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レンズマウント物語(第5話):レンジファインダーカメラのマウント

Reported by 豊田堅二

ライカLマウント

一眼レフよりシンプルなレンズマウント

 同じレンズ交換カメラでも、レンジファインダーカメラのレンズマウントは一眼レフよりもかなりシンプルだ。その理由はボディとレンズの間で交換する情報の少なさにある。

 レンジファインダーカメラの定義にもよるが、一般的には連動距離計を備えたカメラということなので、基本的にマニュアルフォーカスとなる。従ってオートフォーカスに関する情報やエネルギーを伝える必要がない。その代わりに距離計との連動が必要になるのだが、これについては後述しよう。

 撮影レンズを絞り込んでも一眼レフのようにファインダーが暗くなることはないので、自動絞りの必要はない。露出制御の際に設定絞り値をボディ側に伝える必要があるが、これはTTL測光とすれば一眼レフにおける絞り込み測光と同様に像の明るさの変化として伝えられるので、別途連動ピンや電気信号などで伝える必要はない。

 また、レンジファインダーカメラはユーザー層が限定されるので、一眼レフに比較して機能が豊富でない。ズームレンズや手ぶれ防止の機能も未だに実現していないので、それらに関する情報の伝達も備えていないのだ。

ライカLマウント

 レンジファインダーカメラといえば、まずはバルナックライカの話からしなくてはならないだろう。レンズ交換可能なC型が発売されたのが1930年のことなので、実に80年以上の歴史を持つことになる。

 このC型は連動距離計を持たない機種なので(ならばレンジファインダーカメラではないではないかという突っ込みはしないこと)、レンズマウントは口径39mmピッチ1/26インチのねじが設けられているだけのものだった。それが1932年発売のII型(DII型)になって連動距離計が組み込まれ、初めて距離合わせによるレンズの位置情報をボディに伝える必要が生じたのである。

コロによる距離情報の伝達

 ライカLマウントはスクリューマウントであるから、M42マウントと同様にレンズをボディに装着したときの角度方向の位置が決まらない。従ってもしリングの回転角度などで距離情報を伝えようとすると、M42の項で述べたようにロック付きとしたり追いかけ方式にしたりと、工夫が必要になってくる。

バルナックライカの距離計連動コロ(矢印)。レンズ後端の前後の動きを距離計機構に伝える。

 ところが幸いなことにレンズのフォーカシングはレンズを前後させて行なうので、この前後方向の動きを撮影レンズからボディに伝えればよい。M42マウントの自動絞り情報のように光軸と平行な方向、つまり前後方向の動きならばレンズ装着時の角度方向の位置がばらついても正確に伝えることができるわけだ。

 そこでライカII型に始まるバルナックライカでは、レンズの前後の動きをボディ側に設けたコロで距離計の機構に伝えている。コロの動きはレバーで縮小され、距離計のミラーの微妙な動きに変換されるのだ。

ダブルヘリコイド

 ここで問題となるのは、同じ被写体距離でもレンズの繰り出し量が焦点距離によって違ってくることだ。現在のAFレンズのようにリアフォーカシングや内焦式のものはさらに複雑になってくるが、当時のものはすべて全群繰り出しであったので、繰り出し量は焦点距離の2乗に比例する。つまり無限遠の位置からある距離にフォーカシングをするのに、100mmのレンズは50mmのレンズの4倍多く繰り出すことになる。つまり焦点距離によって異なる繰り出し量を、一定のものに変換する必要があるわけだ。

 これを実現するためにライカの場合は「ダブルヘリコイド」という方法を用いた。「ヘリコイド」といっても最近では死語になりつつあるが、フォーカシングリングの回転をレンズの前後方向の動きに変換するためのねじである。締め付けて固定するためのねじと異なり、通常は多条ねじを用いている。つまりねじ山が1本だけではなく何本もあり、その分だけリード(回転角あたりの移動量)が稼げる。

 ダブルヘリコイドは、このヘリコイドを鏡胴とフォーカシングリングの間、それにフォーカシングリングとレンズを保持しているレンズバレルの間と、2つ用いたものだ。フォーカシングリングを回転するとリング自身が前後に動くと共に、レンズバレルがリングに対して前後する。レンズの撮像面に対する距離の変化はこの2つのヘリコイドの動きの合成値となるわけだ。

 一方で距離計のコロの動きは当時の標準レンズである50mmレンズの動きに合わせて調整しておき、50mmレンズではレンズバレルの動きを直接コロで伝え、他の焦点距離のレンズの場合はフォーカシングリングの前後の動きを伝えることにする。つまりダブルヘリコイドの第1のヘリコイドでフォーカシングリングの前後の動き量はどのレンズでも50mmレンズと同じになるようにしておき、それとの差の動きはフォーカシングリングとレンズバレルの間の第2のヘリコイドでカバーするようにするわけだ。

ダブルヘリコイドのレンズの例(M-ROKKOR 40mm F2)。これは無限遠の位置だが、フォーカシングリング(距離目盛のあるリング)と絞りリングの位置に注目。絞りリングはレンズバレルに備えられている。 同じレンズを至近距離にフォーカシングしたもの。フォーカシングリングは50mmと同じストロークで繰り出されるが、レンズバレルは第2のヘリコイドで逆に引っ込む方向に動かされ(フォーカシングリングと絞り目盛の間隔が狭くなったことからわかる)、50mmと40mmの焦点距離の違いによる繰り出し量の差を補正している。

コンタックスマウント

 バルナックライカの時代、そのライバルはツァイス・イコンのコンタックスであった。後にヤシカ/京セラがライセンスを取得してコンタックスブランドの一眼レフやコンパクトカメラなどを出しているが、それとは違うドイツ製のコンタックスである。このレンジファインダー・コンタックスは当初からバヨネットマウントを採用していた。ただし、現在の一眼レフのバヨネットマウントとはだいぶ趣が違い、かなり複雑なものになっている。

 このマウントはボディ側では内側に爪のある内バヨネットと、外側に爪のある外バヨネットの二重構造になっており、内バヨネットの方には標準の50mmレンズを、外バヨネットにはその他の焦点距離のレンズを装着するようになっている。

レンジファインダー・コンタックスのレンズマウント。内側に爪(黄色の矢印)のある内バヨネットと、外側に爪(緑色の矢印)のある外バヨネットの二重構造になっている。

 そしてさらにこのボディの内バヨネットの部分にはヘリコイドが内蔵されており、巻き上げノブの近くにある小ギアを回転させるとそれに連動して回転しながら前後に動くようになっているのだ。標準レンズの場合はレンズ側にはフォーカシング機構は内蔵されておらず、このボディ側のヘリコイドで行なう。一方でこの内バヨネット部分の回転は距離計光路中のプリズムに連動しており、距離計像を左右に動かす。

 標準レンズ以外の交換レンズは外バヨネットに装着する。ここで面白いのは、その際に内バヨネットが距離計連動リングの役目をするところだ。交換レンズの後端にはフォーカシングリングの回転に直結して回るリングがあり、これが内バヨネットの爪に噛み合っている。フォーカシングリングを回すとそれに連動して内バヨネットのヘリコイドが回され、更に距離計のプリズムを動かして連動させる仕組みなのだ。

 ライカがダブルヘリコイドを用いて前後方向の動きをそろえたのに対して、コンタックスの方式はレンズの焦点距離にかかわらず被写体距離に対するフォーカシングリングの回転角をそろえたといえるだろう。その回転角を内バヨネットを介してボディに伝えているわけだ。

レンジファインダー・コンタックスの内バヨネットにはヘリコイドが設けられており、回転しながら前後に動く。これは無限遠の位置。 至近距離にすると、このように内バヨネット部分が繰り出される。

 一見合理的な方式に思えるが、レンズを装着するときにはレンズ側のフォーカシングリングの位置とボディ側の内バヨネットのヘリコイドの位置の両方を無限遠に合わせてやる必要がある。

 なお、このコンタックスマウントはニコンのレンジファインダーカメラでも採用しているが、標準レンズの焦点距離の微妙な違いのため、互換性はない。

レンジファインダー・コンタックスの標準レンズ以外の交換レンズは外バヨネットに装着されるが、その際フォーカシングリングと一緒に回転するリングに設けられた爪(矢印)が内バヨネットの爪の間に入り込んで回転を伝える。

ライカMマウント

 1954年にライカM3が登場し、ライカもスクリューマウントからMマウントと呼ばれるバヨネットマウントに移行した。これはコンタックスのようにヘリコイド付きの複雑なものではなく、シンプルな4本爪のマウントである。そしてコロとダブルヘリコイドによる距離計の連動方式はそのまま踏襲された。そして、レンズからボディに伝える情報がもう1種類追加されている。

ライカMマウントは4本爪のシンプルなバヨネットマウントである。距離計連動のコロは、ライカLマウントと同じものがそのまま使われている(写真はライツミノルタCL)。

 M型のライカでは撮影レンズの画角に応じたファインダーフレームがいくつか用意されており、レンズを交換すると自動的にそのレンズに適合したフレームが現れるようになっている。そのためには装着されたレンズの焦点距離をボディ側に伝える必要があるのだ。そのためにはバヨネットマウントの爪の形状が用いられた。4本ある爪の1つの長さをレンズの焦点距離によって変え、これを検出してボディ側のファインダーフレームを切り換える。

 スクリューマウントとバヨネットマウントの違いがあるので、当然それまでのLマウントレンズはそのままでは使えない。そこで純正のマウントアダプターが用意された。その際距離計用のコロは変わっていないので、連動距離計は問題なく使える。しかし、ファインダーフレームの方は新たに付け加えられたものなので、焦点距離ごとに違ったアダプターを使用する必要がある。

ライカLマウントのレンズをMマウントのボディに装着するためのマウントアダプター。左が90mm用で右が50mmのレンズ用。4本のバヨネット爪の内矢印のものが焦点距離によって長さが違っており、これでボディのファインダーフレームを切り換えている。

 その後このMマウントはレンジファインダーカメラの標準マウントとしてライカのみならずさまざまなカメラに用いられ、現在でも生きている。一眼レフのように絞り制御やオートフォーカスなどのための情報の追加はなされていないが、ただデジタルカメラのライカM8の発売時だけレンズの種類を表す6bitコードが追加された。これはレンズに応じた補正を画像処理で施したり、画像ファイルにレンズの種類を記録したりするためのものだ。電気接点ではなく白黒のドットで表し、光学的に読み取るものである。

 6bitというと64種類の種別が表現できるわけで、それで足りるかどうかちょっと不安なところだが……。

マウント部に埋め込まれた6bitコードのセンサー。レンズ装着時にマウント部に記された6bitコードがここに重なる

その他のマウントと今後

 レンジファインダーカメラのレンズマウントは、ここに述べたものだけではなく、他にも多くの種類が存在する。比較的近年のものでもコンタックスGマウント(これをレンジファインダーと呼ぶかどうかは異論があるだろうが)、フジカTXマウントなどがあり、中判カメラになるとフジやマミヤ、ブロニカからレンズ交換可能なレンジファインダーカメラが、それぞれ独自のレンズマウントで登場している。この内コンタックスGではAFを、ブロニカRF645ではプログラムAEまで実現しているが、一眼レフほどの多彩な機能を搭載したものはない。

 レンジファインダーカメラ自身が一眼レフやノンフレックスカメラの陰で技術革新から取り残されたような形になっているためだろうが、現代の技術を導入すれば、けっこう面白いカメラができそうな気もする。レンズ側のフォーカシングの情報をエンコーダで検出し、それをマウントに設けた電気接点を介してボディに伝え、それに応じて距離計のミラーを超音波アクチュエータかステッピングモーターで動かすなんていうようなカメラをどこかのメーカーで造ってくれないだろうか?



豊田堅二
(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在は日本大学写真学科、武蔵野美術大学で教鞭をとる傍ら、カメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「デジタル一眼レフがわかる」(技術評論社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。

2012/8/30 00:00