交換レンズレビュー

SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM | Sports

切れのある描写が楽しめる超望遠ズーム

 野鳥や飛行機撮影でもっともお手軽なのは70-300mmクラスのズームレンズだろう。APS-Cフォーマットのカメラと組み合わせれば、450mm相当(EOSなら480mm相当)の画角が得られ、超望遠レンズとしては小型軽量なので、フットワーク良く撮影できるのが魅力だ。

APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSMの上位後継モデルで、FLDガラス2枚とSLDガラス3枚を採用し、色収差を極限まで補正しているという。光学性能だけでなく、堅牢性や防塵・防滴にもこだわった設計になっている。フィルター径は105mmと大きく、重量は付属のフード込みで3Kgを超えるヘビー級レンズだ。発売は10月24日。実勢価格は21万9,770円前後。

 ただ、近くに寄れない遠くの被写体を撮影するには70-300mmではちょっと力不足。また、35mmフルサイズの一眼レフに70-300mmを装着しても300mm本来の画角でしか撮れないので、APS-Cフォーマットの450mm相当という超望遠の描写に慣れてしまうと、かなりの欲求不満に陥ってしまう。

 シグマ150-600mm F5-6.3 DG OS HSM | Sportsは、そんな遠くの被写体をより鮮明にもっとアップで写したい、という欲求を満たしてくれる超望遠ズームだ。

大きいレンズだが手持ち撮影もしやすい

 APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSMの上位後継モデルにあたり、極めて高い画質性能を目指したのはもちろんのこと、パソコンソフト「SIGMA Optimization Pro」により、AFの速度調整やフォーカスリミッターの範囲、手ブレ補正のパターンを撮影する被写体に応じて2つのカスタムスイッチに登録できる充実のカスタマイズ機能を装備。

 最前面と最後面のレンズには撥水/防汚コーティングが施され、過酷な環境にも耐えうる防塵防滴構造を採用するなど、120-300mm F2.8 DG OS HSM以上に堅牢性を重視した設計だ。

 そのため、フィルター径は105mm、重量は2,860g(フード込みの重量は約3,155g)と、サンニッパなど大砲レンズに迫る風格と重量だ。

テレ端まで伸ばした状態。ズームロックをかければこの状態をキープできる
ワイド端まで縮めた状態。この位置のズームロックはかなり強めだ

 しかし、実際に使ってみると、ヒコーキが離陸・着陸する瞬間など、短時間であれば十分手持ちで撮影できる重さだ。

 レンズフロント部がちょうど左手でうまく支えられるような形状になっていて、左手を三脚座ではなく、レンズフロント部分で支えると、不思議と重さを感じにくくなるのだ。また、レンズを支える左手をそのまま前後に動かすと、直進ズーム的にレンズを伸縮させることもできる。これはなかなか便利だ。

レンズのフロント部分は左手でレンズを握りやすいよう、くびれや段差、が設けられて、滑り止めのラバーも貼られている

 レンズの自重落下を防ぐズームロックスイッチもワイド端の150mmだけでなく、ズームリングに数値が表記されている150/180/200/250/300/400/500/600mmでロックがかかる仕様で、星の撮影などで仰角にしたときも自重で焦点距離が変化しないよう配慮されている。

 ズームロック状態をかけた状態でも、ある程度の負荷がかかると自動的にロックが解除されるので、ロックしているのを忘れて力を入れてズーム操作しても、メカにダメージを与えない安心設計になっている。

レンズ側面には、フォーカスモード、フォーカスリミッター、OS、CUSTOMの各スイッチが並んでいる

 さすがに、いつ訪れるかわからないシャッターチャンスを狙って、長時間カメラを構え続けなければならない撮影では、やはり三脚か一脚を使うのが無難だが、三脚座の作りにも非常にこだわっていて、非常に肉厚で剛性が高く、底面も幅広なので、雲台に装着したときの安定感は抜群。

他社の大口径超望遠レンズよりも肉厚でしっかりとした作りの三脚座を装備。底面も広く、ビデオ雲台用のプレートを装着したときに回転しないようにネジ穴が3箇所設けられている。三脚座は取り外しできない仕様だ

 90度ごとのクリックも設けられているほか、ビデオ雲台等に装着する際、レンズプレートの併用も考慮し、全部で3カ所のネジ穴が設けられている。三脚座の底部は別パーツになっているので、できればオプションでアルカスタイル互換の溝を入れたパーツと換装できるようにしてほしいと思う。

 それと、取扱いで注意したいのが、レンズを置くとき。フード装着状態ではフード先端はゴムラバーで傷つきから保護されているが、レンズフードを逆付け、あるいは外した状態でレンズを地面に立てて置くと、砂などでレンズの金属部分に傷が付きやすい。

付属のメタルフードを装着。フード先端はラバーで保護されているので、フードを下にして地面においても傷つきにくくなっている

 フィルターを装着できるようにレンズ先端までゴムラバーで覆っていないそうだが、オプションでフィルター枠にはめ込めるゴムラバー付きの化粧リングがあれば、と思うが、フードを外した状態、もしくは逆付けしている際のレンズの置き方には注意したい。

レンズキャップではなく、カバーが付属。フード逆付け状態で地面に置くときは、必ずこのレンズカバーをしないと、レンズ先端が傷つく可能性があるので要注意

高コントラストで切れの良い描写

 さて、気になるのは画質性能だ。今回、編集部から届いたレンズはEFマウントだったので、キヤノンEOS 5D Mark IIIと組み合わせてみたが、撮影した画像をチェックしてみると、超望遠ズームとは思えないほど解像が良く、特に軸上色収差だけでなく倍率色収差も極めて少ないのは驚き。

 ピントがビシッと合っていて、被写体ブレもカメラブレも大気の揺らぎの影響も受けなければ(超望遠だとこれが結構厳しかったりする)、超望遠とは思えないほどキレが良く、絞り開放から高コントラストな描写が得られ、とりわけ300~500mm域の解像は、絞り開放から大口径超望遠レンズに匹敵するほど。

 テレ端の600mm域では、やや解像がやや緩く感じるケースもあるが、レンズの性能というより大気の揺らぎや軽微なピンボケに起因することも多い。焦点距離400mmまでの超望遠ズームに1.4倍テレコンを装着することを考えれば、十分優秀な開放描写だ。

 手ブレ補正の効きも良く、静止した被写体であればテレ端の600mmの撮影でも1/125秒くらいまでは楽勝で止められる。水平の流し撮りにも対応していて、被写体の動きをうまくフォローできたときには、上下のブレが極めて少ないキレイな流し撮りに成功した。

 超望遠の動体撮影では高速シャッターを切っても軽微な被写体ブレが生じてしまうので、例え1/2,000秒の高速シャッターでも流し撮りと同様、被写体の動きにピタッと合わせてカメラを振らなければ、微妙に解像が甘い描写になってしまう。実は流し撮りは苦手だったりするのだが、このレンズだと攻めの超スローシャッター以外は、まずまずの歩留まりで撮影できた。

 動く被写体に対する捕捉力、追従性は、大口径の単焦点レンズには及ばないものの、開放F値がさほど明るくない超望遠ズームとしては水準以上。SIGMA Optimization ProでAFスピードを高速にすれば、狙った被写体を安定してAFフレームで捉え続ける技量を求められるものの、フォーカシング動作はかなり素早くなる。同じくSIGMA Optimization Proでフォーカスリミッターの範囲を絞り込むことで、被写体をロストした際のリカバー動作も必要最小限に抑えられる。

 一般的なレンズでは、コンティニュアスAF撮影時にフォーカスリングを回してMFでピント位置を調整しようとしても、すぐにカメラのAFが働いてしまうが、このレンズには「マニュアルオーバーライド」(MO)という機能が搭載されていて、レンズのフォーカス切り換えスイッチをMOにセットすると、シングルAFはもちろん、コンティニュアスAF時でもMF撮影に切り換わる。

 選択したフォーカスフレーム内に遠近の被写体が混在していて、AFだと迷ってしまうようなシーンでも、即座にMFでリカバーできるのは心強い。このMOの切り替え感度も調整可能で、撮影する被写体に応じて、レンズの動作特性を柔軟にカスタマイズできるのは、純正レンズにはない大きな魅力だ。

超望遠レンズのテストでは、大気の揺らぎの影響ができるだけ少ないことが重要だ。そのため、大気が安定する夕暮れ間近に、東扇島から見た浮島方面のコンビナート群を主な焦点距離域で比較撮影してみた。

カメラブレの影響をできるだけ排除するため、電子先幕シャッターを使うライブビューで撮影。ピント合わせもライブビューAFで行っている。開放F値はワイド端の150mmから180mmまでがF5.0、200~300mm域は開放F5.6で、300mmを少し超えるとすぐに開放F6.3になる。

少しでも速いシャッタースピードで撮影したい超望遠レンズだけに、絞っている余裕のない開放F値だ。それだけに絞り開放描写が気になるところだが、F8の描写としても、絞り開放からすでに安定した解像が得られており、絞ると周辺減光がわずかに改善し、全体のコントラストも向上する。安心して絞り開放で撮影できるレンズだ。
  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

※共通設定:EOS 5D Mark III / ISO200 / 絞り優先AE

150mm
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F5
F8
200mm
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F5.6
F8
300mm
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F6.3
F8
400mm
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F6.3
F8
500mm
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F6.3
F8
600mm
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F6.3
F8

周辺減光は多め

 ただ、残念なのは、105mmのフィルター径にもかかわらず、フルサイズフォーマットでは、周辺光量低下が大きめなこと(APS-Cフォーマットならほぼ問題なし)。少なくともキヤノンボディでは、カメラ側の周辺光量補正が効かないので、空ヌケのヒコーキや野鳥だと周辺減光がかなり気になってしまう。

 Adobe Camera RAWなど汎用のRAW現像ソフトで、レンズ補正データが提供されれば、周辺減光を簡単に補正できるようになるので、連続撮影枚数とトレードオフになるが、できればRAWで撮影しておきたいところだ。

本レンズでもっとも気になるのが、周辺光量低下(周辺減光)だ。

APS-Cフォーマットであれば、周辺はクロップされて写らないので、400mm超の焦点距離域で空ヌケのカットを撮らない限り、周辺減光が気になるケースは少ないが、フルサイズフォーマットで使用すると、150~300mm域でF8、300mmを超える焦点距離域ではF11まで絞らないと、周辺減光がかなり目立つ。

解像力の面では絞り開放から十分な性能を持つものの、周辺減光が目立ちやすいシーンでは、できればF8以上に絞って撮影したほうが無難だ。

※共通設定:EOS 5D Mark III / ISO100 / 絞り優先AE

150mm
F5
F8
F11
200mm
F5.6
F8
F11
300mm
F5.6
F8
F11
400mm
F6.3
F8
F11
500mm
F6.3
F8
F11
600mm
F6.3
F8
F11

USB DOCKも揃えたい

 ちなみに、APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSMの後継モデルとして、Contemporaryラインも開発発表されていて、焦点距離、開放F値ともSportsラインと同スペックながら、長時間の手持ち撮影を考慮したサイズ感と価格を重視した製品だ。

 重量や価格は未定で、ニュースリリースには“Contemporaryラインとしての高画質”とあるので、当然のことながら画質性能はSportsラインの方が上と思われるが、同じくリリースをよく読むと“スイッチの切り替えにより撮影に合わせて設定したカスタムモードが使用出来ます”とあり、Sportsラインと同様、カスタムモードスイッチを装備していて、AF速度の調整やフォーカスリミッターの範囲をカスタマイズできるという。

 Contemporaryラインでこんな大盤振る舞いをして、Sportsラインの売り上げに影響してしまうんじゃないかと人ごとながら心配になってしまうが、それだけSportsラインの画質と堅牢性に自信がある、ということだろう。

 SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM | Sportsは、ゴーヨン(500mm F4)やニーヨンヨン(200-400mm F4)は体力的にも財力的にも無理、でも、できるだけ超望遠でキレの良い描写を得たい、というニーズにきっと応えてくれると思う。ただし、その性能を100%引き出すためには、別売のUSB DOCKとSIGMA Optimization Proで、しっかりチューニングすることも重要だ。

作品

EOS 5D Mark III / 1/320秒 / F7 / -0.3EV / ISO100 / シャッター優先AE / 309mm
EOS 5D Mark III / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO2000 / 絞り優先AE / 600mm
EOS 5D Mark III / 1/400秒 / F7 / 0EV / ISO1600 / シャッター優先AE / 600mm
EOS 5D Mark III / 1/320秒 / F14 / +1.3EV / ISO320 / シャッター優先AE / 270mm
EOS 5D Mark III / 1/200秒 / F5.6 / +1.3EV / ISO100 / シャッター優先AE / 309mm
EOS 5D Mark III / 1/400秒 / F5.6 / +1EV / ISO125 / シャッター優先AE / 250mm
EOS 5D Mark III / 1/125秒 / F8 / +1EV / ISO100 / シャッター優先AE / 512mm
EOS 5D Mark III / 1/200秒 / F6.3 / -1EV / ISO320 / 絞り優先AE / 600mm
EOS 5D Mark III / 1/8秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO2000 / シャッター優先AE / 192mm
EOS 5D Mark III / 1/500秒 / F8 / +0.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / 512mm
EOS 5D Mark III / 10秒 / F8 / -1.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 410mm
EOS 5D Mark III / 1/1,600秒 / F6.3 / -0.3EV / ISO250 / シャッター優先AE / 600mm
EOS 5D Mark III / 1/320秒 / F11 / -0.3EV / ISO200 / シャッター優先AE / 185mm
EOS 5D Mark III / 1/1,600秒 / F6.3 / 0EV / ISO640 / シャッター優先AE / 600mm
EOS 5D Mark III / 1/1,250秒 / F6.3 / +0.3EV / ISO320 / シャッター優先AE / 420mm
EOS 5D Mark III / 1/500秒 / F6.3 / +0.3EV / ISO1000 / シャッター優先AE / 470mm
EOS 5D Mark III / 1/200秒 / F6.3 / 0EV / ISO4000 / シャッター優先AE / 430mm
EOS 5D Mark III / 1/200秒 / F6.3 / 0EV / ISO640 / シャッター優先AE / 569mm
EOS 5D Mark III / 1/640秒 / F7 / +0.7EV / ISO640 / シャッター優先AE / 440mm
EOS 5D Mark III / 1/640秒 / F7 / +0.7EV / ISO1600 / シャッター優先AE / 350mm
EOS 5D Mark III / 1/640秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO640 / シャッター優先AE / 270mm
EOS 5D Mark III / 1/500秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO125 / シャッター優先AE / 309mm
EOS 5D Mark III / 1/400秒 / F6.3 / 0EV / ISO100 / シャッター優先AE / 185mm
EOS 5D Mark III / 1/1,000秒 / F6.3 / +0.7EV / ISO1250 / シャッター優先AE / 410mm
EOS 5D Mark III / 1/640秒 / F6.3 / 0EV / ISO1000 / シャッター優先AE / 340mm
EOS 5D Mark III / 1/80秒 / F6.3 / 0EV / ISO400 / シャッター優先AE / 600mm
EOS 5D Mark III / 1/100秒 / F6.3 / +0.3EV / ISO1250 / シャッター優先AE / 401mm
EOS 5D Mark III / 1/100秒 / F7 / +0.3EV / ISO1250 / シャッター優先AE / 430mm

伊達淳一

(だてじゅんいち):1962年広島県生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒。写真誌などでカメラマンとして活動する一方、専門知識を活かしてライターとしても活躍。黎明期からデジカメに強く、カメラマンよりライター業が多くなる。