付属レンズフードをリングストロボに転用
編集部から「SIGMA dp2 Quattroで、高画質な超接写ができるとおもしろいのではないでしょうか?」というリクエストをいただいた。dp2 Quattroと言えば、Webサイトで見たそのデザインだけで相当に強烈なインパクトを受けたぼくにとって、もっとも気になる新型デジカメである。
ともかく「古今東西どのカメラとも似ていない」と言えるような奇抜なカタチでありながら、非常に“美しい”のだ。それは単に見てくれだけの問題では無く、孤高とも言えるデザインの凄みは、デジカメとして他社の追随を許さない高画質への自信の現れだろうと思わせるに十分なものがある。
いや思わせるだけでなく、実際のdp2 Quattroの画質は相当なもので、それは大浦タケシ氏のレポートを見ていただければわかるだろう。と言うわけでこの依頼を「ハイ、ハイッ!」と文字通り二つ返事で引き受けることにしたのだ。
実はこの連載では2年前の2012年8月に「SIGMA DP2 Merrillのマクロシステムを考える」という記事を執筆している。dp2 Quattroは同社のDP2 Merrillの後継機で、基本的に同じスペックのレンズSIGMA LENS 30mm F2.8(ライカ判換算45mm相当)を搭載している。だから比較撮影することに興味はあるが、同時にネタの重複があっては連載として芸が無い。
このジレンマに悩んでいたところ、ふとdp2 Quattroの付属レンズフード「LH4-01」に目に止まったのである。普通に考えると花形フードの方が実用的に思えるのだが、ずいぶん個性的な丸くて大きなフードなのである。が、これをマクロ撮影用のリングストロボに転用できないか? と言うアイデアが閃いたのだ。
リングストロボはマクロ用の定番ではあるが、多くの製品は発光部が大き過ぎたり、レンズ前方に突き出したりして、小さな被写体に大接近する撮影に向かないことがある。しかし、レンズフードLH4-01の形状を上手く活かせば、クローズアップレンズを装着したdp2 Quattroに最適化した形状のリングストロボが作れそうだ。
使用したクローズアップレンズは、DP2 Merrillのマクロシステムにも使用した「レイノックスMSN-202スーパーマクロ」である。いろいろ試したが、このレンズは口径が小さくストロボ照明に有利で、全長が短い分ワーキングディスタンスが長く取れる。
もちろんマスターレンズであるSIGMA LENS 30mm F2.8との相性もなかなかに良い。以下その改造過程と、驚くべきマクロの描写力をご覧頂ければと思う。
―注意―- この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメWatch編集部、糸崎公朗および、メーカー、購入店もその責を負いません。
- デジカメWatch編集部および糸崎公朗は、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。
dp2 Quattroは、ボディデザインも個性的だが、オプションの光学ファインダーとレンズフードLH4-01も魅力的だ。ともかく前代未聞のカタチでありながら、カメラとしての王道から外れない端正な美しさがある。独自開発の新型FOVEON X3 Quattroセンサーの、並外れた高性能を表したデザインだとも言え、シグマの自信と意気込みが伺える dp2 Quattroに52mm→37mm径ステップダウンリングを介して、レイノックスMSN-202スーパーマクロを装着したところ。これによって高画質の高倍率マクロが可能になる。しかしこのレンズは「SIGMA DP2 Merrillのマクロシステムを考える」で紹介済みで、比較としては面白いが記事としては代わり映えがしない。そこでふと閃いたのが「専用レンズフードをマクロ用リングストロボに転用する」アイデアである レンズフードLH4-01を、リングストロボに転用するためのパーツを製作。左はレンズ取り付け座で、イラストボードをサークルカッターでカットして製作。右はストロボ光拡散板で100円ショップで買ったプラスティックのトレイ(半透明乳白色)を同じくサークルカッターでカットして製作した レンズ取り付け座に、37mm径フィルター枠を接着する。後ほど、ここにレイノックスMSN-202スーパーマクロを装着する。リングストロボの反射効率を考慮して、52mm→37mm径ステップダウンリングは使用しないことにした ストロボは『「超高倍率マクロ」のストロボシステムを考える』の記事で使用したものをいったんバラし、再利用する。サンパック「PF20XD」から発光部を摘出し、コードで延長している。接点は樹脂(グルーガン)で固めているため感電の心配は無い。 レンズフードの内側に、レンズ取り付け座とストロボ発光部をはめ込む 100円ショップで売っていたアルミ製保温シートをカットして、反射板を製作。反射効率がなかなか良さそうな素材で、加工もしやすい 反射板を内部にこのように貼り付ける。既製品のリングストロボにはリング状の発光部(キセノン管)が使われているが、リング状の空洞内に反射板を張り巡らすことで、同様の効果を得ようというアイデアである 散光板を両面テープでレンズフードに接着し、レイノックスMSN-202スーパーマクロをねじ込む。これでリングストロボとクローズアップレンズが一体となった「リングストロボ+マクロユニット」が完成する 完成した「リングストロボ+マクロユニット」を裏から見たところ。dp2 Quattroへの着脱は実に簡単に行える 「リングストロボ+マクロユニット」を装着したdp2 Quattro。専用のレンズフードを活かしただけあって、カメラのデザインともマッチした、スマートでコンパクトなシステムに仕上がった 背面から見たところ。dp2 Quattroの露出モードはマニュアルで固定し、ストロボ光量もPF20DXのマニュアルモードで調整する。PF20DXはダイヤル操作でマニュアル光量調節ができて、いつもながら大変に便利である。dp2 Quattroの操作性も、後に述べるある1点だけ除いて問題なく、前機種DP2 Merrillより確実に進歩している カメラの使用感と実写作品
まずdp2 Quattroの普通の使用感だが、最初にグリップを握った感じは実はあまり良いとは言えず「おや?」と思ってしまった。しかし不思議なことに、この何と言うかゴツゴツとした抵抗感に、かえって愛着が湧いてくる。昔のフィルムカメラは、カメラの形に持ち手の形を合わせていたくらいで、そんな感覚がdp2 Quattroにはある。
カメラとしての操作性は、初心者向けの余計なモードが無い分シンプルで分かりやすい。レスポンスもDP2 Merrillより確実にアップしていて、特にバッテリーの持ちが良くなった(まともになった?)のは実に有り難い。
ところがである。今回作成した「リングストロボ+マクロユニット」を装着して撮影しようとすると、何と液晶モニターが真っ暗なままなのだ。
これはどうしたことか? と思って原因を探ると、dp2 QuattroはMモードで光量不足に設定すると、それに伴い液晶モニターも暗く表示されてしまうのである。言ってみれば露出の過不足を正確に反映してくれるので、風景やスナップには便利だとは言えるが、今回のような撮影の場合は決定的に困ってしまう。
と言うのも高倍率マクロ撮影の場合、露出Mモードで意図的に光量不足に設定し、ストロボによる一瞬の閃光だけで露光するのがセオリーだからだ。これによって低感度による高画質を維持し、絞り込んで被写界深度を稼ぎ、同時に手ブレも防げるのであ
る。この撮影法をdp2 Quattroに適応すると「モニターが真っ暗」になってしまう。これは前機種DP2 Merrillでは無かった問題だ。
この点をSIGMA担当者にお尋ねしたところ「ご指摘の点はこちらも把握しており、ファームウェアでの改善はしばらくお待ち下さい」とのことであった。ひとまず安心だと言えるが、こちらは記事の執筆のためそれを待ってはいられない。何とか工夫して撮る必要があるのだ。
幸い、モニターが真っ暗でも、シャッター半押しでAFが作動している間だけモニターが明るく表示される事が判明した。そしてさらに幸いなことに、dp2 QuattroのAFはなかなか秀逸で、高倍率マクロ撮影においてもなかなかに的確なピント合わせをしてくれる。
と言うわけで、撮影の際は(1)勘で被写体にレンズを近づけ、(2)シャッター半押しを何度か繰り返しながら、(3)構図の決定とピント合わせを同時に行う、という“特殊技法”を強いられ大変に苦労してしまった(笑)。
この撮影では動く被写体は撮影不可能のため、レンズを近づけても逃げない虫を探すことが肝心だ。植物の場合も、風で揺れないよう指先でつまむなどして固定することが必要だ。しかし苦労の甲斐あって、ほかのカメラでは得られないほどの高画質のマクロ写真を撮影することができたのである。
(編注:この現象を改善したファームウェアが9月3日に公開された) ◇ ◇
ムラサキツユクサの花。微毛を拡大すると、それは細胞の連なりである事がはっきりと確認できる。ガラス細工のようで実に美しい。1/1,000秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 キキョウの花の中心部。花粉が付着しているのは実は未成熟な雌しべ。自家受粉を防ぐためのメカニズムだそうだ。1/1,000秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 テッポウユリの雄しべ。袋状の雄しべから、米粒のような花粉があふれ出しているのが分かる。1/1,000秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 ヘクソカズラというつる性の雑草。触るとオナラのような匂いがするという変な性質を持つが、花の造形も拡大するとなかなか面白い。花の内側の毛が、海中生物の触手のようにも見える。1/1,000秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 ゴーヤの花だが、あらためて調べると雄花と雌花があるそうだ。これは花粉を分泌する雄しべを備えた雄花である。1/160秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 オクラの花の雌しべ。昆虫によって運ばれたと思われる花粉が付着している。雌しべは微毛に覆われ、花粉の1つ1つに微細なトゲが確認できる。1/1,000秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 成長過程の小さなキュウリを撮ってみた。拡大してみると、全く異世界の存在のように見える。1/1,000秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 ママコノシリヌグイ(継子の尻ぬぐい)という名が付けられたつる性植物だが、茎全体に鋭いトゲが生えているから怖ろしい。これはその成長過程の柔らかい部分で、瑞々しい細胞の1つ1つが確認できる。1/1,000秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 アブラゼミがケヤキに止まって樹液を吸っている。ケヤキの木に止まっているアブラゼミの頭を上から撮影。ピクセル等倍に拡大すると、その精密描写に驚く。複眼と、額中心部にある3つの単眼のそれぞれに、リングストロボの円い反射が映り込んでいる。1/60秒 / F8 / ISO100 / マニュアル露出 ハラビロカマキリ幼虫。複眼の中に黒目があるように見えるのは「偽瞳孔」と言われる一種の錯覚で、カマキリの複眼の構造に由来すると言われている。1/125秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 雑木林で見つけた、ノコギリクワガタのメス。オスに較べて地味な存在のようだが、拡大して見ると工芸品のような質感が美しい。1/125秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 大人しく葉っぱに止まっていたヒメアカタテハ。鱗粉の1つ1つがしっかり描写されている。1/125秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 凶暴な面構えのウスバカミキリ。あらためて気付いたのだが、複眼が頭の後に回り込んで、正面からほとんど見えない。そのかわり太くて長い触角が前方に突き出している。夜行性のため目よりも触角の方が役に立つのだろう。1/160秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 ヤブカラシの花に来ていたトラフカミキリ。同じカミキリムシでもウスバカミキリよりずいぶんと小さい。昼行性のためか複眼がちゃんと前を向いている。1/125秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 このミツバチは、昆虫写真家の海野和男先生のアトリエに設置された巣箱を撮影させてもらった。ミツバチは大人しいハチなので、カメラを近づけて撮影しても刺される心配はあまりない。しかし盛んに動くミツバチを今回のシステムで撮影するのは至難のワザだ。1/125秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出 田んぼにいたイトトンボの一種。前脚で複眼のお手入れをしている。1/125秒 / F11 / ISO100 / マニュアル露出