの、K-3は解像度が2,400万画素に増えていることもあり、十分に高精細な画像が得られる。シャープネス設定とうまく組み合わせれば、“塗り絵”と言われる種類の描写をも作り出せるはずだ。

 ◇           ◇

 次にローパスセレクターにおけるブラケティングの効用について考えてみよう。

 ローパスセレクターは機械的に作動するので、画像処理で行なうモアレ除去とは違い、撮影する時にセットしておく必要がある。つまり、あとから効果を適用することはできない。モアレの発生を予測でき、解像感の損失がどの程度かも知った上で、ローパス効果を効かせるか否かをあらかじめ判断する必要があり、どちらかと言えば玄人向けの機能だった。

 しかし、ブラケット機能が追加されたことで、原則としてOFFを基本にしながら“念のため”ローパスフィルターが有効なショットも撮っておくことが可能になった。従来は1ショット毎に設定を変える必要があり、三脚を使用した静物撮影以外には対応できなかったが、1回のレリーズで3ショット連写されるので、手持ち撮影でも構図をくずさずに3種類の効果で撮影できる。今回の実写作例も全て手持ちで撮っている。

 問題はデータ量が増え、記録メディアの容量を圧迫することだ。1カットの撮影が3ショットを要し、K-3の1ショットはJPEGでおよそ13MB、RAW(PEF/DNG)だと30MBほどなので、JPEG/PEF同時記録の場合、カードスロットの設定により多少変わるが、16GBのメディア2枚を使っても概算で120〜130カット程度しか撮影できない。

右上に表示されているのが各スロットのカードへの記録可能ショット数。ローパスブラケット1回につき3ショットなので、この場合、ブラケットを使って撮影できるカット数はスロット1(DNG)の記録可能数297を1/3にした99カット前後ということになる。

 もしブラケット機能を常用しながら大量に撮影したいなら、ユーザーとしては大容量カードを用意するしかない。ただしK-3の性能に見合った高速・大容量カードは高価であり、財布に優しくないというのが正直なところ。ここぞというときだけブラケットを使い、普段は任意のローパスフィルター効果1つに設定して使うようにするのが現実的かと思う。

 要望めいたことを言うと、もしもファームアップで対応可能ならば、3コマではなく2コマのブラケティングができるとよいと思った。3コマのブラケットだと2/3のファイルを捨てることになり、メディアとバッテリーの無駄が多く感じる。ほとんどの場合、2コマのブラケットで十分なのではないだろうか。

 そう、いい忘れるところだったが、手ブレ補正のメカニズムをフルスピードで駆動するせいだと思うが、どうもローパスセレクターをONにするとバッテリーの消費も増えるようだ。その辺りも注意したほうがいいだろう。

 ◇           ◇

 繰り返しになるが、ローパスセレクターをOFFにしても、K-3でモアレが発生することはほとんどない。ならばローパスセレクターには価値がないのかと言えば、そうではない。

 K-3ではユーザーの判断でローパスセレクターを作動させることを前提に、デジタル処理を廃止(あるいは最小限に)に抑え、素子が捉えた映像が持つディテールを余すことなく、デジタルデータとして記録できるようになった。

 K-5 IIsではモアレ除去処理に由来する硬さを避けることができなかったが、K-3にはそのような“ローパスレス臭さ”はほとんどなく、1台のカメラでありながら、好みに合わせた幅広い画質にチューニングすることができる。さらにローパスセレクターそのものを画質調整のパラメータとして扱うことも可能だ。

 つまりローパスセレクターの存在意義はモアレ防止にあるのではなく、ペンタックスデジタル一眼の伝統である「デジタル臭さのない高画質」の追求をさらに一歩進めたということなのだと思う。

大高隆

1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

http://dannnao.net/